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(08年11月、学校へ行く途中、タリバン支持者によって顔に酸を浴びせられた17歳少女 “flickr”より By tanweer1 http://www.flickr.com/photos/7282565@N08/3034343433/ )
【「外国軍からの解放」】
先月22日にオバマ米大統領が発表したように、アフガニスタン駐留米軍約10万人のうち年内に1万人、来年9月までに3万3000人が撤退することになっていますが、その第1陣が数日中に帰還する予定です。
****アフガン駐留米軍の撤退始まる 650人、数日中に帰還****
アフガニスタン駐留米軍の最初の撤退部隊となる650人が13日、東部パルワン州にあるバグラム米軍基地で、任務を米本土から新たに派兵された500人の別の部隊に引き継いだ。AP通信が報じた。基地の報道担当によると、数日中に米本国に帰還するという。
今回撤退するのは、昨年11月に派兵されたパルワン州担当の部隊。今回の交代で駐留米軍が150人減ったことになる。当面はこうした部隊の交代を繰り返して人員を減らしていくと見られる。【7月14日 朝日】
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アフガニスタン側は、撤収を「外国軍からの解放」と位置づけており、今年で10年となった米軍侵攻と、10年に及んだソ連軍侵攻とを同列に扱い、旧ソ連軍の撤退(89年)を祝ったような撤収開始の記念式典を大々的に祝う計画とか。
一方、駐留米軍は月内の撤収を800人にとどめ、旧支配勢力タリバンなど武装勢力の活動が雪や寒さで鈍くなる冬季以降に本格撤収を始める考えとも。【7月8日 毎日より】
また、アメリカの撤退に合わせるように、英仏、カナダの撤退計画も報じられています。
【「アフガン人主導の和解プロセスをいまや国際社会が支持している」】
ロドリゲス駐留米軍副司令官は「我々は過去6カ月で1000人以上の武装勢力を拘束・殺害した。昨年同期の250%増だ」と“成果”を強調しています。
確かに、カンダハルやヘルマンドなど南部のタリバン拠点における米軍増派による大規模掃討作戦によって、この地域のタリバン勢力が弱まったのは事実ですが、最近では東部に潜むパキスタン人らの武装勢力も活発化しています。
本格的撤退時期までにタリバン勢力を一掃するのは不可能に近く、タリバン側との和平交渉も現実味を帯びてきます。
****米、和平にかじ切る ****
経済の低迷が続き、巨額の戦費に国内の厭戦(えんせん)世論が高まる米国はアフガンからの撤退を始める。対タリバーン戦略も転換し、和平を模索し始めた。
国際社会では「タリバーンを軍事的に壊滅させるのは不可能」(カブール駐在外交官)との認識が広がっている。さらに、タリバーンの目標はアフガンの再支配であり、米国本土へのテロ攻撃には関心がない▽タリバーン指導部に対するアルカイダの影響力が薄れた――ともみられている。
国連安全保障理事会は先月、これまで一つの決議で制裁を科してきたアルカイダとタリバーンを分離し、別々の制裁決議を全会一致で採択した。パキスタン人ジャーナリストのアハメド・ラシッド(63)は、新決議は米国とタリバーンの和平交渉の成果だと見る。ラシッドによれば両者の会談はドイツの仲介で昨年11月に始まり、今年5月までに3回持たれた。
カルザイ政権もタリバーンとの接触に動き始めた。高等和平評議会事務局長のモハンマド・マスム・スタネクザイ(52)は「アフガン人主導の和解プロセスをいまや国際社会が支持している」と意欲を見せる。
だが、国内では反発も強い。前国家保安局長官のアムルラ・サレ(39)や元外相アブドラ(51)らは5月、首都カブールで和平に反対する集会を開いた。アブドラ率いる野党の報道官アガ・フセイン・サンチャラキ(51)は「表現の自由や民主主義といったこの10年の成果を受け入れるかどうか、タリバーンは何の意思表示もしていない」と話す。NGOアフガン女性協議会代表のファタナ・ギラニ(52)も「人権や女性を犠牲にするようなことは許されない」と語った。
