孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  一連の規制強化は「革命発動」か「単なる是正」か 虐待された父を追う毛沢東チルドレン・習近平

2021-09-09 23:12:33 | 中国
(「大躍進政策」の大失敗で実権を失った毛沢東が実権を回復するために発動した文化大革命においては、紅衛兵という若者らによってそ政治家・インテリ・教師などが「反革命分子」「走資派」「修正主義」として公衆の面前でつるし上げられ、自己批判を強要され、大勢が亡くなりました。)

【進行する習近平版「文化大革命」 「あるべき姿」は国家・党が決めるという発想】
9月3日ブログ“中国 習近平版「文化大革命」が進むなか、大連「日本街」営業停止 微妙な対日感情”でも取り上げたように、中国・習近平政権は市民生活・文化・経済・教育に至る幅広い分野で、かつての「文化大革命」を想起させるような、国家・党による統制・管理・指導を強化しています。

若者らの生活に直結するところでは、オンラインゲームに対する規制が強化されています。

すでにオンラインゲームに関しては、「精神的アヘン」であるとして、18歳未満のユーザーには、金・土・日と祝日の午後8時から午後9時の1時間しかサービスを提供してはならないという時間制限が設けられていました。

更に、ゲーム内容についても「女々しい」ものは認めないとのこと。

****中国、ゲーム会社に「女々しい」コンテンツの削除を命令****
中国当局は、ゲーム大手の騰訊控股(テンセント)や網易(ネットイース)などに対し、利益重視の姿勢をやめ、「女々しさ」を助長しているとみなされるコンテンツを削除するよう命じた。中国政府は、若者文化やジェンダーの理想、IT大手の影響力に対する指導を強めている。
 
中国当局は8日、巨額の利益を生むゲーム市場をけん引するテンセントやネットイースをはじめとするゲーム会社を呼び出し、今後の業界に対する規制強化について伝えた。すでに当局は、未成年のゲームのプレー時間を週3時間までに制限するよう命じている。
 
苦境に立たされているゲーム業界への新たな規制の動きを受け、9日のゲーム関連株は急落した。
 
国営新華社通信は8日夜、ゲーム業界に対する最新の規制について、「わいせつで暴力的なコンテンツ、拝金主義や女々しさなどの不健全な傾向を助長するコンテンツは、削除しなければならない」と報じた。規制に従わない企業は罰せられると当局は警告している。
 
こうした規制対象について、香港大学の宋耕准教授は、中国の政治階級には派閥を超えて「女々しい男性は肉体的に軟弱で、感情的にもろい」という認識があり、「女性的な」男性には国家を守ることができないとの推論に基づいていると指摘。

政治エリート層においては異性愛が唯一のジェンダー規範だとみなされていることが、性的指向やアイデンティティーをめぐる曖昧な表現に対する「不安」につながっていると付け加えた。 【9月9日 AFP】
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また、通報窓口を設けて大規模な検査を行い、対応の甘い会社は厳しく罰するとのこと。

****中国ゲーム規制、党や政府が運営会社に厳命 通報窓口を設置、厳罰も****
中国共産党中央宣伝部や政府の国家新聞出版署などは8日、テンセントや網易など国内のオンラインゲームを運営するIT大手側に、未成年がゲーム中毒になることを防ぐ措置を講じるよう厳命した。通報窓口を設けて大規模な検査を行い、対応の甘い会社は厳しく罰するという。
 
国営新華社通信が伝えた。党や政府は先月、オンラインゲームが未成年の心身の健康に深刻な影響を与えているとして、運営会社側にサービスの制限を求める通達を出した。関係部門が会社側と面会して直接伝えることで、指示を徹底させる強い姿勢を示した形だ。(後略)【9月9日 朝日】
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加えて、“中国当局は、若者のゲーム依存に歯止めをかけるため、新たなオンラインゲームの承認を一時停止した”【9月9日 ロイター】

芸能界・エンタテイメント業界の粛清も進んでいます。
“スキャンダル多発の中国芸能界、「資格証」導入へ? ネットユーザーの反応は…”【9月9日 レコードチャイナ】

市民のファン行動についても規制が。
“BTSファンアカウント21件、中国で「分別ない応援」と停止に…芸能界締め付けの一環か”【9月7日 読売】

****ゲームもセレブ崇拝も規制、中国が望む若者像は****
「男らしい」少年や健全な若者の育成を目指す共産党

中国共産党は習近平国家主席の下、国内最大級の民間企業を締め付けるなど、経済統制を強める積極的な動きを見せている。前の時代には行き過ぎだったと考える資本主義化を巻き戻す狙いがある。
 
今年結党100周年の節目を迎えた同党は、ここ数十年見られなかったほど国民の私生活に踏み込む意図を鮮明にしている。
 
党当局者は今週、中国の若者がオンラインゲームで遊ぶ時間を厳しく制限する新たな規則を発表した。今回制限を課したのは、ポップカルチャー(大衆文化)のアイドルを締め付けているさなかであり、学習塾などを大幅に制限する動きに続くものだ。
 
こうした動きを総合すると、習氏の直前2人の前任者の下で存在した社会契約――共産党の政治独占を黙認するのと引き換えに個人の自由を拡大してきた――に変化が生じたことを表している。
 
共産党によると、次世代の中国国民をより積極的に形作ることが目的だとしている。(後略)【9月2日 WSJ】
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出生率改善のかせとなっている教育負担を軽減する取り組みも。
“中国、オンラインなどでの家庭教師を禁止”【9月8日 ロイター】

海外ブランド品に対する「嘘だらけ、間違いだらけだ」との批判も
“中国国営メディアや共産党、海外ブランドの批判展開”【9月9日 ロイター】

少し変わったところでは、地方政府の行き過ぎた行為も「公費の無駄遣い」とやり玉にあがっています。
“三国志の英雄・関羽の巨大像、観光名所なのに「公費の無駄遣い」と断罪され解体”【9月7日 読売】

それぞれの規制・指導は、それなりの背景・理由があってのものではありますが、共通するのは、市民・経済業界等の自由な活動の結果「行き過ぎ」が目立つ、そのため国家・社会にとって有益なもの・有害なものの線引きを国家・党が厳しくおこなって「あるべき姿」を明確にする・・・という姿勢です。

その発想は、革命・社会主義の理念に沿っていないとみなされたもの・人物を厳しく排除し、中国社会に大きな傷跡を残した、毛沢東が実権回復のための権力闘争として発動し、江青ら「四人組」が主導した「文化大革命」(推定死者は数十万人とも、あるいは2000万人とも)の考え方です。

政治的にみると、市民・経済業界等の自由な活動の結果の「行き過ぎ」は鄧小平による改革開放路線の弊害であり、習近平を「核心」とする現体制は、この弊害を是正して格差のない「共同富裕」の社会を目指す・・・という革命の「原点回帰」路線であり、習近平政権の(鄧小平を超えて、毛沢東と並ぶ)絶対化・長期化を推し進めるものでもあります。

ついでに言えば、こういう国家・党が市民生活の「あるべき姿」を明確にするという発想は、アフガニスタン・タリバンの勧善懲悪省という一種の宗教警察によって市民生活を厳しく取り締まる発想と根っこは同じです。革命・社会主義が中心に置かれるか、イスラム主義なのかの違いだけです。

【一連の規制・指導監督強化は「革命」なのか、「市場のルール化・是正」なのか】
この習近平版「文化大革命」をめぐって、中国官製メディアにおいても、まさに「革命」を発動すべきと檄を飛ばす立場と、「そういう類のものではない」とする立場が並存する、異例の状況ともなっています。

****習近平の「毛沢東回帰」変革をめぐってネット上で奇妙な攻防****
先日、習近平政権のエンタメ芸能界規制に対する認識をめぐってネット上の2つの論評が話題となった。
 
1つが極左ブロガー、李光満の論評で、もう1つが「環球時報」主筆の愛国・愛党言論人である胡錫進による李光満論評への反駁論評だ。(中略)

李光満は、昨年(2020年)のフィンテック企業アントグループの上場停止事件からエンタメ芸能界規制強化に至るまでの一連の政策は「まさに革命、社会主義の本質への回帰」だと論評。この文章が、人民日報、新華社、環球時報を含む中国主要紙の電子版に一斉に転載された。
 
その数日後、胡錫進は「李光満の論評は誤読で誤誘導だ」という短い原稿を自分の微博アカウントで投稿した。
この一連の出来事はきわめて奇妙な印象をチャイナウォッチャーたちに与えた。

「革命」という言葉を使って檄を飛ばす
習近平が掲げている共同富裕政策と、目下急速に進められている大手民営企業に対する規制強化、芸能・エンタメ界、ゲーム業界への規制強化、課外学習・オンライン学習産業を丸ごと潰すような教育改革・・・。こうした動きをひっくるめて習近平が目指しているのは改革開放からの逆走路線であり、毛沢東回帰、社会主義の初心への回帰であり、「富裕層を打倒せよ」という階級闘争への誘導であり、一種の革命、文化大革命2.0ではないか、という論はチャイナウォッチャーの間ではよく指摘され、私もそういう見方に沿って今の中国で起きている現象を分析してきた。
 
習近平は、鄧小平システムと呼ばれる共産党の10年ごとの権力禅譲システムを破壊して、毛沢東のような長期独裁体制を築こうしているように見える。だが習近平政権下の中国経済は明らかに失速し、いくつかの政策(香港政策、台湾政策や一帯一路政策)は失敗ではなかったかという批判が水面下である。

そこで自らの権力延長を正当化するために必要なのが、失策の責任を転嫁する相手、つまり「階級の敵」探しであり、その階級の敵というのが、たとえばアリババの創業者の馬雲(ジャック・マー)のような民営大企業家や、スーパーセレブ大女優の趙薇なのであろう、と見られている。
 
だが、こうした現象を、これは「まるで文革」と言ってしまえば、おそらく多くの中国の官僚、政治家は否定したがるだろう。多くの中国人にとって文革とは「共産党の歴史上の深刻な過ち」であり、繰り返してはならない黒歴史である。だから、今の政策を文革的だと認めては、過ちの繰り返しをやっていることになる・・・と、少なくとも私は思っていた。

ところが、李光満が自分のSNS微信アカウント「李光満冰点時評」に8月27日に投稿した論評で、「中国はまさに重大な変化の中にあり、経済領域、金融領域、文化領域から政治領域に足るまで深い変革が起きている、あるいは深い革命が起きていると言えるだろう」と「革命」という言葉を使って檄を飛ばす過激な主張を行い、それを官製メディアが一斉転載したことには、ちょっとびっくりした。(中略)
 
ほとんどの中国主要メディアが一斉にサイトに転載するなど、これは上層部の指示、中央宣伝部の指示があったとしか思えない。なので、習近平自身が確信的に文革発動を呼び掛けようとしているのか、とチャイナウォッチャーたちはざわめいた。
 
だがその後、国際的にも有名な中国の愛国・愛党的言論人で、環球時報(人民日報傘下のタブロイド紙)主筆の胡錫進が、李光満のコラムの主張を徹底否定する投稿を個人の微博アカウントで発表した。
 
これも驚きだった。環球時報が転載したコラムを、主筆自らが否定し論破する論評を発表したわけだ。そして、なぜか胡錫進の微博アカウントは一時的に、李光満の論評が転載できないような制限を微博側から受けた。その制限はすぐに解除されたが、その後、なぜか微信上ではその、原文が検索できなくなっていた。
 
一体これはどういうことなのか、というのが、チャイナウォッチャーたちの間で謎となっている。

「革命ではない」と李光満の論評を否定
李光満(中略)が書いた論評「誰もが感じることのできる、まさに進行中の深い変革」は、中国エンタメ芸能界は腐りきっていると、猛烈な批判から展開する。

アントグループの上場停止事件から、アリババや滴滴など大民営インターネットプラットフォーム企業に対する罰金、そしてエンタメ芸能界の乱れを粛正する一連の措置について、深い変革、革命がまさに進行中といい、「これは資本集団から人民群衆への回帰であり、資本中心から人民中心への変革だ。これにより、これは政治変革であり、人民が再び新たにこの変革の主体となって、人民中心の変革を阻害するすべてが放棄されるということだ」「この本質的な変革は1つの回帰であり、中国が共産党の初心への回帰することであり、人民中心に回帰することであり、社会主義の本質に回帰することである」と主張している。(中略)
 
だが、このコラムが発表された3日後の9月2日、胡錫進が、(李光満の論評は)誤読であり誤誘導だ、とする論評を投稿した。

「(李光満の論評は)最近の国家が打ち出した一連の市場監督管理措置についての誤読であり曲解である。こうした監督管理の目的は市場のルール化であり、是正であり、資本の野蛮な成長とそれによる各種副作用の予防のためである。経済社会の発展を加速して共同富裕を推進し、公平正義の建設を強化し、社会統治をさらに一歩、上の段階に押し上げてより完成に近づけるためであって、革命などというものではない」
「この種のセンセーショナルな全面的宣言は、中国の実際の政策から深刻に離脱し、少数派の妄想に属するものである」「こうした発言は、人々にある種の歴史的記憶(文革)を惹起させ、思想的混乱とパニックを引き起こすのではないかと懸念を抱かせる」
 
胡錫進はこのように主張し、みんな信じてはだめだ、と訴えた。(後略)【9月9日 福島 香織氏 JBpress】
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この両論が並存する状況は、党内の2つの派閥の対立を反映しているものなのか、“李光満の文章による影響力が予期した以上に大きかったので、監督管理当局がその内容をより穏当なものにバランスを取るよう指示した。”といったものなのか、李光満の今回の論評は「世論に対する観測気球」なのか・・・そこらはよくわからないようです。

福島氏は最後に、以下のようにも。

****薄れている文革の罪悪感****
体制内の対立する意見を反映したものなのか、観測気球なのか。あるいは、もっと深淵なメッセージが込められているのか。いろいろ想像力は働くのだが、一つ言えることは、文化大革命の歴史に対する共産党の罪悪感が、習近平政権になってから、かくも薄れているということだ。
 
ずっと言論空間の辺境に追いやられていた文革を肯定的にとらえる極左言論人がたとえオンライン上のみであっても、中国のメーンストリームメディアで取り上げるられることなど、胡錦涛政権時代ならありえただろうか?
 
