孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナの「オブザーバー国家」格上げに対し、イスラエルは報復措置 困難な和平交渉再開

2012-12-04 23:29:06 | パレスチナ

(11月29日 国連総会での「格上げ」決議案採択を喜ぶヨルダン川西岸・ラマラの人々 ラマラは自治政府のお膝元ですから一定の支持行動は当然でしょう。“flickr”より By activestills http://www.flickr.com/photos/activestills/8231481570/

【「外交的勝利」とは言いながら、求心力回復は見込み薄
国連総会におけるパレスチナの「オブザーバー国家」格上げ決議案については、採決前の11月28日ブログ「パレスチナ自治政府  「オブザーバー国家」に格上げする決議案、29日に国連総会で採択される見通し」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121128)でも取り上げましたが、11月29日の国連総会で賛成138か国、反対9か国、棄権41か国の圧倒的な賛成多数で採択されました。
賛成は日本やフランス、北欧諸国、アラブ諸国、中国、ロシア、インドなど。イスラエルやアメリカ、カナダ、チェコなど9カ国が反対、ドイツやイギリスは棄権しています。

11月28日ブログでも触れたように、もしパレスチナ自治政府が提案断念に追い込まれるようなら、ハマスの存在感が強まっている現状では、パレスチナ和平交渉の主体となってきた自治政府の基盤が大きく揺らぐ事態にもなりかねない・・・という懸念がありましたが、アッバス議長側もそうした懸念を賛成国獲得に利用したようです。

ハマスは、イスラエルとの共存を前提にした“国家格上げ”には反対の姿勢を従来からとってきましたが、今回は消極的ながらも支持を表明しています。ファタハ・ハマスの和解・統一にとっては良い兆候です。

****国連、パレスチナ「国家」格上げ決議案 ハマス歓迎も描けぬ展望****
ファタハとの和解協議カギ
国連総会でパレスチナの「オブザーバー国家」格上げ決議案が欧州の一部からも賛成を得て採択されたことでパレスチナは30日、「外交的勝利」を祝うムードに包まれた。
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスも同決議を歓迎しており、自治政府主流派ファタハとハマスの和解協議が前進に向かう可能性もある。
ただ、イスラエルとの和平交渉再開は困難と予想される中、パレスチナ国家樹立に向けた実質的な展望は開けていないのが現実だ。

ハマスはもともと、自治政府による今回の格上げ決議には反対の立場をとってきた。決議がうたう、1967年の第3次中東戦争より前の境界線に基づくパレスチナとイスラエルの「2国家共存」は、パレスチナ人の権利放棄につながる-との理由からだ。
しかし、ハマス政治局指導者のミシュアル氏は11月26日、消極的にながらも一転して支持を表明。同月14日から21日まで続いたイスラエルとの戦闘を、ある程度有利な形で停戦に持ち込んだことで勢いに乗るこの時期に、ファタハとの和解を進めようとのシグナルではないかとの見方が強まった。

ハマスに主導権を握られることを警戒する自治政府のアッバス議長側も、この状況を各国への説得材料に利用した。イスラエルやその後ろ盾である米国が決議に強く反対するのに対し、「格上げ」が実現しなければ、自治区内でのハマスの影響力がさらに増すことになる、と強調。イスラエル放送が欧州外交筋の話として伝えたところでは、欧州には、アッバス氏がハマスに対抗するための「テコ入れ」が必要だとの空気が広がったという。

ただ、今回の決議採択でアッバス氏の求心力がすぐに回復する見込みは薄い。
イスラエル紙マーリブによると、同国のネタニヤフ首相はアッバス氏に、格上げ申請取り下げの見返りとして、来年1月の総選挙後に和平交渉を再開するとの案を提示したが、アッバス氏側は拒否したという。

