孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ノルウェー  「反イスラム、移民排斥」を主張する連続テロ容疑者と欧州社会の右傾化の流れ

2011-07-25 22:00:53 | 欧州情勢

(ノルウェー・オスロの街かど ノルウェーでは、イスラム系を中心にした難民は4万人、難民申請者は1万2千人にのぼるとか “flickr”より By oezguer http://www.flickr.com/photos/oezguer/2735783951/

【「ノルウェーは男女平等の国だが、異なる考えを持つ移民を受け入れることはできない」】
ノルウェーで22日に起きた連続テロ、特に、若者500人がサマーキャンプに集う逃げ場のない小島で、狂気に駆られた一人の男が約1時間半にわたって銃を乱射し続け、85人もの死者を出した南部ウトヤ島の銃乱射事件は衝撃的でした。

逮捕されたアンネシュ・ベーリング・ブレイビク容疑者(32)は、約10年の歳月をかけて書き足された1500ページ以上に及ぶ「宣言」をインターネット上に公開していました。そのなかで、殺人を「十字軍」になぞらえ、自らを「モンスター」と呼んでいます。

いつの時代、どこの社会にも狂気の「モンスター」は存在しますが、問題はそうした「モンスター」が個人的資質によって突然変異的に表れるのか、あるいは「モンスター」を生みだすような社会的土壌があるのか・・・という点です。

右翼過激思想に傾倒し、自ら「キリスト教原理主義者」とするブレイビク容疑者は、「宣言」のなかで、22日の犯行について、数世紀に及ぶイスラムによるヨーロッパの植民地化を終わらせるため、それに必要な革命を起こすために準備した「先制攻撃だ」と記しているそうです。

こうした「反イスラム、移民排斥」の考えは、欧州全土に広がる同様の流れと軌を一にするもので、欧州社会全体の右傾化の流れが彼の狂気を増長・先鋭化させていったことが想像されます。

****ノルウェー連続テロ 警官姿、若者集めて乱射 「平和の国」に移民排斥の影****
・・・・湖に飛び込んで逃げる若者を容赦なく撃ち殺した同容疑者は警察の取り調べに熱心に自分の思想信条を語っており、警察は「右翼思想を持ったキリスト教原理主義者だ」と発表した。しかし、これまでのところ同容疑者の宗教的背景は明らかになっていない。

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「フェイスブック」に掲載された写真や、英思想家J・S・ミルの警句を借用した「信念を持った1人の人間は利益にしか関心を持たない10万人に匹敵する」との書き込みからは自己陶酔的傾向もうかがえる。
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ノルウェーでは今年に入って右翼過激派が増えたといわれるが、中心的指導者は見当たらず、その活動が深刻な社会問題になっている様子もない。
一方、イスラム系を中心にした難民は4万人、難民申請者は1万2千人にのぼる。これに対し、議会第2党の進歩党が「ノルウェーは男女平等の国だが、異なる考えを持つ移民を受け入れることはできない」と反移民政策を唱えるなど、ノルウェー社会とイスラム系移民社会の溝が目立ち始めている。
警察は「それが動機につながるかわからないが、容疑者には極右と反イスラムの政治的特徴がある」と分析している。
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欧州は労働力不足を解消するためイスラム系移民を積極的に受け入れてきたが、2008年の金融・経済危機で失業率が上昇。財政状態も悪化して「出生率の高いイスラム系移民に失業保険や年金を奪われる」との不安が広がっている。
こうした不安をあおる形でイスラム系移民排斥を唱える極右政党がオランダやフランスで台頭。人権意識が高い北欧でも極右のデンマーク国民党が政権に影響力を行使するようになり、スウェーデンでは昨年の総選挙で、民族衣装ブルカをまとったイスラム系女性が年金受給に殺到する映像を作ったスウェーデン民主党が20議席を獲得し、初の国政進出を果たしている。【7月24日 産経】
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極右勢力が唱える移民排斥は失業にあえぐ市民の不満の受け皿にもなっている
ノルウェーのストルテンベルグ首相は23日の会見で「他国に比べ、ノルウェーの極右過激派の問題は大きくはない」と述べ、今回の連続テロが、09年にはソマリアなどから欧州で3番目に多い1万7200件の難民申請があったように、「開かれた社会」を自任してきたノルウェーの意表をついた事件だったことを言外ににじませています。

ただ、欧州全体では「反イスラム、移民排斥」の流れが顕著に認められ、ノルウェーにおいてもイスラム系移民の増大とともに、文化的・経済的軋轢が大きくなっていたのではないかとも思われます。

