
(民進党候補の蔡英文(ツァイ・インウェン)・同党主席 “flickr”より By .::Q Q::. http://www.flickr.com/photos/hiroshi062/5615308382/ )
【「私は台湾人」】
台湾では、来年1月14日に投開票される総統選に向けて今月2日、与党・国民党候補の馬英九(マー・インチウ)総統(60)と野党・民進党候補の蔡英文(ツァイ・インウェン)・同党主席(54)が、それぞれ本格的な選挙運動をスタートさせています。
各種世論調査では、馬総統が蔡主席を若干リードしているものの、ほぼ互角の戦いが予想されています。
過去の台湾総統選では対中国政策が最大の争点となっています。
国民党・馬政権は対中接近を進め、中国との交易で経済浮揚をはかってきました。一方で、中国の影響力が増大することが台湾の主権を脅かすのではないかとの不安も存在します。
対中接近を進める国民党に対し、台湾の主権を重視して過度の対中接近を警戒する民進党という構図になりますが、両党ともあまりこの問題を強調するのは得策ではないとの判断もあるようです。
****対中政策、乏しい新味 台湾総統選まで半年****
・・・・最大の争点は緊張をはらみながらも密接化する中国との関係だが、双方とも新機軸を打ち出しあぐねている。
■馬総統、拭えぬ「親中色」
「我が中華民国は主権独立国家であり、自主防衛が必要だ」
馬総統は6月30日、台中市の空軍系メーカーを訪れ、気勢を上げた。自主開発戦闘機「経国号」の性能向上プロジェクト完成を祝う式典でこう強調したのは、台湾防衛をめぐる自身の姿勢への疑念を意識してのこととみられる。
実は馬政権下、仮想敵の中国軍が増強しているにもかかわらず、軍事費が年々減っている。陳水扁・民進党政権で国防部長を務めた蔡明憲氏は「馬総統は親中国。戦争しないから武器は要らないというのが本心」と批判する。経国号プロジェクトは陳政権が推進し、馬総統はその成果を「収穫」したにすぎない。
中国大陸生まれの親を持つ外省人の馬総統は、どうしても「中国寄り」と見られがちだ。就任後、一時は中国指導者との直接対話に臨むとの観測が浮上したが、国民党のある長老は「負い目がある分、思い切った対中政策はとれない」と見通す。12日には馬総統自らフェイスブックに「私は台湾人」と記し、野党系メディアから「選挙前症候群」と揶揄(やゆ)された。
台湾の有権者は2008年の前回選挙で、摩擦が続いた対中関係の改善を望み、政権交代を実現させた。馬総統は中台直行便や経済協定締結を通じて応えた。しかし中台間で合意しやすい項目を急いだ分、その後の交渉は停滞気味だ。選挙前に新味を出すことが難しくなっている。
■野党・蔡氏は論議封印
親中イメージと格闘するのが馬総統の宿命なら、対中方針を出し渋っているのが民進党の蔡主席だ。
馬政権や与党・国民党は、中台関係者が1992年に合意したとされる「92年コンセンサス」を対中政策の基礎とする。台湾側は「中華民国」、中国側は「中華人民共和国」を正統政府と主張するが、「中国は一つ」という合意はあるというものだ。
中国側もこれを認めているが、民進党は「台湾と中国は別の国」との立場にある。このため中国と安定した関係を構築できるか経済界から不安視され、同党の弱点となっている。
蔡主席は立候補に当たり台湾独立派長老らの支持をいち早く取り付けることで、かえって対中関係をめぐる論議の封印に成功した。その後も中国への言及を避け、語るのは脱原発や貧困対策ばかりだ。民進党は昨年から新たな対中政策を検討しているが、まだ公表されていない。
専門家レベルでは民進党と中国側の対話は頻繁に行われ、蔡主席が候補者に決まったころにも2人の学者が北京へ赴いた。政権奪回に備え、ことを荒立てるつもりはないというシグナルだ。
ただ中国側が色よい反応をしているわけではない。中国国務院台湾事務弁公室の楊毅報道局長は6月29日、「台湾独立、分裂の立場で長期的な交流の枠組みができるのか?」と改めて圧力をかけた。【7月14日 朝日】
