孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド、“ネール王朝”4代目に向けた動き加速  アジアにおける世襲政治

2011-08-11 22:30:25 | 南アジア(インド)

(ソニア・ガンジー国民会議派総裁(右)と長男のラフル・ガンジー幹事長(左) アメリカ“ケネディ王朝”と同様に、暗殺の悲劇がつきまとう“ネール王朝”でもあります。 “flickr”より By pressbrief.in  http://www.flickr.com/photos/28101929@N08/3844315377/ )

核兵器根絶への思いを込め黙祷
インド下院では、広島と長崎の原爆投下日である8月6日か9日には、毎年黙とうが行われているそうです。

****インド下院 原爆の日に黙祷****
長崎で66回目の原爆の日を迎えた9日、インド下院(定数545)は広島と長崎での原爆犠牲者に対する黙祷(もくとう)を行った。インドは英国から独立した1947年以降、原爆が投下された8月6日か9日に、核兵器根絶への思いを込め黙祷を続けている。

クマール下院議長は審議の冒頭、「核兵器根絶を誓い、下院は世界の平和を守るための全努力を心から支持する」と述べた。続いて、全下院議員が起立して1分間の黙祷をささげた。
日本からは斎木昭隆駐印大使が、長年の黙祷への謝意を示すために議場で傍聴した。【8月10日 産経】
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“核兵器根絶への思いを込め”とありますが、インドは言わずと知れた核保有国であり、米ロなどがまがりなりにも核軍縮を行っているなかにあって、パキスタンとともにその保有数を増加させていると言われています。
また、現在のところ核管理体制の根幹である核不拡散条約(NPT)にも、条約が制定時の核兵器保有5か国にのみ核兵器保有の特権を認めそれ以外の国には保有を禁止する不平等条約であるとして加盟していません。

そうしたことで、インドの核問題に関してはいろいろ突っ込みどころがない訳ではありませんが、それはそれとして、原爆犠牲者へ哀悼の意を表してくれることに関してはありがたいことです。

ネール王朝
ところで、インド政界のシン首相を凌ぐ最高実力者は、イタリア生まれながら、最大与党である国民会議派総裁のソニア・ガンジー総裁(64)です。ネール元首相の孫である故ラジブ・ガンジー元首相の妻でもあります。
そのソニア氏が手術のため渡米(インドメディアは、手術を受けたのは米ニューヨークのがん専門病院だったと報じています)していますが、自身が不在の間は長男のラフル・ガンジー幹事長(41)ら4人に党務を任せると表明しています。
このことで、ネール王朝4代目として次期首相候補と目され、国民的人気も高いラフル氏が党内ナンバー2の地位についたことになり、首相待望論も加速しているそうです。

****ラフル・ガンジー氏、「4世代首相」着々と前進****
インドの「ネール・ガンジー王朝」の後継者で、政界きっての“サラブレッド”として知られる最大与党、国民会議派のラフル・ガンジー幹事長(41)への首相待望論が高まっている。清廉なイメージで国民の人気を集めてきたシン首相(78)が、汚職事件をめぐり指導力を発揮できずに支持率を落とし、次世代リーダーのラフル氏に期待が集まっている格好だ。

ただ、ラフル氏の政治的手腕は未知数。国内最多の有権者を抱え、来年春にも実施される北部ウッタルプラデシュ州議会選で会議派に勝利をもたらすことが、次期首相就任の必須条件となる。

 ◆41歳・若者に浸透
インドメディアが8日発表した、シンクタンクの世論調査(約2万人対象)結果によると、次期首相としてラフル氏の名前を挙げた人は19%に上り、前回調査(2009年)の約3倍増。初めて、シン首相と、母親で会議派を率いるソニア・ガンジー総裁(64)を抜いて次期首相候補のトップに立った。シン首相、ソニア・ガンジー総裁はともに10%で2位だった。(中略)

ラフル氏に関しては、シン首相も後継者と位置づけているほか、会議派重鎮からも同様の声が相次いでいる。また、米国で手術・療養に専念するソニア氏に代わって先週、ラフル氏が党務を担当することになり、事実上、会議派ナンバー2に浮上した。

党内では、ラフル氏が党勢を失った会議派復活の原動力になるとの期待が強い。実際、ラフル氏のてこ入れで学生・青年層の党員数が急増。インドの人口12億人の57%は15歳から59歳で、41歳のラフル氏ならこの世代にアピールできるとの読みがある。

党内の一部には、来年夏にも大統領の交代がありうることから、次期大統領にシン首相を推し、ラフル氏をシン氏の後任の首相にすえるシナリオが浮上している。だが、14年までに実施しなければならない総選挙を控え、選挙管理内閣の首相としてラフル氏のパフォーマンスが悪ければ、本格内閣の可能性が絶たれることから慎重な見方も強い。

 ◆予断許さぬ選挙
肝心のラフル氏は首相ポストへの意欲をまだあらわにしていない。7月には学生との会合で「首相になることを考えたこともない」と発言したとされる。だが、会議派筋は「シン政権のように連立を組む政党から揺さぶられないようにするため、次期総選挙で安定多数を確保した環境での首相就任を望んでいるのではないか」とみている。

とはいえ、ラフル氏の首相就任には前提がある。来年春にも行われるウッタルプラデシュ州議会選で会議派が勝利することだ。
マンモス選挙区である同州議会選は、次期総選挙の趨勢(すうせい)を占う重要な選挙。同州は「ネール・ガンジー王朝」の地盤でもあるが、現在は低カースト出身のマヤワティ氏率いる大衆社会党(BSP)が支配する。

現在、同州で選挙運動の先頭に立つラフル氏がBSPから州議会を奪還できれば、次期首相候補としてお墨付きを得ることができる。インド人記者も「ラフル氏が党の勝利を導けば、問題なく次期首相の要件を満たす」と指摘するが、マヤワティ氏の支持率は高く、予断を許さない。(後略)【8月10日 産経】
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ウッタルプラデシュ州議会を現在支配する大衆社会党(BSP)を率いるマヤワティ氏は、“ダリット(被差別民)の女王”とも呼ばれる女性政治家で、先の総選挙では、結果次第では選挙後のキャスティングボードを握ることも想定され、「インド4千年の歴史で初めてダリットの支配者が誕生するのか」とも報じられていました。
結果的には、国民会議派との争いに敗れた形で、党勢は伸び悩みました。
(09年5月17日ブログ「インド総選挙  与党連合“大勝”、過半数には届かず 「第3勢力」大幅減」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090517)参照)

遠いインドの地方選挙ではありますが、名門ネール王朝の若きプリンスであるラフル・ガンジー氏とダリット(被差別民)出身のマヤワティ氏の争いは興味が持たれます。

再三“ネール王朝”という表現を使用していますが、ネール元首相の長女インディラ・ガンジー氏、孫ラジブ・ガンジー氏が首相職を歴任したことからそのように呼ばれています。ラフル・ガンジー氏はひ孫に当たり、ラフルが首相になれば4世代連続で首相を輩出することになりますので、これはりっぱな“王朝”でしょう。

エリートから権力を受け継いだ男女のエリートたちが権力を独占
日本でも政治家が“家業”として2代目、3代目、あるいは配偶者へ引き継がれることは、ごく普通の現象です。近年の首相職の殆んどがそうした2代目世襲政治家で占められています。
ただ、日本の場合は、さすがに最高権力が直接2代目に引き継がれるということはありませんが、アジア地域ではそうした最高権力の親族継承も珍しくありません。

その結果として、女性の権利が十分に保証されているとは言い難いアジアにあって、インディラ・ガンジー元首相やソニア・ガンジー総裁のような女性がトップを占めることも往々にしてあります。
タイにおけるインラック首相もその一例でしょう。

****アジアで台頭する女性指導者、背景に世襲政治*****
タイ初の女性首相に就任したインラック・シナワット氏。アジアでは家族のつながりから国の指導者になる人物が多く、シナワット氏もその長いリストに名を連ねることになった。専門家は、アジアに女性元首が多いことについて、男女平等の考えだけとは言い切れないと指摘する。

インラック・シナワット氏は、タイで強い影響力を持つタクシン・シナワット元首相を兄に持つ。ほとんど無名だったインラック氏は、タクシン氏に「私のクローン」と呼ばれ、タイ貢献党の党首に推薦されたことを受けて、わずか数週間のうちに首相選に勝利するまでになった。
インラック氏の彗星のごとき登場と同様の出来事は、アジア全土で見られる。一族の名を背負った女性が、特に前任者の死をきっかけに、権力の座に就くのだ。

夫の暗殺を受けて、スリランカのシリマボ・バンダラナイケ氏は1960年に世界で初めての女性首相となった。その20年以上後には、フィリピンの主婦、コラソン・アキノ氏が大統領となった。
インドではインディラ・ガンジー氏が、父のジャワハルラール・ネルー氏から権力の座を受け継いだ。
パキスタンでも同じくベナジル・ブット氏が、インドネシアではメガワティ・スカルノプトリ氏が権力を継承した。アウン・サン・スー・チー氏も、独立の英雄だった父親の跡を継ぐはずだったが、ミャンマーの軍政が1990年の総選挙結果を否定した。

この現象について専門家たちは、男女平等の進展というよりも、アジアの政界に広がる世襲に関係が深いと指摘する。
タイ、パヤップ大学の研究員、ポール・チャンバース氏は、伝統的に「マッチョな」父権社会のアジアでは、女性が「政治指導者になるはずではない」と述べる。だが、政党の「発展が進んでいない」ことから、富裕な一族による政党支配が可能となり、最終手段として女性にも機会が与えられるという。
「政党指導者は親族を信頼しがちで、党権力を一族内にとどめておきたいと考えるので、世襲が重要になる。男性指導者に男性の親族がいないとき、娘に白羽の矢が立つ」と、チャンバーズ氏は説明する。

 一方、シンガポール経営大学の政治学研究者、ブリジット・ウェルシュ氏は、ブット氏の夫、パキスタンのアシフ・アリ・ザルダリ大統領など、男性も同じ方法で権力を手に入れていることを強調する。
「重要な点は、このシステムでは、エリートから権力を受け継いだ男女のエリートたちが権力を独占しているということ」と、ウェルシュ氏は指摘した。【8月10日 AFP】
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現在、世界における最大の問題のひとつとなっているシリアのアサド大統領も、父親からの世襲で権力の座についています。北朝鮮の金王朝もあります。
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南スーダン  スーダンとの原油利益配分交渉が難航 国連、日本にPKO参加を要請

2011-08-10 21:40:05 | スーダン

(南スーダンの首都ジュバで道路の清掃作業を行う人々 Tシャツには「Keep Juba clean & green」の文字が。 ただ、南スーダンには舗装道路が60kmしかなく、ナイルにかかる橋も1本しかないとか。 “flickr”より By gregg.carlstrom http://www.flickr.com/photos/greggcarlstrom/5939056069/

両国は9月末までに決着させる方針で合意したものの・・・
7月9日に分離独立した南スーダンは、これといった産業もなく、インフラも未整備で、現在のところ財政的に頼れるのは石油資源しかないのが実情(原油収入が政府収入全体の約98%)です。一方、北のスーダンも、石油産出地域である南部独立で政府収入の約36%を失うとの試算があります。

南は石油の精製・輸出を北の施設に依存していることから、原油利益の配分が必要になりますが、両者ともに石油に大きく依存していることから、その交渉は両国にとって死活問題ともなります。
そのため交渉は予想されたように難航しています。交渉の駆け引きのひとつとして、スーダンが南スーダンの石油輸送船の出港を差し止めるといったことも起きています。