タリバーン側も一枚岩ではない。かつての政権で外務省高官を務めたワヒド・ムジュダ(56)は「和平には内部で反発が出るし、彼らが求めるイスラム法による統治と民主主義は相反する」と指摘する。タリバーンは6日声明を出し、米国との交渉を「根拠のないうわさ」と否定した。【7月14日 朝日】
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【タリバン 女子教育是認に方針転換?】
和平交渉にあたっては、タリバン側が「表現の自由や民主主義」、「人権や女性の権利」といったものにどれだけ理解を示すのかが懸念されるところです。
かつてのタリバン政権の施策には、イスラム原理主義だけでなく、タリバンの主な出身部族であるパシュトゥン人の農村・部族社会の伝統・風習が色濃く反映していたと考えられています。
“タリバーン政権は90年代、特に都市部で女性の抑圧など極端な政策をとった。政権の国連代表を務めたアブドゥル・ハキム・ムジャヒドは、それはイスラム法ではなく、農村の風習や文化に基づいていると説明する。「彼らの村では女性は(全身を覆う)ブルカを着て家の中にいるのが普通。タリバーンがそれを強要したことで、西洋化された都市住民と農村部の人々の間でメンタリティーの衝突が起きた」”【7月14日 朝日】
タリバン側にも変化の兆しはあるようです。
最も懸念される問題のひとつである女性の権利に関して、タリバン“影の政府”が女子教育を認めているとのことです。
****アフガン東部 女子教育推進に方針転換 タリバン、政治力誇示****
パキスタンに隣接するアフガニスタン東部クナール州で、イスラム原理主義勢力タリバンが女子教育も含めた学校の再開や、外国政府の支援も入った開発計画を支持するだけでなく、積極的に推進していることがわかった。
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女子教育を否定してきたタリバンが方針を転換したことが具体的に確認されたケースは珍しい。外国部隊撤退やアフガン政府との和解が実現すれば、タリバンの政権参加もありうることから、政治的な“力量”を住民に見せる狙いもあるようだ。
「ここの子供たちはちゃんとした教育を受けている。いま、目の前で子供たちが遊んでいるよ」。タリバンのメンバーで、クナール州の“影の政府”に勤めるラフマトゥラ・カシミ氏は、電話の向こうで声を弾ませた。
“影の政府”は、ほぼ全州に設置されているタリバンによる非合法政府。汚職や機能しない行政府にかわって、税金を徴収したり裁判所や警察署を運営したりすることもある。最近はタリバンの拠点であるアフガン南部にかわって、影響力が強まっている同国東部の“影の政府”が力を持つ傾向が広がっている。
カシミ氏によると、クナール州の“影の政府”は今年に入ってから、州内14地区にある州政府の教育担当者に学校再開を“通達”。以降、女子教育に反発する武装勢力が学校運営を妨害しないよう、タリバン兵による警備を行うだけでなく、教師の質や勤務態度も監視しているという。
州知事報道官のワシフラ・ワシフィ氏に確認したところ、「タリバンから女学校も含めて学校の再開のお墨付きを得たおかげで、州内の全419校で授業を行っている」と述べ、タリバンの方針転換を歓迎した。
1990年代後半から2001年までアフガンのほぼ全土を支配したタリバンは女子教育を否定してきた。各地で女子学校だけでなくさまざまな教育施設の爆破や、教員の殺害を行ってきたタリバンが、まだ全土的な動きにはなっていないとはいえ、なぜ方針を変えたのか。
カシミ氏は「人々に奉仕するのはタリバン指導層(パキスタンにある最高機関クエッタ評議会)の指示」で、新たなものでないと強調。これまで指示を実行できなかったのは「タリバン政権は国家を運営していくには未熟で、政権がアフガン国民のためになる政策を行うことを(タリバンを支援する)パキスタン当局の一部が良しとしなかったからだ」と説明する。
