孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  共産党以外の民主党派、共産党支持を受けない独立候補の現状

2011-07-03 21:32:56 | 世相

(2月20日 上海 “ジャスミン革命”の呼び掛けに、繁華街に学生ら約50人が集まりましたが、警官が排除し、若者3人を連行しました。 “flickr”より By ~囧~  http://www.flickr.com/photos/chaneagle/5718105643/ )

【「新たな政党を創設する必要はない」】
中国は“事実上”の共産党一党支配の政治体制ですが、“形式的”には共産党以外の政党が認められてはいます。
ただ、その実態はよくわからない部分もあります。
VOA記者がその点を記者会見で質問した際の、共産党側の回答内容が以下の記事です。

****中国に新しい政党は必要ない」、統一戦線工作部が記者会見で明言―中国****
2011年6月29日、中国共産党中央対外宣伝弁公室の行った記者会見で、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の記者が中国で新党が創設される可能性について質問し、中国共産党中央統一戦線工作部のスポークスマンがこれに答えた。新華社通信が伝えた。

VOA記者が、中国の民主党派の党員総数や、民主党派が任意に党員を増やせるのか、党員数に上限はあるのか、新たな民主党派を創設することは可能なのか、発言の権利は保障されているかなどについて質問した。

これに対し、中央統一戦線工作部の張献生(ジャン・シエンション)報道官は、改革開放政策が始まった頃には民主党派の党員は6万人程度だったが、現在は84万人を擁するまでに増えていると答え、民主党派は共産党の友党として政権に参与しているとした。

また、中国には共産党以外に、現在8つの民主党派があるが、それぞれ科学技術や教育、文化、スポーツなどの分野からの党員で構成され、共産党を含めた9つの政党で現在の中国の各社会階層をカバーできているとし、「新たな政党を創設する必要はない」と強調した。(翻訳・編集/岡田) 【6月30日 China Record】
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8つの民主党派は、“それぞれ科学技術や教育、文化、スポーツなどの分野からの党員で構成されている”ということで、政策上の差によるものではないようです。
(思想はもちろん)政策上の違いによる政党ではなく、専門分野代表であれば、「新たな政党を創設する必要はない」との発想にもなりますが、日本や欧米の民主主義に関する常識とは乖離があります。

日本や欧米の常識からすれば、新党の必要性を決めるのは国家でも共産党でもなく、その必要を認める国民・有権者の意思です。
経済システムでは資本主義(それも弱肉強食的で、産業革命当時のような、むき出しの資本主義)を採用したかに見える中国ですが、政治的特異性は相変わらずです。

【「人民の集会、結社、言論、出版の自由を完全に認めよ。それがなければ、いわゆる選挙権は紙の上の権利にすぎない」】
北京で1日に開かれた中国共産党創設90年祝賀大会で、胡錦濤国家主席が行った講話の骨子のひとつに“経済改革に加えて政治体制改革を推進し、人民の政治参加を拡大する”ということがあげられています。
共産党以外の政党と同様に、共産党や政府系団体が指定する候補としてではなく、自由な立場で民代表大会選挙へ立候補することも“形式的”には認められていますが、“事実上”の問題としては、相当に高いハードルがあるようです。

****中国共産党、独裁脅かす独立候補続々…政治的抑圧に限界****
「私は世界中で一番情けない父親だ」
「父の日」を翌日に控えた6月18日、中国の著名ジャーナリスト、李承鵬氏(43)は自身のブログで綴(つづ)った。

理由はこうだ。中国では地方の人民代表大会(議会)選挙が5年に1度実施される。李氏は、故郷の四川省成都市武侯区で今夏行われる人民代表大会選挙への立候補を表明した。すると、長男(10)が参加しているジュニアテニス選手育成プログラムを支援する地元企業が突然、「あなたの息子を支援リストから外したい」と連絡してきたという。