歴史の過ちを過ちと認識できなくなったとき、過ちは繰り返されるかもしれない。今の苛烈な規制強化や産業全体におよぶ粛正が、今は改革開放路線上の単なる是正や、市場のルール化のつもりであっても、来年には「深い革命」になっている可能性は十分にあるのだ。【同上】
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【「文革」被害者である習近平が毛沢東との一体化を目指す「心理」】
ただ、習近平自身が毛沢東政治・文化大革命の「被害者」であるにもかかわらず、毛沢東に回帰し、新たな文革を発動しようとしているとも見られているところが、奇妙というか、心理学・精神分析の対象ともなりうるところです。

****父は16年間の投獄、姉は餓死…文化大革命で苦痛を味わった“習近平”がそれでも“毛沢東”の背中を追う異常な理由****
(中略)中国建国後、習仲勲は国務院副総理(副首相)などの要職に就いた。彼ら中央指導者は多忙を極めていたため、子弟のために全寮制の幼稚園や小学校をつくった。1953年生まれの習近平も姉や弟とともに、そうした全寮制の学校で育てられたのである。いわば彼らは「党の子どもたち」だった。
 
ところが1962年、父・習仲勲は反党的な小説の出版に関わったという嫌疑をかけられ、全ての要職を奪われてしまう。それから習仲勲は1978年まで16年間も投獄や拘束といった迫害を受け続けたのである。母親の斉心も革命運動に参加、八路軍でも兵士として戦ったが、文化大革命では公の場で批判を浴びせられ、暴力もふるわれた。
 
文革の嵐は、当時、中学生だった習近平をも襲った。紅衛兵によって生家を破壊され、十数回も批判闘争大会に引き出されて、あげくに反動学生として4回も投獄されてしまったのだ。そのため、中学から先は正式な教育を受けられなかった(のちに推薦制度により、清華大学に無試験で入学)。

さらには陝西省の寒村に下放(青少年を地方に送り出し、労働を体験させること)され、黄土を掘りぬいた洞窟に寝泊まりさせられるなどの苦難を味わっている。
 
姉は文革中に餓死したと伝えられるが、妹も下放され、素手でレンガをつくる作業を強制され、食うや食わずの生活を経験している。
 
重要なのは、これらはすべて、「毛沢東の党」によって行われてきたということだ。そもそも文化大革命自体、毛沢東が他の共産党のリーダーたちを潰すために行ったのであり、実際に中国共産党は「毛沢東の党」となった。それが中国全体にとって巨大な災厄をもたらしたことは言うまでもない。

「毛沢東チルドレン」として
ところが、習近平は、その毛沢東を、「偉大なリーダー」として国民に尊敬するよう求めているのだ。(中略)習近平が目指しているのは毛沢東との一体化であり、ある意味では実際の毛沢東以上に、より完璧な毛沢東になろうとしているのである。
 
毛沢東は習近平の家族に過酷な運命を強いた人物であり、習近平自身も非情な扱いをされている。それなのに、なぜ毛沢東との一体化を目指すのだろうか。
 
多くの幼児虐待の専門家が認めていることだが、外部の人間が、子どもが虐待を受けていることに気づいても、その子ども本人が虐待をしている親の元に留まりたいと思うケースは少なくない。
 
そうした子どもたちは、自分が間違っているから親に�られているのだ、と考え、今よりももっといい子になろう、親の言うことに従い、「正しい行い」をすることで許しを得よう、と考えてしまうのである。

虐待された父を追う毛沢東チルドレン
(中略)習近平も薄熙来も「父なる毛沢東=共産党」に許され、幹部への道を進んだ。虐待された父から、お前の態度は正しいと認められたのである。それが彼ら“毛沢東チルドレン”の「毛沢東が行っていた以上に、毛沢東的な政治を目指そう」という行動となってあらわれているのだ。(後略)【9月9日 文春オンライン エドワード・ルトワック著「ラストエンペラー習近平 」(文春新書)より】
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アメリカ・テキサス州の中絶禁止法へ「決めるのは女性次第」との批判 隣接メキシコでは合法化へ

2021-09-08 22:26:50 | アメリカ
(「なぜ中絶の権利を支持するのか」男性記者の質問に米報道官がピシャリと回答。「決めるのは女性」【9月3日 HUFFPOST】)

【米テキサス州と国境を接するメキシコ北部コアウイラ州の中絶の犯罪扱いを最高裁が違憲と判断】
カトリック教徒が多い中南米では、人工中絶を認めない国が大半ですが、昨年12月にアルゼンチンの上院が中絶を合法化する法案を可決したことが話題になりました。

その中南米メキシコでは32州のうち、首都メキシコ市や南東部オアハカなど4州だけが中絶を合法化していますが、今般、最高裁が妊娠中絶を罰する北部コアウイラ州の法律を違憲と判断したことで、合法化に向けた取り組みが進むと思われます。

****メキシコ最高裁、中絶の犯罪扱いは違憲と判決****
メキシコの最高裁判所は7日、北部コアウイラ州が人工妊娠中絶に刑事罰を科すのは違憲との判断を全員一致で下した。

メキシコ最高裁は同州に対し、州刑法から中絶に関する制裁を撤廃するよう命令。これにより同州では、中絶を受けた女性を起訴できなくなった。
ルイス・マリア・アグイラル判事は判決について、「女性の権利における歴史的な一歩」だと述べた。

メキシコでは現在、4州を除いて中絶が厳しく制限されている。ただし、強姦による妊娠や、母体に命の危険がある時は例外的に認められている。

米テキサス州の受け皿にも
今回の判決により、メキシコ全土で中絶の非犯罪化が進む可能性がある。

BBCメキシコ・中南米特派員のウィル・グラント記者によると、メキシコでは州法をめぐる最高裁の判決は他州にも適用される。そのため、今回の判決は事実上、各州に中絶をめぐる新方針の行程表を示した形になる。
また、これまで中絶術を受けて禁錮刑となった女性も即時釈放されるという。

さらにコアウイラ州は、先に妊娠6週目以降の中絶を禁じた米テキサス州と国境を接しているため、同州の女性に合法的な中絶を行う受け皿になるとの指摘もある。

中絶の権利擁護団体「生殖の選択をめぐる情報グループ(GIRE)」は、今回の決定は「歴史的」だと声明を発表。
「メキシコ全土で、女性や妊娠可能な人たちが、妊娠出産の行方を決められる自由を持てるよう期待する」と述べた。【9月8日 BBC】
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今回のメキシコ最高裁判断は、女性の権利の観点から、それ自体大きな動きですが、世界的に注目されたのは、上記記事にもあるように、コアウイラ州hが先に妊娠6週目以降の中絶を禁じた米テキサス州と国境を接しているという点です。

今後、アメリカ・テキサス州の中絶を希望する女性が国境を越えてメキシコに向かう可能性も指摘されています。

【「決めるのは女性次第」サキ報道官 答えをはぐらかすアボット州知事】
妊娠6週目以降の中絶を禁じたアメリカ・テキサス州については、9月2日ブログ“アメリカ 「分断」社会のマスク着用義務化禁止・人口中絶禁止をめぐる問題”でも簡単に取り上げましたが、改めて。

****妊娠6週目以降の中絶が禁止に。レイプも例外なし…全米で物議を醸すテキサス州の法律、その問題点は?****
アメリカ最高裁判所は9月1日、テキサス州で施行された中絶を規制する法律を差し止めないとする判決を言い渡した。
法律が差し止められなかったことで、テキサス州の女性たちは憲法で保障されてきた中絶の権利が奪われることになった。
どんな問題が生じるのだろうか。

どんな法律なのか?
テキサス州の中絶規制法は、妊娠6週目以降の中絶を禁じる。しかし多くの女性が6週目では妊娠に気づかないため、実質ほとんどの人たちが中絶を受けられなくなる。

さらに、同州で妊娠6週目以降の中絶を施した医療関係者や、中絶を「手助け」や「ほう助」した人を一般市民が訴えることができ、民事訴訟で勝訴すれば、最大1万ドル(約110万円)の報奨金とかかった裁判費用が得られる。

「ほう助」には、中絶にかかるお金を援助した人や、車で病院に連れていった人も含まれる可能性がある。
また、レイプや近親相姦による例外は認められていない。

「見て見ぬ振りをしている」痛烈に批判
法律は、共和党が主導するテキサス州議会で5月に可決され、共和党のアボット知事が署名した。

アメリカでは1973年のロー対ウェイド裁判で、胎児が子宮外で生きていけるようになるまで(妊娠22〜24週)女性が中絶手術を受ける権利が保障され、中絶を不当に規制する州の法律が違憲とされた。

差し止めを求めていた中絶の権利擁護者たちは、テキサス州の法律が違憲だと訴えていたが、最高裁は5対4で請求を退けた。今回差し止めに反対したのは、トランプ前大統領が指名した3人の判事を含む5人の保守派判事だ。

彼らは差し止め請求の主張が「合憲性についての重大な問題を提起している」としたものの「立証責任を果たしていない」という見解を示した。

その一方で、最高裁の決定は「テキサスの法律の合憲性についてのいかなる結論にも基づいたものではない」と説明し、テキサス州内を含む裁判所で、法律を巡る法廷闘争をすることは可能だとした。

差し止めを支持したのは、リベラル派のソニア・ソトマイヨール判事と、スティーブン・ブライヤー判事、エレナ・ケイガン判事の3人と、保守派のジョン・ロバーツ首席判事だ。

ソトマイヨール判事は、ブライヤー判事とケイガン判事と共同で発表した反対意見書の中で「最高裁の決定に呆然とさせられる」と判決を痛烈に批判。
「多数派の判事たちは、女性が憲法上の権利を行使することを禁じる著しく違憲な法律を提示し、さらに巧妙な方法で司法審査を回避したことで、問題を見て見ぬ振りをしている」と指摘した。

今後、どんな影響が出てくるか
ニューヨークタイムズによると、テキサス州では85〜90%が妊娠6週目以降で中絶を受ける。
新しい中絶規制法が施行されたことで、同州の中絶を望む女性の多くが州外で中絶を受けなければならず、金銭的・精神的負担が増える。

また、女性の権利や中絶の権利の支持者たちは、テキサス州の法律が差し止められなかったことで、共和党が優勢の他の州でも、類似の法律が施行されるのではないかと危惧している。

その一方で、中絶の権利支持派は、権利をめぐる闘いを諦めていない。NPRによると、テキサス州内などいくつかの裁判所で、新法の合憲性を問う裁判の準備が進められている。 【9月3日 安田 聡子氏 HUFFPOST】
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“6週間”というのは胎児の心拍が確認される時期であり、そのことから「ハートビート法」とも呼ばれています。
また妊娠6週目は、多くの女性が妊娠を自覚していないとされています。

“女性の権利団体などによると、人口妊娠中絶の85─95%が妊娠6週目以降に行われており、テキサス州では中絶手術のほとんどが禁止されることになる。多くのクリニックは閉鎖に追い込まれる可能性があるという。”【9月2日 ロイター】

以前から人工中絶をめぐる扱いは、アメリカを“分断”する大きな問題でしたが、テキサス州の法律の差し止めを最高裁が認めなかったことで、改めて大きな争点として浮上しています。

当然ながらバイデン大統領は、今回最高裁判断を「女性への攻撃」と批判しています。

****米の中絶禁止州法、反発広がる バイデン大統領「女性への攻撃」****
米南部テキサス州で発効した人工妊娠中絶をほぼ禁じる州法を巡り、差し止め請求を退けた連邦最高裁への反発が広がっている。

バイデン大統領は2日の声明で「憲法が認めた女性の権利に対する前例なき攻撃だ」と最高裁を非難。連邦議会では同様の州法制定を阻止する法案の準備が始まった。来年の中間選挙をにらんで論争が激化しそうだ。
 
テキサス州法で特に問題視されたのは、無関係の人が医療関係者や中絶協力者を訴えられる点だ。バイデン氏は「女性が直面する最も私的な決断に赤の他人が割り込む余地を与えた」と訴えた。【9月3日 共同】
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“無関係の人が医療関係者や中絶協力者を訴えられる”ということに関して、現代アメリカでもなお存在する職業である「賞金稼ぎ」という言葉が話題にもなっています。

現代の「賞金稼ぎ」は、立て替えられた保釈金を踏み倒して逃亡した被告人を捕らえて生計を立てているそうです。

“リベラル派のソニア・ソトマイヨール最高裁判事は、差し止め請求をめぐる判断に際し「事実上、(テキサス州は)州民を賞金稼ぎの代行者に任命し、近隣住民が受ける医療措置に対して民事訴訟を起こすことに賞金を与えている」と痛烈な反対意見を述べた。”【9月5日 AFP】

バイデン大統領以上に断固とした姿勢を示したのが、ホワイトハウスのジェン・サキ報道官(女性)でした。

****「なぜ中絶の権利を支持するのか」男性記者の質問に米報道官がピシャリと回答。「決めるのは女性」****
「バイデン大統領は、なぜ中絶の権利を支持するのか?」
男性記者にそう問われたアメリカ・ホワイトハウスのジェン・サキ報道官の力強い回答が、話題を呼んでいる。
どんなやりとりだったのか

(中略)サキ氏は2日、連邦最高裁の判断についての見解を報道陣に問われた。
「バイデン大統領は、自身のカトリックの信仰で中絶は道徳的に間違っていると教えているのに、なぜ中絶を支持するのか」と質問した男性記者に対して、サキ氏はこう答えた。

「彼は、それが女性の権利だと信じています。それは女性の身体であり、その女性の選択なのです」

「決めるのは女性次第」
記者は続けて、「では彼は、誰が胎児に気を配るべきだと考えているのですか」と質問した。
これに対してサキ氏は、バイデン大統領が「決めるのは女性次第であり、その決断を医師とともに行うのも女性であると信じている」と強調した。

さらにサキ氏は、「あなたはそのような選択に迫られたことがないし、妊娠したこともないでしょうが、その選択に直面したことのある女性にとっては、これは信じられないほど難しいことです。大統領はその権利が尊重されるべきだと考えています」と反論した。(後略)【9月3日 HUFFPOST】
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今回「ハートビート法」ではレイプや近親相姦による妊娠も例外とがなりませんが、そのことに関し、テキサス州アボット知事は正面から答えていません。

****「レイプによる妊娠の継続、なぜ強要?」→知事「レイプ犯を根絶する」正面から答えず****
アメリカ・テキサス州で、妊娠6週目以降の中絶を禁じる法律が施行された。この法律は、レイプや近親相姦による妊娠も例外にしていない。

同州のグレッグ・アボット知事は9月7日、「なぜレイプや近親相姦の被害者に、妊娠を続けることを強要するのか?」と聞かれて、「少なくとも6週間は中絶を受けることができる」と答えた。

さらに「レイプは犯罪だ。テキサス州は通りから全てのレイプ犯を取り除くための努力を続ける。積極的に取り締まり、逮捕、訴追することで、レイプ犯を排除する」と述べた。

ほぼ全ての中絶が禁止
アボット知事は「少なくとも6週間は中絶を受けることができる」と主張しているが、これは妊娠の現実からかけ離れている。

妊娠した女性の多くは、6週間以内には気付かない。アメリカ産科婦人科学会サラ・ホヴァース博士は「積極的に妊娠しようとしていない限り、女性が6週間以内に気付く可能性は低い」と、ニューヨークタイムズに話している。

つまり「6週間目以降の中絶禁止」は、ほぼ全ての中絶を禁止していると言い換えることもできる。(中略)

アボット知事はレイプ犯を根絶すると約束しているが、そもそもレイプが起きている状況でこのような法律を作ったことが、女性たちをさらに苦しめることになっている。【9月8日 HUFFPOST】
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企業からの批判も。

****米テキサス州の中絶禁止法、企業から批判や対抗策の表明相次ぐ****
米テキサス州で1日に人工妊娠中絶をほぼ禁じる州法が発効したことに対し、米企業から厳しい批判や独自の対抗策の表明が相次いだ。一部企業の間では社会的責任への強い関与を示す努力が強まっていることの表れだ。

米配車大手リフトは、同社サービスの運転手が新法で訴えられた場合、訴訟費用全額をリフトが負担すると表明。同社のグリーン最高経営責任者(CEO)はツイッターに「女性の健康医療へのアクセスや選択の権利への攻撃だ」と記し、女性の性と出産への医療サービスを提供する「プランド・ペアレントフッド(全米家族計画連盟)に同社が100万ドル寄付することも明らかにした。