****スーダン:南北が石油で対立 利益配分未定のまま****
7月に分離独立した南スーダンとスーダンが原油利益の配分を巡る交渉で対立し、両国の緊張が高まっている。今月5日には、スーダン側が自国内の輸出港で南スーダンの石油運搬船の出航を突然差し止めるなど、揺さぶりをかけた。豊かな油田地帯を抱える南部の独立に、危機感を強める北部。周辺国を巻き込み、国際的な圧力を期待する南部。双方の駆け引きが本格化している。

北、高額な施設料請求
内戦を終結させた05年の包括和平合意(CPA)では、南北は原油利益を暫定的に折半した。しかし、このCPAの有効期間は南スーダンが独立した7月9日で終了。独立後の配分については未確定のままとなっている。

交渉仲介のため、アフリカ連合(AU)は先月後半、エチオピアの首都アディスアベバで会合を開催。
スーダン側は、輸出港へのパイプラインや石油精製施設が北部にしかないことを強みに1バレル当たり22・8ドル(約1800円)の施設使用料を請求。これに対し南スーダンは「法外な要求だ。使用料を支払う用意はあるが、国際的な常識の範囲内でなければならない」と拒否し、協議は決裂した。両国は9月末までに決着させる方針で合意したが、今後も交渉は難航が予想されている。

また、スーダンは今月5日、北東部ポートスーダン港で南スーダンの石油運搬船の出航を阻止。翌6日になって許可した。AFP通信によると、運搬船は石油60万バレルを積載。スーダン側は1バレル当たり32ドル(約2500円)の施設使用料を要求したが、南スーダンがこれに応じなかったため出航を阻止したという。

南スーダン政府は「正当な経済活動への妨害工作だ。すべての交渉を遅らせようとしている」と非難。AUに改めて妥協点を見いだすための協力を求めた。AUから具体的な合意案は提示されていないが、南スーダンはその決定には従うとしている。

スーダンは今回の南部独立で政府収入の約36%を失うとの試算がある。米政府は「テロ支援国家」の指定を解除しておらず、経済制裁で財政状況は逼迫(ひっぱく)している。一方、南スーダンは原油収入が政府収入全体の約98%を占め、オイルマネーへの依存度が高く、他産業の育成が課題となっている。

利益分配は両国にとり死活問題で、スーダンは軍事力という「カード」をちらつかせながら、南スーダンを威嚇。南は同じキリスト教系の周辺国と連携を強めることでスーダン側の強硬策をけん制し、少しでもその「取り分」を減らそうとしている。【8月8日 毎日】
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国連:ハイチの道路整備などで実績を残す日本の技術力を高く評価
こうした配分交渉の他、南北間で懸案事項となっている産油地域でもあるアビエイ地区の帰属問題も未解決です。南北それぞれの新通貨発行による「通貨戦争」の不安も懸念されています。
更に、南北間の問題以外にも、南スーダン内部における部族間対立による治安への不安もあります。

いずれにしても、南スーダンの門出は難問山積です。
そうしたなかで治安維持やインフラ整備のための国連平和維持活動(PKO)に日本も参加するように、国連から要請を受けています。

****南スーダン共和国:日本、PKO派遣難航 震災で余力なく、政治混乱も拍車****
日本政府は国連から、南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)に参加を打診されたが、当面は困難な状況だ。派遣を想定する陸上自衛隊は東日本大震災の復興活動などで人員の余裕がなく、菅直人首相の退陣表明後の混乱で政府・与党の検討も進んでいない。政府内では「派遣するにしても年明け以降」(防衛省幹部)との声が出ている。

国連安全保障理事会は8日、南スーダンの独立に伴い、インフラ整備要員や警察官など約8000人規模のPKO部隊「国連南スーダン派遣団(UNMISS)」を派遣することを決めた。日本には道路整備やがれき撤去などを行う施設部隊の派遣を求めている。
しかし、自衛隊は現在も2万人を超える規模で震災対応を続けている。また、施設部隊はハイチ大地震の復興を支援するPKOに、昨年2月から約330人を半年交代で投入中で、余力は乏しい。南スーダンの治安情勢に不安もある。

首相退陣表明後の混乱した政治状況も拍車をかける。もともと、民主党政権はPKO参加による国際貢献には積極的で、昨年10月には「PKOの在り方に関する懇談会」を設置し、自衛隊の派遣条件を緩和するPKO5原則見直しを視野に入れていた。
ところが、懇談会は今月4日に中間報告で5原則見直しを先送り。座長の東祥三副内閣相は「方向性を決めたいとの思いもあったが、政治的リーダーシップが必要」と語り、PKOに対する政権の関心が低下していることを認めた。【7月18日 毎日】
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先日来日した国連の潘基文(バン・キムン)事務総長は8日、菅直人首相、松本剛明外相と相次いで会談し、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)への陸上自衛隊の施設部隊派遣を正式に要請しました。菅首相は「しっかり取り組んでいきたい」と述べています。

国連が日本の参加を望んでいるのは、ハイチでの道路整備などで実績を残す日本の技術力が高く評価されていることがあるそうです。

****国連、日本にPKO派遣熱望 南スーダンの道路整備など****
先月独立した南スーダンで道路建設などを担う国連平和維持活動(PKO)に日本が参加するよう、国連が熱望している。ハイチの道路整備などで実績を残す日本の技術力を高く評価してのことだ。ただ、日本側は、自衛隊の派遣には慎重な姿勢だ。(中略)

国連PKO局は自衛隊を「インフラ整備で世界最高水準の技術を持つ」と評価する。これを決定づけたのは、巨大地震に見舞われたハイチでの活動だった。
日本が派遣した陸上自衛隊は、昨年3月末から2カ月間で、壊滅的被害を受けた首都ポルトープランスから隣国ドミニカ共和国まで続く幹線道路を整備。盛り土を施し、雨期でも冠水しない。必要物資を届けるライフラインとして今も使われている。国連幹部は「南スーダンでも同じような活躍をしてほしい」と話す。【8月9日 朝日】
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技術力が評価されてのことであれば、日本としても前向きに検討していいのではないでしょうか。
安保理理事国入りを目指す向きもあるようですが、軍事力を背景にした外交ができない日本としては、こうした地道な国際貢献で信頼を得ていくことが重要かと思います。

原油事業参入に向けて
もちろん、PKOは何らかの経済的見返りを求めて行うものではありませんが、旧スーダンの石油埋蔵量は約60億バレル、その最大の輸出先は中国(65%)で2位はインドネシア(15%)、3位は日本(12%)ということで、日本とも繋がりがある国です。

最大の石油輸出先である中国は、今後の権益確保のため積極的な動きを見せています。
****中国:外相がスーダン訪問…石油権益確保の狙いも****
中国国営新華社通信によると、スーダンを訪れている中国の楊潔※(よう・けつち)外相は8日、バシル大統領と会談した。楊外相は9日に南スーダンも訪問する予定。中国政府は南スーダンの独立から間もない不安定な時期に双方に高官を派遣することで仲介役を担う一方、巨額の投資をする石油など資源の権益を確保する狙いがあるとみられる。(※は竹かんむりに褫のつくり)
楊外相はバシル大統領との会談で、南スーダン独立(7月9日)後の情勢などについて協議。楊外相は「石油や農業、鉱業開発の分野で協力を深めたい」と述べ、バシル大統領は「中国による投資拡大を歓迎する」と応じた。(後略)【8月9日 毎日】
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日本もスーダンでの原油事業参入を狙う動きがあるようです。
****新パイプライン構想 原油事業狙う日本****
今月9日、スーダンでの南北内戦の末に南スーダン共和国が悲願の分離・独立を果たした。その原油資源やインフラ事業を巡り、関係各国が駆け引きを繰り広げている。新たなビジネスチャンスをうかがう国々。日本もその例外ではない。

「あのまま現地に入れていれば、今ごろ日本企業の動きはもっと活発化していたかもしれない」。日本政府関係者の一人が悔しがる。
3月下旬、日本政府は外務省アフリカ審議官をトップとする民間企業との合同代表団を南部スーダンに派遣する予定だった。
独立で政情が安定しインフラ整備が進むことになれば、アフリカでインフラ輸出を積極化させる日本企業にとっては、大きな商機となる。派遣団は、その足掛かりを作るはずだった。
だが現地入りを目指したところに、東日本大震災が起きた。派遣は中止され、再開のめどは立っていない。

これとは別に、南スーダンと南側の隣国ケニアを結ぶ新パイプライン構想も現地で持ち上がり、日本企業の名前が挙がっている。
「日本の商社とハイレベル協議を進めている」。今月1日、ケニアの首都ナイロビにある首相府で、インフラ整備担当のカスク顧問はそう言って、分厚い内部文書を広げた。

ケニアの大規模開発計画(総額100億ドル=約8000億円以上)の調査報告書だ。南スーダンの原油を首都ジュバからケニアのラム港へと運ぶ新パイプライン(約1400キロ)構想が描かれ、06年にウガンダで発見されたばかりの油田(埋蔵量約25億バレル)とも結ぶ。「日本や中国、ウガンダにある米国系の企業が事業参加に意欲的」という。

南北スーダンで採掘されるのは「ナイルブレンド」と呼ばれ、硫黄分が少なく火力発電に適した原油。東日本大震災の影響で原子力発電が大幅に落ち込み、各電力会社が火力発電への切り替えを余儀なくされる日本にとっては、原油輸入を拡大させたい思惑もある。
この日本の商社のナイロビ支店は取材に対し「答えられない」とした。だが独立前の南部スーダン自治政府のグベク鉱山エネルギー省次官は5日、「日本とは独立後、本格的な協議をすることになるだろう」と語った。(後略)【7月18日 毎日】
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日本のPKO参加は、こうした動きをバックアップする効果もあるのでは。


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イギリス  ロンドン市内各地で略奪・放火  拡大する暴動

2011-08-09 21:14:30 | 欧州情勢

(8月8日 ロンドン・ハックニーの暴動 “flickr”より By bobaliciouslondon http://www.flickr.com/photos/bobaliciouslondon/6024080948/

国外で夏休み中だったキャメロン首相、急きょ帰国
イギリス・ロンドンで警官による住民射殺事件を発端に6日に発生した若者らの暴動は市内各地に飛び火し、3日目の8日も商店の略奪や放火が相次いでいます。
また、暴動は英国第2の都市バーミンガムにも拡大しており、“警察は封じ込めに有効策を打てず、国外で夏休み中だったキャメロン首相やジョンソン・ロンドン市長らが急きょ帰国する異常事態になっている”【8月9日 毎日】とか。

暴動の発端となったのは、4日夜、ロンドン北部トットナムで警察官らが地元の黒人男性(29)が乗車するタクシーを停車させた際、銃で撃ち合いとなり、男性が死亡したという事件です。

イギリスでは、警官が銃火器を携行しないのが通常でしたが、銃犯罪の増加を受け、近年は銃を携行したパトロールも一部で実施されるようになっています。
今回事件については、警察官による発砲事例を調査する警察苦情処理独立委員会(IPCC)によると、銃を所持する特殊警官が、事前に逮捕状をとった上で、タクシーを停車させたとのことです。この計画には、黒人コミュニティーの銃犯罪取り締まりを専門とするトライデント部門の要員も同行しています。【8月7日 AFPより】

“IPCCは、「発砲があり、タクシー乗客だった29歳の男性が現場で死亡した」と述べ、「警察官による発砲は2発。現場からは、警察が支給したものではない拳銃が回収された」と説明した。男性と警察官の間では、発砲の応酬があったとみられている”【8月7日 AFP】とのことですが、“英紙ガーディアンの報道によると、現場で警察官の無線から発見された銃弾が、弾道テストの結果この警察官によって発射されたものであることが判明し、これまでの警察側の説明に疑問が生じているという。”【8月8日 AFP】と、事件の全容については不明な点もあります。