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【米中台の間で微妙なF16戦闘機新型C/Dの供与】
「対中傾斜」のイメージを薄めて、自主国防にも十分な配慮をしていることをアピールしたい馬総統が希望しているのが、アメリカからのF16戦闘機の新型C/Dの供与です。
****新型戦闘機「台湾へ売却を」 米議会、政府に要望****
台湾への武器売却を求める大合唱がワシントンで起きている。台湾や米議会は中国の軍拡に懸念を強めるが、売却に踏み切れば米中関係の冷却化は避けられない。いつ、何を売るか。米政府は慎重に落としどころを探っている。
「台湾海峡における軍事的不均衡は日ごとに強まっており、中国と渡り合うには防衛力強化が不可欠だ」
台湾で対中政策を担う閣僚、頼幸媛・大陸委員会主任委員は7日、ワシントンでの講演で売却への切迫感を訴えた。超党派の立法委員4人も10日にワシントン入りし、陳情を展開。米議会では5月末、上院の半数近い45人の超党派議員が売却を求める書簡をオバマ大統領に送った。
台湾や米議員らがそろって求め、焦点となっているのが、F16戦闘機の新型C/Dの供与だ。
台湾にとって、新型機の導入は2005年以来の悲願だ。06年から予算も手当てしている。中国は高性能の戦闘機配備を進め、今年1月にはステルス機の試験飛行を実施。一方、初期型のF16A/Bなどを主力とする台湾軍は更新が進まず、5年ほど前から空軍力で逆転したとされる。
半年後の選挙で再選を目指す馬英九(マー・インチウ)総統はこれまで対中関係の改善を進めたが、中国寄りすぎるとの批判も強い。新型導入が決まれば対米関係の良好さと台湾防衛の意思を同時にアピールできることになる。
■米政府は慎重、中国に配慮
米側では雇用問題の側面もある。「新型」とはいえ、米軍は調達を終え、テキサス州の生産ラインは数年内に閉鎖の可能性が出ている。台湾向けに生産が続けば「延命」が可能だ。同州選出のコーニン議員は売却に向けた調査が終わるまで、次期国務副長官の人事を棚上げする構えを見せ、米政府を揺さぶっている。
南シナ海などで中国の圧力を受けるアジア各国にとって、米国が武器を売却することで台湾を守ろうとする姿勢を示すかどうかが「米国の信頼の問題になった」(戦略国際問題研究所のボニー・グレイサー上級研究員)との指摘もある。
ただ、米政府は「いかなる決定も下していない」(ヌーランド国務省報道官)と多くを語らない。
昨年1月に台湾への武器売却を決めた際には、中国が猛反発した。8月にバイデン副大統領の初訪中、11月に米ハワイで開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)、さらに胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の後継者に内定した習近平(シー・チンピン)国家副主席の訪米と重要日程が続く。対中関係悪化は避けたい事情がある。
このため、関係者の間では、副大統領訪中とAPECの間に、新型の売却は認めず、既存の初期型の性能を上げる改造で妥協を図る――との観測が主流だ。「総統選での馬総統再選を望む中国は強くは反対しないはずだ」(馬政権関係者)との読みもある。【7月13日 朝日】
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なお、米華字サイト・多維新聞は、“米政府高官によると、米軍はこのほど台湾へのF16戦闘機売却を決めた。今回売却されるのは改良前のA/B型で、9月に正式発表される見通し。・・・今回売却されるのは最新のC/D型ではないことから、米国側は中国の反発はそれほど大きくないと楽観視している。”【7月12日 Record China】と報じています。
【焦点は貧富の格差の解消】
世論の大半が中台関係について「現状維持」を希望する状況で、「対中傾斜」や「対中強硬」の印象を強めすぎるのは得策ではないとの判断で、敢えて両党ともこの問題への深入りは避け、現時点での議論の焦点は貧富の格差の解消になっているとのことです。