イスラエルは代理徴収している関税の自治政府への送金差し止めも検討しているとされ、財政難に苦しむ自治政府の運営がさらに厳しくなれば、今回の「熱狂」が、アッバス氏への「失望」に容易に変わる可能性もある。イスラエルのメディアによると、ネタニヤフ首相は30日、入植住宅3千戸の建設を決めた。【12月1日 産経】
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パレスチナ自治政府・アッバス議長、今回示された国際社会の支持を背景に、ライバル組織のイスラム原理主義組織ハマスとの和解交渉を加速させたいところです。パレスチナ内部の統一が進まない限り、イスラエルとの交渉も進みません。
「格上げ」決議採択後、初めてパレスチナ自治区に戻ったアッバス自治政府議長は12月2日、ヨルダン川西岸ラマラの議長府で演説し、「和解実現に必要な措置を検討する」と述べ、今後の課題として、停滞しているハマスとの和解協議を推進する意向を示しています。

ただ、ハマス側は上述のように“消極的支持”は示しているものの、ガザ地区をめぐるイスラエルとの停戦でパレスチナ内部での存在感を高めていることから、アッバス議長・ファタハに対してはこれまで以上に強気にでることも予想されます。

なお、11月29日にガザ地区で開催された「オブザーバー国家」格上げ決議案支持集会は“集会はファタハのガザ支部が呼びかけた。ガザのすべての政党支持者が集うとされたが、目立つのはファタハの黄色い旗ばかりで、ハマスを示す緑の旗はどこにもない”【11月30日 朝日】といった状況だったようです。

【「今の状況では何の助けにもならない」 強まる武装闘争への回帰
パレスチナ住民も国連での外交交渉やイスラエルとの和平交渉には期待を失いつつあり、「和平交渉をやめて力でパレスチナの土地を取り戻すべきだ」。「武装闘争への回帰」を求める人が増えるような状況が生まれています。
“きっかけは、パレスチナ自治区ガザを実効支配するハマスが、イスラエルとの8日間の戦闘の末に停戦合意に持ち込んだことだ。ハマスはロケット弾を初めてテルアビブやエルサレムへ届かせ、イスラエルを脅かした。《言葉の応酬を繰り返すだけで進まない和平より、犠牲を伴う闘争のほうが現実的》。ハマスが示した「力の効果」は、市民の意識に浸透しつつある”【12月1日 朝日】

****ガザ住民「何の助けにもならない****
イスラエルとの戦闘が1週間余り前に終わったばかりのガザ。空爆の恐怖にさらされた住民にとって、パレスチナの「オブザーバー国家」格上げは現実から離れた遠い話だ。「生活再建の足しにもならない」と冷ややかに受け止めていた。

ガザ北部の住宅地。5階建ての建物が完全にがれきの山となっていた。ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの戦闘員が住んでいたとされ、11月19日未明にイスラエル軍が空爆した。
通りを挟んで正面にある無職ムハンマド・アケルさん(66)の自宅はまともに爆風を受け、壁に穴が開いた。「警告弾で目が覚めたら、5分後にミサイルが直撃した。地震かと思った」。一家15人は幸い無事だった。

パレスチナの「オブザーバー国家」格上げに全く関心がない。「家の片付けで手いっぱいだ」と話す。
現在のイスラエル領に生まれ、生後5カ月の時にガザに避難してきた。「いつか故郷に戻るんだ」と息子や孫たちに言い聞かせている。ところが11月上旬、パレスチナ自治政府のアッバス議長が、パレスチナ難民の帰還権を放棄すると取られかねない発言をしたと報じられた。「我々の気持ちを何も分かっていない」。アッバス氏に失望した矢先、イスラエル軍との戦闘が始まった。「オブザーバー国家といっても、単に紙の上だけの話でしょ。イスラエルが存在する限り、苦しい現状は変わらない」

ミサイルが直撃した建物の隣に住む無職ファトヒ・ナセルさん(64)も自宅の後片付けに追われる。室内には割れたガラスやブロック片が散乱し、どこから手をつけたらいいのか分からない。「オブザーバー国家はパレスチナ独立に向けた一歩だとは思うが、今の状況では何の助けにもならない」とため息をついた。 【12月1日 朝日】
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ガザ地区からのロケット弾が初めてテルアビブやエルサレムへ数発届いたとはいえ、殆んどのロケット弾はイスラエル側の防衛システムによって防がれており、パレスチナ単独の武装闘争で事態が変わる可能性はありません。パレスチナの地を焦土とするだけです。
ヒズボラ、シリア、イランを巻き込んだ第5次中東戦争を起こしたところで、結果は同様でしょう。現在わずかに残されているパレスチナそのものが消滅する可能性もあります。
パレスチナが進むべき道は、パレスチナとイスラエルの「2国家共存」を前提にした和平交渉にしかないように思います。