【「単に便乗した盗みと暴力」】
****ロンドン暴動:市内各地に拡大 略奪や放火 220人逮捕****
・・・・暴動の発生はロンドン市内で10カ所を超えた。ロンドンでは8日、来年のロンドン五輪のメーン会場に近い東部ハックニー地区や南部クラップハム、クロイドン地区などで数十人から数百人の若者らが暴徒化。デパートや商店の略奪や、建物や車両への放火を繰り返している。

警察はこれまでに220人以上を逮捕。各地で機動隊と暴徒が衝突しているが、若者らは携帯電話やソーシャル・ネットワークを使って襲撃先を移し、警察は後手に回っているようだ。

6日に最初の暴動が起きたロンドン北部トットナム地区では、警官が逮捕しようとした29歳の黒人男性を射殺したことへの抗議デモが暴徒化。しかし、その後の暴動では略奪や破壊行為自体が目的になっている模様で、若者らは覆面をし、放火した車両の前で記念撮影する姿も見られる。

暴動拡大の背景には、失業や緊縮財政のしわ寄せへの若者の不満も指摘される。一方で「暴徒に怒りの表情はない」との指摘は多く、クレッグ副首相は「単に便乗した盗みと暴力」と断じている。
事態の深刻化を受け、キャメロン首相は急きょ帰国し9日に緊急対策会議を開く。【8月9日 毎日】
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例年のオリンピック開催を控えた五輪メーン競技場に近い地域でも略奪・放火が起きています。
****ロンドン暴動、各地に拡大 五輪競技場近くでも略奪****
警察官による黒人射殺事件に端を発した若者による暴動が8日、ロンドン市内各地に拡大。ロンドン五輪のメーン競技場に近い東部ハックニーなどで店舗の略奪や車への放火が起きたほか、英中部のバーミンガムやリバプールでも店が壊された。五輪開催まで1年を切っており、治安への懸念が高まるのは必至だ。

五輪メーン競技場から2.5キロのハックニーでは8日夕、フードで顔を隠した数百人が集結。店やトラックを壊して商品を略奪したり、バスや警察車両などに放火したりした。南部ブリクストンやペッカムなどでも放火や略奪があり、路上の車への放火はロンドン市内全域で起きている模様だ。BBCによると、9日未明には市北部のソニーの倉庫から出火した。

ロンドン北部トットナムで警察官に29歳の黒人男性が射殺され、警察への抗議活動が6日に暴徒化。これを発端に暴動は近隣地区に波及し、7日夜には百貨店やブランド店が集まる都心の商店街でも約50人が店舗などに投石した。【8月9日 朝日】
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当初は、黒人住民の警察の扱いへの抗議という人種的な問題があったと思われますが、失業や緊縮財政のしわ寄せに苦しむ若者の不満が行動を過激化させたことが推測されます。
そうした、人種問題やフランス・パリなどでも暴動の引き金になる移民問題、経済悪化への不満・・・といった問題も重大ではありますが、現時点での「暴徒に怒りの表情はない」「単に便乗した盗みと暴力」という状況は、暴動を楽しむ若者達という感もあって、より深刻な社会の病理を感じさせます。

****英暴動:格差拡大、若者に閉塞感*****
8日夜から9日未明にかけ、ロンドン市内各所で続いた略奪や建物の炎上という異常事態に市民は大きなショックを受けている。過去数十年で「最悪の事態」は、来年夏の五輪開催に向けてロンドンのイメージダウンを招きかねない。背景にはソーシャルメディアの普及による暴動の急速な拡大や、経済格差が拡大する中で「失うものが何もない」(フィナンシャル・タイムズ紙)若者層の閉塞(へいそく)感がありそうだ。

ロンドン警視庁によると、主にスマートフォン「ブラックベリー」の匿名メッセージ機能で集結場所や時間が伝達されているという。メッセージには「店を破壊して、ただで品物を持ち帰ろう」などと略奪をあおるものが目立ち、政治、人種的な動機の伝言はほとんどないという。タイムズ紙は9日の社説で「ロンドンは現実のコンピューターゲームのようになった。暴徒らは単に夏の夜を楽しもうとしている」と指摘した。

ロンドン市内で暴動が起きているのは、北部トットナムや東部ハックニーなど黒人や南アジア系の住民らが混住し、失業や貧困層の多い地域が目立つ。参加者は10代、20代の若者が中心で、経済格差が拡大する中で、教育面などで社会上昇の機会から取り残された若者も多いようだ。

政府が財政再建のために超緊縮財政を断行する中で、青少年支援事業などへの予算が大幅にカットされている余波が一因になっているとの指摘もある。メディアは「僕たちには仕事も金もない」「(略奪で)税金を取り返してやる」など暴動に加わった若者の声を報じている。また、警察の“ソフト”な対応を批判する声も強い。【8月9日 毎日】
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キャメロン首相は、暴徒化する若者らに「あなたたちは他人の生活やコミュニティーだけでなく、自らの将来も破壊しようとしている」と自制を呼びかける声明を出しています。

社会的緊張が希薄な日本は例外的
日本では、60年代から70年代に山谷とか釜ケ崎での暴動はありましたが、最近ではそうしたものも殆んどなく、“暴動”という言葉が日常と結び付きません。
そうした日本のような安定社会は世界ではむしろ例外であり、アメリカでも中国でも、フランス・イギリスでも、もちろん多くの途上国でも、民族・人種・宗教、政治・経済的利害など様々な理由から“暴動” につながる社会的緊張が存在しているほうが通常のようです。

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グルジア紛争から3年  親露独立派2地域を事実上支配するロシアへのアメリカ・グルジアの反発

2011-08-08 22:27:21 | 欧州情勢

(グルジア紛争当時のグルジア側の犠牲者 もちろん南オセチア側にも同様の犠牲者が出ています。“flickr”より By lavanda_m  http://www.flickr.com/photos/29584935@N06/2762714939/ )

ダブルスタンダード(二重基準)】
めまぐるしい世の中にあってはかなり記憶も薄れてきましたが、2008年8月8日未明、グルジアが親ロシア独立派地域の南オセチア自治州を再統一しようと攻撃を開始し、ロシアが「自国民保護」を掲げて報復する形で“グルジア紛争”が勃発して3年が経過しました。

グルジア紛争では、南オセチア及びロシアの発表によれば、南オセチア民間人2000名が死亡、また、グルジアの公式発表によると少なくとも228名のグルジア民間人が死亡したとされていますが、実際のところはよくわかりません。難民については15万人とも23万人とも言われています。
“少なくとも158,000名の民間人が移住を余儀なくされた。その内、3万人の南オセット人がロシア北オセチア共和国へ、5万6千人のグルジア人がゴリからグルジアへ、1万5千人のグルジア人が南オセチアから国際連合難民高等弁務官事務所に保護された。一方、グルジア人による人道支援団体によると、難民は最低でも230,000人である。”【ウィキペディア】

EUの調査委員会が09年に出した報告書は、紛争はグルジア側の攻撃で始まったとしている一方で、ロシアが南オセチア住民にパスポート(市民権)を与えるなど武力衝突の素地を作ったともしています。

****グルジア紛争3年、犠牲者を追悼 南オセチア****
旧ソ連グルジアからの独立を主張する南オセチアをグルジア軍が総攻撃し、ロシアが軍事介入したグルジア紛争から3年。南オセチアの中心都市ツヒンバリでは7日、グルジア軍が総攻撃を仕掛けた午後11時35分に合わせて犠牲者の追悼行事が始まり、教会前の広場に数千人が集まった。

インタファクス通信によると、南オセチアのココイトイ大統領は、攻撃を仕掛けた親米グルジアのサアカシュビリ大統領はハーグの国際司法裁判所で人道に対する罪で裁かれるべきだと主張。コソボなどの独立を欧米が認めていることを念頭に「もし欧米がダブルスタンダード(二重基準)をとらないなら、サアカシュビリ大統領はハーグで裁かれたバルカン諸国の犯罪者と同様に服役すべきだ」と述べた。

ロシア外務省によると、南オセチアでは軍事攻撃で民間人ら約1600人が犠牲となり、3万人以上が難民化した。ロシアはグルジア紛争後、南オセチアとアブハジア自治共和国のグルジアからの独立を承認し、グルジア軍の再攻撃を予防する名目で両地域にロシア軍を駐留させている。【8月8日 朝日】
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もっとも、“ダブルスタンダード(二重基準)”云々で言えば、ロシアもコソボ独立を認めるべき・・・との言い方もできます。

【「リセット」と称される米露関係の改善にも影
軍事介入したロシアは、アブハジアと南オセチアの親露独立派2地域の独立を一方的に承認して、同地域に軍事基地を設け、事実上の支配下に入れています。

****グルジア紛争3年 2地域独立めぐり応酬 譲らぬ米露、雪解け遠く****
ロシアと旧ソ連の親欧米国、グルジアが交戦した「グルジア紛争」の勃発から8日で丸3年となる。双方は自らの行動を正当化する主張を崩しておらず、両国関係は膠着(こうちゃく)状態が続いている。紛争後のロシアがグルジアの親露独立派2地域を事実上の支配下に入れている状況には米国も非難を強めており、グルジア問題が「リセット」と称される米露関係の改善にも影を落とす。
                   ◇
ロシアのメドベージェフ大統領は露メディアのインタビューで「紛争の全責任はグルジアのサーカシビリ大統領にある」とし、サーカシビリ氏との対話は拒否する考えを強調。ロシアが紛争後、グルジアの南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立を一方的に承認したことも、両地域を防衛する上で「完全に正しかった」と述べた。

ロシアはこの紛争で欧州連合(EU)との和平合意に署名し、部隊を戦闘前の位置まで撤退させることを約束した。しかし、その後は「独立承認」を盾に両地域に軍事基地を構え、EU停戦監視団の立ち入りも認めていない。

米国上院は先月末、アブハジアと南オセチアを「ロシアに占領された地域」とし、ロシアが「グルジアの領土保全」を尊重して和平合意を履行するよう求める決議を採択した。
メドベージェフ大統領は和平合意と2地域の独立承認を別問題とし、米上院決議には「根拠がない」と批判する。
ロシア以外で両地域の独立を承認しているのはニカラグア、ベネズエラ、ナウルの3カ国にとどまる。

両国関係の「リセット」をうたう米露は2月、新戦略兵器削減条約(新START)の発効にこぎ着けたものの、米ミサイル防衛(MD)計画をめぐっては対立が和らいでいない。
ロシア内務省幹部らの大規模不正を告発したマグニツキー弁護士が2009年に獄死した事件をめぐり、米国が先月、事件に関係する役人ら約60人の入国拒否を決めたことについてもロシアは強く反発、対抗措置の準備に入った。

グルジア紛争から3年の節目は、米露間のこうした暗雲をさらに濃くしている形だ。露科学アカデミーのカフカス地域専門家、アレシェフ氏は最近の公開討論会で「グルジア紛争をめぐって米露には譲れない一線があり、『リセット』には明確な限界があろう」との考えを語った。

グルジアではサーカシビリ大統領が開戦責任を回避して政権を保持している。グルジアは、米国が総論で支持するロシアの世界貿易機関(WTO)加盟に反対しており、これも米露関係を複雑化させる要因になっている。【8月8日 産経】
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ロシアのWTO加盟問題を外交カードとして利用するグルジア
アブハジアと南オセチアの独立、あるいは将来的にはロシア編入を既成事実化しようとするロシアですが、少々頭が痛いのは上記記事最後にもあるWTO加盟問題です。