これに呼応して同業大手ウーバーのコスロシャヒCEOもツイッターに投稿し、同社も同様に運転手への訴訟費用を持つと表明。音頭を取ったグリーン氏に謝意も示した。

新法では、妊娠6週以降とされる胎児の心拍確定後の中絶を「助けたり、そそのかしたりした」人だれをも、無関係の個人が訴えることができる。中絶処置のため医療機関に向かう女性を知らずに乗せる運転手も、訴えられる可能性がある。

一方でデートアプリ「ティンダー」運営大手マッチのCEOと、同業大手バンブルは1日、テキサス州を拠点とする従業員が州外で中絶処置を求める場合に支援する基金を設立すると発表した。

ドメイン名管理サービスのゴーダディは3日、中絶案件の通報に使われるテキサス州の反中絶ウェブサイトを閉鎖した。

同州議会はまた、ドライブスルー式の投票や24時間投票できる拠点を禁止し、選挙監視人の権限を強める投票制限法の最終案も可決した。これに対し、アメリカン航空の広報担当者は「この法案には違う結果を期待していた。われわれは結果に失望している」と表明した。

テキサス州本拠の企業向けハードウエア開発・生産のヒューレット・パッカード・エンタープライズの広報担当者も「従業員6万人の世界企業として」投票制限に立ち向かうことを従業員に奨励すると述べた。

同州では1日、許可なく銃を隠し持つことを認める法律も発効。同州オースティン本拠の半導体メーカー、シリコン・ラボラトリーズのタトルCEOは、同州が中絶禁止と銃所持、投票制限と続けざまに動いたことは「全米各地でこれから起こることの前振れだ」と警告を発した。【9月6日 ロイター】
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【テキサス州 投票制限法、許可なく銃を隠し持つことを認める法律も】
上記記事にもあるように、テキサス州では投票制限法、許可なく銃を隠し持つことを認める法律も。

****テキサス州、投票制限の州法が成立 中絶禁止法の施行も議論に****
米テキサス州のグレッグ・アボット知事(共和党)は7日、有権者に認める投票方法を大幅に制限する投票権法案に署名し、同州法が成立した。12月から施行される。同州では、妊娠6週目以降の中絶を禁止する州法が施行されたばかりで、全米の議論になっている。

投票権に関する新しい州法では、ドライブスルー投票や24時間利用できる投票所の設置が禁止され、郵便投票の際の身分証明書の提示が義務付けられるなど、投票方法が制限される。

テキサス州の共和党議員は、選挙の安全性確保のために必要不可欠な措置だと主張している。
アボット州知事は7日、法案の署名式で「選挙の完全性はいまや、テキサス州で法制化されている」と述べ、同法は選挙改革法案の成立を望む他の州の「模範」になるとした。

少数派や障害者に「不相応な負担」与えると
一方、民主党や公民権団体は、この法案が民族的少数派や高齢者、障害者などに対し、投票をする上で不相応な負担を与えたり、投票の意欲をそぐことになると指摘している。(後略)【9月8日 BBC】
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先の大統領選挙で「選挙が盗まれた」とする共和党知事州では、有権者の範囲を極力狭めたい意向のようです。

****免許も講習も不要、市民が公の場で銃の携帯可能に 米テキサス州****
 米テキサス州で1日から銃規制緩和の法律が施行され、免許を持たない一般住民が安全講習を受けなくても公共の場で銃を人目に見える状態で持ち歩くことが可能になった。専門家は、警察が銃暴力から市民を守ることが一層難しくなると警鐘を鳴らしている。

米全土で銃暴力事件が増える中、同様の法案は各州で相次いで可決されている。(後略)【9月2日 CNN】
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車椅子利用の身障者でもあるアボット州知事はトランプ前大統領の後釜にふさわしいかも。

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アフガニスタン  タリバンと欧米 現地在留者と国際支援をそれぞれが「人質」にとる形で綱引き

2021-09-06 23:19:11 | アフガン・パキスタン
(アフガンで連日女性の権利訴えるデモ、タリバン催涙ガス使用か【9月6日 TBS】)

【自爆部隊と暗殺者たちのパレード】
アフガニスタン情勢に関するニュースは山ほどありますが、一番印象的だったのは「殉教志願者」たちのパレードに関するもの。

****自爆部隊と暗殺者たちのパレード タリバン、国民に向けテレビ放映****

アフガニスタンの政権を崩壊させたイスラム主義勢力タリバンが、自爆攻撃や暗殺を訓練する「殉教志願者」たちのパレードの様子とされる映像を、傘下の国営テレビを通じて放映した。国内でくすぶる反タリバンの抵抗運動を牽制(けんせい)し、力を誇示する狙いとみられる。
 
映像は9月初めにテレビやSNSで公開された。撮影地は不明。
 
ナレーション付きの約38分間の映像の中で、タリバンは20年にわたる自爆攻撃などの「奮闘」が実を結び、駐留米軍を撤退に追い込んだと主張した。武装した100人以上の戦闘員が隊列を組み、タリバンの白い旗がはためく砂地の広場で行進。自爆装置や車爆弾も披露された。
 
タリバン軍事部門トップのヤクブ幹部の声明も読み上げられた。「殉教部隊の犠牲に感謝する。全ての国民は殉教のための訓練を受けなければならない」
 
タリバンはアフガニスタンや隣国パキスタンに軍事キャンプを持ち、宗教学校(マドラサ)の神学生を自爆犯として育ててきたとされる。タリバンはこれまでも、その訓練の様子とされる画像をネットで公開してきた。今後、思想を強く反映した国営テレビの放送が増えそうだ。【9月6日 朝日】
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暗殺者はともかく(通常の軍事活動も暗殺も目的とするところは同じですから)、自爆攻撃志願者というのは・・・。
ただ、これも戦前日本の特攻を考えると、さほど驚くべきものではないのかも。

【女性の抗議 大学女子教育に関する新規則】
もうひとつ印象的だったのは、女性によるタリバンに対する抗議行動。

****女性の抗議集団がタリバンと衝突、流血も アフガン首都****
アフガニスタンの首都カブールで4日、男女平等や政治参加を求める女性たちの集団が抗議デモを展開し、同国の実権を握ったイスラム主義勢力タリバンの部隊と衝突した。

アフガンではこの1週間で、女性活動家らによる小規模な抗議デモが少なくとも3回実施されている。

現地メディアのトロ・ニュースは4日、タリバン部隊と一部の女性参加者が衝突する場面の映像を伝えた。1人の男性がメガホンを通し、少人数のグループに「皆さんのメッセージを長老に伝える」と冷静な声で呼び掛ける一方で、映像の終盤には女性の叫び声や、「なぜ私たちを殴るのか」と抵抗する声が入っている。

トロ・ニュースは、大統領府へ向かっていた女性たちをタリバン部隊が阻止し、催涙ガスを使用したと伝えた。
現場にいた元政府職員はロイター通信に、タリバン部隊が女性たちに対してスタンガンの一種「テーザー銃」や催涙ガスを使ったと話した。銃の弾倉で頭部を殴られ、血を流す女性たちもいたという。

女性活動家の1人が頭から血を流しながら、デモでタリバンの戦闘員に殴られたと訴える映像もSNS上で拡散した。

これに対してタリバンの幹部は、デモを「故意に問題を起こそうとした」行動だと非難している。
タリバン指導者らは女性の社会進出や教育を認めると表明しているが、旧政権下の権利抑圧が復活するとの懸念も強まっている。【9月5日 CNN】
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同様のデモはカブールで3日にあったほか、2日に西部ヘラートでも起きています。

“タリバン幹部は英BBC放送のインタビューで、新政府の省庁で女性職員が元の職場に戻ることを希望すると述べる一方で「高い地位につくことはないだろう」と要職への女性登用を否定した。最終調整が続くタリバン政権の組閣でも、女性は起用されない見通し。”【9月5日 毎日】

崩壊したアフガニスタン政権が間違ったのは、軍隊を戦う意思のない男性で構成したこと。女性を兵士にしていたら、戦わずしてタリバンから逃げるようなことはなかったでしょう。

女性に関して、職業と並んで注目されていた教育について、少し具体的な方針が出されています。

****教育の新規則を発表、国内便の運航が再開 アフガン****
イスラム主義勢力タリバンが政権を掌握したアフガニスタンで5日、タリバンが運営する高等教育省は教育に関する新規則を発表した。タリバンが支配の基盤を固めるなか、市民の生活には変化が起きそうだ。アフガンでは同日、国内便の運航も再開した。

高等教育省は、6日から始まる新学期から男性と女性の大学生を区分けする提案を承認した。
アフガン国内の131の大学や総合大学を代表する大学連合が提出した提案を承認した。

今回の提案によれば、すべての女子学生と女性の講師、職員はシャリア(イスラム法)に従い、イスラム教徒の女性が頭を覆うスカーフ「ヒジャブ」を身につけなければならない。

女子学生と男子学生が大学に入る入り口も別々にしなければならない。男女混合の授業は女生徒が15人未満の場合に限り許されるが、教室はカーテンで仕切る必要がある。私立大で新たに作られる教室は男女別々にしなければならない。

教室への入室時も男女一緒に入らないようにする。女子生徒が祈りをささげるエリアを別に設ける必要もある。

大学は将来的には女子学生のために女性の教授を雇用しようとしなければならないが、移行期間は、女子生徒の指導において信頼できることで知られている高齢の教授を指名しなければならないとしている。

政治学を学ぶ21歳の女子学生はCNNの取材に対し、タリバンが女性の高等教育への参加を禁止しなくてうれしいと述べたが、新規則は厳しすぎるとも言い添えた。(後略)【9月6日 CNN】
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“一応”(いろんな条件付きながらも)女性の大学での教育を認めるとのことのようですが・・・。実際の運用をみてみないと評価できないところも。

なお、上記記事では「ヒジャブ」(頭を覆うスカーフ)を着けねばならないとされていますが、【AFP】では「ニカブ」とされています。
“タリバン、女子学生に顔覆う「ニカブ」の着用命令”【9月6日 AFP】

私の理解ではヒジャブとニカブは全く異なります。
ニカブは目だけを出して、目以外の顔は覆うもの。旧タリバン政権時代に女性に強要されていたブルカ(顔全体を多い、目の部分は網目になったもの)よりはましですが、顔の大部分は隠れてしまいます。

【パンジシール州での抵抗制圧? パキスタン軍介入?】
長引いているパンジシール州での故マスード司令官の息子であるマスード氏率いる抵抗勢力との戦闘に関しては、タリバン側は勝利したとしていますが、抵抗勢力側は否定しています。

****タリバン、パンジシール州での勝利を宣言 抵抗勢力は否定****
アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバンは、パンジシール州での勝利を宣言し、完全に制圧したと述べた。パンジシール州では2週間にわたって、抵抗勢力とタリバンとの間で戦闘が続いていた。

パンジシール州はアフガン全34州のうち最後までタリバンの支配に抵抗しており、今回の勝利宣言が事実なら、タリバンがアフガン全34州を実効支配したことになる。

しかし、パンジシール渓谷で戦っていた武装勢力「国家抵抗戦線(NRF)」の報道官はCNNに対し、渓谷全体で抵抗が続いていると述べた。

SNSに出回っている画像や動画には、パンジシール州の中心部とされる場所で建物にタリバンの旗が掲げられている様子がとらえられている。CNNは独自にこの画像の信ぴょう性を確認できていない。

タリバンの報道官はパンジシール州を完全に制圧したと述べた。
NRF側はパンジシール州中心部がタリバンの手に渡ったことについて否定はしなかったものの、パンジシール州は依然としてNRFの支配下にあると述べた。州都のあるバザラックの大部分や渓谷周辺はNRFの支配下にあるとしている。

NRFの指導者アフマド・マスード氏は5日、フェイスブックへの投稿で、戦闘の終了を呼び掛ける宗教指導者に支持を表明し、タリバンの武装勢力がパンジシール州や隣接するアンダラブ地区から撤退すれば対話の用意があると述べていた。

マスード氏の提案に対するタリバン側の公式な反応はない。
提案の発表後、NRFは報道官と幹部が死亡したことを明らかにした。【9月6日 CNN】
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状況ははっきりしませんが、軍事的にマスード氏らが孤立無援状態で抵抗を続けるのは難しいでしょう。

気になるのは、この戦闘でパキスタン軍の介入(空軍力でタリバンを支援)があったとの報道があることです。

****アフガニスタンめぐり“新映像” パキスタン軍介入か****
アフガニスタン全土をタリバンが制圧か。
周辺国の関与も指摘されている。

この映像は、タリバンが唯一支配していなかった反タリバン勢力の拠点で、5日に撮影されたとされるもので、上空に航空機のような影が見えたあと、攻撃される様子がとらえられている。

映像の提供者は、FNNに対し、「タリバンとの関係を強める隣国パキスタン軍による空爆」と説明。
イラン外務省も、「パキスタンの介入について調査中」としていて、周辺国による利害の対立が表面化している。

タリバンは日本時間の6日午後、全土の制圧を宣言したが、今のところ、反タリバン勢力側は認めていない。【9月6日 FNNプライムオンライン】
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タリバンの成立にパキスタンの軍情報機関ISIが関わり、長年タリバンを支援してきたことは周知のところですが、長引くパンジシール州の戦闘に、ISIはタリバン側と調整・仲裁を行っていました。

****反タリバン勢力との和平促す=アフガンでの対立拡大懸念―パキスタン****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンに影響力を持つ隣国パキスタンの軍情報機関、3軍統合情報局(ISI)のハミード長官は4、5両日、アフガンの首都カブールでタリバン幹部と会談した。軍当局筋によれば、ハミード氏はタリバンと反対勢力の武力衝突拡大に伴うアフガンの不安定化に懸念を表明し、和平締結を促した。
 
タリバンが唯一制圧できていない北東部パンジシール州では、崩壊した民主政権で第1副大統領だったサレー氏や、旧タリバン政権との戦闘で名をはせた故マスード司令官の息子アフマド氏らが武装闘争を続けている。8月下旬にいったん停戦が成立したが、その後もタリバンの攻撃はやんでいない。
 
パキスタン軍当局筋は、時事通信の取材に対し「タリバンが(反対勢力の意向をくんだ)包括的政府を早急に樹立しない限り、抵抗はアフガンの他地域に拡大する可能性があるとの情報を得ている」と明かした。実際に東部クナール州などで武装蜂起の動きが見られるという。これに対し、タリバン内部では、停戦を訴える派閥と戦闘継続を主張する派閥の対立があるとされる。
 
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は4日、米FOXテレビのインタビューで、アフガン情勢について「内戦に発展しそうな状況にある」との見解を示した。各地で戦闘が生じる事態になった場合、混乱に乗じて過激派組織「イスラム国」(IS)系武装勢力がテロを起こす恐れが強まる。パキスタンにとっても、対アフガン国境地帯での治安悪化は大きな懸念材料だ。【9月5日 時事】
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これ以上長引いて、抵抗が各地に広がることのないように、タリバン政権を支援するパキスタン軍が空軍力で介入した・・・ということでしょうか? 状況はよくわかりません。

【新政権人事の発表遅れる 穏健派と強硬派対立も】
上記パキスタンISI長官は、パンジシール州の戦闘だけでなく、発表が遅れている新政権人事についても調整を行っているようです。

新政権人事に関しては、穏健派と強硬派対立も報じられています。

****タリバン新政権発表に遅れ 穏健派と強硬派対立も****
国内統一を主張したイスラム原理主義勢力タリバンは新政権樹立に向けた準備を進めているが、人事をめぐる詰めの作業に時間がかかっている。内部に主導権争いがあるとの情報もあり、調整が難航すれば、8月15日の首都カブール制圧で生まれた「権力の空白」は継続する可能性がある。