****台湾総統選:あと半年、両陣営の舌戦過熱*****
・・・・「台湾はどんどん貧困化している」。蔡陣営が馬政権3年間の執政をこう批判すると、馬陣営は「失業率は下がっており、雇用は増えた」と反論した。
馬総統は08年5月に就任し、対中関係の改善を最優先させてきた。政府による最新の世論調査では、馬政権の発足以来、中台間で締結した15項目の協定に62.2%が「満足」と回答した。好調な対中貿易に支えられ、昨年の域内総生産(GDP)成長率は10.88%に達し、24年ぶりの高い成長を記録した。
業績を上げながらも、馬総統の支持率は30%台と低迷している。最大の成果であるはずの中台間の自由貿易協定に当たる経済協力枠組み協定(ECFA)も、大企業の利益は大きいが、台湾に多い中小零細企業は厳しい競争にさらされている。「むしろ景気は悪くなった」と感じている人は少なくない。
一方、独立志向の強い野党・民進党だが、中国の存在感が増すにつれ、蔡主席も「中国との対話を排除しない」と現実的な対中政策にシフトしている。だが、党内外で中国との距離感に格差があり、調整は難しい。いまだに明確な対中政策を打ち出せていないのが現状だ。
政府の世論調査では、中台関係の「現状維持」を希望する人は88.4%にも上る。支持政党のない中間層も拡大している。与野党いずれも「対中傾斜」や「対中強硬」の印象を強めすぎると、選挙の勝敗を決する中間層の支持が得られなくなる可能性が高い。このため、対中政策よりも民衆の支持を得やすい貧富の格差解消に重点を置く結果となっているようだ。【7月13日 毎日】
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【李元総統起訴の影響】
なお、“蔡主席を支持する李登輝元総統(88)が先月30日に横領などの罪で起訴されたことに、蔡主席への影響を懸念する民進党は「馬総統の政治介入」と批判を強めており、元総統の「汚職」が選挙戦にどう影響するかも焦点の一つになりそうだ”【7月2日 毎日】という問題もあります。
****台湾総統選:与野党、活動を本格化…李元総統起訴で影響も****
・・・・蔡主席を支持する李元総統は、88~00年に総統を務めた。退任後は国民党を離れて「台湾団結連盟」を結成。台湾独立の主張を強め、近年は馬総統批判を展開していた。
民進党への入党が04年と党歴が浅い蔡主席にとって、李元総統は独立志向の強い古参の民進党員を取り込む効果が期待できる存在だ。蔡主席は1日、台湾団結連盟が開いたパーティーに出席し、李元総統との連携をアピールした。
だが民進党はまだ副総統候補を擁立できず、国民党に後れをとっている。民進党政権時代の陳水扁前総統は、昨年末に収賄罪などが確定して服役中。李元総統の起訴で再び「汚職」のマイナスイメージに悩まされる可能性もある。【7月2日 毎日】
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【将来の統一に向けた布石】
中国は・・・と言えば、こんな話題も。
****台湾:暴落のバナナ、中国が購入 馬総統知らぬ間に****
台湾バナナの卸売価格が先月末から暴落し、農民が窮状を訴える中、中国政府が産地に乗り込んで大量のバナナを購入し、台湾の「農民救済」に乗り出した。中国への警戒感が強い野党・民進党の地盤である台湾南部の農民に対し、バナナ購入という「善意」を示すことで、将来の統一に向けた布石を打つ狙いがありそうだ。
中国側は、台湾の馬英九総統が状況を把握する前に大量購入していた。馬総統は「なぜ(農民は)先に言ってくれなかったのか」と嘆いたが、民進党は「(総統の)反応が鈍い」と批判している。(中略)
地元の農業協同組合関係者によると、購入価格は1キロ15台湾ドルで、農民らは「中国大陸の人は誠意がある」と好評。同弁公室はさらに購入を続ける考えを示しているという。
一方、中国のバナナの産地・海南省でも卸売価格が暴落し、農民は困窮している。【7月11日 毎日】
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