****ロシア、WTO加盟へ正念場 申請18年、交渉大詰め****
経済飛躍へ期待感
ロシアの2010年の国内総生産(GDP)は1兆4798億ドル(117兆円)で世界第11位(世界銀行調べ)。WTO非加盟国の中で最大の経済大国だ。

WTO加盟でグローバル化の波にのれば、ロシア経済はさらに飛躍するとの見方は強い。世銀の元主任エコノミストのデビッド・タール氏によると、加盟直後に毎年GDPを3.3%押し上げる効果が見込め、長期的には最大11%の上昇が期待できる。国際的な「お墨付き」を得ることで、国際的な信用が増すためだ。
さらに外資系企業が進出すれば、良質な労働力となる中産階級が豊かになり、自由化で金融などのサービス業拡大も見込める。

経済の「現代化」を旗印に掲げるメドベージェフ政権にとっても加盟は不可欠だ。昨今の原油高にもかかわらず、ロシアからの資本流出額が今年は300億ドル(約2兆4千億円)を超えるとの見通しもある。司法への不信、汚職体質や官僚主義が投資環境を阻害している。市場の信用力を高めるためにも、WTO加盟を実現したいのが本音だ。

WTO体制に巨大な市場を抱えれば国際経済のパイが膨らむ期待もあり、「ロシアは最後に残った大物。大きな経済効果を生む可能性もある」(WTO関係者)。現在約190社ある日本のロシア進出企業も増加が予想されるが、北方領土問題が支障になれば日本が出遅れる可能性もある。【7月29日 朝日】
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大枠としては、ロシア加盟に向けてアメリカの了解も取り付けてはいますが、各論になると、自動車組み立てや肉などについての市場開放で未だ未解決問題があります。
そうした“中身”の問題のほか、WTO加盟国であるグルジアがロシア新規加盟に同意するかという問題があります。

これまで、WTO新規加盟国はすべての既加盟国の合意を取りつけてきました。
従って、ロシアはグルジアの同意も必要としていますが、グルジア紛争が尾を引く状況で、グルジア側は、ロシアの支配下におかれている南オセチア・アブハジアとロシアのあいだの国境の税関を、グルジア税関の管理下におくよう主張し、それが満たされないあいだは交渉に応じないとしてきています。
両地域の独立を認めているロシアにはとうてい認めがたい条件です。グルジアは、ロシアのWTO加盟問題を外交カードとして利用しています。

アメリカは、ロシアとの“リセット”後、グルジアに対してさまざまな援助プログラムや対欧州貿易交渉の支援、(ロシアが2006年からグルジアに対して禁輸してきた)ワインやミネラルウォーターの禁輸措置がロシアのWTO加盟によって解除される、などの「アメ」を並べながら、ロシアのWTO加盟を認めるようグルジアに圧力をかけているとも言われています。【7月12日 SYNODOS JOURNAL】
当然、ロシアはグルジアに譲歩を迫っています。

****露大統領:WTO入り反対のグルジア非難 譲歩迫る****
 【モスクワ田中洋之】ロシアのメドベージェフ大統領は4日、08年8月のグルジア紛争開始から3年になるのを前にロシアとグルジアの一部メディアと会見した。大統領はロシアの世界貿易機関(WTO)加盟に反対しているグルジアを非難し、グルジアが態度を変更すれば両国の国交回復に道が開けると譲歩を迫った。大統領がグルジア紛争後にグルジアのメディアと会見するのは初めて。

ロシアは年内のWTO入りを目指しているが、現加盟国のグルジアの反対が最大の障害になっているとされ、大統領は「グルジア指導部が(反対を撤回する)賢明さを示せば、貿易・経済関係の再開や、さらには外交関係回復につながるだろう」と述べた。【8月5日 毎日】
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グルジアの反対に対し、“WTO協定によれば加盟国の3分の2の承認をとればよいとされており、これまでの慣例には反するが、ロシアはグルジアの承認が得られなくとも論理的にはWTO加盟できる”という主張も出ています。

また、バイデン米副大統領とサーカシビリ大統領の会談で、サーカシビリ大統領がロシアのWTO加盟を無条件で支持することに同意したとの情報もあるようですが、真偽はよくわかりません。
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インドネシア  再燃するパプア独立運動  影響力を増すイスラム強硬派

2011-08-07 20:38:56 | 東南アジア

(パプア独立運動の旗をあしらったマスク・ヘッドバンドの若者 “”より By babil.biz  http://www.flickr.com/photos/babil/4094600571/ )

【「運動は大きなものではない」(マルティ外相)】
多くの島々からなるインドネシアにおける分離独立運動と言えば、02年に独立した東ティモール、04年の大津波被害を機に和平交渉が進展したスマトラ島北部のアチェなどがありますが、きょうはインドネシア東端にあたるパプア州(ニューギニア島西部)で独立運動が再燃しているという話題です。

****インドネシア・パプア州で独立運動再燃*****
インドネシア東端のパプア州(ニューギニア島西部)で、分離・独立要求運動が再燃している。
インドネシア紙によると、パプア州の州都ジャヤプラでは2日、数千人がインドネシアからの分離・独立と、現地に配備されている軍の撤収などを要求し、デモを繰り広げた。警察当局は約700人を動員し、厳重な警戒に当たった。

デモは西パプア州を含め7都市に及び、首都ジャカルタでも数百人が分離・独立を住民投票に付すよう叫んだ。独立派は「インドネシアのみならず国際社会の問題だ」と支援を訴えている。
一方、政府は「運動は大きなものではない」(マルティ外相)として、国民と国際社会が過剰反応することを警戒している。

インドネシアでは、東ティモール、スマトラ島北端のアチェ、パプア州の分離・独立運動が火種となってきた。東ティモールは2002年に独立し、アチェの運動は小康状態にある。
インドネシア独立後もオランダ植民地として残ったパプア州は、1960年代にインドネシアへの帰属が決まった。だが、民族・文化的にはパプアニューギニアに近く、独立派組織「自由パプア運動」(OPM)などが活動を続けている。
 
ジャヤプラでは1日、武装集団が軍兵士を襲撃し4人が死亡、7人が負傷した。
パプア州内では先月末、大規模な争乱で21人が死亡。県知事選をめぐる衝突とされ、OPMは襲撃への関与を否定している。【8月4日 産経】
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弓矢とインターネット
国際社会も注目した東ティモールと異なり、現在のところパプア州独立運動に関しては国際的にはあまり関心がもたれてはいません。こうした事態に、弓矢の超ローテク兵器で闘う独立派は、インターネットを通じてインドネシア国軍による人権侵害などを発信することでも前進を目指しているそうです。

***独立派が夢見る西パプアの春****
インドネシア軍の弾圧にネットで対抗  独立に向けて先住民の逆襲が始まる

民衆による抗議行動がアラブ世界を揺るがしていく様子を、1万キロ近く離れた地から注視している人々がいる。太平洋南部に浮かぶニューギニア島の西半分、インドネシア領のパプア州と西パプア州の独立を求める活動家たちだ。
「みんなアラブ世界の革命を見守ってきた」と、24歳の大学生ジェーコブ(治安部隊の報復を恐れて仮名)は言う。ジェーコブはパプア州の州都ジャヤプラ郊外に潜伏する集団と共に、独立を求めるデモを組織している。
「中東とは違い、自分たちの敵は独裁者ではなく、われわれの土地を盗んだ新植民地主義の侵略者だ」とジェーコブは言う。

パプアおよび西パプアの両州(旧イリアンジャヤ州。分離独立派は西パプアと呼ぶ)の領有権を主張するインドネシアに対し、分離独立派は毎週のように抗議デモを行っている。
分離独立派が「独立記念日」とする7月1日には、インドネシアの西パプア統治に抗議する秘密集会がインドネシア各地で聞かれた。40年前のこの日、分離独立派の指導者が「西パプア共和国」の独立を宣言した。69年に独立の是非を問う住民投票が行われたが、パプア系住民の代表約1000人は反対票を投じるよう強制されたという。

45年にインドネシアがオランダから独立した後も西パプアはオランダ領のままだったが、インドネシアの初代大統領スカルノはこの資源豊かな領土を欲しがった。国連での度重なる訴えが不発に終わると、インドネシア軍を西パプアに進攻させた。
欧米は政治的決着を模索したが、インドネシア軍は広域作戦を開始して反対勢力を弾圧。無数の難民が生まれ、ジャングルの奥地には残忍でしぶとい抵抗勢力が結集し武装した。小競り合いはいまだに続き、人権擁護団体によると民間人の犠牲者は40万人を超える。

僻蒼とした森にある急ごしらえの訓練キャンプで、独立派組織「自由パプア運動(OPM)」の軍事部門のリチャード・ヨウェニ司令官は次のように本誌に語った。「祖国の将来について投票する機会を与えられなかった。祖国を奪われた」
頭に羽根飾りを着け、首からサルの手をぶら下げたゲリラたちを従えて、ヨウェニは自分たちの戦いの正当性を主張した。重装備のインドネシア軍に対し、ゲリラたちは古い機関銃を持っている者が数人いる以外はやりや弓矢を武器にしている。

人権侵害をネットで糾弾
インドネシア政府がパプアに固執するのはもっぱら、この地域が資源豊富で、外国による開発の可能性が大いにあるためだ。世界有数の銅・金の産出量を誇るグラスベルグ鉱山は米鉱業大手フリーポート・マクモラン・カッパー・アンド・ゴールドが所有。こうした外資は多くのパプア人にとって以前から邪魔者でしかない。環境を破壊し、インドネシア軍に資金提供もしているとみられている。

独立前の束ティモールでのインドネシア軍による人権侵害に対しては、アメリカは制裁措置を取った。しかし現オバマ政権は、インドネシア政府のテロ対策に報いるべく、再び軍に資金と訓練を提供している。
「兵士によるパプア系住民への人権侵害は多いが知られていない」と、人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのインドネシア担当コンサルタント、アンドレアス・ハルソノは言う。しかし欧米にはほとんど忘れられているこの紛争が、従来にない形で表面化しつつある。ハイテク通の学生や活動家がインターネット上で人権侵害の実態を発信し始めているのだ。

抵抗勢力は司令官や亡命政治家の下で結束を強め、活動家は膠着状態が続けばさらに攻勢を強めるだけだと語る。抵抗勢力や活動家はインドネシア政府と独立派指導者の対話を求めているが、それには1つ障害がある。抵抗勢力の指導者が国際調停を望んでいるのに対し、インドネシア政府は拒否していることだ。
【8月10日号 Newsweek日本版 ウィリアム・ロイド・ジョージ】
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インドネシア国軍の人権侵害については東ティモールなどで“実績”がありますので、パプアでも同様のことが行われていることは想像に難くないところです。

なお、01年には独立派組織・パプア評議会のテイス・エルアイ議長(64)が殺害される事件がありました。
“謎に包まれたままのテイス議長の殺害について、パプア人のほとんどが国軍または警察の犯行との見方をしているが、ヘンドロプリヨノ国家情報庁長官は、「パプアの独立派組織は、さまざまな分派があり、反暴力を訴える穏健派のテイス氏と対立する強硬派が存在する。テイス氏が誘拐されたと連絡した運転手が行方不明のままだが、彼が強硬派と結託していた可能性もある」との見方を示している。”【01年11月19日 じゃかるた新聞】とのことです。

イスラム強硬派と治安機関との癒着も
インドネシアにおける、もうひとつの人権問題に関する話題。
インドネシアにおいて最近、イスラム保守強硬派の影響が増大していることは、10年9月20日ブログ「インドネシア  強まるイスラム強硬派の活動 イスラム的規制強化の流れ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100920)で取り上げました。

その流れのなかで、異端とされる少数派イスラム系教団「アフマディア」信者に対する暴行事件が増加していることは、11年2月11日ブログ「インドネシア  キリスト教会放火、イスラム「異端」への暴力 高まる“不寛容”」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110211)で取り上げています。