地元メディアなどによると、閣僚は3日に発表される予定だったが延期されている。タリバンのムジャヒド報道官は6日の記者会見で新政権について、内部対立を否定しつつ、「いくつかの技術的な事柄が残っている」と述べた。発表時期は明言しなかった。

新体制の概要は明確になっていないが、穏健派の副指導者、バラダル師が指導的役割を果たす見通しだ。だが、この方針に対して組織内の強硬派が反発しているもようだ。また、米国や国連の制裁対象になっている人物を枢要なポストに据えるかについても議論が続いているという。

内部ではひとまず暫定政権を樹立して権力の空白を解消し、時間を置いて正式な政権を立ち上げる案も検討されている。

4、5日にはタリバンに影響力を持つとされるパキスタン軍情報機関「統合情報部」(ISI)トップがカブール入りし、タリバン側と協議を行った。人事について何らかの調整を行ったもようだ。

ただ、先進7カ国(G7)などが求める諸勢力代表や女性が参加する「包括的政府」の実現は見通せない状況だ。

アフガン国家予算の大半は国際支援で賄われていたが、欧米を中心にタリバン新政権の動向を見極めるまで支援を停止する動きが広がっている。新タリバン政権がイスラム原理主義色の強い顔ぶれとなれば、支援の再開は遠のく可能性が高い。【9月6日 産経】
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【タリバンと欧米 現地在留者と国際支援をそれぞれが「人質」にとる形で綱引き】
タリバンにとって問題は、上記記事にもあるように、海外資産・国際支援が凍結されており、国内統治に必要な資金が確保出来ていないことです。

****タリバン、国際資金枯渇の危機:米ドルで三重苦 アフガニスタンの財源は?****
<破綻も時間の問題か>
アフガニスタンの首都カブール陥落前夜の8月14日。
住民たちは資産を引き出すために銀行やATMに殺到した。銀行の前には、すべてのお金を引き出そうと延々と長い行列ができた。

しかし、お金をおろすことはできなかった。銀行は閉鎖されてしまい、今も閉鎖されている。そして絶望した人たちは、国外に亡命しようとしている。

また、外国に住んでいる家族や事業仲間からの送金に頼っている人にとって、重要な送金事業者であるWestern Unionも機能していない。

アフガニスタンの経済は、全体から見れば主に現金払いで成り立っているので(現物支給もある)、人々の日常生活に今のところは大きな支障は出ていない。

しかし、国の運営資金は別である。アフガニスタンでは、国際的な資金が次々と枯渇している。
米国当局はドル送金を停止、国際通貨基金(IMF)は支払いを凍結し、国内総生産(GDP)の42%を占める国際援助はほぼ停止している。フランスの『ル・モンド』紙が伝えた。

いわば三重苦に陥っていると言える。ほぼ完全に外貨が凍結された状態で、この国はどれだけ持ちこたえることができるだろうか。(後略)【8月30日 Newsweek】
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タリバンの(表面的な)融和路線は、こうした財政事情を背景に、どうしても国際的承認を得たい思惑があってのことですが、欧米側もアフガニスタン国内に残る自国民・現地協力者の国外退避や新政権の今後の統治方針に関してタリバン側の配慮を求めており、現地在留者と国際支援をそれぞれが「人質」にとる形で、タリバンと欧米の駆け引き・綱引きが行われていると推測されます。

****タリバンが人道支援「保証」…空港では米国人ら千人足止め、政府承認までの「人質」か****
アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバンの政治部門トップ、アブドル・ガニ・バラダル師は5日、国連のマーティン・グリフィス事務次長(人道問題担当)と首都カブールで会談し、国際社会からの人道支援が国民に行き渡るよう、国連などと協力する考えを明らかにした。
 
同国では4日から国内旅客便の運航が再開しており、タリバンは国内交通網を復旧させ、支援の受け入れに向けた準備を急いでいる。
 
国連によると、5日の会談でグリフィス氏は、食糧難など人道状況が悪化する同国への支援継続を表明し、人道支援で女性が果たす役割の重要性などを訴えた。これに対し、タリバン側は人道支援に関わる人々の安全や移動の自由が「保証される」と明言した。
 
一方、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は5日、アフガン北部マザリシャリフの空港で、米国人やアフガン人協力者ら約1000人が5日間にわたって足止めされていると報じた。国外に退避するためのチャーター便の離陸をタリバンが許可しないためだという。
 
バイデン政権は米軍撤収後も米国人らの退避を支援する方針だが、タリバンが出国を認めない限り実現は難しい。米下院外交委員会のマイケル・マコール議員(共和)は5日のFOXニュースで、「タリバンは米国から(政府としての)承認を得るまで米国人の出国を認めないだろう」と述べ、米国人らが「人質」になっているとの見方を示した。【9月6日 読売】
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ベトナム  「優等生」国の感染爆発 食料買い出し禁止のロックダウンに兵士投入 「工場隔離」は限界

2021-09-05 22:50:11 | 東南アジア
(ホーチミン市 兵士が市民に食料品を配布する様子【8月30日 「ぽすてぃーど」 こうした方法で900万人をカバーできるのでしょうか?】)

【デルタ株で状況一変 感染爆発、日に日に悪化 ワクチン遅れが足かせ】
ベトナムでは今年4月頃まで新型コロナ感染を最小限に封じ込め、台湾と並んで対策の「優等生」とも称されていましたが、5月、6月に入ると1日の感染者が200~300人に増え、7月になると一気に感染爆発状態に、8月には連日1万人を超えるような状況となっています。(9月2日は13192人)

背景には感染力の強いデルタ株拡大がありますが、これまでうまくいっていただけにワクチン接種も進んでおらず、事態を悪化させている面もあるようです。

****優等生ベトナム、デルタ型につまずき 感染者連日1万人****
新型コロナウイルス対策の「優等生」だったベトナムが一転、苦境に陥っている。南部の最大都市、ホーチミン市を中心に連日1万人強の新規感染者がでており、死者も1日当たり300人台で高止まりする。

感染力の強いインド型(デルタ型)の猛威によって、今春まで機能していた厳格な防疫対策に誤算が生じ、ワクチンの調達も遅れが目立っている。

「封じ込めに失敗すると、人々の生活がさらに困難になってしまう」。ファム・ミン・チン首相は11日に開かれた政府の定例会議で、コロナが収束するメドが立たない現状に危機感をあらわにした。

「どんな犠牲を払ってでも封じ込めなければならない」とも強調し、一時的な経済悪化はやむを得ないとの認識も示した。国営メディアでたびたび報じられる首相の表情は厳しさを増し、日に日に悪化する状況が浮き彫りになっている。

ベトナムは周辺国と比べて、早い段階からコロナの封じ込めに動いた。共産党の一党支配体制を生かし、公安を動員した感染者や濃厚接触者の徹底的な追跡や厳格な隔離によって、感染者を大幅に抑えてきた。

2020年は経済にもプラスに働き、同年の国内総生産(GDP)成長率は前年比2.91%のプラス成長を維持している。20年の名目GDPはシンガポール、マレーシアを上回り、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国の4位に躍進した。

4月末の時点では累積の感染者は3千人に満たなかったが、後に明らかになるデルタ型のウイルスが状況を一変させた。感染拡大の発端は海外から入国した外国人の隔離ホテルとみられている。感染者はすぐに全土に広がった。

濃厚接触者も例外なく隔離施設に強制収容する得意の防疫策をすぐに実施したが、デルタの猛威の前に歯が立たず思うように機能しなかった。

ホーチミン市では8月23日から食料品を購入するための外出も禁止され、監視を強めるため軍隊が動員された。政府はワクチンに頼らずともコロナを封じ込めた過信から「結果として情勢を見誤った」(外交筋)とみられている。

同国の人口は1億人弱。ASEANでインドネシア、フィリピンに次いで人口が多い。人口が多い国での頼みの綱は相対的に入手がしやすい中国製ワクチンだが、ベトナムは南シナ海の領有権問題を抱えており、中国製への依存は国民の反発が強い。

一方で欧米製のワクチンの大量調達には時間がかかっており、ワクチンの接種完了率はASEAN最低水準の2%程度にとどまっている。

政府は現在、感染拡大が続くホーチミン市を中心とした南部に優先的にワクチンを配分している。経済の中心である同市の復興を急ぎつつ、21年4月までに国民の7割にワクチンを接種したい考えだ。

企業自らワクチンを確保することも奨励しているが、世界的なワクチン不足が続いており、調達は全般的に後ろ倒しになっている。目標の達成には高いハードルがある。

ベトナムは1月に5年に1度の共産党大会で党や政府幹部の刷新を決め、新内閣が正式に発足する4月まで政治的な空白が生じた。そのため、海外企業とのワクチン交渉が進まなかったと指摘する声もある。

政府は21年に6.5%の経済成長を掲げているが、ワクチン接種の遅れで外出禁止などの厳しい防疫を当面は継続せざるを得ない状況だ。高成長維持の足かせになるだけでなく、国民の不満もじわじわ高まっている。共産党や政府は難しいかじ取りを迫られている。【8月30日 日経】
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【ホーチミン市 食料買い出しも禁止 兵士がコメ、肉、魚、野菜を届ける】
感染拡大の震源地となっている南部の最大都市ホーチミン市(旧サイゴン)では、8月23日からはそれまで以上の厳格なロックダウンが実施されています。

それまで例外として認めていた生活必需品を購入するための外出も原則禁止となりました。このため、政府は市内に軍兵士を投入し、市民の食料品調達を請け負い、配達しています。

でも、ホーチミン市の人口は約900万人・・・すべての市民の食料品調達を兵士が行うなんてことが本当にできるのでしょうか・・・。

****ベトナム厳格な都市封鎖、ホーチミンに軍派遣 食料買い出し禁止****
ベトナム政府は23日、新型コロナウイルス流行の震源地となっている最大都市ホーチミン市で厳格なロックダウン(都市封鎖)を実施するため、軍隊を派遣した。

同国の累計の感染者は34万8000人、死者は少なくとも8277人。昨年の大半の期間は、感染が抑制されていたが、感染者は足元で過去最多を記録。感染者・死者の大半を占めるホーチミン市とその周辺の工業地帯では、4月下旬以降、デルタ株の流行で感染が急増している。

ベトナム政府は7月初旬にホーチミンに移動制限を導入したが、感染拡大に歯止めがかからず、制限措置の施行が不十分との見解を示していた。

政府は20日、今月23日からロックダウンを厳格化すると発表し、食料の購入も含めて外出を禁止、軍が市民を支援すると説明していた。

その後、計画は修正され、一部の地域では食料の買い出しが認められたが、その後一転して全面禁止となり、週末はパニックに陥った顧客でスーパーマーケットが混乱した。

目撃者によると、23日には兵士が市民に食料を届けており、国営メディアは、武装した兵士が検問所で書類をチェックする映像を流している。

保健省によると、ホーチミンの累計感染者は17万6000人、死者は6670人で、感染者は国内全体の50%、死者は80%を占めている。

政府は、医療体制の逼迫を緩和するため、ここ数週間で医師・看護師1万4600人をホーチミンと近隣の州に追加派遣。軽度か無症状の患者は自宅隔離を求められている。

ホーチミン市内の住民がロイターに明らかにしたところによると、兵士からはコメ、肉、魚、野菜が届けられた。
政府は20日、国家備蓄から13万トンのコメを放出し、ホーチミンなどに届ける方針を示した。

同国でワクチン接種を完了した人は、人口の1.8%にとどまっている。【8月23日 ロイター】
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首都ハノイでもロックダウンが続いており、感染が確認された地区は路地も封鎖されています。

****身近な物で即席バリケード 都市封鎖のベトナム首都ハノイ***
ベトナムの首都ハノイでは、新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるため、竹ざおやビールの空き箱、はしご、壊れた椅子といった身近な物で即席のバリケードが作られている。
 
ハノイではロックダウン(都市封鎖)が1か月以上続いているが、1日当たりの新規感染者数には変化が見られない。移動制限は強化され、細かく分けられた区域間の往来は非常に難しくなっている。

「刑務所に住んでいるみたいだ」と、ホー・ティ・アンさんは話す。
アンさんの住む区域で感染が確認されて以来、自宅に続く路地がすべて封鎖され、誰も出入りができなくなった。家族が3日に一度、食料を持ってきて、周辺を取り囲む鉄製バリケードの下に置いて行ってくれる。
 
ハノイの1日の感染者数は50〜100人と比較的落ち着いている。だが、経済の中心地、南部のホーチミンの1日の新規感染者数は数千人、死者は数百人と深刻化しており、ハノイでも感染が拡大するのではないかとの不安が広がっている
 
ベトナム全体ではこれまで、1万1000人以上が死亡している。 【9月3日 AFP】
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【無理がある「工場隔離」 世界のサプライチェーンにも影響】
こうした厳しい状況のもとでも何とか生産活動を維持するため、従業員が工場に寝泊まりしながら働く「工場隔離」が行われています。

しかし、やや無理があるとも思われるそうした対策は限界に達しており、「脱中国」の受け皿となってきたベトナムの生産活動の停止は世界経済にも影響を与え始めています。

****「工場隔離」限界、ベトナム暗転****
「脱中国」を志向する製造業の受け皿になってきたベトナムが、感染力の強い新型コロナウイルスのデルタ株の広がりで、世界的な部品供給網のリスクになり始めた。背景には、ワクチン接種の遅れから、感染封じ込めの切り札として導入された「工場隔離」がある。
 
「ほかにも私たちみたいな会社はありますか? 『工場隔離』の追加手当は1日2万ドン(100円)」
ハノイ郊外の工業団地にある日系電子部品メーカーの工場で働くヒウさん(34)は8月9日、フェイスブックでこう問いかけた。

3日後、工場のコロナ対策として、従業員が寝泊まりしながら働く工場隔離が始まることになっていた。いつ家に帰れるかは分からない。迷った末の行動だった。
 
「手当が安すぎる。他の仕事を探した方がいい」「会社も今は厳しい。働けるだけマシ」。多くのベトナム人から賛成や反対の意見が相次いだ。
 
しかし、実はヒウさんに選択肢はなかった。タクシー運転手の夫はコロナによるロックダウン(都市封鎖)で失業中。小学生の息子が2人おり、収入がなければ暮らせない。「家族から離れて働くなんて誰もやりたくない。でも今はやらざるを得ない。子どもに会えないのがとにかく寂しい」。隔離を始めて数日後、そう打ち明けた。
 
世界で新型コロナの感染が拡大した昨年、ベトナムは感染者数を抑えて、世界保健機関(WHO)からコロナ対策の「優等生」と称賛された。

しかし、今年4月末からデルタ株の蔓延(まんえん)で感染が急拡大。7月に入って最大都市ホーチミンがある南部で連日、数千人規模の感染者が報告されるようになった。そこで政府が導入を決めたのが工場隔離だ。感染地域の工場は、従業員が敷地内などの特定の宿舎に寝泊まりして働くことが操業の条件となった。

 ■足りぬ寝具や食料、ワクチンも進まず
ところが数百人分の宿泊場所や寝具、食料を確保できず、操業停止に追い込まれる工場が相次いだ。操業できても、従業員を通常の半分以下に減らして稼働率が大幅に下がった工場は少なくない。

スマホアプリのTikTokでは、工場内に敷いた段ボールやテントで眠る様子を撮影し、「家に帰りたい」「コロナが怖い」と訴える動画が拡散している。企業からも「従業員はもう限界だ」との声が出ている。
 
