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(クウェートへの出稼ぎのため、ドバイ空港に到着したインドネシア人家政婦 “flickr”より By plmgt2000 http://www.flickr.com/photos/38121265@N02/3506556989/ )
【サウジへの労働者派遣を一時中止】
インドネシアからサウジアラビアへの出稼ぎ家政婦の扱いを巡って、両国の関係が悪化していることが報じられています。
****インドネシア:サウジに厳重抗議 家政婦の斬首刑通告なく*****
インドネシアのユドヨノ大統領は23日、サウジアラビアで雇用主を殺害したインドネシア人家政婦に対し、事前通告なしに斬首刑が執行されたことを受け、「国際関係上の規範と礼儀を破った」としてサウジ政府に「厳重に抗議する」と述べた。国民向けのテレビ演説で発言した。
大統領は演説で、これまでも待遇改善のためにサウジへの労働者派遣を制限してきたと強調。すでに同国内で死刑が確定している26人のインドネシア人労働者について、事件や裁判の経緯などを調べる「タスクフォース」を新設する方針を明らかにした。
インドネシア政府は22日、サウジへの労働者派遣を一時中止する措置を発表。8月1日から実施し、サウジ政府がインドネシア人労働者の人権保護に関する覚書に署名するまで続けるとしている。
07年にサウジ人雇用主を殺害し、死刑が確定している別のインドネシア家政婦のケースでは、雇用主の遺族が200万リヤル(約4300万円)の賠償金で減刑に応じるとしており、インドネシア外務省は支払いに向けた手続きに入った。この家政婦はレイプされそうになったため殺害したと正当防衛を主張している。【6月23日 毎日】
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インドネシア当局によると、18日に処刑されたこのインドネシア人家政婦は、サウジアラビア人の雇い主にインドネシアへの里帰りの許可を求めたが認めてもらえなかったため、雇い主を殺害したと供述していたとそうです。【6月23日 AFPより】
【暴力が原因と見られる死亡例も多数】
サウジアラビアで雇用主と外国人家政婦の問で事件が起きたのは、今回が初めてではありません。
昨年は、路上でインドネシア人家政婦の遺体が発見されています。唇をはさみで切られるなどの暴行を受けた家政婦もいます。サウジアラビアで働く外国人家政婦は長年、雇い主による虐待を繰り返し訴えてきています。【7月6日号 Newsweek日本版より】
暴力が原因と見られる死亡例も多く、遺族らは真相究明と遺体の早期送還を求めています。
****インドネシア:家政婦遺族ら真相究明を*****
「あんなに元気だった妹がなぜ。真相を知りたい」。イエニさん(35)がサウジで働いていた妹エルナワティさん(18)の訃報を聞いたのは今年2月。妹は15歳だった08年8月、サウジのハイルに出稼ぎに行った。
直後から携帯電話で雇用主の妻による暴力を訴えた。睡眠時間は約3時間。仕事は多く、失敗すると何度もたたかれた。帰国は許されず、雇用主の友人にレイプされそうになったこともある。今年1月、「死んだら両親をよろしく」と携帯電話のメッセージが届いた直後、連絡が途絶えた。外務省に保護を求めたが、対応してもらえなかったという。
一緒に働いていた家政婦によると2月10日、それまで3日間食事を与えられず、逃げようとしたところを雇用主の妻に見つかり、その友人の男性にホースで胸などを何度も強く打たれた。血を吐いて倒れ、病院で息を引き取ったという。病院からは同13日、「自殺した」と連絡があった。大使館に遺体引き取りを依頼したが、「調整中」としていまだに実現せず、同時に求めた実態調査も「地元警察に依頼した」と返答があっただけだ。
民間団体「ミグラント・ケア」によると、雇用主の暴力が原因と見られる死者はサウジだけで少なくとも100人以上。約半数は遺体がインドネシアに返還されていない。同団体のアニス事務局長は「政府は対応が遅すぎる。労働者保護と遺体送還をきちんと定めた覚書を一刻も早く締結すべきだ」と主張する。
インドネシア外務省報道官はエルナワティさんのケースについて「病院の検視が終り次第送還される」と説明。他のケースについては「要望があった際は大使館を通じてサウジ側に送還を依頼してきたが、遺族が望まないことも多い」と話した。【6月28日 毎日】
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【アラブ社会には、アジア人に対する偏見がある】
問題が大きくなるにつれ、出稼ぎ家政婦の労働実態に関する報道も増えています。
****インドネシア:「奴隷だった」オマーンから帰国の元家政婦*****
サウジアラビアで雇用主を殺害したインドネシア人家政婦が6月中旬、死刑となったのをきっかけに、出稼ぎ労働者に対する虐待への批判が高まるインドネシア。
「まさに奴隷だった」。2カ月前に中東オマーンから帰国した元家政婦ルスナニさん(47)は毎日新聞の取材に、その実態を証言した。
サウジ、クウェート、オマーン。ルスナニさんはこれまでに計3回、中東諸国に出稼ぎに行った。「雇用主や家族の暴力は当たり前。サウジで斬首刑になった女性と私の境遇はとてもよく似ている」と打ち明けた。
