孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  高速鉄道事故を巡るメディアの当局批判と、当局の言論統制

2011-07-30 21:33:25 | 中国

(事故現場を見守る住民 “flickr”より By M.I.C Gadget  http://www.flickr.com/photos/micgadget/5974553260/ )

【「人の不幸をあざ笑うような報道」との反発も
中国の高速鉄道事故については、日本でも多くのメディアが連日大々的に取り上げています。
事故原因の“人災的”要素、事故後の証拠隠滅を疑わせるような対応、安全管理に対する基本的姿勢の問題、不十分な救助活動、遺族の原因追究を求める抗議など、論点は多々あります。

そうした問題については、改めてここで取り上げることもないかと思いますし、日本における事故報道について、下記のような中国側の見方もあります。

****<高速鉄道脱線事故>各国メディアも大注目、日本では「大躍進」と嘲笑も―中国紙****
2011年7月25日、中国共産党機関紙・人民日報系の国際情報紙「環球時報」は、浙江省温州市で発生した高速列車追突・脱線事故は各国メディアも高い関心を示しており、特に日本では人の不幸をあざ笑うような報道もあったと伝えた。以下はその内容。

(中略)中国高速鉄道計画に最も敏感に反応しているのは日本だ。アジアの大国に対して抱く自然な競争心、そして高速鉄道技術をめぐる両国間のもめ事がその背景にある。米紙ロサンゼルス・タイムズは16日付で北京・上海間の高速鉄道が開通後頻繁に故障していることについて、「日本メディアを喜ばせていることは間違いない」と報じたが、23、24日の日本の報道はまさにその通りだった。

その内容は、「中国の威信をかけて建設した世界最速の高速鉄道で死亡事故が発生。政権に衝撃」「日本では考えられない事故」「日本の鉄道関係者に戸惑いと驚き」といったものから、毛沢東元主席が1950年代に大量の餓死者を出した農工業の増産政策を引き合いに出し、「大躍進」現象と揶揄するメディアまであった。【7月25日 Record China】
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日本の報道が“人の不幸をあざ笑うような報道”とは思いませんが、ただ、日頃中国に政治・経済的に押されている鬱憤をはらすような、「それ見たことか・・・」といった中国バッシングのように思われる部分があれば、見苦しくならないように気をつけるのもよろしいかと思います。

中国共産党:事故の独自報道自粛を求める通達
きょう取り上げるのは事故を巡る中国におけるメディアの対応、それを統制・管理しようとする当局側の動きです。
事故前から、鳴り物入りで開業した北京・上海間の高速鉄道ではトラブルが相次ぎ、中国国内でも批判が出ていました。これに対し、国営メディアの新華社通信は「陰で笑っているのは誰なのか、あなた方も想像できるだろう」と、日本などのライバルを意識して、国民に忍耐と寛容を求める社説を掲載していました。

****中国高速鉄道、相次ぐ大規模遅延 国営メディアが「忍耐」呼びかけ****
前月30日に開業したばかりの北京と上海を結ぶ高速鉄道で、大規模な遅延が相次いで発生している問題で、中国国営新華社通信は13日、国民に忍耐と寛容を求める社説を掲載した。

北京の交通管理局によると、10日、停電により10便以上に約90分間の遅延が生じた。12日には、同様の理由で29便が遅延。13日には上海発北京行きの列車が江蘇省の駅で故障し、2時間以上の遅延が発生した。
開業から10日余りで大規模遅延が相次いで発生したことで、ネット上にはおびただしい数の批判が書き込まれ、国内メディアも批判記事を展開している。

こうした状況を受け、新華社の社説は次のようにいさめている。「高速鉄道をすぐに疑問視し、故障や事故が起きるたびに大げさに書きたてて注目を集めることは、高速鉄道に自信がないことを示すことになる。それは国益を損なうことでもある。陰で笑っているのは誰なのか、あなた方も想像できるだろう」。最後の文言は、中国の高速鉄道に対抗する海外のライバル会社を指しているのは明白だ。【7月14日 AFP】
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事故の大惨事を発端に噴き出した批判は、当局の思惑を超えて、報道現場やインターネットで広がりを見せました。