一方、感染者ゼロを前提としたベトナムの工場隔離政策が、世界的なサプライチェーン(部品供給網)を寸断するリスクを顕在化させ始めた。
 
ベトナム保健省によると、韓国のサムスン電子は7月中旬、ホーチミンにある16工場のうち3工場で感染者が確認され、操業停止を余儀なくされた。ナイキやアディダスのスポーツシューズを製造し、5万人以上を雇用する台湾の宝成工業は工場隔離に対応できず、1カ月以上操業できていない。
 
ベトナム繊維協会によると、衣料品工場の3割が操業を停止した。大半は中小企業で、宿泊施設や食料の資金を確保できない。仕事を失った労働者が都市部から故郷に帰る動きも目立つ。
 
政府のやり方に対する異論も産業界などから出ている。地元メディアによると、食品業界の関係者が視察に訪れた政権幹部に対し、「工場隔離は機能しない」と訴えたという。社会主義体制のベトナムでは異例のことだ。
 
ベトナムで新型コロナの感染が下火にならない理由の一つに、ワクチン接種の遅れがある。WHOなどが主導する国際的な調達の枠組み「COVAX(コバックス)ファシリティー」を中心にワクチンを確保する戦略だったが機能せず、2回の接種を完了した人は人口の約3%にとどまる。

日本や欧米、中国から提供を受け、南部の住民を優先して接種を急いでいるが、欧州の外交関係者は「当初、感染封じ込めがうまくいき、ワクチン確保の優先順位が下がった面もある」と指摘する。
 
昨年は新型コロナの感染拡大が中国から始まったことで、過度な中国依存への警戒感が強まった。米中貿易摩擦への懸念もあって生産を移す動きも目立ち、ベトナムは「脱中国」の受け皿として世界のサプライチェーンの中で存在感を高めていた。
 
それだけに生産の停滞をめぐる危機感は強く、有名ブランドなど1千社でつくる米国アパレル・フットウェア協会は7月下旬、バイデン大統領にベトナムへのワクチン支援を求める手紙を送った。ベトナムは衣料品輸入の2割を占めており、「米国のアパレル産業の成功がかかっている」と訴えた。
 
今回の混乱を受け、すでにアップルやグーグルがベトナムで計画していた新製品の製造を中国に戻したという報道も出ている。ベトナムは製造業を中心に外国からの投資を呼び込むことで急速に発展し、2019年までの5年間は国内総生産(GDP)の成長率が平均6・7%を超える。だが、世界銀行は8月下旬、21年の成長率の予想を6・8%から4・8%に引き下げた。
 
ホーチミン食品協会のリ・キム・チ会長は「このままでは受注や投資の機会を失う。政府は現実を受け入れて柔軟に対応するべきだ」と主張する。

 ■日本企業は大打撃、生産国移す動きも
ここ数年、ベトナムに生産拠点を集めてきた日本企業も大きな打撃を受けている。トヨタ自動車は8月19日、感染拡大によりベトナムなどで部品の生産が滞った影響で、9月の世界生産を約36万台減産すると発表した。
 
日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、日本のワイヤハーネス(組み電線)の輸入先はベトナムがトップで4割を占める。他にもモーターや自動車シートなど様々な日系メーカーの工場が全国にあり、トヨタ以外の自動車メーカーにも波及する可能性がある。
 
日系企業の中には、ベトナムより感染対策の規制が厳しくないタイや中国に生産の一部を移す動きも出ている。
 
ホーチミン日本商工会議所の水嶋恒三会頭は「工場隔離を続けたままでは経済が立ちゆかなくなる。対応を誤れば、築き上げた生産拠点としての魅力が失われ、長期的には『ベトナム離れ』を招きかねない」と危惧する。

 ■(point of view 記者から)まず守るべきは、現場の人
「コロナ禍で生活費を稼ぐためには仕方ない」。工場隔離について最初はそう思っていた。しかし、取材を通じて考えが変わった。家族に会えずに働くベトナム人が支えているのは、大量の生産と消費で成り立つ先進国の経済であり、その恩恵を受ける私たちだ。
 
状況を改善するにはワクチン接種を進めるしかない。しかし、ベトナムはワクチンの確保に苦労しており、接種を完了した人は人口の3%にとどまる。一方で、先進国では、世界保健機関(WHO)の反対にもかかわらず、3回目接種の実施や準備が進む。
 
日系企業では管理職の日本人も工場内にとどまっている。「現場で働き続けている人たちは精神的にも肉体的にも限界だ」というホーチミン日本商工会議所の水嶋恒三会頭の言葉が重く感じられる。
 
サプライチェーンを守るということは、現場で働く人たちを守ることだとあらためて実感した。【9月5日 朝日】
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ひとつだけ付け加えておくと、ベトナムを観光旅行しても社会主義国のイメージが全くありませんが、政府批判は許されない国です。新型コロナ対策でも同様でしょう。

****ベトナム、反政府ブロガーに長期禁固刑*****
「ベトナム共産党」による1党独裁政治が続く東南アジアのベトナムは、体制維持のために報道統制を強め、事実上の報道管制体制を敷いており、政府寄りの報道機関以外は公式には存在を許されていない。

そんな中でも当局の警戒監視、身柄拘束などの危険を覚悟でベトナム共産党の問題点を告発する報道関係者や個人での情報発信者がインターネット上のSNSなどを通じて懸命にベトナム政府の人権問題や政治犯問題、国内経済問題、土地収用問題、環境破壊問題などに言及して、国際社会を含めた内外に実態を伝える努力をしようとしている。

そんな中、7月19日と20日にSNSで情報発信を続けていたブロガー2人が裁判所から禁固9年と同5年の実刑判決を受けたことが明らかになった。

フランス・パリに本拠を置く国際的なジャーナリスト団体「国境なき記者団(RSF)」が毎年公表している「報道の自由度」の2021年の結果でベトナムは180カ国中、175位と低く評価されている状況が続いている。東南アジアショック連合(ASEAN)加盟10カ国でもベトナムの評価は最低となっている。(後略)【7月30日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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ロシア  17日から下院選挙 「国民に支持されている」という政権の正当性を演出するための儀式?

2021-09-04 22:33:48 | ロシア
(モスクワで8月14日、下院選での反与党投票を呼びかるプラカードを掲げて警察に連行される男性=AP【9月4日 朝日】)

【かつてないほど自由が失われ、政権の正当性を演出するための儀式と化したロシアの選挙】
ロシアでは今月17日から19日に下院選挙が行われます。

前回2016年は、選挙前に選挙制度を改正し、比例代表制から小選挙区比例代表並立制に変更。これにより与党「統一ロシア」小選挙区で圧勝し、前々回選挙とほぼ同じ得票率にもかかわらずより多くの議席を占有することができました。

その後、与党「統一ロシア」の支持率は低迷しており、下記記事のように、議会の過半数を死守することは確実なものの、比例区での不振による議席減を予想する向きもあります。

****議席の減少が見込まれる与党・統一ロシア ****
9月17日から19日まで、ロシアで総選挙が行われる。下院(国家院)の定数は450議席、小選挙 区比例代表制度で議員が選出される。

最大の注目点は、前回2016年の総選挙で343議席(定数の 76%)を獲得したプーチン大統領が率いる与党・統一ロシアが、議席をどの程度守ることが出来るかにある。

前回2016年の総選挙で、統一ロシアが獲得した得票率は54.2%と前々回(2011年)とほぼ同じ であった。しかしながら小選挙区225区のうち203の選挙区で勝利したため、比例区で得た140議 席と合わせて統一ロシアは343議席を獲得し、前々回(238議席)から議席を大幅に積み増すこと ができたという経緯がある。

その後、統一ロシアの支持率はプーチン大統領に対する有権者の不信感から低下し、世論調査 機関である FOM(世論基金)が8月8日に公表した世論調査によれば、最新の支持率は29%と低 迷している。

とはいえ第二位のロシア共産党の支持率も11%に過ぎず、統一ロシアを脅 かすまでには至っていない。 

今回の総選挙でも統一ロシアは、小選挙区では支持者が多い地方を中心に相応の議席を獲得す ると予想される。一方、比例区では支持率の低下を反映して厳しい結果を余儀なくされるだろう。 

議会の過半数を死守することは確実とみられるが、統一ロシアは議席の減少をどれだけ食い止め ることができるだろうか。【8月20日 三菱UFJリサーチ&コンサルティング】
***********************

まあ、現地情報を有している機関の予測ですから、そうなのかもしれませんが、プーチン大統領は下院選に向けて反政府候補の排除、野党に対する弾圧、有権者支持層への資金バラマキなどなりふり構わぬ対策を講じており、本当に与党の議席が減るのか疑問も感じます。

もはや選挙は「民意の反映」ではなく、「国民に支持されている」という政権の正当性を演出する、大半の国民にとって無意味な儀式と化してしまった感もあります。

*****プーチン政権批判派の弾圧、加速 ロシア下院選、17~19日****
任期満了に伴うロシア下院選(定数450)が17~19日、行われる。プーチン政権は2024年の大統領選をにらんで反政権派を締め付けており、かつてないほど選挙の自由が失われている。
実質21年の長期支配でライバルを排除してきた政権が、なぜ弾圧を加速させているのか。
 
先月17日午後10時過ぎ、モスクワにある会社経営者(50)の男性の自宅で玄関のブザーが鳴り響いた。
男性は不在で、妻は既に寝ていたが、ブザーは鳴りやまない。ドアを開けると、警察官2人がたずねた。「夫はナワリヌイの支持者か?」

驚いた妻は男性に電話。「何も話すことはない」と男性の言葉を伝えると、警察官は「また来る」と言って去ったという。

アレクセイ・ナワリヌイ氏は政権批判の急先鋒(きゅうせんぽう)。2月に詐欺の罪で収監され、同氏が率いる「反汚職基金」など3団体も6月、違法な「過激派組織」に指定され、解散や活動停止に追い込まれた。

人権団体OVDインフォによると、今春、ナワリヌイ氏の関連団体のサイトから十数万人もの支持者のメールアドレスが漏出。選挙の1カ月前から被害者宅への警察官の戸別訪問が1千件以上確認されたという。(中略)

メディアでも4月以降、ネットテレビ「ドーシチ」など6社が「外国エージェント」に指定され、外国の資金援助を受けているとして活動を制限された。ロシアでは「外国の手先」と受け止められる言葉だ。

以前は「ボイス・オブ・アメリカ」など外国の政府・機関が関わるメディアが主な対象だったが、今年から国内の独立系メディアも標的になった。国営メディアが政権のプロパガンダを流す中、政権批判を続けてきたが、企業が一斉に広告を引き揚げており存続の危機に直面している。

 ■無所属での立候補、163人認めず
9月の下院選は、36年までのプーチン大統領の続投を可能にした昨年の憲法改正後、最初の国政選挙。与党「統一ロシア」の圧勝は政権の最優先課題だ。

プーチン氏は00年の就任後、ソ連崩壊後の混乱からの脱却を期待した国民の高い支持を受けた。しかし、野党への締め付けも強め、リベラル系政党は07年以降、下院の議席を得られていない。現在は74%を占める統一ロシアのほかは「体制内野党」の3党だけだ。

それでも下院選を前に独立系候補は軒並み排除された。ロシアメディアによると、無所属で立候補を表明した174人のうち中央選管が出馬を認めたのはわずか11人だった。

「体制内野党」の共産党で比例名簿3位だったパーベル・グルジニン氏も未申告の保有株があるなどとして立候補を却下された。同党は政権への不満を吸収する一方、主な政策は政権に同調し、実質的に体制を支えてきた。最近、支持率が伸びていることが警戒されたとみられている。

一方、結果の見えている選挙に関心は高まらず、世論調査で投票に「必ず行く」と答えた人は約50%にとどまる。経済学者のウラジスラフ・イノゼムツォフ氏は先月19日、「投票することは、政権の正当化に手を貸すだけだ」と、国民にボイコットを呼びかけた。

 ■「体制維持、国民が支持」演出狙う
与党の勝利が間違いないのに政権が弾圧を強める背景には、次の大統領選をまたいで平穏に体制を継続する狙いがあるとみられる。

プーチン氏の支持率は60%台を維持するが、政権の長期化や汚職の蔓延(まんえん)、実質賃金の低下などへの国民の不満から、統一ロシアは先月、26%台まで下がった。

プーチン氏は24年の大統領選への態度を明言しておらず、立候補の可能性は低くない一方、後継者を指名して「院政」を敷く可能性も指摘されている。ただ、どちらも治安機関出身者らが支配する「プーチン体制」維持が大前提。

体制が揺らげば欧米の介入を招き、「アラブの春」のような政変につながるとの懸念もある。体制内の動揺を防ぐには、議会で一強を維持し、「国民に支持されている」という政権の正当性を演出する必要がある。

モスクワのシンクタンク「政治情報センター」のアレクセイ・ムヒン所長は「『移行期』の議会は、政権のシステムの一部でなければならない」という。

体制の維持は、国民の高い支持を背景に、ソ連崩壊で失墜したロシアの威信回復に注力してきたプーチン氏の外交にも影響する。

ウクライナのクリミア半島を一方的に併合。シリア紛争に軍事介入してアサド政権を支え、アフガニスタンで実権を握ったイスラム主義勢力タリバンとも関係を築いてきた。欧米との対立を深める一方、存在感は着実に増しており、「強いロシア」を維持するためにも、強固な国内基盤が不可欠になる。【9月4日 朝日】
*********************

“欧米との対立を深める一方、存在感は着実に増しており”・・・とは言っても、強権支配の色を濃くしたロシアは、「プーチンによるプーチンのための強権支配国家」に堕ちつつあり、もはや世界をリードする立場にありません。

****ロシア下院選の後に来るもの 遠のく大国、強まる閉塞感****
ロシアで9月17~19日、下院選が実施される。1強体制を築いたとはいえ、プーチン大統領にとって議会は自らの権威付けや次の大統領選をにらみ重要だ。

一方、大半の国民にとって選挙は無意味な儀式と化してしまった。

「新議会にこれらを支持するようお願いする」「経験豊かな人々により立法活動が継続される必要がある。もちろん若い世代の登場も重要だ」――。8月24日、プーチン氏は与党「統一ロシア」の党大会で演説し、選挙後に優先する政策を示した。その姿はすでに勝利が決まっているかのように余裕に満ちていた。

与党の支持率は低迷している。8月の世論調査では27%にすぎない。2位の共産党(16%)を上回っているが、不本意な数字だろう。なのにこの自信はどこから来るのか。

前回2016年の下院選で、比例代表制から小選挙区と比例代表で半数ずつを選ぶ方式となった。この結果、小選挙区は与党の強みを生かし大勝し、全体では450議席のうち343議席を得た。

今回も抜かりはない。毒殺されかかったことで世界的に注目を集めた反体制派指導者ナワリヌイ氏は収監されたまま。6月には同氏の支援団体を新法で過激派組織と認定し、選挙活動をできなくした。

ロシアでの公正な選挙を目指す団体「ゴーラス(声)」によると、下院選に出馬できなくなった人は約900万人と有資格者の8%に及ぶ。さらに政権側が選挙を有利にするため、16年の下院選以降、選挙関連法が少なくとも19回改正されたという。