****インドネシア:虐殺事件の量刑「軽すぎる」と国際的非難****
インドネシア・ジャワ島西部で今年2月、イスラム強硬派に率いられた地元住民が少数派で「異端」扱いされる教団「アフマディア」の信者を虐殺した事件の判決について、国際社会から実行犯に対する量刑が「軽すぎる」との非難が高まっている。インドネシアでは近年、宗教的少数派に対する暴力事件が急増。ユドヨノ政権は「政教分離」や「司法の独立」を理由に事実上、事態を放置しており、国際人権団体などは宗教的少数派の保護など対応を求めている。

バンテン州地裁は先月28日、暴行罪などで起訴された強硬派組織「イスラム防衛戦線」(FPI)の地元幹部ら計12人に対し、3~6カ月の禁錮刑を言い渡した。一方、検察側はアフマディア信者の中心的存在の男性も訴追。双方の緊張の高まりから警察が事前に退避勧告を出していたにもかかわらず無視したとして、禁錮9カ月を求刑している。

事件は今年2月に発生。ジャカルタ西方のパンデグランで住民ら1000人以上がアフマディアの信者約20人が集まる民家を襲撃、3人を殺害した。隠し撮りされたビデオ映像には、住民らが「アッラーフ・アクバル(神は偉大なり)」と叫びながら信者たちを棒や石で虐殺する様子が記録されている。

判決について在ジャカルタ米大使館は「異常に軽い判決」と批判。欧州連合(EU)も「少数派保護のための適切な法的処置」を政権側に求めた。国際人権団体は「判決は少数派を攻撃しても厳罰を科さないという『恐ろしいメッセージ』だ」と指摘している。

米国などは2月の事件発生後、政権側に信教の自由を法的に保護するよう求め、ユドヨノ大統領も対応する姿勢を示した。しかし、今回の判決についてマルティ外相は「行政府と司法機関の間には明確な線引きがある」と述べるにとどまった。量刑については言及せず、イスラム強硬派に対する弱腰姿勢を改めて露呈した形だ。

背景には、インドネシアにおけるイスラム強硬派の勢力拡大がある。警察など治安機関との癒着も指摘され、連立与党内にイスラム政党を抱えるユドヨノ政権は、この強硬派を抑圧せず、むしろ取り込むことで治安維持を図ろうとしている。

アフマディアは、最後の預言者がムハンマドではなく自派教祖とする教義から異端視されてきた。世界最多の約2億人のイスラム教徒を抱えるインドネシアは政教分離を国是とし、宗教的に比較的寛容とされてきた。【8月6日 毎日】
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棒や石で虐殺した側が“3~6カ月の禁錮刑”で、襲われた側が、退避勧告に従わなかったとして“禁錮9カ月”というのは、いかにも不公正な判決です。

ASEAN諸国に関する民主化の度合いを見ると、“米国の民間人権団体「フリーダムハウス」が1月に発表した報告書「世界の自由」によると、各国の政治的自由度はミャンマー、ベトナム、ラオスが最悪の7。カンボジア、ブルネイが6、シンガポール、タイ5、マレーシア4、フィリピン3、インドネシア2。
民主化を先導しているともいえるのが、1998年に、約30年間のスハルト政権を終わらせたインドネシア。ユドヨノ政権下で地方分権などが進んでいる。”【4月7日 産経】とのことですが、そのインドネシアにして、昨今の宗教的不寛容の傾向は上記記事のような状況です。

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コソボ  セルビア人支配地域ミトロビツァで衝突 遠い和解への道

2011-08-06 20:14:53 | 欧州情勢

(“分断の街”ミトロビツァで  壁の中央には“Mitrovica(ミトロビツァ) peace”と書かれています。 “flickr”より By Délébile  http://www.flickr.com/photos/delebile/4451387168/ )

セルビア 最後の戦犯を逮捕
セルビアでは、ボスニア・ヘルツェゴビナのスレブレニツァで1995年に起きた大虐殺に関する罪などに問われているボスニア・ヘルツェゴビナ内戦(92~95年)当時のセルビア人武装勢力指導者、ムラディッチ被告(69)の5月末の逮捕に続き、クロアチア内戦(91~95年)時のセルビア人勢力指導者だったゴラン・ハジッチ被告(52)も先月逮捕されました。
旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷が起訴したすべての戦犯を逮捕したことで、EU加盟の条件のひとつをクリアした形となっています。

****セルビア:内戦時の最後の戦犯を逮捕 EU加盟にはずみ*****
東欧のセルビアは20日、クロアチア内戦(91~95年)時のセルビア人勢力指導者だったゴラン・ハジッチ被告(52)をセルビア北部の山岳地帯で逮捕したと発表した。ハジッチ被告は、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷が起訴した161人のうち唯一拘束されていなかった。

セルビアが5月末のムラディッチ被告に続き、最後の戦犯を逮捕したことを欧州連合(EU)は「大きな一歩」と歓迎しており、加盟交渉開始へ向けた手続きが一層加速するとみられる。
戦犯法廷によると、ハジッチ被告は内戦中、数万人のクロアチア人や非セルビア人をセルビア人支配地域から追放したほか、一部を収容所に入れたり殺害したりした。戦犯法廷は04年に人道に対する罪などで起訴したが、被告は逃亡していた。【7月20日 毎日】
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EUの仲介で始まったコソボ・セルビア直接交渉
しかし、セルビアのEU加盟に関しては、分離独立した隣国コソボとの和解という、もうひとつの高いハードルがあります。
今年3月、コソボ独立宣言以来初めての直接対話が始まったとの報道がありましたが、その後の進展は聞いていません。

*****セルビア:コソボと直接対話開始 独立宣言以来初*****
セルビアとコソボは8日、08年のコソボ独立宣言以来初めて、高官級の直接対話をブリュッセルで始めた。英BBCが伝えた。セルビアは自国からのコソボ独立を認めていないが、欧州連合(EU)の仲介で対話が実現した。両国は今後、コソボの国際的地位など困難な問題を先送りしたまま、交通や通信など市民生活に直結する課題を中心に協議を続ける。

ロイター通信によると、EU当局者は直接対話の目的について「バルカン地域の生活改善と相互協力の向上を図り、欧州基準に向けて引き上げるためだ」と述べた。相互に対立するセルビアとコソボだが、早期EU加盟という共通の目的に向けて、どれだけ歩み寄れるかが焦点だ。

アルバニア系住民が多数を占めるコソボは、90年代の旧ユーゴスラビア崩壊に伴い、セルビアからの分離独立を図った。北大西洋条約機構(NATO)を巻き込んだ紛争では、1万人以上が死亡、数十万人が故郷を追われたと言われる。

国連統治下に置かれたコソボは08年2月、一方的に独立を宣言。国際司法裁判所が昨年7月、独立宣言は国際法に違反しないと判断したため、セルビアへの国際的な圧力が強まっていた。コソボを国家として承認した国は、日本や米国、EU加盟国の多くなど計75カ国に及んでいる。【3月9日 毎日】
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コゾボ “分断の街”ミトロビツァで衝突
和解よりは、むしろコソボ北部のセルビア人支配地域でのコソボ警察特殊部隊とセルビア系住民の衝突のニュースが最近伝えられています。

****コソボ:北部で衝突…特殊部隊がセルビア地域に進入*****
コソボ北部ミトロビツァのセルビア人支配地域にコソボ警察特殊部隊が進入してセルビア側と衝突し、26日までに警官1人が死亡、数人が負傷した。現場一帯に国際部隊が投入されたが、27日にはセルビア側住民の一部が国境検問所に放火するなど緊張が高まった。欧州連合(EU)の仲介で始まったコソボ・セルビア直接交渉への影響も懸念されている。

ミトロビツァは市内を東西に流れるイバ川を境に、北部のセルビア人地域と南部のアルバニア人地域に分断されている。セルビア人地域は隣国セルビアの影響下にある。コソボ政府は事実上「野放し状態」のセルビア国境を掌握するため、25日深夜から26日朝にかけ特殊部隊を派遣した。
コソボ警察は衝突後、国境から撤退した模様。ミトロビツァ北部では怒ったセルビア人が道路にバリケードを築くなど抵抗の構えをみせている。

EU加盟国の多くや米国は、08年のコソボ独立を承認、これを認めないセルビアとの仲介役を務めている。【7月28日 毎日】
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ミトロビツァはアルバニア人住民とセルビア人住民が川を挟んで対峙する“分断の街”で、町の北部のセルビア人住民居住地区は、コソボのセルビア人共同体の事実上の首都ともなっています。
また、04年3月には、アルバニア人の子供が川で溺れたことがきっかけとなって、セルビア人とアルバニア人の間での大規模な暴力衝突“コソボ暴動”に発展したことも知られています。

今回の衝突に関しては、北大西洋条約機構(NATO)は、指揮下の国際治安部隊(KFOR)が暫定的に国境管理にあたることで隣国セルビアと基本合意したと発表しています。
しかし、“「蚊帳の外」に置かれた”形のコソボ政府は国境の掌握を目指しており、この合意に反発しています。

****コソボ:北部国境でセルビア側と衝突 NATOが介入****
コソボ北部ミトロビツァのセルビア人支配地域に先月末、コソボ警察特殊部隊が進入してセルビア側と衝突、警官1人が死亡、数人が負傷する事件があり、北大西洋条約機構(NATO)は3日、指揮下の国際治安部隊(KFOR)が暫定的に国境管理にあたることで隣国セルビアと基本合意したと発表した。だが、国境の掌握を目指すコソボ政府は合意に反発しており、火種は残ったままだ。

コソボ政府は先月25日に特殊部隊を派遣。怒ったセルビア系住民らが国境検問所2カ所を封鎖していた。NATOはKFORを増派する一方、セルビアとの交渉に乗り出すなど介入を強めていた。
コソボ北部のセルビア国境はこれまで、欧州連合(EU)の文民支援隊(EULEX)が管理。コソボ政府は事実上セルビアの支配下にあると非難してきた。
コソボ政府は国境管理に関する今回の交渉で「蚊帳の外」に置かれた。依然として自国の実権が及ばないことに強い不満を募らせており、NATO・セルビア間の合意は「受け入れられない」との声明を発表した。

また、今回の基本合意を受けてセルビア系住民らは国境封鎖を解き、退去することになっているが、セルビア本国の意向にどこまで従うか不透明な点もある。
コソボは08年、セルビアからの分離独立を宣言。セルビアはこれを認めていない。【8月4日 毎日】
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分離独立までの過程で互いに多大の犠牲者を出した両国が和解に向かうのは、容易なことではありません。
今後、相当に長い時間が必要になるのではないでしょうか。
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フィリピン  アキノ大統領、反政府組織議長と日本で極秘会談 和平に向けて始動

2011-08-05 21:10:43 | 東南アジア

(08年2月 アメリカのケニー大使(左女性)と会談するMILFのムラド議長(右男性) 当時はアロヨ政権下で和平合意への交渉が行われていましたが、同年8月に最高裁差し止めで頓挫しました。 “flickr”より By jdomingo7772004 http://www.flickr.com/photos/10484270@N06/2755490133/

歴史的な会談だ」】
フィリピンのアキノ政権は、南部ミンダナオ島を中心とする反政府組織「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」との和平交渉を模索していましたが、4日夜、日本の成田近郊のホテルでアキノ大統領とMILF議長の会談が行われ、和平に向けた取り組みが始動したそうです。

****フィリピン:アキノ大統領、反政府組織議長と極秘会談****
フィリピンのアキノ大統領は4日夜、成田国際空港近くのホテルで、フィリピン南部ミンダナオ島で自治権を求め武装闘争を続ける反政府組織「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」のムラド議長と、極秘会談した。