イスラエル、国連決議への報復措置を強行
ただ、パレスチナ住民の結果を出せない交渉への失望も無理からぬものがあります。
結果が出ないだけでなく、イスラエル側の入植地建設活動が続けられ、パレスチナにとっては時間とともに事態は悪化する一方というのが現実です。

イスラエル側は、今回の「オブザーバー国家」格上げの国連決議に報復する形で、新たなユダヤ人入植住宅3000戸を建設することを発表しており、また、東エルサレムとヨルダン川西岸を分断することになる入植地建設の準備も始めることを決定しています。

****イスラエル:占領地3000戸新規入植へ 国連決議に報復****
イスラエル政府は11月29日、占領地のヨルダン川西岸と東エルサレムに新たなユダヤ人入植住宅3000戸を建設することを決めた。政府当局者が30日明かしたとロイター通信が報じた。国連総会で29日、パレスチナの地位を「オブザーバー国家」に格上げする決議案が採択されたことへの報復措置とみられる。

パレスチナ解放機構(PLO)のエラカト交渉局長は、イスラエルの決定について「国際社会の思いに逆らって、(パレスチナとイスラエルの)『2国家共存』構想を破壊するものだ」と批判した。米国家安全保障会議のビーター報道官も「和平交渉再開にとり逆効果だ」とコメントした。
占領地への入植活動は国際法違反。PLOは、10年10月を最後に行われていないイスラエルとの中東和平交渉を再開する条件として、新たな入植住宅建設の凍結を求めている。

ロイター通信によると、イスラエル政府は新設を決めた3000戸のほか、東エルサレムとその近郊にある大規模入植地「マアレアドミム」とをつなぐ位置に入植住宅地を建設する準備を始めることも決めた。現在は大規模な空き地だが、住宅約3500戸を建設する既存の計画がある。
この場所に入植地ができた場合、パレスチナが将来の独立国家の首都に想定する東エルサレムとヨルダン川西岸が分断されるため、特に問題視されており、米政府の圧力などでイスラエルが計画を凍結してきた経緯がある。【12月1日 毎日】
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更にイスラエルは、パレスチナ自治政府に代わって徴収している関税について、自治政府への送金を停止すると発表しています。

****イスラエル:代理徴収の関税の送金停止 パレスチナに報復****
イスラエルのシュタイニッツ財務相は2日、パレスチナ自治政府に代わって徴収している関税について、自治政府への送金を停止すると発表した。占領地のヨルダン川西岸と東エルサレムへの新規の入植住宅建設に続く、パレスチナが国連で地位を「格上げ」したことへの報復措置という。

送金停止の結果、自治政府から職員への給料支払いが滞り、パレスチナ経済は大打撃を受ける。自治政府はイスラエルの電気供給会社に多額の借金があり、イスラエル政府は今回の送金停止分を借金返済にあてるという。

イスラエルはヨルダン川西岸とガザの輸入の大半を管理しており、93年のオスロ合意などに基づき関税を代理徴収している。パレスチナが11年10月に国連教育科学文化機関(ユネスコ)に正式加盟した際も2カ月分の約2億ドル(約165億円)の送金を停止したが後に全額を送金した。【12月2日 毎日】
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“財政難に苦しむ自治政府の運営がさらに厳しくなれば、今回の「熱狂」が、アッバス氏への「失望」に容易に変わる可能性もある”【12月1日 産経】

イスラエルが警戒しているのは、パレスチナが国連決議を受け、国際刑事裁判所(ICC)など複数の国際機関に加盟を申請し、イスラエルを戦争犯罪で訴えるような事態だと言われています。
そのような事態は和平交渉の障害になるとして、日本など今回の「格上げ」には賛成した国の中にもICC加盟は控えるように求める声が多いとも。