野党陣営が仕掛けたネットを利用した戦術も使えなくなる見通しだ。これは、有力な野党候補の出馬が認められないなか、残る野党候補のなかから資質や能力に関係なく1人を選び、投票を呼びかけるというもの。与党候補を落選させることだけが目的で、事前に当局に邪魔されないよう投票日直前に一斉にメールで有権者に知らせる手法だ。

19年のモスクワ市議会選では統一ロシアの議席を3分の1近く減らすなど奏功したが、政権側は今年6月、サイトの閉鎖を要請した。

一方、新たに投票権を得るのが、親ロシア派が支配するウクライナ東部のロシア系住民だ。プーチン政権は19年から彼らにパスポートを支給し「ロシア化」を進めているが、今回投票を認めるという。ロシア内務省によると、その数は52万人強に達する。

「現代ロシアで最も自由がない選挙」。ゴーラスがこう指摘するほどの徹底ぶりだ。プーチン氏は20年に憲法を改正。24年の大統領選に出馬し、最長36年まで君臨する道を開いた。再び憲法を改正する状況が来るかもしれない。それに必要な議席は最低でも確保し、できれば現状から上乗せする腹づもりだ。

選挙後は権威主義的傾向が強まることが予想される。今回、党の顔とされる比例区のトップにショイグ国防相、ラブロフ外相らが起用された。前者は国民の信頼が厚い軍で確固たる地位を築き、後者は西側への強硬発言で国民の人気が高い。前回選挙で比例区トップだった学者肌のメドベージェフ前大統領から代わり党のムードも変化しそうだ。

それは新たな与党候補の顔ぶれにも表れている。18年に米国で未登録で工作活動していたとして有罪となった女性、強硬発言で有名な評論家、ウクライナ東部の分離主義者の元指導者……。プーチン体制の申し子らが加わった。

一方で、国民に選挙への熱気や期待感はない。既存の野党は「体制内野党」で、政権と真っ向対立することはない。ライバルなき選挙は、ソ連時代に共産党候補しか事実上、立候補できなかった最高会議の投票のようなものだ。

その最高会議は党の決定を追認するだけの存在だった。いまの議会もプーチン体制を支えるためにあるといっても過言ではない。選挙後さらにお飾り感が増すのは確実だ。

ソ連時代、大半の最高権力者は死ぬまでその座にとどまった。プーチン氏も踏襲するのか。先祖返りしているロシアだが、同氏の思惑とは裏腹にもはや大国の面影はない。かつてと似ているのは国内を覆う停滞感と閉塞感だ。【8月31日 日経】
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【選挙監視団体の活動制限、支持層への資金バラマキも】
プーチン政権の総選挙勝利に向けた取り組みには下記のようなものも。

****ロシア、選挙監視団体スパイ認定 下院選前に活動制限の狙い****
ロシア法務省は18日、独立系の選挙監視団体ゴロスを「外国の代理人として活動する非登録組織」リストに掲載したと発表した。ロシアで「外国の代理人」はソ連時代からスパイ組織に使われてきた呼称。
 
9月中旬の下院選を前に、過去の選挙でプーチン政権与党「統一ロシア」側の不正を暴露して市民の抗議デモを招いたゴロスに信用をおとしめるレッテルを貼り、活動を制限する狙いがあるとみられる。
 
インタファクス通信などによると、アルメニア人から資金提供を受けていることが認定理由とされた。ゴロスの共同代表は18日「有権者の権利擁護のため活動を続ける」と表明した。【8月19日 共同】
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不正が露見しないように・・・ということでしょうか。
支持層にはバラマキで懐柔。

****ロシア、物価対策で軍職員と年金受給者に一時金支給へ=大統領****
ロシアのプーチン大統領は、今年のインフレ率が予想を上回っている状況への対策として、政府が年金受給者と軍職員に一時金を支給すると表明した。ロシア通信(RIA)が報じた。

11月の議会選に向け、食品価格上昇は大統領府(クレムリン)にとってデリケートな問題となっている。

RIAによると、大統領は与党・統一ロシア指導部に対し、インフレ率は予想の4%を上回る6.5%に達しており、対応するには現状の賃上げ計画では不十分と指摘。「当然、一部の集団の所得を拡大する必要がある」と述べた。

具体的には、軍職員には1万500ルーブル(202ドル)、年金受給者には1万ルーブル支払われるという。【8月23日 ロイター】
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【収監中のナワリヌイ氏】
反政府抗議行動を組織し、プーチン大統領の存在を脅かしかけた野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は依然獄中にあります。

****ロシア当局、収監中のナワリヌイ氏をデモ呼びかけで訴追…刑期延ばす狙いか****
ロシア連邦捜査委員会は11日、刑務所に収監している反政権運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が、「国民の人格や権利を侵害する団体」を創設し、今年1月に反政権デモを呼びかけたとして、刑事訴追したと発表した。有罪の場合、最高刑は禁錮3年で、ナワリヌイ氏の刑期を延ばす意図があるとみられる。
 
連邦捜査委は、ナワリヌイ氏が2011年にプーチン政権の不正を追及するため創設した「反汚職基金」を問題視した。裁判所は今年6月、この団体を「過激派組織」に認定し、国内での全活動を禁止した。
 
ナワリヌイ氏は今年2月、過去の詐欺事件を巡る執行猶予が取り消され、2年6月の禁錮刑に服している。連邦捜査委は、反汚職基金などに寄せられた寄付金をナワリヌイ氏が私的流用した容疑についても捜査に着手している。【8月12日 読売】
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****まるで中国の強制労働収容所 ナワリヌイ氏、初の獄中インタビュー****
(中略)ナワリヌイ氏は、首都モスクワから東に約100キロ離れたポクロフの収容所に収監されている。
 
25日付の米紙ニューヨーク・タイムズに掲載されたインタビューの中で、ナワリヌイ氏は旧ソ連の収容所「グラグ」での強制労働の時代は終わり、代わりに洗脳とプロパガンダによる「心理的暴力」が行われていると語った。
 
(中略)「中国の強制労働収容所のようなものを想像する必要がある。皆が一列になって行進し、至る所に監視カメラがある、常時管理されており、密告の文化がある」と語った。

受刑者は監視下で国家のプロパガンダを何時間も見せられ、何かを読んだり書いたりすることは許されず、眠ると起こされるという。
 
ナワリヌイ氏はプーチン政権の将来について、楽観的な見方を示し、いつかは終わると主張した。「遅かれ早かれ、この過ちは正され、ロシアは民主的で欧州的な発展の道を歩みだす。国民が望んでいるというだけのことだ」
 
一方、欧米諸国によるロシア制裁については、権力者ではなく庶民にダメージを与えるものだと再度批判した。
また、他の受刑者らから暴行を受けたことはなく、一緒に食事を作るのは「楽しい」とさえ語った。 【8月26日 AFP】
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【これで与党勝利なら、それはロシア民主主義が終焉した証】
一方、ロシアでは新型コロナで月に5万人以上が死亡する状況となっています。

****ロシア、7月の新型ウイルス死者5万人超か 政府発表の2倍以上****
ロシア連邦統計局は27日、同国の7月の新型コロナウイルスの死者数は5万421人だったと発表した。これは政府発表の2倍以上に当たる。
 
政府の発表では先月の新型ウイルスの死者数は2万3349人とされており、統計局の発表は被害の状況がずっと深刻であることを示している。
 
政府統計は、検視後に新型ウイルスが死因だと確認された死者のみを対象としている。一方で統計局は、より広い定義で死者数を公表している。同局によると、ロシアではこれまでに35万人以上が新型ウイルスが原因で死亡。政府は、これよりずっと少ない18万41人だとしている。
 
ロシア当局はこれまで、感染拡大の影響を軽視していると非難されてきた。当局は新型コロナウイルスワクチンに懐疑的な人への対応に苦慮しており、民間の調査によると国民の大半が接種の予定はないと答えている。 【8月28日 AFP】
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こうした状況でも、与党が勝利する、あるいは大きく議席を減らすことはなかった・・・ということであれば、それは国民から支持されたのではなく、ロシアにおける民主主義が死につつあるからに他ならないからでしょう。
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中国  習近平版「文化大革命」が進むなか、大連「日本街」営業停止 微妙な対日感情

2021-09-03 23:12:10 | 中国
(「盛唐・小京都」の商店街=2021年8月25日 大連【9月2日 朝日】
よく見ると日本語表示の看板などもあるようですが、全体の雰囲気は中国各地にある古い街並みをアピールした土産物屋街「〇〇古鎮」そのものです)

【習近平版「文化大革命」】
このところ連日のように中国における娯楽産業の規制強化のニュースが報じられています

「ブロマンス作品は大衆を誤った方向へ導く」と中国紙、ネット世論は紛糾【8月26日 レコードチャイナ】
中国人気女優に罰金など50億円、セレブ文化が当局の標的に【8月27日 AFP】
女優ヴィッキー・チャオの封殺、深刻な事態へ発展か?政財界との深いつながりも話題【8月28日 レコードチャイナ】
中国芸能界、世間を騒がせた芸能人を一斉締め出しか?【8月29日 レコードチャイナ】
ブロマンス作品は全面禁止へ?“推し活”取り締まり、共産党機関紙の警告が前触れか【8月30日 レコードチャイナ】
中国芸能界に激震が走った8月、クリスやヴィッキー・チャオ、封殺・引退・逮捕は10人以上に【9月1日 レコードチャイナ】
中国アイドルの「推し」競争、ルール変更 過熱しすぎて中傷合戦も【9月2日 朝日】

*****中国、娯楽産業の規制強化 高額報酬や「男らしくない」番組を批判****
中国政府は2日、娯楽産業への規制を強化した。放送局に対し「間違った政治的な立場」を取っているアーティストの起用や「男らしくない」スタイルの番組を中止するよう指示、「愛国的な雰囲気」を醸成するよう求めた。

中国国家ラジオテレビ総局は2日付のオンライン通知で、文化プログラムの規制を強化すると表明。不健全なコンテンツ、スターの過度な高給や脱税を取り締まる方針も示した。

中国国家インターネット情報弁公室(CAC)は先週、オンラインにおける有名人ファンの「無秩序な」文化を取り締まるとする通知文を公表していた。

国家ラジオテレビ総局は、俳優やゲスト出演者の報酬に上限を設ける規制を厳格に施行すると表明。俳優やゲスト出演者は公共福祉活動に参加し、社会的責任を果たすべきだと主張した。脱税は厳格に処罰するとしている。

俳優やゲスト出演者の選定に際しては、政治的リテラシーやモラルなどを基準とした慎重な管理が求められると指摘。番組では「男らしくない」美学など、「奇形」した趣味を排除すべきだと主張した。

娯楽番組では、ネット上の「品のない」有名人の起用を中止し、不祥事を起こさず、富の見せびらかしを止めるべきだとしている。

不健全なファン文化を取り締まる必要があるとも指摘。番組内でのファン投票は厳格に管理し、商品を購入したファンに投票権を与えることは厳しく禁止するとしている。

当局や国営メディアはここ数カ月、男はもっと男らしくなるべきだと現状を嘆き、濃い化粧で女性的なイメージを出す男性スターを批判していた。【9月2日 ロイター】
**********************

男はもっと男らしくなるべきだ?
愛国的な雰囲気を醸成するよう?

「余計なお世話だ」というのが日本的感覚ですが、中国では共産党の指導の下、全てが愛国・社会主義建設の方向で一致して進むべき・・・という考えです。

話は娯楽産業に限りません。ネットやゲームのあり方も

中国規律検査委、ネットで人気の飲食店の監督強化求める【8月30日 ロイター】
中国 未成年のゲームは週末夜1時間 「精神的アヘン」と厳しく制限【8月31日 FNNプライムオンライン】
「社会に悪影響な配信者」は問答無用で追放、人気の女性配信者を排除した中国当局【9月3日 Newsweek】

教育においても、野放し状態を国家・党が強く規制・指導する方向に転じています。
中国、営利目的の個別学習指導を禁止 家計負担軽減へ=新華社【7月26日 ロイター】

更に大きくみると、経済においても、アリババ、テンセント、ディディといった巨大テク企業の活動に国家・党が規制を行う方向性が打ち出されています。

中国のテク企業攻撃という習近平のギャンブル【9月2日 WEDGE】
中国、ネット配車サービスへの監視強化 一部企業を問題視【7月30日 ロイター】

社会・経済・市民生活のあり方・・・全てを国家・党が規制・監督し、「あるべき方向」に導くという発想であり、社会主義の原点へ回帰しようという流れです。

鄧小平以来、中国は民間の自由な活動で驚異的経済成長を実現してきましたが、格差や(党指導者からすれば)風紀の乱れといった弊害も大きなってきた・・・そこで、習近平国家主席の下で、「原点回帰」し、新たな段階に中国は進む・・・という一種の「文化大革命」でしょう。

習氏が「共同富裕」実現に本腰 大企業も富を還元?【8月30日 朝日】
小学生向け教科書に「習近平おじいさん」 習主席の政治思想が必修化【8月31日 FNNプライムオンライン】
習氏「中華文化が幹、各民族の文化は枝葉」 民族政策で【8月28日 朝日】

****中国当局の文化取り締まり、重大な政治的変化の兆し=著名ブロガー****
中国当局が芸能人文化を取り締まり、巨大インターネット企業の抑制に乗り出しているのは「重大な」政治的変化が起きている兆候──。著名ブロガーがこうした内容を投稿し、国営メディアで広く報じられている。

中国政府はこのところ、オンライン上の「無秩序な」ファンクラブ文化に対する措置を講じたほか、脱税などで芸能人を処罰。経済への介入では、不平等、「過剰に高い」所得、不動産価格の上昇、利益を求める教育機関に対処すると約束している。

ナショナリストブロガーの李光満氏は自身の「微信(ウィーチャット)」チャンネルに投稿した文書の中で、「これは資本中心から人民中心への変化だ」と指摘。「これはまた、中国共産党の当初の意図への回帰、社会主義の本質への回帰でもある」との見方を示した。記事は国営新華社通信や共産党機関紙・人民日報が配信・掲載した。

国営出版社の編集者だったとされる同氏は、中国市場は「資本家が一夜で富を手にするのを許すような楽園ではもはやない」と指摘。その文化は芸能人にとって天国とはならず、世論は「もはや西洋文化を崇拝する場ではない」と付け加えた。

「従ってわれわれは全ての文化的混乱を制御し、明るく健全で頑健かつ力強い人民中心の文化を築く必要がある」【8月31日 ロイター】
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【大連「日本街」営業停止】
でもって、今日の話題は大連の“小京都”をアピールした「日本街」。

****大連に「小京都」が出現 ネットで話題に=中国****
大連市に「日本街」が出現し話題になっている。これまでも、たびたび中国メディアでも「中国の日本街」が取り上げられているが、今回はかなり本格的なプロジェクトのことで、ネットで議論を呼んでいる。

このプロジェクトは、正確には「盛唐小京都プロジェクト」と名付けられ、45億元(760億円)もの費用が投資された一大プロジェクト。場所は、大連の中心街から車で一時間ほどの場所にある。

中国メディアの中財網の記事では、記者が取材した8月29日にも入り口には長蛇の列ができており、人気の観光スポットになっていると報じている。

一方、ネットではこの街に関する否定的な報道が相次いでおり、「日本のものしか販売できない商店街はどうなのか?」との疑問も提起されている。

このプロジェクトの担当者によると「日本のものしか販売できないことは決してない」と否定。「たしかに、日本からの様々な商品は販売されているがそれだけではなかった。実際、商店街の中には中国茶や、中国の伝統工芸品なども販売されている」と説明している。

