孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  著名ジャーナリスト殺害について、米軍トップがパキスタン政府関与と発言

2011-07-08 21:08:23 | 国際情勢

(ISI犯行が疑われるジャーナリストのサリーム・シャフザド氏殺害について抗議するパキスタン記者 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/5788354480/

【「パキスタン政府が(殺害を)許可した」】
これまでも再三取り上げているように、アメリカにとってアフガニスタンでの対テロ戦争遂行のうえで、北西部国境地帯がイスラム過激派の温床となっている問題や物資補給路の問題で、パキスタンの協力は必要不可欠ですが、パキスタン国内の反米感情や国軍(特に軍統合情報局(ISI))とイスラム過激派のつながりなどで、両国関係はとかくギクシャクしがちです。

5月末にパキスタンの著名なジャーナリストが暴行の痕を残した遺体で見つかった事件について、きのう7日、米軍トップがパキスタン政府の関与を指摘、新たな軋轢の火種にもなりそうです。

****パキスタン:「記者殺害に政府関与」 米軍トップが指摘*****
米軍トップのマレン統合参謀本部議長は7日、パキスタンの著名なジャーナリスト、サリーム・シャフザド氏(40)が5月末に何者かに殺害された事件について「パキスタン政府が(殺害を)許可した」と語った。パキスタン政府報道官は8日、「極めて無責任な発言」と批判した。シャフザド氏は、国際テロ組織アルカイダなどのテロ集団とパキスタン軍との関係を明らかにする報道で知られ、殺害直後からパキスタン軍情報機関(ISI)による犯行説が浮上していた。ただマレン氏はISIの関与を裏付ける具体的な証拠は持っていないと述べた。【7月8日 毎日】
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米軍トップとしての立場ですから、“ISIの関与を裏付ける具体的な証拠は持っていない”とは言いつつも、それなりの根拠があっての発言でしょう。

遺体の顔と体には拷問の痕 疑われるISI犯行
サリム・シャハザド氏の事件については、下記のとおりです。
****パキスタンで記者殺害 軍とアルカイダの関係を取材*****
パキスタン東部マンディバハウディンの運河で5月31日、情報サイト、アジアタイムズオンラインの記者サリム・シャハザドさん(40)が他殺体で見つかった。パキスタン軍とテロ組織の関係をめぐる記事を執筆、当局に脅されていたという。
地元メディアなどによると、シャハザドさんは5月29日、首都イスラマバードの自宅から市内のテレビ局に車で向かう途中、行方不明になっていた。遺体には暴行の痕があったという。

シャハザドさんはパキスタン軍と国際テロ組織アルカイダやタリバーンなど武装勢力の関係を取材。昨年、軍当局がタリバーン幹部を極秘裏に釈放したと報じた。その後、この件で軍統合情報局(ISI)から脅迫を受けたと国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチに伝えていた。先月はアルカイダとパキスタン海軍の関係をめぐる記事を書いていた。【6月1日 朝日】
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これまでの経緯もあって当初から軍情報機関のISIの関与が疑われており、ヒューマン・ライツ・ウォッチも「ISIに拘束されたようだ」としていました。

****記者を拷問する恐怖の情報機関****
5月29日午後6時頃、サイエド・サリーム・シャーザド(40)はイスラマバードの自宅を出た。テレビの政治番組に出演するためだったが、テレビ局には現れなかった。
人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのアリ・ダヤン・ハサンは「信頼できる筋」の情報として、パキスタンの情報機関・軍統合情報局(ISI)に拘束されたようだと語った。
そして6月1日、イスラマバードから約100キロ離れた場所でシャーザドの車と腕時計が発見され、数キロ先の水路で遺体も見つかった。遺体の顔と体には拷問の痕があった。

「国境なき記者団」によると、パキスタンはジャーナリストにとって世界で最も危険な国の1つだ。昨年以降、15人が殺されているという。
シャーザドは身の危険を顧みず取材対象に迫り、記事をものにする記者だった。行方不明になる2日前も、オンライン新聞アジア・タイムズにこんな記事を寄稿していた。
「本紙の調べでは、5月22日にカラチの海軍航空基地を襲撃したのはアルカイダだった。海軍がアルカイダとの関連を疑って拘束した士官の釈放をめぐる両者の交渉が決裂したためだ」