フィリピン政府によると、両者はMILFとの和平交渉について、アキノ大統領の任期中(16年まで)に和平合意に達し、合意内容を実行に移すことを確認したという。また、MILF側がフィリピンからの独立や分離を求めていないことを確認した。

MILF幹部によると、日本での会談はフィリピン政府からの要請で実現。日本は、英国やサウジアラビアなどとともに、09年11月から和平交渉のオブザーバー役を務める国際交渉団のメンバーになっており、安全上の理由から日本が会談の場に選ばれた。

MILFの議長が大統領と直接会談するのは、97年の交渉開始以来初。MILFのジャファー副議長は電話取材に対し「和平交渉が加速することを期待する」と話した。一方、政府側は「歴史的な会談だ」とした。【8月5日 毎日】
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アロヨ政権下では、最高裁が合意を差し止め
反政府組織が根強い活動を続けるミンダナオ島は、キリスト教徒中心のフィリピンにあっては少数派のイスラム教徒が多く暮らしており、フィリピン独立以前から植民地支配国への独立闘争が行われきました。
フィリピン独立後は、ミンダナオ島への国内移民の流入によって人口の多数をキリスト教徒が占めることになり、貧困に加えて社会の主導権を奪われたイスラム教徒側の怒りもあって、モロ・イスラム解放戦線 (MILF) や新人民軍 (NPA) など、さまざまな反政府組織とフィリピン国軍との内戦が頻発する状況となっています。

08年には、当時のアロヨ政権のもとで、一旦はMILFが拠点とするミンダナオ島にあるイスラム系住民の「ホームランド(先祖伝来の土地)」について、独自の治安維持、金融、行政事務、教育、法律などのシステムを認めるほか、天然資源の管理に完全な自治権を与えることなどが盛り込まれた合意がなされましたが、一部政治家らが「国の中にもう一つ国を作るようなものだ」、「憲法違反」だと反発、ミンダナオ島のキリスト教系住民も抗議デモを行う中、フィリピン最高裁が和平合意文書の調印を一時差し止める決定を下しました。
このため、08年8月21日、アロヨ大統領は和平合意を破棄することを発表、和平は実現しませんでした。

このあたりの経緯については、
08年8月23日ブログ「フィリピン ミンダナオ島 MILFとの和平交渉破綻 戦闘激化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080823
08年11月12日ブログ「フィリピン・ミンダナオ島  戦闘激化で引き裂かれる暮らし」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20081112
で取り上げています。

強硬派が分裂するMILF
アキノ政権は和平に向けた意欲は示していましたが、これまでは成果を得るには至っていませんでした。
11年1月27日ブログ「フィリピン  進まない南武装組織との和平交渉 新人民軍(NPA)、モロ・イスラム解放戦線(MILF)」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110127
そうしたなかでの今回会談ですが、MILF側も政府との交渉に否定的な勢力が分派行動をとっていると言われており、今後の対応が注目されます。

****フィリピンの反政府武装勢力が分裂 和平交渉に暗雲****
フィリピン南部で反政府武装闘争を続ける「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」から、来週半ばに予定されるフィリピン政府との和平交渉を不服とする強硬派グループが分裂したことが4日わかった。30年以上続く紛争の解決は厳しくなり、和平を優先課題とするアキノ政権にも痛手となりそうだ。

比政府関係者によると、ミンダナオ島の中部を本拠とするMILFの有力者の一人であるカト司令官が配下とともに主流派からの離脱を宣言した。離脱したグループの勢力などは不明。
MILFは9、10の両日、マレーシアで比政府と直接対話を行う予定だ。MILFが長年求めてきた比からの独立を棚上げする形で政府との歩み寄りを図る、との観測があり、MILF内部で主に若手の強硬派から交渉への反発が出ていると指摘されていた。カト司令官は「我々は死ぬまで政府との闘いをやめない」と話しているという。【2月5日 朝日】
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また、MILF以外の組織は未だ政府との闘争を続けています。
先月もイスラム過激派「アブ・サヤフ」と国軍の交戦が報じられています。

****イスラム過激派の掃討作戦で比軍兵士7人死亡****
フィリピン南部ホロ島で28日、政府軍とイスラム過激派「アブ・サヤフ」が交戦し、AP通信などによると軍兵士7人が死亡、21人が負傷した。
兵士約30人がジャングルにあるアブ・サヤフ基地の掃討作戦を始めようとしたところ、激しい戦闘になったという。【7月28日 読売】
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欧州各国の反移民・反イスラムの流れ ノルウェー連続テロの影響は?

2011-08-04 22:10:40 | 欧州情勢

(ノルウェー・オスロ 凄惨な事件に抗議する市民 “flickr”より By OyvindBjorgo http://www.flickr.com/photos/oyvindbjorgo/5981505795/

【「ブルカ禁止法」】
イスラム圏からの多くの移民を労働力不足の解消のため受け入れてきた欧州諸国ですが、01年のアメリカの9.11テロで欧米社会とイスラムの対立が表面化し、08年の金融・経済危機以降は雇用をめぐる自国民と移民の経済的競合が激しくなり、また、地域社会に溶け込まず従来の文化を維持しようとする移民との間で文化的摩擦も大きくなっています。

こうしたなかで、移民、特にイスラム圏からの移民に対する批判的な風潮が強まっていますが、その傾向を象徴しているのが、イスラム教徒の女性が使う「ブルカ」や「ニカブ」といった顔や全身を覆う衣装の公共の場での着用を禁じる法律、いわゆる「ブルカ禁止法」です。

今年4月に「ブルカ禁止法」が発効したフランスに続いて、ベルギーでも7月に施行されています。また、イタリアも9月に議会審議されることになっています。

****ベルギーもブルカ禁止法施行へ…欧州で2か国目*****
ベルギーで、イスラム教徒の女性が使う「ブルカ」や「ニカブ」といった顔や全身を覆う衣装の公共の場での着用を禁じる法律が13日付の官報に掲載された。
23日から施行される。フランスで今年4月、「ブルカ禁止法」が発効しており、ブルカ着用を国内全域で禁止するのは、ベルギーが欧州で2か国目となる。

法律は、テロ対策や犯罪防止を目的に掲げ、道路や商店内も含むすべての公共の場所で、顔を覆う衣装の着用を原則禁止し、違反すれば15~25ユーロ(約1600~2800円)の罰金か禁錮1~7日を科す。フランスのようなブルカ着用を強制した家族への罰則は設けていない。

ベルギーでは、自治体レベルで既にブルカの着用を禁じているところもあり、法律の施行で適用範囲が全国に拡大される。人口約1000万人の同国で、ブルカやニカブを着用している女性は200人足らずと推計されている。【7月13日 読売】
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****イタリア:「ブルカ」禁止法案を可決 下院・憲法問題委****
ANSA通信によると、イタリア下院の憲法問題委員会は2日、ベルルスコーニ政権与党で中道右派の自由国民などが提出したイスラム教徒の女性の顔や体を覆う衣装「ブルカ」や「ニカブ」について、公共の場での着用を禁止する法案を賛成多数で可決した。9月に本会議で審議される予定。

同様の法律は既にフランスやベルギーで制定されている。イタリアでも同法案が成立すれば、ノルウェーの連続テロで取りざたされた欧州の反イスラム的な傾向に拍車が掛かりそうだ。

法案は治安上の懸念を理由に自由国民や、連立与党を組む北部同盟が立案した。違反者に150~300ユーロ(約1万6000~3万2000円)の罰金または「(地域への)同化を促すため」の奉仕活動を科すとしている。
イタリアのイスラム系団体は「個人の自由を侵す不公正な法だ」などと反対の声を上げた。最近のイタリアでの世論調査では、国民の73%が公共の場でのブルカなどの着用に反対している。【8月3日 毎日】
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イタリアのカルファーニャ機会均等相は「狭い文化の枠に閉じこめられている女性を救い出すものだ。彼女たちが社会にとけ込めるようにしていく」と委員会での可決を評価。さらに「全身を覆うことは決して女性の選択の自由ではない。文化的、物理的な抑圧の象徴だ」とも述べています。

【「多文化主義は失敗」】
政治の世界では、「欧州のイスラム化」を批判する反移民政策を掲げる右翼政党が勢力を伸ばしていることは、これまでもたびたび取り上げてきたところです。
これまで進めてきた移民との共存を目指す「多文化主義」について、欧州主要国首脳らが「多文化主義は失敗」との発言も続いています。

****ノルウェー連続テロ 欧州首脳「多文化主義は失敗*****
・・・・ドイツでは昨年、社会民主党(SPD)の政治家で同国連邦銀行(独中央銀行)理事だったティロ・ザラツィン氏が自著『ドイツが消える』の中でトルコ人などイスラム系移民について「生産性が低い上、社会保障に依存している人が多く、ドイツに経済的利益をもたらさない」と批判し、解任された。
しかし、ドイツでは一部のイスラム系移民が独自の風習に閉じ籠もり、男女平等や教育の義務といったドイツ基本法(憲法)を守らないため、ザラツィン氏の主張を支持する声もある。

メルケル独首相は昨年10月、自ら率いるキリスト教民主同盟(CDU)の集会で「多文化社会を築こうという取り組みは失敗した。完全に失敗した」と述べ、喝采を浴びた。

多文化主義を支持してきた英国のキャメロン首相も今年2月、「英国政府による多文化主義政策は失敗した」と発言した。
言論の自由を尊重する英国では大学のサークルなどを舞台にイスラム系移民の過激化が進んでおり、米国から「英国はテロリストの温床になっている」と批判されている。

英国と並んで多文化主義を掲げてきたオランダでもイスラム系移民排斥を唱える極右政党・自由党が勢力を拡大。デンマークでもイスラム系移民規制を訴えるデンマーク国民党が政権に閣外協力し、同党の戦術を取り入れた右派政党がスウェーデンやフィンランドで伸長しており、今回の連続テロが、反イスラムを掲げる同種の凶行を誘発するのではとの懸念が広がっている。【8月2日 産経】
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欧州の右翼政党はノルウェー連続テロとの関係を否定
こうした「欧州のイスラム化」を危惧し、反移民の傾向を強める世論を背景にして、ノルウェーで7月29日に起こったのが、アンネシュ・ブレイビク容疑者(32)による爆弾・銃殺連続テロでした。
ブレイビク容疑者は、連続テロを行ったのは「人々が誤解のない強いメッセージを受け取れるようにする」ためであり、その目的は、イスラム教徒がノルウェーや西欧を「植民地化」することから守るためだと主張しています。【7月25日 毎日より】

一方、ブレイビク容疑者と同様の主張をして勢力を伸ばしてきた右翼政党は、事件のような暴力を否定することで、過激なテロのイメージを打ち消すのに躍起になっているとも報じられています。

****欧州右翼、テロ否定躍起 ノルウェー事件容疑者を非難****
欧州の右翼政党が、ノルウェーの連続テロ事件で逮捕されたアンネシュ・ブレイビク容疑者(32)との関係を打ち消すのに躍起になっている。「反移民」を旗印に政権を狙える位置まで勢力を伸ばしたが、過激なイメージで無党派層の支持を失いかねないからだ。

■政党イメージ悪化を懸念
フランスの右翼政党・国民戦線は、ブレイビク容疑者を「西欧の守護者」とたたえるコメントをブログに書いた党員の資格を停止した。
イタリアでは「彼の考えにはすばらしいところもある」とラジオで述べた北部同盟の政治家に身内からも批判が噴出、政治家は謝罪に追い込まれた。容疑者が一時在籍したノルウェーの進歩党も「今は(容疑者とは)一切関係ない」と強調する。