この商店街は、その名のとおり「唐と京都の建築様式が融合した古い町並みを再現すること」と説明した。さらに、今後は日本の商品だけでなく、韓国やネパールの商品も販売する予定、と釈明している。

日本に自由に渡航できない今の状況下で、京都に来たような気分を味わえ、また日本の物も買えるということで、人気の観光スポットになっているようだ。【8月31日 Searchina】
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同様の日本の繁華街や商店街を再現した「日本街」は蘇州など各地にあるようです。

中国には「〇〇古鎮」と称する、古い街並みをアピールした観光地が全国いたるところにあります。その実態は土産物屋が並んでいるだけという感も。「日本街」もその「古鎮」の日本バージョンのようです。
ただ、「〇〇古鎮」が中国の歴史を反映している野に対し、「日本街」は・・・というところが問題。

もともと反日感情の強い中国で「日本街」・・・当然批判もあります。
ましてや、前述のように国家・党による「文化大革命」が進むこの時期となると、問題が起きない方が不思議なくらい。

中国共産党にとって、共産党支配の正統性の最大根拠は抗日戦争の遂行・勝利であり、その日本を模した街並みを中国につくるというのは、どうみても無事に済みそうにありません。

****京都再現の商業施設、中国で営業停止に 「日本文化の侵入」と批判****
中国遼寧省大連市の郊外で試験営業中だった日本の街並みをモチーフにした商店街が今月から、営業を一時停止した。多くの観光客でにぎわう一方、ネット上で「日本文化の侵入」などと批判する声があった。
 
商店街は「盛唐・小京都」と名付けられた日中の文化交流がテーマの開発地区にある。「唐代と日本の建築を融合した街並みをつくる」として2019年夏から段階的な整備が開始。地元政府も協力し、23年までに日本産の木材を使うなどした約1200戸の住宅と90軒の店舗の設置が計画されている。
 
先行して完成した300戸の住宅はほぼ完売。日本の家電メーカー専門店や北海道の物産店、日本料理店など29店舗が並ぶ商店街の一部が8月25日に街開きされ、多くの観光客でにぎわっていた。
 
だが、街開きについて報じた記事に対してネット上で「日本文化が侵入してきた」「かつて日本に植民された大連は国の恥を忘れるな」「中国人は中華街をつくるべき」などとの批判が上がった。これに対して「中日の古来からの友好交流をアピールする場所だ」「大連は東北アジア全域の窓口の都市として正常な交流をしている」「地元経済が発展して中国にとってもいい」などの反論が出て論争になっている。
 
商店街の関係者によると、こうしたネット上の論争や新型コロナウイルスの感染拡大防止策の影響で、9月1日から試験営業を一時停止。再開は決まっていないという。【9月2日 朝日】
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一方で、行列が出来るほどの大盛況だったことに、中国人の日本への関心の高さが伺えます。

****中国で賛否両論の日本タウン、中国人「入場制限するほどの人出だった」=中国****
遼寧省大連市にオープンした「盛唐 小京都」は、京都の街並みを再現した日本タウンだ。中国でもかなり話題となった「盛唐 小京都」だが、「日本による文化侵略ではないか」として賛否両論となり、営業を停止してしまったようだ。

中国の動画サイト西瓜視頻はこのほど、実際に「盛唐 小京都」を訪れたという中国人女性による動画を配信した。

配信者の中国人女性はまず、入口にある石に大きく「盛唐 小京都」と書かれていることに注目した。「盛唐」が先に書かれているので、あくまでも中心となっているテーマは古代中国の唐文化だと主張している。その後ろに「小京都」とあるが、京都は唐を模倣したものに過ぎず、当時の唐がいかに強大だったかを強調した。

しかし、中には入ってみるとそこはやはり「小京都」で、京都の街並みを再現しており、たこ焼きを売る店や焼き鳥を売る店、さらに日本の化粧品店や電気店など、日本関連の店が軒を連ねている。配信者は夕方に訪れたようだが、日本タウンの内部は非常に混雑していて、繁盛している様子が見て取れる。

また、大通りでは踊りのパフォーマンスも行われていたと紹介した。あくまで「唐文化」を強調していることになっているためか、着物ではなく唐の衣装を着たスタッフが踊りを披露している。日暮れ前に配信者は帰っているが、その時間にはあまりに来場者が多くなっていたため、すでに入場制限が始まっていたと述べており、いかに人気が高かったかを伝えた。

この動画に対し、「盛唐とは言っているが、中身は日本の要素だらけ」、「世界は大きく、よいものがたくさんある。中国にも多くの素晴らしい伝統文化がある。日本を選ぶ必要など全くない」、「なんて恐ろしいんだ。これはまさに文化侵略だ」などの否定的なコメントが多く寄せられていた。

中国のネット上ではやはり批判的な意見が多いようだが、このようなテーマパークは自国にいながらにして他国の文化に触れることができる存在であり、決して文化侵略ではなく、また排除すべきものではないはずだ。【9月3日 Searchina】
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【関心と警戒・嫌悪が入り混じる微妙な対日感情】
日本への関心の高さと日本への警戒感・嫌悪感の並存・・・微妙なものがあります。

****これが中国の現実だ! 「日系車は修理しやすい」と言っただけで炎上した中国人****
中国では、日系車は消費者に人気があるだけなく、「修理しやすい」という理由から自動車修理工からの評価も高い。

しかし、日系車を含めた日本製品を褒めるとネット上で炎上することがあるのは中国ならではの事情と言えるだろう。中国の動画サイト・西瓜視頻は30日、「日系車は修理しやすい、と言っただけでネットで叩かれた」と主張する自動車修理工の動画を配信した。

この修理工は、以前動画で「日系車は修理しやすい」と紹介したところ、ネット上で悪く言われたと苦情を述べている。一部の例外的な事例を引き合いに出し、日系車は品質が悪いと主張する中国人ユーザーがいて、その主張に便乗するユーザーも多数いたそうだ。他には、日本メーカーの回し者だ、などありもしないことで批判する中国人ユーザーもいたそうで、「日系車は修理しやすい」と言っただけで散々な目にあったようだ。

配信者はこれに対し、「自分が言ったのは一般論だ」と反論している。また、他人が叩かれているのを見て面白がって便乗する中国人が多いことを問題視し、車のことを何も知らず、日系車に乗ったこともない人が批判してくるのは納得がいかないとしている。最後に「日系車が、ほかの車よりも乗りやすく、修理しやすいのは本当のことだ」と締めくくっている。

本当のことを言っただけで叩かれた配信者は気の毒だが、中国のネット上ではよくあることだ。これに対して、「本当のことを話してくれる配信者を支持する」、「愚民の喧騒は気にするな」など、配信者を応援するメッセージが書き込まれていた。

他には、「日本に関するものを良く言うと叩かれる、これが中国の現実だ」という人もいたが、これが一番の理由かもしれない。本当のことを言っていても反論する人はどこにでもいるもので、一人ひとりが賢い消費者になるしかなさそうだ。【9月3日 Searchina】
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その一方で・・・・

****入場規制まで・・・新規オープンの日系コンビニに行列ができた理由=中国****
中国遼寧省大連市にこのほど開業した日本タウンに対し、中国では「文化侵略である」、「旅順からほど近い大連には相応しくない」など激しい反発の声があがっている。中国ネット上でも日本タウンに対する批判の声は止むことなく、沈静化にはまだまだ時間がかかりそうな状況だ。

だが、中国で日本関連のあらゆるものが排斥の対象となっているかといえば決してそうではなく、河北省に新しくオープンした日系コンビニでは長蛇の列ができるほどの繁盛ぶりのようだ。中国の動画サイト・西瓜視頻は8月28日、新しくオープンした日系コンビニの様子を撮影し、紹介した動画を掲載した。

動画では、日系コンビニを店外から撮影している。オープンした場所は比較的大きな商業ビルの1階で、周囲の他の店舗に比べて店内の「明るさ」は群を抜いていて、比較的離れた場所から見ても目立つに違いない。

そして、大勢の客が殺到したためか入場規制を行っているようで、入り口の場所から50人ほどが行列を作って入場を待っている様子が映っている。商業ビルの周囲にはさほど人はおらず、日系コンビニの前だけに人が大勢いる状況だ。

大連市の日本タウンに対しては批判の声が多い状況となっているものの、動画で紹介されていた日系コンビニのほか、各地の日系スーパーなどは現地の消費者から支持されているのが現状だ。動画に寄せられたコメントを見てみると、「日系コンビニやスーパーで売られている商品は信頼できる。偽物や海賊品、注水肉やメラミンミルクなどは売られていない」といった意見があった。

注水肉とは牛肉などに水を注入し、重さを「水増し」することで販売額を不当に引き上げるやり方で、中国で過去に大きな問題となったことがある。また、メラミンミルクとは乳幼児向けの粉ミルクに化学物質メラミンが混入し、大勢の乳幼児に健康被害をもたらした事件を指している。

日系スーパーやコンビニでは「質の良い商品を安心して買える」という点で支持されており、日本関連のあらゆるものが排斥の対象となっているわけではないことがわかる。【9月3日 Searchina】
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中国の若者の間では、日本の女子高生の制服風のファッション(JK制服)も流行しています。(これも、そのうち「精神日本人」としてやり玉にあがるのかも)
なぜだ! 中国人がJK制服を着ても「日本の女子高生とは何かが違う・・・」=中国【9月3日 Searchina】
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アメリカ  「分断」社会のマスク着用義務化禁止・人口中絶禁止をめぐる問題

2021-09-02 23:22:22 | アメリカ
(米テキサス州オースティンの州議会議事前で、人工妊娠中絶に反対するメッセージを掲げて抗議する人々(2021年5月29日撮影)【9月2日 AFP】 当然のようにマスクは着用していません)

【米国民の関心事は新型コロナウイルスという見えざる敵】
これまでのブログでアメリカ・バイデン大統領がアフガニスタン撤退の混乱で批判にさらされている・・・ということを書いてきました。実際、多くの批判があるのは事実ですし、政権運営や支持率にも影響しています。

しかし、基本的にはアメリカ国内世論はアフガニスタンでの戦争継続は望んでおらず、撤退はそういう厭戦気分に沿うものであること、また、アフガニスタンにしろ北朝鮮にしろ、アメリカ人の多くは国外のこと、特にアジアの地域の出来事にはさしたる関心もないのが現実であり、バイデン大統領への批判は、混乱の幕切れの映像を見るにつけ「面白くない」と感じる・・・そういうレベルのものでしょう。

多くのアメリカ人がアフガニスタン以上に関心があるのは、目下のコロナ禍であり、またトランプ前政権以来深まった「分断」の争点でしょう。

****米国人の本音:アフガン撤退なんてどうでもいい!****
(中略)8月31日付のロサンゼルス・タイムズは一面の見出しでこう書きなぐった。
「Bitter end to U. S. longest war: Final pullout, one minute to midnight leaves aftertaste of defeat」(米国史上、最長の戦争の苦い幕切れ:ミッドナイト1分前のアフガン撤収は後味の悪い敗走)

バイデン氏が何と言おうとも、それがすべてだった。
だが、ドナルド・トランプ氏が今も大統領だったとしても同じような結果に終わっただろう。(中略)

米国民の8割は一日も早いアフガンからの米軍撤収を望んでいた。
本音を言えば、米軍が去った後アフガンがどうなるのか(アフガン女性がどうなるのか、米国式文化に染まった市民がどうなるかなど)米国民にとってはどうでもよかった。
 
ただ、米メディアはしばらくは、幕切れの後味の悪さをなじるだろう。(中略)

コロナとの共存を選んだ「苦渋の選択」
米国民の関心事は、7410マイル(1万1925キロ)も離れたアフガニスタンよりも直面している「内なる敵」だ。新型コロナウイルスという見えざる敵だ。
 
折しも9月から(早いところでは8月下旬から始まっている)大学や小学校、中学高校の授業が再開する。
感染状況が収まったからではない。コロナを撲滅するまで待てなくなったからだ。コロナとの共存を選んだ「苦渋の選択」だ。
 
8月31日現在、米国の新型コロナウイルス感染者数は3995万3651人、死者数は65万6482人。
コロナを抑え込めない以上、「唯一の防具」になるのはマスク着用とワクチン接種だ。
 
幸い、ワクチンを自力で開発し、大量生産できる米国にはワクチンはあり余っている。にもかかわらず、現状はまだまだ好転していない。
 
米国の8月31日現在の接種者数は、1億7345万人で全人口3億2820万人の53%(ちなみに日本の接種者数は5437万人で全人口1億2630万人の43%だ)。
 
州によって接種率には格差がある。
65歳以上の高齢者でワクチン必要回数を完了している者は、「ブルー・ステート(民主党支配州)のカリフォルニア州は99.9%だが、「レッド・ステート(共和党支配州)のミシシッピー州では86.7%。
 
18歳から64歳まではカリフォルニア州は78.7%、ミシシッピー州は49.8%。

18歳未満ではカリフォルニア州が22.1%、ミシシッピー州は10.8%。最低のアイダホ州(レッド・ステート)はなんと0.4%だ。
 
NBCテレビが8月24日に公表した世論調査では、接種率を性別、人種、居住地域、党派、宗教、学歴別に示している。

●性別  男性 67% 女性 71%
●人種  白人 66% 黒人 76% ラティーノ 71%
●居住地域  都市部 79% 都市郊外 67% 地方非都市部 52%
●宗教  白人エバンジェリカルズ 59%
●党派  民主党支持者 88% 共和党支持者 55% 無党派 60%
●2020年大統領選投票  トランプ 50% バイデン 91%
●学歴  大学卒以上 80% 非大学卒 60%
  
まさに「分裂国家」のパターンがワクチン接種率格差にそのまま表れているのだ。
 
バイデン氏のコロナ退治を妨害しているのは、トランプ支持者、非都市部居住者、「レッド・ステート」の知事、州議会、キリスト教福音主義のエバンジェリカルズ、最高学府教育には縁のない高卒未満の人たちということになる。 
 
憲法修正第一条をタテに国家介入拒否
米国民ほど「国家の介入」を嫌う国民はない。連邦政府による強制性を拒否するのだ。
これは今回の新型コロナウイルス感染防止措置をめぐる論議に限らない。(中略)
 
今回、エバンジェリカルズがワクチン接種を拒否している法的根拠は、憲法修正第一条の「宗教の自由」にある。
参考:「アメリカ合衆国においてワクチン接種が拒否される理由」

コロナで死ぬのも神の摂理
宗教上の理由と政治的な理由をコラボレートすることで知事の座を守り、来年の知事選での再選を狙う政治家もいる。前述のミシシッピー州のテート・リーブズ知事(47)だ。
 
(中略)熱心なエバンジェリカルズで8月の支持者集会ではこう言ってのけた。
「ミシシッピー州はコロナ感染死者数が人口1人当たりでニューヨーク州を抜いた。死者数は8279人になった」
「皆さんは永遠の命を信じていらっしゃるはずだ。地球上での命というものは瞬間だ。だとすれば、何でそんなに(コロナによる死を)恐れるのか」

 2020年来、公立学校でのマスク着用もワクチン接種の義務化も拒否し続けている。

地元紙の若手記者の一人G氏 (33)は筆者とのズーム対話でこう語る。「宗教を盾に妥協を拒むのは州知事もタリバンも共通しているよ」

保守派過激派指導者の「デスノート」
親トランプ派の右翼過激派組織「Qアノン」の指導者の一人、ロバート・D・スティール氏(69)がコロナウイルス感染症で8月中旬、他界した。
 