李氏の立候補を阻止したい共産党当局が企業に圧力をかけたのが原因だ。共産党や政府系団体が指定する候補としてではなく、自由な立場の「独立候補」として出馬表明したことが当局の逆鱗(げきりん)に触れたらしい。
李氏は、サッカー賭博の内幕を暴くなどスポーツ界の不正を追及してきた。今回、多数の住民からの推薦を受け、法律で保障された被選挙権を行使しようとしただけなのに、家族にまで迷惑を掛けてしまったことに大きなショックを受けた。
「テニス少年の息子に何と説明すればよいのか…」。李氏は戸惑いながらも立候補を取り下げるつもりはない。

中国の省や市レベルでは間接選挙で代表(議員)が決まるが、市の下部レベルの区、県、郷では直接選挙が実施されている。また選挙法には、政府認定の政党、団体から指定された有権者だけでなく、10人以上の住民から推薦された有権者も出馬できると規定されている。
当局は、こうした点を根拠の一つに「中国の選挙は民意を反映している」と主張する。

しかし実際には、住民10人以上の推薦を得た「独立候補」が当選するのは極めて難しい。条件審査の段階で“問題点”を指摘され、候補者資格を与えられない人がほとんどだ。
ただ、今年の地方選挙で李承鵬氏のように「独立候補」として立候補手続きを進めているのは、約200万という全議席に対し少なくとも数十万人に上ると伝えられる。前回選挙に比べ10倍増の伸びだ。当局がこれに対応しきれるのか、ふたを開けてみないと誰にも分からない。

「人民の集会、結社、言論、出版の自由を完全に認めよ。それがなければ、いわゆる選挙権は紙の上の権利にすぎない」民主活動家の言葉ではない。1944年2月2日付の「新華日報」に掲載されたもので、新華日報は当時、中国共産党機関紙だった。共産党は40年代、中国国民党による独裁政権をたびたび批判していたのだ。
しかし49年に権力を握ると、こうした主張を引っ込め、国民の政治的権利を奪っていく。

一方で、78年の改革開放政策以降、社会の価値観は多様化した。近年の高度経済成長により地方にも中間層が生まれ、インターネットの普及を背景に、自分の権利を主張し政治に参加しようという意欲が、大都市だけでなく地方の住民の間でも高まりつつある。
民意を反映させようとせず、国民の不満を強権で押さえ込む状況が続けば、北アフリカや中東のように大規模デモ、騒乱が起きかねない。共産党政権が中国版「ジャスミン革命」を恐れる理由がここにある。
共産党結党から90年。一党だけですべての国民の利益を代表しようとする政治体制は限界に来ている。数十万の「李承鵬」の存在がそのことを象徴している。【7月2日 産経】
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【「独立候補というものに法的根拠はない」】
上記記事は、共産党一党支配体制の限界が近づきつつあるとの主旨ですが、現実には共産党による締め付けは未だに厳しいものがあります。“独裁脅かす独立候補続々”という見出しは、いささか強調しすぎのきらいも。

****挑む非共産候補、阻む当局 中国の地方選****
6月29日午前5時過ぎ。まだ薄暗い中、中国江西省新余市渝水区の農村地帯で、村の幹部らが赤い投票用紙を手に家々を回っていた。この日は、区の人民代表大会(人代=議会)選挙の投票日。用紙には4人の候補の名が印刷され、幹部は「後ろの3人に印を付けるように」と指示した。

選挙には、道路建設に伴う立ち退き問題で政府を相手に補償を求める男性が、共産党の後押しを受けない「独立候補」として立候補を表明していた。だが、男性の名前は用紙に印刷さえされていなかった。
印刷された4人はいわば党公認候補。選挙の形を作るため、定数より多い候補者をそろえた。多くの住民は「どうせ知らない名前ばかり」(38歳女性)と言われるままに投票した。

「区人代の代表になりたいんです」。4月半ばの日曜日。同区の国有製鉄工場団地で、夕食を終えてくつろぐ人たちに向かって劉萍さん(46)は声を上げた。
劉さんは昨年、約30年勤めた製鉄工場から早期退職を迫られた。地元裁判所に不当解雇を訴えたが無視され、北京の裁判所に訴え出ようとして拘束された。