ブレイビク容疑者は犯行声明や法廷での陳述で、移民や難民への反感をむき出しにし、「イスラム教徒の征服から欧州を救うため」とテロを正当化。右翼政党のリーダーを「精神的な同志」と呼ぶ。
だが多くの右翼政党は正面からのイスラム批判には慎重だ。国民戦線は難民についても「迫害された人を受け入れるのはフランスの基本理念」(ルペン党首)との立場。その中で、モスクの建設禁止などイスラム系移民の排斥を訴えるオランダの自由党も「我々は民主的な政党。暴力に訴えることは決してしない」と容疑者を厳しく非難した。

欧州では近年、移民規制を掲げる右翼政党が勢力を伸ばしてきた。デンマークとオランダでは右翼政党が与党と閣外協力。フランスやフィンランド、オーストリアでは議席数や支持率で第3党になるなど、政権入りをうかがう右翼政党にとって、今回の事件が逆風になる可能性がある。(ロンドン=沢村亙)

■「移民、欧州に合わず」 ベルギーの政党党首
ベルギーの右翼政党フラームス・ブラング(VB)のブルーノ・ファルケニアース党首(56)が朝日新聞の取材に応じた。「暴力には反対」と事件を批判したうえで、移民とイスラムへの反感を声高に主張した。

 ――VBの主張は容疑者と共通するようですが、事件をどう見ますか。
「VBは民主的選挙を経て議席を持ち、議会やメディアで主張する。容疑者の行動はまともではなく、暴力には断固反対だ。事件の再発防止には、移民をせき止める以外にない」

 ――なぜ「反移民」を訴えているのですか。
「労働者が仕事を奪われることも問題だが、高学歴層にも反移民感情が高まっている。自分が生まれた土地なのかと思うほど、心を落ち着けて住めなくなっているからだ」

 ――多くの移民が税金を納めていますが、それでも問題ですか。
「仕事をしているだけならいい。だが、特にイスラム系移民は宗教、法・政治制度、文化などが人権やキリスト教など欧州の価値観と異なるうえ、順応しない。自分たちの流儀を押し通したいのであれば自国に帰るべきだ」【8月3日 朝日】
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事件によって、欧州各国で進む反移民・反イスラムの流れに変化が起きるのか、あるいは同様な凶行が誘発されるのかが注目されます。

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サウジアラビア  超高層タワー建設計画と国内人権問題

2011-08-03 22:03:01 | 中東情勢

(世界金融危機前に発表された計画では、“マイル=ハイ・タワー”とも呼ばれ、完成時の高さは1,610mとのことでした。写真中央の鉛筆のように細長い建物です。
“世界金融危機の影響で計画の実現を危ぶむ声をキングダム・ホールディング・カンパニー側は一蹴し、予定通り進行すると発表した。 しかし、建設予定地の土壌調査の結果から、高さを1,600mではなく最大で500mほど下げた1,100m程度に変更する可能性があるとされている”【ウィキペディア】とも。
“flickr”より By SG-SSC http://www.flickr.com/photos/15965666@N00/2937133785/ )

【「政治的にも経済的にも安定しているサウジアラビアという国の強さを、このビルは象徴することになる」】
ドバイの「ブルジュ・ハリファ」(828メートル)に対抗して、サウジアラビアの富豪王子が1000メートルを超える世界一高いビルを建設する計画を明らかにしています。

****サウジに高さ1キロ超えるビルの建設計画****
サウジアラビアのアルワリード・ビン・タラール王子は2日、紅海沿岸のジッダに高さ1000メートルを超える世界一高いビルを建設する計画を明らかにした。
同氏が所有する投資会社キングダムホールディングと同国の建設業財閥ビン・ラディン・グループの間で、近々12億ドル(約930億円)規模の建設契約が締結されるという。

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにある「ブルジュ・ハリファ」(828メートル)から「世界一高いビル」の称号を奪うことになるこのビルは、完成までに36か月を要し、ホテルのほかマンションやオフィスのゾーンも設けられる。着工時期は明らかにされなかった。

アルワリード王子は、石油輸出国機構(OPEC)で中心的な役割を果たし、政治的にも経済的にも安定しているサウジアラビアという国の強さを、このビルは象徴することになると話した。王子はアブドラ・ビン・アブドルアジズ国王のおいで、同国で最も裕福と言っていいビジネスマンだ。【8月3日 AFP】
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アルワリード・ビン・タラール王子は、2008年の総資産が133億ドルで、世界で8番目の資産家、アラブ世界では一番の資産家だそうです。
1000mを越える山より高い建造物とは、想像を絶するものがありますが、「好きにすれば・・・」と、いささかあきれる感もあります。

なお、“建設業財閥ビン・ラディン・グループ”は、名前からわかるように、あのアルカイダのウサマ・ビン・ラディンの父が興した財閥で、ウサマ・ビン・ラディンの活動の資金源にもなった会社です。
グループは巨大財閥であるだけでなく、“マッカおよびマディーナのモスクの修理を任されるほど、サウード家(サウジアラビア王家)と深く結びついている。”【ウィキペディア】とのことです。

サウジの外国人労働者は「奴隷同然の場合もある」】
この記事にややひっかかるのは、“政治的にも経済的にも安定しているサウジアラビアという国の強さを、このビルは象徴することになる”というアルワリード王子の発言です。
中東の地域大国であるサウジアラビア社会には、重要な問題が内在しているように思われるからです。

最近、サウジアラビアをこのブログで取り上げたのは、
7月4日ブログ「サウジアラビア  インドネシアからの出稼ぎ家政婦への処遇が問題化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110704
6月22日ブログ「サウジアラビア  女性の自動車運転解禁を求める動き クリントン米国務長官も支援」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110622
ですが、いずれも社会の最も重要な価値観である人権への意識が希薄なこと(日本や欧米の常識からすればの話ですが)が窺えます。

なお、インドネシアからサウジアラビアへは2010年、約23万人が渡航し、現在約100万人が働いていますが、上記ブログのインドネシア人家政婦処刑問題を受けて、インドネシア政府は8月1日、サウジアラビアへの労働者派遣を停止しました。
問題はインドネシア人家政婦の処遇だけにとどまりません。

****外国人労働者差別:サウジいまだ改善できず…人権団体報告****
サウジアラビアなどペルシャ湾岸諸国は、アジアやアフリカからの労働者に対する虐待問題で長年国際的に非難されてきたが、状況は遅々として改善していない。国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(本部・ニューヨーク)は今年の報告書で、サウジの外国人労働者は「奴隷同然の場合もある」と指弾している。

米国務省の国際人権報告書(10年版)によると、サウジアラビアの人口約2900万人のうち、推定約600万人が外国人。民間部門の労働力の9割近くを外国人が占める。特にひどい扱いを受けているとされるのが家内労働者で、ほとんどが女性だ。
外国人労働者はサウジ国籍を持つ「後見人」が必要で、悪質な後見人はパスポートを取り上げ、無賃金での長時間労働を強いる。暴力や性的暴行を加える事例も少なくない。

中東和平や石油問題でサウジとは長年緊密な協力関係にある米国の国務省ですら、人権報告書で被害国の大使館関係者の話を引用し「(外国人労働者は)隷属に等しい(雇用)状況から逃げ出している」と断罪している。同省は年次人身売買報告書(10年)でも、「アジア、アフリカから、売春や物ごいのために連れてこられた女性や子供がいる」と指摘。サウジを状況改善が見られない「第三類国」に指定している。【6月25日 毎日】
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対テロ法案が民主化運動の抑圧に悪用されかねない
社会的弱者である外国人労働者や女性の権利問題は、宗教的少数派のシーア派住民の権利問題にもつながります。
中東・北アフリカの“民主化”の動きを警戒するサウジアラビアは、隣国バーレーンの民主化運動には特には強く反応、自国への波及を防止するためバーレーンの運動鎮圧に協力する軍を派兵し、現在も駐留を続けています。

国内民主化運動への締め付けも厳しいものがあるようです。
****サウジアラビア:アムネスティへのネット接続を遮断か****
サウジアラビア国内から、国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(本部ロンドン)のウェブサイトへの接続が不可能になっている。アムネスティは先月22日、ウェブサイトでサウジについての報告書を発表。対テロ法案が民主化運動の抑圧に悪用されかねないと指摘し、サウジ側が「根拠のない批判だ」と反発していた。その後間もなく、サウジ国内からの接続ができなくなり、同団体は、政府当局による示威的な情報遮断だとして反発を強めている。
アムネスティによると、サウジ国内の記者や人権活動家が先月25日、サイトへの接続ができないと連絡してきたという。

アムネスティの報告書は、サウジの対テロ法案が令状なしの長期拘束を可能にし、平和的な民主化運動に対しても厳しい刑罰を設定していると主張。サウジ政府に改善を求めていた。
在英サウジ大使は24日、声明を出し、アムネスティが事前連絡なしに報告書を公表したことに強い不快感を表明。同法案がテロリストでなく反体制派の摘発を目指しているとのアムネスティの指摘は「根拠がない」と断言。中東の騒乱でテロ拡大の環境が広がっており、国際テロ組織アルカイダへの対抗策が必要だと主張した。【8月1日 毎日】
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サウジアラビアにおける人権問題は、先月明らかにされたドイツからの最新型戦車輸出でも問題になりました。
****ドイツ:サウジに戦車売却計画 メルケル首相は正当性主張****
ドイツ政府がサウジアラビアに対し、戦車200台の売却を計画していることが発覚し、波紋を呼んでいる。ドイツは人権弾圧国家への武器輸出を禁じているが、サウジは民主化デモを鎮圧するバーレーン政府を支援するなど「人権を弾圧する側」との指摘があるためだ。メルケル首相は売却についてノーコメントを通す一方、「サウジは人権分野では問題があるが、イランの核武装に対抗するため、戦略上重要な国」とテレビで語り、事実上、売却の正当性を主張している。

輸出計画は7月上旬、シュピーゲル誌の報道で発覚。同誌などによると、サウジが購入するのは独クラウス・マッファイ社製の最新型戦車「レオパルト2」で、既に数十台は納入済みとの情報もある。野党や人権団体は「ドイツ製戦車が、民主化運動の弾圧に使われる」と批判を強めるが、ドイツ国防筋は毎日新聞に「サウジ支援は、中東地域の安定化に必要」と話す。

ドイツは6月下旬に輸出を決定した際、事前にイスラエルと米国の了承を得たとされる。ドイツと関係の深いイスラエルにとって、サウジは国交を持たない潜在的な敵国だが、核開発疑惑が消えないイランという「共通の敵」を前に、サウジの戦車購入を黙認した格好だ。(中略)ドイツでは、首相や国防相で構成する連邦安全保障会議が武器輸出の可否を決定。イラン、北朝鮮、リビア、ミャンマーなどには輸出禁止だが、サウジは許可されている。【7月13日 毎日】
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最新型戦車が“民主化運動の弾圧”に直接使用されるとは思えませんが、「人権を弾圧する側」への武器輸出は問題なしとは言えません。人権問題より国家利益が優先された結果でもあります。

砂上の楼閣
冒頭、超高層タワー建設計画について「好きにすれば・・・」との感想を述べましたが、そんなしろものを誇らしげに建設する前に、取り組むべき課題が国内にあるように思えます。
そうしないと、いずれ超高層タワーも“砂上の楼閣”になってしまう危険もあります。
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アメリカ  デフォルトは回避したものの、政治機能の硬直化が露呈

2011-08-02 21:33:41 | アメリカ

(共和党を引っ張る保守系草の根運動「ティーパーティー(茶会)」の集会 “”より By westchesterbuzz  http://www.flickr.com/photos/52095034@N02/5975220031/ )

欧米政治指導者の「日本化」現象
債務上限引き上げによるデフォルト回避で迷走したアメリカ、ギリシャなどの財政悪化国の救済で足並みがそろわない欧州・・・欧米指導者が財政再建など痛みを伴う決断を避け続けていることで、「日本化している」との指摘があります。