3人の子供の教育費を稼ぐためだった。夫とは離婚。いずれの国でも、雇用主から虐待を受けたり、給与の不払いを経験した。「何度も復讐(ふくしゅう)したいと思ったが、私は殺さなかった。お金のため、と自分に言い聞かせ、子供のことを考えて耐えた」
09年5月、アラブ首長国連邦のアブダビへ。他の家政婦と一緒に「マネキンのように並べられ、8000サウジリヤル(約17万円)でオマーンの政府高官に買われた」。仕事は炊事、洗濯、掃除に庭の手入れ。睡眠時間は、平均すると約3時間程度。10年4月に雇用主が失業してからは、特にその妻からの虐待が激しくなり「仕事が遅い」と木の棒や素手で殴られ、賃金の支払いも滞った。
「大金を払ったのだから、あんたは私のモノ。何をしてもいいの。政府や法律なんて関係ない」。妻は何度もそう言ったという。手紙を出すことも電話をかけることも許されず、外出もできない。「インドネシアに帰らせて」。そう頼むたびに、暴力を受けた。
4月中旬、キッチンで妻が「新しいナイフはどこ」と尋ねた。思い出せずに探していると、自分で見つけた妻がルスナニさんの首にナイフを突きつけ、「帰ることばかり考えているから忘れるんだ。だったら先に首だけ帰してやる」と叫んで力を込めた。あごが切れ、血が流れた。
翌朝、雇用主から不払い給与13カ月分のうち4カ月分の約520万ルピア(約4万9000円)だけ渡され、そのまま放り出された。
今も棒で殴られた右腕がしびれ、力が入らない。虐待された記憶がよみがえり、恐怖と怒り、悔しさで涙が止まらなくなる。末っ子の長男はまだ高校生。大学生の長女と約束したパソコンは今も買えていない。
◇アジア人への偏見も
インドネシア大のスリスティオワティ・イリアント教授(女性・ジェンダー学)の話
中東諸国は一般に、渡航手続きの規制が緩い。出稼ぎ労働者の多くは地方の貧困層で、年齢などで規定に満たない場合も少なくない。書類を偽造し、渡航をあっせんするアラブ系移民の業者もあり「行きやすい」ことが背景にある。
一方、インドネシア人の大半はイスラム教徒で「アラブ」は預言者ムハンマドを生んだ聖地であり、雇用主はその末裔(まつえい)と考えることが多い。富裕層への憧れもあり、「アラブ人は豊かで善良」とのイメージも根強い。
だがアラブ社会には、アジア人に対する偏見がある。アラブ人と非アラブ人、富者と貧者を区別し、男尊女卑の文化も色濃く残る。最上位はアラブ人男性で、アジア人女性は最下位に置かれる。同じアジア人でも、フィリピン人の多くは看護師など医療部門で働くが、インドネシア人の女性は家政婦中心で最下層と見なされ、差別意識が虐待などを助長している。【7月4日 毎日】
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【「労働者の代わりは他にいくらでもいる」】
この問題に対するサウジアラビア側の反応は、「労働者の代わりは他にいくらでもいる」と、やや非情なものがあります。
****サウジアラビア:インドネシア労働者などへのビザ発給停止*****
サウジアラビア労働省は29日、インドネシアとフィリピン人労働者への労働ビザ発給を7月2日から停止すると発表した。国営サウジ通信(電子版)などが伝えた。両国は労働者保護についてサウジ政府を批判、規制強化を求めており、これに対抗する措置とみられる。
インドネシア政府はサウジで雇用主を殺害した同国人家政婦が6月18日、事前通告無しに斬首刑にされたことを受け、8月1日以降のサウジへの労働者派遣停止を発表。フィリピン政府は労働者の待遇改善を求め、最低賃金を月210ドルから400ドルに引き上げるようサウジ政府に要望したが、今年5月に拒否されている。
サウジ労働省報道官は、ビザ発給停止は両国が提示した「採用条件」を受けての措置であり、すでに別のアジア、アフリカ諸国からの受け入れ準備を進めていると述べた。
サウジではインドネシア人約150万人が家政婦や油田労働者として従事し、毎月1万5000人程度が渡航している。フィリピン人も約120万人がサウジで働いているが、雇用主による暴力や性的虐待、給与不払いなどが問題となっている。
サウジ当局者は地元メディアに対し、労働者の派遣停止でインドネシア側が被る損失は16億ドル(約1285億円)に上ると見積もり、「労働者の代わりは他にいくらでもいる」と発言。サウジ側に影響はないとの見方を示している。【6月30日 毎日】
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こうした出稼ぎ労働者の処遇に関する問題は、別にサウジ・インドネシア間だけでなく、出稼ぎ家政婦の問題だけでもありません。
オイルマネーで潤う中東には、バングラデシュなど多くの貧しい国々から建設業などに多数の労働者が集まっており、その労働条件・生活環境に関する問題はよく目にするところです。
同じアジアの中にあっても、シンガポールや香港などへの出稼ぎ労働者の処遇が問題になることもあります。
また、インドネシアからの出稼ぎ家政婦に関しては、経済的に優位にある隣国マレーシアへの出稼ぎで、やはり暴行などの問題があって両国関係が悪化したりもしています。
“よくある話”と言ってしまえばそれまでですが、経済的に劣後した国からの出稼ぎ者の弱い立場に付け込んだ、理由のない優越感の発散は、暴力をふるう側の国家・国民の品位を貶めるものです。
サウジアラビアも、「労働者の代わりは他にいくらでもいる」などと大人げないことを言わずに、改善に努めてもらいたいものです。