孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ASEAN外相会議スタート  南シナ海問題が焦点 周辺国・中国・アメリカの思惑

2011-07-19 20:44:14 | 南シナ海

(6月14日 南沙諸島のPhan Vinh Islandで訓練するベトナム兵士 “flickr”より By 么么2008 http://www.flickr.com/photos/64066136@N06/5834237660/

会議を前にした各国の動き
中国が領有権を強めていることで関係国間の緊張が高まり、連日のように関係国の動向が報じられている“南シナ海問題”ですが、ひとつの節目ともなる東南アジア諸国連合(ASEAN)の関連会合が、きょう19日に開かれるASEAN外相会議からインドネシア・バリ島で本格的に始まります。

そのASEANの会議を前にした、アピールと思われる行動も見られます。
中国との関係でASEAN地域フォーラムにも参加できない台湾は、実効支配する南沙諸島の島で学生合宿を行っています。

****南沙諸島:台湾の学生が「合宿」 国家安全会議が主導****
台湾が実効支配する南シナ海の南沙諸島最大の島・太平島で、台湾・海洋大学の学生14人が今月12~18日まで国防教育と生態環境研究を目的とする合宿を実施した。
合宿は総統府直属の国家安全会議が主導し、国防部(国防省)が協力した。馬英九総統は「台湾の硬軟両面の力を示し、国際社会に台湾の主権を守る決意を理解させた」と意義を強調した。

太平島での学生合宿は44年ぶり。南シナ海問題が焦点となる東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議が19日から始まるのに合わせて、台湾の存在感を示すのが狙いだったとみられる。【7月19日 毎日】
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一方、ベトナムと並んでこのところの中国との対立の主役となっているフィリピンは、国会議員が南沙諸島をチャーター機で上空から視察する予定とのこと。

****南沙諸島:フィリピン議員ら視察へ 中国の反発は必至****
フィリピンの左派政党アクバヤン(市民行動)の下院議員らが18日、マニラ市内で記者会見し、中国などと領有権を争っている南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島を20日にチャーター機で視察することを明らかにした。フィリピン政府も容認する方向。

一行はフィリピンが実効支配するパグアサ島を訪問。同国の領有主張にもかかわらず、中国が1995年に進出、実効支配したミスチーフ礁などの状況を上空から確認する。中国側の反発は必至だ。
アクバヤン代表のベロ議員は会見で、視察目的について「国内外に(南沙諸島は)フィリピン領だということをあらためてアピールしたい」と強調した。

パグアサ島では、地元自治体幹部や国軍幹部らから現地海域の情勢や警備状況を聴取。中国が海洋調査船を派遣したり、フィリピンの資源探査船が中国船から妨害を受けたリードバンク海域も見て回る。【7月19日 毎日】
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これまでの歴史的経緯や最近の探査船ケーブル切断事件もあって、最も激しく中国と対立しているベトナムは、市民の対中抗議デモを意識的に容認していましたが、10日からデモ規制に方針を転換、中国との軋轢の深刻化や反中感情の高まりが体制批判につながることを警戒している模様です。
ただ、当局の規制にもかかわらず、ハノイでは市民の抗議活動が起きています。

****ベトナム当局、反中国デモを強制排除 体制批判へ拡大も****
ベトナムの首都ハノイで17日、南シナ海の領有権を巡って争う中国への抗議デモをしようとした市民ら約50人が、治安当局に再び強制排除された。政府は10日に反中国デモを規制する方針に転じたが、市民らはそれに従わずにデモに踏み切った形だ。

AFP通信によると、市民らは「打倒中国」を叫ぶだけでなく、「愛国者を逮捕するな」と政府の規制方針も批判した。デモにはベトナム外務省に対し、中国との交渉過程を公開するよう求める公開書簡を出した知識人らも加わった。

南シナ海での中国船によるベトナム船への相次ぐ妨害に反発したデモは6月5日以降、毎週日曜日に続いていた。当初は当局も強制排除はせず、容認していたが、7月10日に一転してデモを強制排除した。
政府の規制方針にもかかわらずデモが再発したことは、市民の反中感情の強さに加え、政府との溝を示しており、今後、体制批判が広がる可能性もはらんでいる。【7月17日 朝日】
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対中抗議デモは規制に転じたベトナムですが、15日からは米海軍との交流事業が行われており、中国への牽制も同時に行っています。

****ベトナム:米海軍艦艇3隻が入港 交流事業始まる****
南シナ海に面したベトナム中部の港湾都市ダナンに15日、米第7艦隊所属のミサイル駆逐艦「チャン・フーン」など米海軍艦艇3隻が入港し、米越海軍の交流事業が始まった。米海軍は1週間の予定で、ベトナム海軍との間で医療や船舶の維持管理などの技術交流を行う。実弾射撃などの軍事演習は実施されない模様。インドネシアで23日、米中両国も参加して開かれる東南アジア諸国連合地域フォーラム(ARF)を前に、中国をけん制する狙いもあるとみられる。【7月15日 毎日】
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ASEAN 「行動規範」策定に踏み込む方向
ASEAN加盟の関係国は、02年にASEANと中国が署名した「南シナ海行動宣言」を法的拘束力がある「行動規範」に格上げすることを目指していますが、中国側は格上げを拒否し続けており、そもそも南シナ海問題をASEANの枠組みで多国間協議することに難色を示し、当事国同士での解決を主張しています。
このため、具体的な進展がこれまで実現していませんでしたが、ASEAN側は今回外相会議で、“見切り発車”的にASEAN内で行動規範の議論を始めることを宣言するようです。