****英誌、欧米「日本化」をやゆ…決断嫌がる政治家****
英誌エコノミスト最新号は、オバマ米大統領やメルケル独首相ら米欧の指導者が、財政再建など痛みを伴う決断を避け続けていることで、「日本化している」と批判する巻頭記事を掲載した。
表紙には、米ドルを象徴する緑色の着物姿のオバマ氏、「ユーロ」と書いたかんざしを付けたメルケル氏を描いた風刺画。記事は、「債務、デフォルト(債務不履行)、麻痺する政治」で「日本化」が進んでいる、との見出しで、「決断をいやがる政治家が問題の根元と化し、景気後退の要因となるような行動をとっている」とやゆした。

記事は、現在欧米で進行中の経済危機は「(バブルが崩壊した)20年前の日本で起きたことの再現だ」と警鐘を鳴らした。その上で、「待てば待つほど方向転換が難しくなるのは、日本の政治家が身を以て示した教訓だ」と指摘して、欧米指導者に決断と行動を促した。【8月1日 読売】
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デフォルト、直前で回避
世界経済を人質にとった大統領・民主党と共和党のチキンレースが繰り広げられたアメリカの債務引き上げ問題が、制限時間ぎりぎりで一応の決着がついたことは各紙が伝えているとおりです。

****米債務上限引き上げで合意 デフォルト回避****
オバマ米大統領は7月31日(日本時間1日)、与野党との間で、米政府の「債務上限引き上げ」と「10年で2.4兆ドル(約185兆円)の財政赤字削減」で合意したと発表した。米上院と下院で8月1日にも法案を可決する見込み。
2日までに上限を引き上げなければ、米政府の借金である米国債が史上初めて、利払いが滞る「債務不履行」(デフォルト)に陥る恐れがあったが、直前で回避される見通しになった。オバマ大統領は「デフォルトを回避でき、米国に与えていた危機を終えることができる」と語った。

合意ではまず0.9兆ドルの財政赤字を削減する。さらに米議会で超党派委員会を設け、税制や社会保障制度の改革などで1.5兆ドル分の追加削減を検討する。
債務上限は第1段階で0.9兆ドル幅、第2段階で1.2兆ドル幅を大統領権限で引き上げられるようにする。これで2012年末までは必要資金を政府が借り入れできるようになる。(後略)【8月1日 朝日】
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下院採決には、今年1月のアリゾナ銃乱射事件の被害者ギフォーズ議員も出席して、同僚議員の祝福を受けたそうです。
****米国:不屈、再び議場に 銃乱射被害の議員****
米西部アリゾナ州で今年1月に発生した銃乱射事件で、銃弾が頭部を貫通する大けがをしたガブリエル・ギフォーズ下院議員(41)=民主=が1日、政府債務上限引き上げ法案の採決のため、事件後、初めて下院本会議に姿をみせた。
ギフォーズ氏が議場に入ると、議員らは立ち上がって拍手。ギフォーズ氏は笑顔を見せながら、何度も左手を振り、時折同僚議員らと抱き合った。右半身にはまひが残っている様子だったが、知り合いの議員らとしっかり言葉を交わす回復ぶりを見せた。【8月2日 毎日】
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【「これが私の望んだ合意かというと、ノーだ」】
しかし、ここに至るまでの迷走で、すでに円高が進行するなど大きな影響が出ています。
決定がもつれた背景には、この問題を2012年の大統領選と上下両院選にリンクさせたい共和党が、本格的引き上げを来年に持ち越す2段階引き上げ方式にこだわったこと、共和党内に、昨年の中間選挙で大幅な赤字削減を主張する保守系草の根運動「ティーパーティー(茶会)」の支持を受けて当選した議員が多く、民主党との妥協を拒否し続けたことなどがあげられています。

決定内容は、共和党が目論む「2段階方式」の形で、また、民主党が主張していた増税は盛り込まれなかったことなど、大統領・民主党側が譲歩した形にも見えます。

****大統領選「前哨戦」 オバマ氏譲歩****
2012年の大統領選と上下両院選を見据えた“夏の陣”となった米連邦債務の上限引き上げ協議は、9・2%の高い失業率と巨額の財政赤字で手詰まり感の漂うオバマ政権が、下院で多数派の共和党に追い込まれる形で決着した。

「これが私の望んだ合意かというと、ノーだ」。合意を発表した会見でオバマ大統領はこう述べた。
米ギャラップ社が7月29日に発表した世論調査結果で、オバマ政権の支持率は40%と過去最低を記録し、債務上限引き上げ交渉の長期化に国民の不満はピークに達していた。米国が史上初の債務不履行となれば、その責任を問われ、再選戦略が崩壊するのはオバマ氏の側だった。
それだけに交渉の主導権は共和党が握り、合意した赤字削減の枠組みには、共和党が反対した増税は盛り込まれず、大統領が譲歩する形となった。

そもそも、米国が債務不履行の瀬戸際まで追い込まれたのは、「小さな政府」を掲げる共和党と「大きな政府」を志向する民主党がそれぞれの政治理念に固執し、互いの支持層を財政支出削減の標的にした選挙戦術を展開したからだ。
5月に始まった協議で、共和党は赤字削減の財源として、民主党支持層が多い高齢者向け医療費補助の支出の切り込みを求めてきた。民主党はこれを拒否する一方で、共和党支持層の多い富裕層への増税を主張。互いの票田に手を突っ込む交渉は、法案の採決や、先送りされた具体的な赤字削減の協議に大きな禍根を残す結果となった。

共和党は、昨年の中間選挙で大幅な赤字削減を主張する保守系草の根運動「ティーパーティー(茶会)」の支持を受けて当選した議員たちが、民主党との妥協を拒否し、民主党は同じ選挙を経て左派色を一段と強めている。今後、民主党が死守する社会保障費の削減を共和党が迫るのは必至だ。
「3年以内に(景気)状況を改善できなければ2期目はやらなくてもいい」。就任直後の09年2月に自ら言い放った言葉が今、大統領に重くのしかかっている。【8月2日 産経】
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【「(共和党は)過激な右翼に突き動かされている」】
しかし、共和党側も、保守系草の根運動「ティーパーティー」の支持を受ける議員が、その主張に固執し一切の妥協に応じないことで、政治機能が実質的にマヒする。ひいては誰も望んでいないデフォルトの危機が現実のものとなる・・・という形で、その危うさを露呈することにもなりました。
商工会議所など経済界には「ティーパーティー」への批判が広がっているとも伝えられています。

****増税しようとするホワイトハウスの動きを封じ込めた ****
共和党下院のリーダー、ベイナー下院議長は31日、同僚議員にこう成果を強調した。が、今回の交渉で、ベイナー氏は、いったんはオバマ政権側と抜本税制改革を通じた0.8兆ドルの増収策で合意しながら、茶会勢力の強い反対を前に後退せざるを得なかった経緯がある。一致結束した茶会の強硬さは、いまや共和党指導部を揺るがすほどだ。
民主党のリード上院院内総務は、そうした共和党の現状に「過激な右翼に突き動かされている」と批判を強める。米社会の亀裂は深刻だ。民主党幹部は「約40年議員をやってきたが、ここまで強硬な勢力に対処するのは初めてだ」と語る。【8月2日 朝日】
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今後は、与党と野党からそれぞれ6人ずつの議員が参加して設立される超党派委員会で、追加的な1.5兆ドル分の財政赤字削減策を打ち出すことになっています。
“超党派委では税制の抜本改革を通じた増税と、高齢者や低所得者向け医療制度などの社会保障制度の効率化が議論される。増収策と歳出削減策の両輪の改革で、「バランスのとれた」財政再建策を達成するのが政権側の狙いだ。”【同上】とのことですが、「ティーパーティー」は一切の増税を拒否し大規模な歳出カットを要求しており、今回の対立・迷走は大統領選挙に向けて更に深まりそうな感があります。

ただ、共和党が過激な「ティーパーティー」に引っ張られるほど、大統領選挙はオバマ再選に有利に働くのではないでしょうか。

【「この10年間、われわれは歳入以上に支出してきた」】
なお、問題の本質である「なぜアメリカ財政がここまで悪化したのか?」という点については、オバマ大統領が「この10年間、われわれは歳入以上に支出してきた」と語った言葉に表されています。

****超大国に迫るデフォルト危機、米国の10年間に何があったのか****
世界一裕福な超大国のはずの米国がいま、世界経済を混乱に陥れかねないデフォルト(債務不履行)の瀬戸際まで追い詰められてしまったのは、なぜか。

1930年代の大恐慌以来となる不況、大幅減税、イラクとアフガニスタンの戦費、高齢者向け医療保険(メディケア)の導入――これら全てが、米財政計画を狂わせた。バラク・オバマ大統領が25日の演説で述べた表現を借りれば、「この10年間、われわれは歳入以上に支出してきた」のだ。

■潤沢な財政黒字、10年で天文学的赤字に
米議会予算局(CBO)によると、2000年10月1日時点での米連邦予算は2362億ドル(約18兆円)の黒字で、10年後の2010年には7100億ドル(約55兆億円)の黒字が見込まれていた。
しかし「10年間に制定された法律に経済情勢の変化が相まって、連邦予算の長期的展望は劇的に変わった」と、CBOは10年3月の報告書で指摘している。オバマ大統領が2月の予算教書で示した11年度の財政赤字見通しは、過去最高の1兆6500億ドル(約130兆円)。CBOが下方修正した直近の見通しでも、1兆3000億ドル(約100兆円)に上っている。

■重くのしかかる2つの戦争
与党・民主党の主張はこうだ。01年1月に民主党のビル・クリントン大統領(当時)が退任した際、米財政はまだ黒字だった。その後、共和党のジョージ・W・ブッシュ大統領の政権下で財政状況が悪化し、天文学的な財政赤字に転落したのだ――。
ただ、クリントン政権は前任のジョージ・H・W・ブッシュ大統領(パパ・ブッシュ)の共和党政権による増税策や、インターネットバブル(ITバブル)などの恩恵を受けていた。

01年1月に就任した息子のジョージ・W・ブッシュ大統領は、黒字見通しを理由に、民主党の反対を押しのけて歴史的な大幅減税を断行した。だが、この時すでにITバブルははじけ、同年3月に米経済は景気後退に陥る。そこへ9.11米同時多発テロが起き、米国はアフガニスタンとイラクの戦争に相次いで突入した。

共和党は戦費調達を最優先した。民主党は増税を求めたが、結局は共和党の戦費調達政策に同意した。超党派の米議会調査局(CRS)が今年3月に発表した報告書によれば、11年までに2つの戦争に投入された予算は1兆2830億ドル(約99兆5000億円)にも上る。

08年の世界金融危機の影響で米景気が急激に悪化したことも手伝って、ブッシュ前大統領の在任1期目の終わりに5兆7000億ドル(約442兆円)まで膨らんでいた財政赤字は、09年1月のブッシュ氏退任時にはさらに4兆9000億ドル(約380兆円)が積み上がっていた。(後略)【7月29日 AFP】
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何と言ってもイラク・アフガニスタンでの戦費が重くのしかかっています。
アメリカ財政・ドル基軸体制はベトナム戦争でも大きく揺らぎましたが、超大国アメリカといえども戦争に踏み込むと深手をおうことになります。

近づく「日本売り」へのタイムリミット
一方、「日本化」現象の本家本元である日本は、国債発行などによる国と地方を合わせた借金残高は900兆円に達し、毎年数十兆円ずつ増えています。
しかし、不人気政策の「増税」というハードルを政治が越えられず、この十数年、本格的な財政再建は一向に進んでいません。“刻々と「日本売り」へのタイムリミットは近づいている”【8月2日 朝日】状況です。
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