ISIを含むパキスタンの情報機関は、これまでも意に沿わない記者や政治家を脅迫あるいは誘拐してきた過去がある。シャーザドも昨年10月、ISIの本部に呼び出されて以来、自分と家族の身を案じていた。
この呼び出しの翌日、シャーザドはハサンに電子メールを送り、ISI幹部との面会の様子を説明した。
それによるとISI側は、パキスタン当局が2月に逮捕したタリバンの元幹部を釈放したという記事について釈明を要求。「わが国に大恥をかかせた」として記事の撤回を求めたが、シャーザドは拒否した。ハサンによると、シャーザドはその後、「尾行や脅迫電話に悩まされていると話していた」という。

遺体発見後、シャーザドの家族を訪ねると、妻のアニータはショックでベッドに座り込んでいた。部屋のテレビでは、ニュース番組が暴行を受けた夫の遺体の写真を流していた。彼女は言った。「見てください。夫が
どんな目に遭わされたかを」【6月15日号 Newsweek日本版】
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修復に向かっていた米パ関係
アルカイダの最高幹部ウサマ・ビンラディン容疑者が5月2日、首都イスラマバードに近い軍駐屯地アボタバードで米軍特殊部隊に殺害された件で立場を失った形のパキスタンとアメリカの関係は、「分岐点に達した」(クリントン米国務長官)と言われるほど悪化しましたが、ケリー米上院外交委員長やクリントン米国務長官がパキスタンを訪問して関係修復を働きかけ、このところは落ち着きをとりもどす気配もみえてきました。

かねてからアメリカからの批判が強かったISIとイスラム過激派の関係についても、軍幹部を逮捕することで疑念の払しょくに努める姿勢をみせていました。
*****パキスタン:軍准将を逮捕 イスラム急進派を排除アピール****
パキスタン陸軍は21日、参謀本部の高級将校がイスラム原理主義グループに関わっていた疑いが強まったとして、アリ・カーン准将を逮捕したと発表した。陸軍によると、准将は中央アジアにイスラム統一国家樹立を目指す非合法組織「ヒズブアッタハリル」(イスラム解放党)とつながりがあるとみられるという。

ヒズブアッタハリルは暴力に訴えない活動で知られ、英国などに拠点を構える。陸軍報道担当のアッバス少将は「我々は、いかなる規則違反も容赦しない」と語り、軍内部のイスラム急進派を排除する考えを示した。一方、カーン准将とタリバンなど武装勢力との関係は否定した。

国際テロ組織アルカイダの最高幹部ウサマ・ビンラディン容疑者が先月2日、首都イスラマバードに近い軍駐屯地アボタバードで米軍特殊部隊に殺害されて以降、パキスタン軍とテロ組織との協力関係を疑う声が米国などで強まっている。カーン准将逮捕の背景には、こうした疑念を払拭(ふっしょく)したいパキスタン軍の狙いがあるとみられる。【6月22日 毎日】
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また、ウサマ・ビンラディン容疑者が殺害されて以降止まっていた国内イスラム過激派の掃討作戦も再開されました。
****パキスタン:武装勢力掃討作戦を開始 アフガン国境*****
パキスタン軍は4日、アフガニスタンと国境を接する北西部・部族支配地域のクラム管区で武装勢力掃討作戦を開始した。規模は不明だが、地上と空から攻撃している模様だ。5月2日にウサマ・ビンラディン容疑者が殺害されて以降、パキスタン軍が国内で本格的な作戦を実施するのは初めて。

陸軍スポークスマンのアッバス少将は「住民誘拐や、治安当局を狙った自爆攻撃を繰り返す武装勢力の排除が目的だ」と述べた。同管区ではイスラム教スンニ派の武装勢力がシーア派住民を標的にしてきた。最近では、隣接する北ワジリスタン管区からパキスタン人のタリバンや、アフガン人の「ハッカーニ・ネットワーク」など武装勢力が流入しているとされ、今回の軍事作戦は、治安悪化を防ぐ狙いとみられる。【7月5日 毎日】
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こうした時期に米軍トップによってなされた、記者殺害へのパキスタン政府関与に関する発言が、どのような影響を与えるか、どのような意図でなされたのか気になります。
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