****ノルウェーテロ:「寛容な社会」憎悪か*****
「平和の国」ノルウェーを襲った22日の連続テロ事件は、当初はイスラム過激派の犯行を疑う見方もあった。だが、逮捕されたのは逆に欧州で増加するイスラム系移民に反発する極右思想の青年だった。

◇容疑者は極右青年
ノルウェーからの報道によると、警察当局に逮捕されたのはアンネシュ・ブレイビク容疑者(32)。インターネットへの投稿や地元メディアの報道から浮かび上がる人物像は、移民に寛容な北欧型の「開かれた社会」に反発を増幅させていった姿だ。自らを「愛国主義者」などと評し、その言動には自己陶酔の世界さえ垣間見える。
(中略)

◇移民排斥論、欧州で台頭
欧州諸国では近年、長引く経済の低迷で社会や政治が右傾化している。背景にあるのは、移民排斥の思想だ。
移民は70年代、発展を支える「労働力」として歓迎された。だが、経済が失速すると、安い賃金で働く移民は欧州白人の職を奪う「重荷」に変貌した。極右勢力が唱える移民排斥は失業にあえぐ市民の不満の受け皿にもなっている。

欧州連合(EU)の統計によると全加盟27カ国で08年、中東やアフリカ系など計380万人の移民を受け入れた。この流入が加盟国の人口増につながり、労働力人口を支えた。欧州社会の発展・維持に移民は「不可欠」だ。

問題は、欧州が移民をいわば「出稼ぎ労働者」として受け入れてきたことだ。だが、移民は生活の場を欧州に移して定住するようになった。母国から家族を呼び寄せ、独自のコミュニティーを形成するに連れて文化的、宗教的な摩擦が顕在化。経済の悪化やイスラム過激派によるテロなどが追い打ちをかけ、キリスト教を伝統とする欧州社会とイスラム系移民の摩擦や移民排斥論に結びついた。

反移民のうねりは「寛容」が伝統の北欧とて例外ではない。4月のフィンランド総選挙では民族主義政党が議席を6倍に増やした。キャメロン英首相やメルケル独首相も最近、自国の多文化主義を「失敗」と言及した。
また、オランダでは6月末、動物愛護を名目に、食肉処理する家畜を事前に失神させることを義務付ける法案が、賛成多数で下院を通過した。イスラム教やユダヤ教では、意識のある家畜を処理しなければならず、「移民排斥につながる」と両教徒は反発している。【7月24日 毎日】
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【「文化面での保守主義を持つ」理想の国、日本
ブレイビク容疑者はイスラム批判のインターネットサイトに熱心に投稿しては「現在の政策は社会主義と資本主義の争いではなく、愛国主義と国際主義の戦いだ」などと主張しています。
投稿の一つでは、日本と韓国について「多文化主義を拒否している国」と言及。日本などを反移民、非多文化社会の模範のようにたたえています。

****ノルウェーテロ容疑者、「理想の国」日本や韓国****
アンネシュ・ブレイビック容疑者は、22日の犯行直前にインターネットに投稿した「マニフェスト」の中で、「文化面での保守主義を持つ」理想の国として、日本や韓国を挙げていた。イスラム系移民が少ないため、だという。
また、「いま、最も会ってみたい人々」としてローマ法王とロシアのプーチン首相を挙げた。「次に会ってみたい人々」としては日本の麻生太郎・元首相など4人を挙げた。【7月25日 読売】
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狂気の「モンスター」に日本を“理想の国”として称賛されては、困惑します。
ただ、実際のところ移民を殆んど受け入れていないことも事実です。
大震災でも「フクシマ」でも揺るがない社会の安定性は、そうした閉鎖性によって維持されている社会の等質性に大きく依存していると思われますが、少子高齢化・人口減少が進行するなかでそうした閉鎖性を今後も維持できるのか、あるいは、本来どうあるべきなのかという議論が今後必要とされています。

イスラム教徒に対する誤った理解
なお、今回欧米メディアが当初、イスラム過激派の犯行を疑う報道を繰り広げたことに対してイスラム圏で反発が出ています。

****ノルウェーテロ:イスラム圏で西側報道に反発*****
・・・・ノルウェーはアフガニスタンに派兵しており、国際テロ組織アルカイダなどが批判してきた。英BBCや米ニューヨーク・タイムズ(電子版)などの主要メディアは、連続テロの発生から数時間の間は「イスラム過激派犯行説」をほのめかす報道ぶりだった。(中略)

しかし、逮捕されたアンネシュ・ブレイビク容疑者(32)は反イスラム的な傾向のあるキリスト教原理主義者とされる。簡易ブログ「ツイッター」では容疑者逮捕後、「西側の報道はイスラム非難に偏向している」といったイスラム圏からの書き込みが目立った。
エジプトのイスラム過激派専門家、ムニール・アディーブ氏は「今回の事件報道は西側諸国にイスラム教徒に対する誤った理解があることを示した」と述べた。【7月23日 毎日】
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コメント
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