「庶民の声はどこにも届かない」。絶望を深めていた時、選挙で声を上げようと思い立った。
だが、演説を始めると警察官が駆けつけ、「公共秩序騒乱罪になるぞ」と脅した。地区の選挙弁公室の主任は「わきまえろ。お前は一度勾留された人間だ」とののしり、党の選挙でもないのに「我々は共産党の指導の下、党の規則で動くのだ」と言い放った。
劉さんは投票日の前後5日間、警察に拘束され、候補者名簿からも外された。約600人が自由記入で劉さんに投票したが、当選には1ケタ足りなかった。

中国の各地で、5年に1度、直接選挙で選ぶ県・郷級人代選挙が始まった。胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席は1日の共産党創立90周年の重要講話で、「政治体制改革を積極的かつ穏当に推進する」と表明。一定の民主化を進める考えを強調した。だが、かけ声とはほど遠い現実が「独立候補」を阻んでいる。【7月3日 朝日】
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上記【朝日】は続けて、上記の劉さんのような行動を受けて、ネットに出馬宣言する動きが広まっていることを報じていますが、当局側の警戒感も増しているようです。

****ネットに出馬宣言 中国で続々****
「マイホーム、就職、社会保障。問題解決のために働く代表が必要です」
中国浙江省杭州市に住む徐彦さん(27)は5月26日、ブログで区人民代表大会選挙への立候補を宣言した。ネットで劉萍さんの活動を知り、衝撃を受けた。

劉さんが立候補体験をつづった簡易ブログの登録読者は一時4万人を超えた。貧富の格差の拡大などで不公平感が強まる中、「選挙を通じて社会を変えよう」との志を持つ人たちがネットでつながり、プログで独立候補として立候補を表明する動きが相次ぐ。(中略)

5月以降、共産党の後押しを受けない「独立候補」は、メディアが確認した人だけで100人近い。
長年、人代選挙を観察してきた「世界・中国研究所」の李凡所長(61)は「この段階でこれほど多くの人が立候補宣言するのは前代未聞」。前々回の2003年は約100人、06~07年の前回は数万人だった独立候補の数は今回、数十万人に上ると見る。

党・政府は波及警戒
胡錦濤国家主席は07年の第17回共産党大会の政治報告で、政治体制改革の必要を強調し、「民主選挙を実施し、人民の知る権利、参政権、発言権、監督権を保障する」とうたった。1日の重要講話では、「我々は人民の秩序ある政治参加を不断に拡大する。すべての権力は人民にあり、法にのっとった民主選挙の実施を保障する」とした。

独立候補たちは、弾圧を受けた過去の民主化運動と一線を画す。「憲法で保障されている権利を行使するだけ」との立場で、政府や共産党を否定するわけではない。ある候補者は「大多数の人々が望んでいるのは安定だ」と語る。

それでも、民主化の実践に対する警戒は根強い。「独立候補というものに法的根拠はない」
6月8日、国営新華社通信が、全国人民代表大会常務委員会幹部の発言を配信した。今月から本格化する各地の選挙を前に立候補の動きが広がっていた時期で、ブームを牽制する意図は明らかだった。
以後、独立候補に関する国内の報道がぱたりとやんだ。広東省のメディア関係者は 「『この話題には触るな』との指示がでた。風向きが変わった」と語る。

独立候補の数は増えているものの、実際に当選するケースはほとんどない。98年に湖北省潜江市の人代に当選し、ほかの独立候補たちに経験を伝えてきた姚立法さんが20日、消息を絶った。
劉さんはこう語る。「地方には私たちの主張を既得権益への挑戦と受け取る人々がまだまだいる」

李所長は「今の中国は暴動が起きない日の方が少ない。庶民の不満が高まっているのに、訴えるすべがあまりに少ないからだ」と指摘。「政治改革は待ったなしだ。党や政府が庶民の声をせき止めようとするなら、矛盾は増すだけだ」と話す。【7月3日 朝日】
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国民の幅広い声を政治に反映させ、社会の安定を確保するためには、共産党以外の政党、独立候補の存在が必要不可欠に思えますが、その常識が通用しないところが中国共産主義の共産主義たるゆえんでしょうか。

コメント (1)
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