孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  明日3日総選挙 衰えぬインラック人気

2011-07-02 20:10:55 | 国際情勢

(7月1日 雨の中、支持者への最後の訴えを行うタイ貢献党の首相候補インラック・シナワット氏 “flickr”より
By Ratchaprasong 2  http://www.flickr.com/photos/ratchaprasong2/5892871526/ )

インラック氏「最低でも250議席は取る」】
これまでも何回か取り上げてきたタイの総選挙は、明日3日に行われます。
タクシン元首相派のタイ貢献党がタイ初の女性首相候補として担いだタクシン氏の実の妹、インラック・シナワット氏(44)の人気で、野党のタイ貢献党が優位に戦いを進めている状況は変わっていないようです。
注目は、第1党が予想されているタイ貢献党が単独過半数を確保できるかどうかにあります。

****タイ:下院総選挙…3日に投開票*****
タイのタクシン元首相派と反タクシン派の対立に一応の政治的決着を付ける下院総選挙が3日、投開票される。タクシン派野党「タイ貢献党」が第1党の座を確保するのは確実な情勢で、定数の半分の250議席に近付けばタクシン派の2年半ぶりの政権復帰の可能性が強まる。一方、同党の議席が与党「民主党」と僅差となる200台前半にとどまれば、政権の行方は、選挙後の少数政党との連立交渉に持ち越される。

総選挙には計40政党が参加し500議席(比例区125、選挙区375)を争う。貢献党と民主党が2大政党で、当初は両党は互角とみられた。だが貢献党がタイ初の女性首相候補として担いだタクシン氏の実の妹、インラック・シナワット氏(44)が人気を集め、終盤戦の世論調査では民主党の地盤の首都バンコクでも貢献党が優位に立つ。
インラック氏は「最低でも250議席は取る」と自信を示す。議席は選挙管理委員会の選挙違反の有無の調査を経て確定するが、貢献党が250議席を上回ればタクシン派の政権復帰は確実となる。

一方、民主党が善戦した場合、計100議席前後を獲得するとみられる少数政党との連立交渉が鍵を握る。タイ政界では伝統的に第1党に連立交渉の優先権があるものの、貢献、民主各党の獲得議席が僅差となれば、両党はそれぞれの閣僚ポストなどをエサに、少数政党に対する激烈な綱引きを演じるとみられる。

有権者は約4730万人。3日午後3時(日本時間同5時)に投票が締め切られ即日開票される。深夜には大勢が判明する。【7月1日 毎日】
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アピシット首相「タクシンという毒を取り除く好機だ」】
劣勢にまわった与党・民主党側は、政策論争よりもタイ貢献党批判、タクシン批判に重点を置いた戦いを行っていますが、それがうまく効果をあげていないとの指摘もあります。

****タクシン派批判 タイ与党強める*****
総選挙、あす投開票
総選挙の投開票日が3日に迫ったタイで1日、タクシン元首相を支持する野党・タイ貢献党と、反タクシン派の与党民主党がバンコクで最後の大規模集会を開いた。劣勢が伝えられる民主党は、選挙戦終盤からタクシン派批判を激化させ、選挙後の和解への議論は置き去りとなった。

民主党は世論調査などで劣勢が鮮明になってから、「タクシンという毒を取り除く好機だ」(アピシット首相)などと、政策論争よりもタイ貢献党批判に主眼をおいた。ダクシン派と軍の衝突などで死者約90人が出た昨年の騒乱の責任は、武装集団を率いたタクシン派幹部にあると名指ししてきた。

選挙戦について朝日新聞が1日、2007年の前回選挙で民主党が36選挙区中27選挙区で勝利したバンコクで有権者50人に取材したところ、民主党支持者の中にも「彼らはうそばかり」(67歳男性)、「批判以外にすることがあるはずだ」(57歳男性)などと、今回はタイ貢献党支持や無投票に考えを変えた人たちがいた。

タイ貢献党は選挙後の政局安定を目指し、「和解」を強調してきた。タイ貢献党のナタウット候補は「民主党に感謝する。彼らの攻撃のおかけで、タイ貢献党は多くの人から同情を得ている」と話す。【7月2日 朝日】
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恩赦は「兄のためには行わない」】
野党タクシン派のタイ貢献党が政権を獲得することになれば、現在海外逃亡中のタクシン元首相の恩赦・帰国問題が焦点になりますが、首相候補でもある妹のインラック・シナワット氏は現在のところ、タクシン元首相の帰国・復権につながる恩赦は行わないと発言しています。

****タイ総選挙:インラック氏が会見 タクシン氏の恩赦行わず****
7月3日投票のタイ総選挙で、優勢を保つタクシン元首相派野党「タイ貢献党」の首相候補、インラック・シナワット氏(44)が27日、毎日新聞などと会見した。実兄で海外逃亡中のタクシン元首相の「操り人形」との見方を否定し、タクシン氏の帰国・復権につながる恩赦も「兄のためには行わない」ことを強調した。