****高速鉄道事故、報道現場やネットで批判噴出****
中国浙江省温州の高速鉄道事故を巡って、胡錦濤政権は国内メディアの報道規制を一段と強化しているが、今回の大惨事を発端に噴き出した批判は、報道現場やインターネットで抑えきれないほどに広がりつつある。

事故現場では25日、脱線車両の撤去などを終えて運行が再開。国営の中央テレビも正午のニュースのトップで伝え、復旧ぶりを大々的に宣伝した。しかし、北京の中国紙記者は「復旧を急ぎ過ぎている。政府はきちんと調査を行う気があるのか」と疑問を呈する。

胡政権は事故発生翌日の24日、国内の新聞各紙に対し、今回の事故の独自報道自粛を求める通達を出した。だが、一部の中国紙は25日、事故の原因究明や責任追及を求める社説や評論を掲載し、当局の通達に反発する動きも出ているようだ。【7月25日 読売】
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上記記事にもあるように、こうした批判的なメディア報道を抑制すべく、中国共産党中央宣伝部は格メディアに対し、独自報道を控えて国営新華社通信の記事を使うように、また、プラス面のニュースを中心に報道するように、国内メディアに通知しています。

****中国高速鉄道事故 「プラス面のみ報道を」メディアに通達****
取材合戦過熱、責任追及を懸念
中国で新聞やテレビなどを管轄する共産党中央宣伝部が25日、国内の各メディアに対し浙江省温州市で起きた高速鉄道事故について、「政府の懸命な人命救助や市民による自発的な献血活動など、プラス面のニュースを中心に報道するように」という趣旨の通達を出したことが分かった。中国のメディア関係者が産経新聞に明らかにした。報道合戦が過熱し、政府の責任を追及する世論が高まることを懸念したためとみられる。

同関係者によると、通達は各省・市の宣伝部を通じて各メディアに伝えられた。「高速鉄道の技術問題について論評しない」「事故原因の分析については政府の発表内容と一致すること」「インターネット上の情報や書き込みを転電しない」などの注意事項が含まれているという。中国ではこれまで、大きな事故が発生した際、各メディアは独自に取材せず、国営新華社通信が配信した原稿をそのまま使用することが多かった。

しかし今回の事故は、中国版新幹線が北京-上海間で開通した直後というタイミングで起き、国民の関心も高い。このため事故が発生すると、宣伝部の指示を待たずに、全国から計100社以上の新聞、テレビ、ネットメディアが現場に記者を派遣、激しい取材合戦を繰り広げてきた。

北京紙「新京報」「京華時報」などの一般紙は連日、数ページの特集を組み、事故の詳細や原因分析などを報道。その中には、鉄道省など政府の責任を暗に指摘する内容もみられた。また、各メディアで死者数のばらつきがあったのも、記者たちが独自取材をしていたためともいえる。

政府の宣伝機関と位置付けられているはずの中国メディアが、国家権力と“対峙(たいじ)”する場面もあった。鉄道省の24日の記者会見で、中国人記者が同省高官に対し「現場の救出活動が終了した後で、生存者が見つかったというのはどういうことなのか」と、当局のずさんな救出活動について厳しい質問を浴びせていた。

共産党宣伝部の通達を受けて、報道合戦は沈静化するとみられるが、「一時的におとなしくするだけ。今後も(独自報道は)繰り返されるだろう」と指摘する中国メディア関係者もいる。【7月26日 産経】
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【「ガス抜き」】
その後も、中国各紙は批判的な「独自報道」を止めていませんが、「批判は鉄道省に集中している」とのことで、共産党政権や一党独裁批判に直接つながらないように“ガス抜き”との見方もあるようです。

****批判は鉄道省に集中・・・当局「ガス抜き」狙う****
中国浙江省温州での高速鉄道事故で、中国各紙が、「独自報道」を禁じる当局の指示に抵抗して、事故処理の不手際や情報公開の不十分さを批判する論評を連日掲載している。
当局も「ガス抜き」として、一定の批判は容認する考えだが、共産党政権や一党独裁批判に直接つながる報道は断じて許さず、締め付けを強める構えだ。