****南シナ海の行動規範策定を議論へ ASEAN外相声明案****
インドネシア・バリ島のヌサドゥアで19日に開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議の共同声明案が17日、明らかになった。一部加盟国と中国が領有権問題を抱える南シナ海について、中国との「行動宣言」を実行するための指針作りと並行し、法的拘束力のある「行動規範」策定の議論を11月までにASEAN内で終える意向を示している。

また、23日に開かれるASEAN地域フォーラム(ARF)の議長声明案も判明。南シナ海問題について「最近の状況は、中国とASEANとの行動宣言を実施するための指針作りを早急に終わらせ、行動規範作りへ進むことの必要性を強調している」と指摘し、早急な対応を促している。

外相会議の声明案は「我々は行動規範の議論を開始した」としたうえで、11月に予定されるASEAN首脳会議と東アジアサミットまでに議論を終えたいとしている。
見切り発車的にASEAN内で行動規範の議論を始める背景には、2002年にASEANと中国が署名した「南シナ海行動宣言」を実行するための指針作りが、6回の作業部会を重ねても遅々として進まない現状がある。フィリピンなどASEANの一部の加盟国からは、強い不満の声が出ている。

ASEAN側には行動規範の議論を内部で先行して始めることで、その前段階である行動宣言の指針作りで中国側の譲歩を引き出す狙いがあるとみられる。フィリピンやベトナムなど領有権問題の当事国と他の加盟国との結束力を強める効果も期待している。

南シナ海問題ではフィリピンが最近、スプラトリー(南沙)諸島で中国が建造物の新設を始めたことに強く抗議。フィリピン外務省が内部文書で「中国が一部加盟国に対し、ASEAN関係の会合で南シナ海問題を議論しないよう脅している」と指摘するなど、対立が深まっている。

中国の警戒感も高まっている。中国は行動宣言が行動規範に発展することを嫌っており、ASEANが行動規範策定にも踏み込むことが共同声明で明らかになれば、「中国側が態度をさらに硬化させる可能性もある」(インドネシア外務省筋)との指摘もある。【7月18日 朝日】
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もっとも、“ASEAN側”とは言っても、南シナ海に直接関係しないラオス・カンボジア・ミャンマーなどは中国の影響力が強い国ですので、ASEANとしての一体的行動がどこまで可能か・・・という問題もあります。
中国との南シナ海領有権問題を抱えていないインドネシアなどの非当事国が指針についての合意を待たず、規範の策定に入るべきだと主張しているが、当事国のベトナム、フィリピンなどは「問題の先送りだ」と反対しているとも報じられています。
今回の会議で成果をあげられるかどうかは、共同体を指向するASEANの今後の試金石とも見られています。

【「中国包囲網」を巡る米中の動き
最終日の23日には安全保障問題を協議するASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会議が開かれ、日本の松本剛明外相やクリントン米国務長官、中国の楊外相らが出席します
昨年7月のベトナムでのARFでは領有権問題の当事国ベトナム、フィリピンに日米が同調して「中国包囲網」を形成、対立拡大の契機となりました。これは中国外交の失敗とも指摘されています。

今回、中国は予定になかった南シナ海問題に特化した高級事務レベル協議を20日に開催することに合意しています。アメリカ主導による前回のような「中国包囲網」を避けようとの思惑ではないかとも見られています。

****ASEANと中国、20日に高官会合 南シナ海問題で****
東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国が20日に、膠着(こうちゃく)する南シナ海の領有権問題の解決に向けた高級事務レベル会合を初めて開くことで合意した。複数のASEAN外交筋への取材でわかった。多国間交渉を嫌ってきた中国がどのように会合に臨むかが注目される。

外交筋によると、スプラトリー(南沙)諸島の領有権を主張するベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイの4カ国の外交当局者が17日にインドネシア・バリ島ヌサドゥアで非公式に協議。問題の解決に努力することが地域の安全保障の「中心的な役割」になるとの認識で一致し、議論の場をこれまでの作業部会から事務方トップレベルの会合に格上げすることにした。中国側も基本的に応じた。

ASEANの4当事国は会合を問題解決への突破口にしたい考えだが、中国との距離感をめぐり加盟国内でも温度差があり、議論の行方は予断を許さない。
ASEANと中国は2002年、南シナ海での紛争の平和解決を盛り込んだ「行動宣言」に合意した。だが法的拘束力のある「行動規範」づくりを巡り、多国間の枠組みでの問題解決を狙うASEAN側と、二国間での解決を志向する中国側が折り合わず、双方はまず「宣言」を実行に移すための指針作りに向けて作業部会を重ねてきた。

別の外交筋によると、ASEAN側は11月の東アジアサミットまでに指針づくりの議論を終え、12年末までに「規範」での合意を目指す意向だ。(後略)【7月19日 朝日】
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一方、アメリカは今回の一連の会議で、ASEANの枠組みを使って南シナ海への関与をさらに明確にする方針です。
“「持続的平和と繁栄のための行動計画」と題する文書にASEANと合意する見通しで、「自由航行権を含む海洋問題について協力関係を促進する」と明記する。安全保障問題も含め、ASEANと海洋問題に関する情報を共有するメカニズムを作り、中国包囲網強化を目指している”【7月18日 毎日】

各国の思惑が交差する形で、結果が注目される今回のASEAN会議です。
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