インラック氏は「私は兄から経営やビジョンを学んだ。私の思考回路は兄と同じ。だが指導者としての意思決定は自分自身で行う」と訴えた。恩赦についても「(タクシン、反タクシン派の間の)国民和解のための手段。(現政権が設置した)国民和解委員会と協議して決めるが、兄のためには行わない。選挙後も兄は海外にとどまる」などと述べ、首相に就任しても兄の帰国・復権に取り組む考えのないことを強調した。
選挙戦でインラック氏は「タクシン色」を払拭(ふっしょく)することで国民の幅広い支持獲得を狙っており、こうした姿勢を反映した発言とみられる。

また「少なくとも議席の過半数を獲得する」と単独で政権樹立が可能な下院での過半数確保に自信を示した。国政の最優先課題については「国民は生活費の上昇に苦しんでいる。物価上昇を抑え生活を改善する」と表明。タイ初の女性首相候補として「国民和解へ向け、非暴力の象徴である女性が首相になるのはよいこと」とアピールし、「夫と子供は私の立場を理解し、支持してくれている」と話した。【6月27日 毎日】
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実際、政権を握ればいろいろと話は出てくるのでしょうが、国民和解のためには慎重に判断してもらいたいところです。

【「政権を担えるのならば、どの政党とも協力しなければならない」】
与野党の政権争い以外で興味深いのは、5年前のクーデターを指揮して軍事政権をつくったソンティ元陸軍司令官が、今回総選挙にイスラム政党を率いて立候補していることです。
更に“面白い”のは、クーデターでタクシン元首相を追放したソンティ氏ですが、選挙結果によってはタクシン派との連立もありうるとか。

****タイ総選挙に軍の元トップ出馬 5年前のクーデター指揮****
3日投開票のタイ総選挙に5年前のクーデターを指揮したソンティ元陸軍司令官(64)が立候補している。タクシン首相(当時)を追い落とし、多数の死者を出す社会対立のきっかけをつくった元軍トップの政界進出の動きに、表立った批判は見られない。

■批判の声、少数
南部ヤラーのイスラム学校で6月27日朝、イスラム教徒のソンティ氏は5千人を超える生徒や教師に語り始めた。
「(イスラム教徒が多数を占める)最南部3県では暴力が広がり、教育の水準も低い。陸軍司令官や(クーデター後に権力掌握した)民主改革評議会議長としては問題解決できなかった。痛感したのが政治の関与だ。だから立候補した」

同氏はイスラム教徒の政治家が結成した「祖国党」の党首に2年前に就任。今回、最南部3県を中心に、選挙区、比例区合わせて87人の候補者を擁立した。与党・民主党とタクシン派のタイ貢献党の2大政党が競う中、キャスチングボートを握ることを目指す。

クーデターの主導者が、政党党首として民主主義の根幹である選挙に参加することへの批判は皆無と言って良い。「奇妙な出来事」(タマサート大法学部のパリンヤ教授)、「茶番」(チュラロンコン大のティティナン安全保障国際問題研究所所長)といった指摘は少数にとどまる。
タクシン元首相の支持者からも異論は聞こえない。「反独裁民主同盟」のティダ代表代行は「政治への参加は歓迎だ。クーデターが国民に支持されていないことや軍服を脱ぐと無力であることを実感する良い機会だ」と皮肉を交えて話す。

こうした状況についてパリンヤ教授は(1)クーデターを指示したのは守旧派のプレム元首相で、ソンティ氏は操られていたとの見方が強い(2)貢献党の敵は民主党で、ソンティ氏の政党ではないと見られている、と解説する。

■連立の可能性も
批判や異論がない半面、貢献党が勝利しても過半数に届かない際の連立相手として祖国党が取りざたされている。
これに関しても「クーデター首謀者と反クーデターの政党が手を組む荒唐無稽(こうとうむけい)な話だが、タイでは対立する政党が連立を組むのは珍しくない」(市民運動家のスピンヤ氏)と言う。
パリンヤ教授も「タイを前進させるためには全当事者が選挙結果を受け入れ、街頭デモなどを起こさないことだ」と指摘。一つの選択肢として、「タクシン氏とソンティ氏が手を組むことは十分考えられる」と話す。

ソンティ氏は朝日新聞のインタビューに応じた。
――クーデターは民主主義を否定するものだ。主導者がなぜ選挙に出るのか。
 「タイはクーデター以前に議会独裁主義に陥り、民主主義は破綻(はたん)していた。我々は民主主義を維持するために改革に踏み切った」
 「対立が政治混乱を招き、国の発展を遅らせてきた。愛国者の一人として状況を変えたいと考えた」
―選挙後にタクシン派の貢献党との連立の可能性を示唆しているが、矛盾しないのか。
 「選挙結果は国民の意思である以上、政権を担えるのならば、どの政党とも協力しなければならない」(後略)【7月1日 朝日】
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もともとタイの各政党はイデオロギー色が少ないこともあって、選挙後に政党を鞍替えするなども珍しくないなど“柔軟”な傾向がありますが、タクシン元首相を追放した責任者とタクシン派政党が手を組むというのも、非常に“柔軟”な発想です。
仏教徒とイスラム教徒の対立で多くの死者を出しているイスラム教徒が多いタイ最南部3県は、タクシン批判が強く、民主党側が優位な地域ですから、地盤的にもタイ貢献党とは競合しないということもあるのでは。
コメント (1)
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