「北京青年報」は27日、現場で壊して埋めた車両を掘り返したことについて、「事故原因の細部を知るのに役立つはずのものが破壊されてしまったかもしれない。事故の真相究明は一段と難しくなった」と非難。「21世紀経済報道」も、「中国の鉄道は『独立王国』だった」と批判、日本の国鉄民営化も例に挙げて鉄道省の改革を訴えた。

だが、関係者は「批判は鉄道省に集中している」と指摘する。実際、遺族の一部が高速鉄道の温州南駅で抗議行動を起こし、真相究明を求めて政府批判を繰り広げているが、中国各紙はこれを黙殺している。【7月27日 読売】
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言論統制の締め付け
そうしたなかで、当局批判を試みるメディアと、これを統制・管理しようする当局側のせめぎ合いをつたえるニュースが、いくつか報じられています。

****<高速鉄道脱線事故>看板アナが当局批判、国営テレビ番組が放送停止か―中国****
2011年7月27日、中国浙江省温州市で起きた高速鉄道の追突脱線事故を受け、激しい当局批判を展開した中国中央テレビ(CCTV)の看板キャスター、白岩松(バイ・イエンソン)氏の番組が放送停止処分を受けた疑いが広がっている。米華字サイト・多維新聞が伝えた。

白氏は25日、生放送の報道番組「新聞1+1」で、中国鉄道部の王勇平(ワン・ヨンピン)報道官が「中国の高速鉄道技術は先進的で、基準を満たしている」と言った言葉に対し、「では、運行管理も先進的なのか?監督体制は?人命尊重は?細かい部分まですべて先進的だと言えるのか?」と激しく批判。さらに、中国の高速鉄道の現状を指し、「健康な人に対して、例えば40歳の人の心肺機能が20歳のようだと褒めるだろう。だが、これが知的障害だったら…健康だと言えるだろうか?」と疑問を呈した。

この鋭い指摘に対する視聴者の反響は大きかった。ネットユーザーも「マスコミの人間が言うべきことを言ってくれた」と大絶賛。だが、世論への影響を懸念したCCTVの上層部が同番組の放送停止を決定したとの噂がすぐにネット上に流れた。放送翌日の26日には急きょ別の番組に差し替えられたことで、噂はさらにエスカレート。一方で、内部事情を良く知る人物は「噂はデマ」だとマスコミに語っている。【7月29日 Record China】
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****言論統制が本格化、中国紙に紙面差し替え命令****
23日に中国浙江省温州で起きた高速鉄道事故で、30日付の一部中国紙が紙面の大幅差し替えを命じられたことがわかった。
前日の29日は初七日にあたり、大規模な追悼行事が行われたが、共産党中央宣伝部が世論を刺激して政府批判が高まることを警戒し、本格的な言論統制に乗り出したものとみられる。【7月30日 読売】
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****鉄道省批判の中国国営TV局制作者、停職処分に****
香港紙「東方日報」は30日、中国浙江省温州で起きた高速鉄道事故で、鉄道省を批判した中国国営中央テレビの報道番組制作者、王青雷氏が停職処分になったと伝えた。

王氏の担当番組のキャスターは26日、高速鉄道について「安全でないなら、これほどの速度が必要か」と発言。鉄道省が事故車両を埋めた問題も指摘していた。
また、王氏はミニブログに「強権を恐れずに誤りを批判する記者が一人でもいれば、その国はまだ良心がある」と書き込み、多くのネットユーザーの支持を得ているという。【7月30日 読売】
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日本的常識で言えば、マスメディアの健全な政府批判は民主主義にとって不可欠なもの(弊害も多々あるでしょうが)ということになりますが、政治体制の全く異なる中国でどこまで当局批判が許容されるのか、こうした批判を辞さない姿勢が他の問題でも今後さらに強まるのか・・・興味がもたれるところです。
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