クナール州の政治アナリスト、シュジャ・ウル・ムルク氏は「この州のタリバンのメンバーは地元住民が多いだけに、自分の子供たちの教育の重要性に気づいたのだろう。また、外国部隊の撤退後、タリバンが住民のために奉仕できるというアピールの意味もあるのでは」と解説している。【7月14日 産経】
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「表現の自由や民主主義」、「人権や女性の権利」といった基本的価値に関する一定の共通認識がないと、和平交渉や政権参加も砂上の楼閣になります。
こうした変化がどこまでタリバン全体に共通した認識になっているのか、政権参加後も保証されるのか・・・気がかりな点は多々ありますが、変化の兆しがあること自体は歓迎すべきことでしょう。
ただ、タリバン側と基本的な価値観の違いはまだ大きなものがあります。
例えば、最近タリバンは“扱いやすい”子どもを使った自爆テロを増加させています。
“国連によると、タリバーンは2007年以降、ほぼ週3件のペースで自爆攻撃をしている。今年は3月に増え始め、4月は17件に上った。最近は、子どもを自爆犯として使い始めた。治安当局に怪しまれにくいうえ、タリバーン思想を教え込みやすいためと考えられる。5月には東部パクティカ州の市場で12歳の少年が自爆。6月には南部ウルズガン州で、小包爆弾が警察車両近くで爆発し、8歳の少女が死亡した。武装勢力から運ぶよう頼まれたとみられる。”【7月15日 朝日】
【「政府は何もしてくれない」】
一方、交渉の相手側になるアフガニスタン政府側の評価は“腐敗・汚職”“無能”と、相変わらずよくありません。
****投降の元部隊長「政府、こんな無能とは」*****
・・・・ズマライは部隊長として政府軍と戦った。部下も死んだ。だが宿敵の元軍閥が死ぬと、そのまま戦闘を続ける意味を問い直した。
「政府は、身の安全を保証し仕事もくれる」。昨年末、そう言って反政府勢力に投降を促す和解委員会の呼びかけに応じた。
半年が過ぎた。故郷の村に帰れず、近郊の町で息を潜めて暮らしている。タリバーンの報復を恐れているからだ。ヘラートの和解委員会の事務所で取材に応じたズマライは「政府は何もしてくれない。こんなに無能だとは思わなかった」と言い切った。和解に応じたことを後悔している。
1994年に出現したタリバーンは、内戦に明け暮れたムジャヒディン(イスラム戦士)や軍閥とは違う新興勢力として人々を引きつけた。当時、ヘラート州シンダン地区の宗教学校にいたサイード・アフマド(35)も共鳴した。「タリバーンは清廉だった。共に戦い、祖国に和平をもたらしたかった」と振り返る。
300人の部隊を率いたこともあった。左足に受けた銃弾の痕は今も残る。
1年前、和解委員会の説得に応じた。いつまで続くかわからない戦いに疲れたからだ。「選挙を経て、国際社会の支援を受ける今の政権の方がタリバーン政権よりも本当の政府に近い」とも思った。
だが、やはり和解を後悔している。「少なくともタリバーンは給料をくれたし、汚職や腐敗はなかった」と語った。 【7月14日 朝日】
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こうした状況では、仮にタリバン側との和平・政権参加が実現しても、遠からずタリバン支配あるいは内戦再開といった事態になるでしょう。
カルザイ大統領の弟で南部カンダハル州議会議長のアフメド・ワリ・カルザイ氏(49)が12日、自宅で暗殺され、タリバンが犯行声明を出しています。
同氏は、アヘン取引や民間警備会社と裏でつながっているという疑惑が取りざたされてきた“腐敗”の象徴でもありますが、カルザイ大統領は、「これがわが国の現実だ。アフガニスタン人は皆、同様の苦難を味わっている。このような苦しみを終わらせたい」と語っています。
なお、国連は14日、アフガニスタンで今年上半期に戦闘などに巻き込まれて死亡した民間人が1462人に上り、2001年以降最悪だった昨年の同期に比べ15%増加したとの報告書を発表しています。