イスラエル国内では、ガザ地区での地上戦回避は国民からはあまり支持されていません。
この際、ハマスなどの攻撃力を地上戦で徹底的に叩くべき・・・というのが世論の主流です。
そのため世論調査によると、来年1月の総選挙を控え、ネタニヤフ首相率いるリクードなどの統一会派の獲得議席予想数は、ガザ地区での戦闘前の調査(10月末)の43議席から37議席に減ったとのことです。【11月25日 毎日より】
こうした国内事情もイスラエルの強硬姿勢の背景にあるように思われます。

財政面では、アラブ諸国がパレスチナへの財政支援を約束しているようです。
しかし、“米国は通常、パレスチナに年約4億4千万ドル(約363億円)以上の支援を計上しており、支援は受けても要請は無視するパレスチナに対する議会の反発は強い。超党派の上院有力4議員は29日、パレスチナがICC加盟に動けば、援助停止などを盛り込んだ法案を提出すると警告した”【12月1日 産経】という動きもあります。

国連の潘基文(パンギムン)事務総長は2日、イスラエルの入植計画を「国際法違反」と批判。「重大な懸念と失望」を表明する声明を出しています。
国連総会決議に対する事実上の報復措置ということに対し、「重大な懸念と失望」では済まされない問題とも思いますが。

影響力低下のアメリカ、されどアメリカ
アメリカは、パレスチナ側の一方的な「オブザーバー国家」への地位格上げについても、それに対するイスラエルの報復措置についても、和平交渉を後退させると批判しています。

****イスラエルの入植「和平後退」=交渉再開、改めて呼び掛け―米国務長官****
クリントン米国務長官は30日、イスラエルが占領地東エルサレムとヨルダン川西岸で入植住宅3000戸の建設を決めたと報じられていることについて、「米政府はこれまでも、こうした行動が和平交渉を後退させるとイスラエル側に明言してきた」と述べ、反対の姿勢を明確にした。ワシントン市内の講演で語った。

長官はパレスチナが国連での「オブザーバー国家」への地位格上げを実現したことに関しても、「今回の採決はわれわれ全員を戸惑わせている。すべての当事者は、その先にあるものについて注意深く考える必要がある」と警告した。

一方で、イスラエルとパレスチナの双方に直接交渉の再開を改めて呼び掛け、「紛争を解決する直接交渉に入る用意がある当事者に対して、オバマ大統領は全面的に協力するだろう」と強調した。【12月1日 時事】
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しかしながら、オバマ大統領とイスラエル・ネタニヤフ首相の関係は“そりが合わない”と言われており、テロ組織と見なすハマスとは繋がりがなく、ファタハ・アッバス議長に対しても「格上げ」決議案提出見送りを説得できず・・・ということで、アメリカ・オバマ政権の影響力も薄れてきているのが実態です。

“だがユダヤロビーの影響下にある米国は、決議案に反対したことでイスラエルとともに国際的に孤立した。米国の中東担当特使らが決議案提出を見送るようアッバス氏を説得したが失敗し、パレスチナ自治政府の主流派ファタハへの影響力低下も印象づけた。米国はハマスをテロ組織とみなしているため、パレスチナでの足がかりを失いかねない状況に陥ったと言える。
米議会では、超党派の議員がパレスチナへの報復的な措置を盛りこんだ法案を提出した。ただオバマ政権自体はファタハとの関係を維持したい思惑から、今後の対応をはっきり示していない。最大の懸念は、パレスチナが「国家」格上げを機に、国際機関でのイスラエル攻撃を強める事態だ。当面はアッバス氏らの動きを牽制(けんせい)しつつ、米議会内での反パレスチナの動きにも神経をとがらせることになりそうだ”【12月1日 朝日】

そうは言っても、イスラエル、パレスチナに一定の影響力を行使できるのはアメリカしかありません。
困ったときのアメリカ頼みですが、パレスチナ側のICC加盟・イスラエル提訴や、イスラエル側の報復措置を抑制して、和平交渉を再開するための試みが求められています。

そのためには、とにもかくにもパレスチナ内部の統一が必要です。
ハマスがイスラエル排除を保留する形で、ファタハとの統一政府を実現できれば、アメリカの後押しで和平交渉に向けた歯車も少しずつ動き出すことも期待できます。逆に言えば、そうでなければ期待すべきものがありません。
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