無論、ワクチン接種はせず、感染し、重症化した。死の直前まで「コロナ感染なんて嘘っぱちだ」と言い続けたという。

エバンジェリカルズ教会連合傘下の「ナショナル・レリジャス・ブロードキャスター」は、8月27日、副会長のダニエル・ダーリン氏を急遽、除名した。
MSNBCテレビの番組でエバンジェリカルズ信徒たちにワクチン接種を呼びかけたからだという。

身を守るためにワクチンを接種すべきだという声は、拒否派の牙城にもひたひたと迫っていることは確かなようだ。
 
ワクチン接種を拒否する知事がいるミシシッピー、テキサス、ノースカロライナ各州でも、郡市町村といった市民に身近なところでは知事に反旗を翻す自治体も出てきた。感染が拡大するなかで背に腹は代えられなくなってきたからだ。
 
バイデン大統領とナンシー・ペロシ下院議長ら民主党首脳は地元の民主党幹部を総動員して楔を打ち込む作戦のようだ。バイデン政権にとってのコロナ戦争とは、アフガン撤退作戦よりももっと複雑で厄介な作戦になっている。【9月2日 高濱 賛氏 JBpress】
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【学校でのマスク義務化めぐる対立】
コロナ関連のなかでも一番ホットな争点は学校でのマスク義務化をめぐるものです。
理念としては個人の自由と公共の利益の対立であり、政治的にはトランプ支持共和党勢力とリベラル民主党勢力の対立です。

****学校でのマスク義務化めぐり対立が激化、新学期迎え、米国****
新型コロナウイルスに感染して入院する子どもの数が過去最高を記録する中、米国のいくつかの州で学校でのマスク着用義務をめぐり激しい攻防が繰り広げられている。(中略)

テキサス州のグレッグ・アボット知事(共和党)は5月に行政命令を出し、学校を含むすべての公共の場におけるマスクの着用義務を禁止したが、州内の一部の学区はその命令に背いてマスクの着用を義務づけている。(中略)

テキサス州のほか、フロリダ州、オクラホマ州、アリゾナ州、サウスカロライナ州など、共和党の知事がいる各州でも状況は同じだ。8月に入ってから連日のように、マスク着用義務に関連した請願、抗議、提訴、教育委員会の会議、裁判所の命令などがあり、衝突は激化している。

法律や政治に関する多くの議論と同様、マスク着用義務をめぐる問題の核心は、個人の自由と公共の利益の対立にある。つまり、子どもにマスクなしで登校させることを望む保護者の権利は、死に至る可能性のある感染症から人々を守るために全員がマスクを着用することを望む生徒、教職員、家族の権利に優先するかどうかだ。

米カイザー・ファミリー財団(KFF)が11日に発表した調査結果によると、ワクチンを接種していない児童に、学校でのマスク着用を義務付けることを支持する保護者の割合は63%だが、この割合は支持政党によって明らかな差がある。マスク着用義務化を支持する保護者は、民主党支持者では88%、無党派層でも66%だが、共和党支持者ではわずか31%だった。

マスク着用義務化に反対する保護者の主張としては、マスクをしていれば感染しないと言える十分なデータがない、というもの以外にも、マスク着用によるニキビや、身体的な不快感、眼鏡が曇るなどのほか、相手の顔の下半分が見えないせいで心理的な問題が生じるおそれもあり、子どもにとって有害だというものもある。

状況を大きく変えたデルタ株
今、子どもたちの感染が増えているのは、デルタ株の感染力が強い上、子どもたちはワクチン接種を受けていないからだ、と米テキサス大学健康科学センターマクガバン医科大学院の小児感染症チーフで、チルドレンズ・メモリアル・ハーマン病院の内科医でもあるアンソニー・フローレス氏は言う。(中略)

保護者・学校・自治体と州政府が対立
現在、少なくとも5つの州で訴訟が行われている。テキサス州では、いくつかの郡や学区がアボット知事の命令に反してマスク着用を要求した。当初、テキサス州最高裁判所はアボット知事によるマスク義務化禁止令を支持したが、保護者が提起した一連の訴訟の1つにより、アボット知事のマスク義務化禁止令は差し止められ、学校でのマスク着用義務は今のところ維持されている。

訴訟以外にも州内の対立は激化しており、オースティン近郊では保護者が教師のマスクを引き剥がすという事件が起きている一方で、いくつかの学区では、マスクの着用を服装規定に追加することでアボット知事の命令を回避しようとしている。

学校でのマスク着用義務をめぐる対立には党派的な色合いが濃い。共和党の知事や議会は、公衆衛生当局による新型コロナウイルス対策の実施を制限する方向に動いている。

一方、学校でのマスクの着用を義務付けている14の州の知事はすべて民主党だ。また、マスクの着用義務を最も支持している保護者は黒人(83%)とヒスパニック系(76%)であり、新型コロナウイルスの感染・入院・死亡リスクが最も高い人々でもある。

バイデン政権は各州の教育政策に対してほとんど影響力を持たないが、ミゲル・カルドナ教育長官は8月中旬にフロリダ州のデサンティス知事とテキサス州のアボット知事に書簡を送り、マスク着用の義務化を拒んだことを非難した。

医師の襲撃事件も発生
テキサス州は、親が自分の子どもにマスクを着用させるかどうかを選択する権利は、ほかの親が自分の子どもの健康について抱く懸念よりも重要であると主張している。

アボット知事の広報担当のナン・トルソン氏はナショナル ジオグラフィックのメールでの取材に対し、「アボット知事は、『マスクの着用を義務付ける時期は終わった。今は各人が自己責任のもとで行動する時期だ』と明言しています」とコメントした。

「テキサス州民は、自分自身や大切な人を新型コロナウイルスから守るための安全な方法を学び、身につけているので、連邦政府に教えてもらう必要はありません。親には、自分の子の人生に関する様々な決定と同様に、マスクを着用させるかどうかを決める権利があります」

この主張の問題点は、たとえ室内にいるほかの人々がマスクをしていなくても、マスクを着用していればその人自身は自らの感染を適切に防げるという仮定にある。症状がなければマスクをする必要はないと言う人は、感染者が発症する前からウイルスを排出しはじめ、他人に感染させる可能性がある点を考慮していない、とフローレス氏は批判する。

それでも、公立学校の生徒を含むすべての人に、マスクを着用しない自由があるという主張は、学校でのマスク着用義務化に反対する少数派の親たちを煽り、テネシー州教育委員会の会議で発言した医師が襲撃されるという事件さえ発生した。

広報担当のトルソン氏はアボット知事の取り組みについて、すべての人々を守るためにワクチン接種を受けるように州民に働きかけていると説明する。さらにそれぞれの学区では、少人数でのグループ学習や、「校舎、教職員、生徒の衛生管理の強化」など、前年度の安全対策の多くが継続されるという。また、免疫力が低下している子どもにはバーチャル学習という選択肢があるというが、希望するすべての児童がそうした方法で学べるわけではない。

ある母親は言う。「私の娘はまれな遺伝病をもっていて、新型コロナに感染すれば死に至るおそれがあります。アボット知事は、娘のような基礎疾患のある子どもたちの死亡証明書に署名しているのです。彼は、何千人もの子どもとその家族の命を守ることができる、シンプルな布を拒絶しているのです」【9月1日 ナショナル ジオグラフィック日本版】
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共和党アボット・テキサス州知事は“ワクチン接種を受けるように州民に働きかけている”とのことですが、その本気度はどの程度のものでしょうか?

個人の自由を盾にワクチン接種を拒否する者が少なくないため、アメリカのワクチン接種率は頭打ち状態にありますが、その状況を打破する取り組みも。

“ついにペナルティー導入 米企業、ワクチン未接種者から毎月200ドル徴収”【8月26日 FNNプライムオンライン】
“NY・タイムズスクエアに観覧車登場 ワクチン接種者は無料に”【8月26日 FNNプライムオンライン】
“米イリノイ州、マスク着用義務再導入 学校でのワクチン接種も義務化”【8月27日 ロイター】

共和党知事のレッドステートであるアイダホ州では、状況の逼迫でワクチン接種促進へ本腰を入れています。
”米アイダホ州、感染急増で州兵動員 知事はワクチン接種呼び掛け”【9月1日 ロイター】

「何でそんなに(コロナによる死を)恐れるのか」と言うミシシッピー州のテート・リーブズ知事とは、温度差があるようです。

【テキサス州 実質的には全面的に中絶禁止へ 最高裁は差し止めず】
共和党アボット知事の・テキサス州が今注目を集めているのは、「分断」の「核心」でもある中絶問題。

****テキサス、6週以降の中絶禁止 「憲法上の権利侵害」とバイデン氏****
米テキサス州で1日、妊娠6週以降の人工中絶を禁止する法律が施行された。6週目では、まだ妊娠に気付かない女性も多い。ジョー・バイデン大統領は、憲法で保障されている権利を「はなはだしく侵害」するものだとして同法を批判した。
 
同法は今年5月、グレッグ・アボット州知事(共和党)による法案署名により成立。胎児の心拍が確認される時期である妊娠6週目以降の中絶を禁止するため、「心拍法」とも呼ばれている。
 
レイプや近親相姦(そうかん)による妊娠も例外とはならず、テキサスは中絶手術を受けることが全米で最も困難な州となる。同様の法案は、共和党が強い10以上の保守州でも可決されていたが、いずれも裁判所により差し止められ、施行には至っていなかった。
 
テキサスの新法が他州の法律と違う点として、検察や医療従事者をはじめとする州関係者だけでなく、一般市民が法順守を求めて提訴できることがある。市民には、中絶を行う医師や協力者を通報することが奨励される。
 
バイデン氏は声明で、1973年に連邦最高裁が女性の中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」に言及し、「この極端なテキサスの法律は、ロー対ウェイドで確立し、半世紀近くにわたり先例として維持されてきた憲法上の権利をはなはだしく侵害するものだ」と指摘。自身の政権は同判決で定められた権利を全力で守ると宣言した。
 
人権団体などは先月30日、連邦最高裁に対し同法の施行差し止めを求める緊急の申し立てを行っていたが、同裁は施行日までに判断を示さなかった。ただし、今後申し立てが認められる可能性はある。 【9月2日 AFP】
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****米最高裁、テキサス州の中絶禁止法の差し止め認めず****
実質的にほとんどの人工妊娠中絶を禁止する米テキサス州の州法をめぐり、連邦最高裁判所は2日、施行差し止めを求めた人権団体や中絶手術を提供する施設などによる緊急の申し立てを却下した。
 
1日に施行された州法をめぐっては、最高裁判事の間でも意見は割れ、9人中4人が差し止めを認める判断を下した。最高裁は、州法の合憲性については判断せず、「複雑かつ新しい手続き上の問題」の述べるにとどめた。【9月2日 AFP】
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トランプ前大統領が指名した判事3人は全員、同法の差し止めに反対したということで、トランプ前大統領の「成果」が効果を発揮しています。

レイプや近親相姦による妊娠も例外とはならず、テキサスは中絶手術を受けることが全米で最も困難な州となりますが、最高裁が1973年に連邦レベルで中絶を合憲とした判断を示して以降、こうした厳しい禁止措置が実施されるのは初めてとなります。

“ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は記者会見で、バイデン氏は長く、ロー対ウェイド判決を連邦議会での投票で「成文法化」したいと考えてきたと説明。「(テキサス州法によって)そのために前進する必要性がさらに増した」と述べた。”【9月2日 BBC】とのことですが、実現性はどうでしょうか?
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日本 アフガニスタンからの現地スタッフ救出に失敗 今後の交渉で問われる日本の信義

2021-09-01 23:32:51 | 日本
(航空自衛隊入間基地を出発するC2輸送機=2021年8月23日、埼玉県狭山市【8月25日 朝日】)

【私たちは生き延びるために戦っている。どうか脱出する方法を見つけてほしい。】
米軍がアフガニスタン撤退を終えて、とりあえず国外退避活動も終了しましたが、脱出できなかった者(外国軍への協力者など)の「身の危険」を訴える悲痛な叫びは多々報じられていますが、そのなかで最新のものをひとつだけ。

****「脱出できなければ死ぬ」 アフガンに残された男性の命がけの訴え****
武装勢力タリバンが権力を掌握したアフガニスタンに、イギリスへの渡航許可を得ていたにもかかわらずカブール空港での混乱で退避便に間に合わなかったアフガン人が取り残されている。ある男性は、手遅れになる前に助けてほしいと、英政府に懇願している。

タリバンの復権を受け、欧米諸国は自国民やアフガン人協力者の退避を急いだ。8月31日の外国部隊の駐留期限を前に、イギリスは同28日に退避支援作戦を終了したが、避難対象となっている多くの人がアフガン国内に取り残された。

あるアフガン人男性は、BBCに自らの体験を語ってくれた。男性の安全を守るため、記事では身元を伏せてある。

私は今まさに地獄の中にいる。
この2週間、私は家族と一緒に安全な場所を求め、住む場所を15回も変えている。こうしている間もタリバンは私を探している。

最近はドアをノックする音が聞こえると、ある考えが真っ先に頭をよぎる。「タリバンが来たかもしれない、私や家族を探し出したのかもしれない」と、心臓が止まる思いだ。

こんな状況に置かれているのは私だけではない。政府やメディア、NGO団体、人権団体で働いていた何百人もの人が、次は自分の番かもしれないと、それぞれ別の場所に身を潜めている。

タリバンはこうした人たちを拘束し、殺害しようとしている。私もそのうちの1人だ。

私たちの状況は最悪だ。イギリスへの渡航許可を得ていた私は、カブール空港へ向かった。しかし、どのゲートにも4000〜5000人ほどが大挙していて空港内へ入れず、その場に36時間近くとどまった。

私はブルカをかぶり、11カ所の検問所を通過したが、結局タリバンは私たちを通してはくれなかった。
その日そこでは、15〜16家族が同じく立ち往生していた。イギリスのパスポートを持っている人もいた。彼らもまた、家を転々としながら出国する方法を探っている。

自爆攻撃があったあの夜、私は空港の近くにいた。爆発が起きたアビー・ゲートの近くに。私の幼い子供たちはすごく怖がっていた。今でも夜寝ている時にパニックになることがある。

今の私にどんな選択肢があるのか分からない。多くの国境が閉鎖されているので。私はメールで助けを求めようとしている。どうすれば自分の家族を安全な場所に連れていけるのか。その方法を見つけ出そうとしている。

英政府は退避させるという約束を守り、自分たちの国のために働いていた人を優先する必要がある。みんなイギリスのために犠牲を払ってきた。どうか脱出する方法を見つけてほしい。

数日内に脱出できなければ、自分は死んでしまうかもしれない。そう思うとぞっとする。私は自分の命よりも家族のことが心配だ。私の幼い子供たちはこの世の中のことを何も知らない。

なぜ子供たちが、私の罪の罰を受けなければならないのか。タリバンは私の仕事を罪とみなしている。私たちにはあまり時間が残っていない。せいぜい3〜4日が限界だろう。

英政府にこのメッセージを伝えたい。
「私たちは生き延びるために戦っている。助かるかどうかは、数時間あるいは数日間ではなく、あと数秒にかかっている」と。


英外務・英連邦・開発省の報道官はBBCに対し、イギリスが8月15日以降、「この種の退避作戦としては史上最大規模の作戦によって」、英国民やアフガン人スタッフ、危険にさらされている人など1万5000人以上をアフガン国外に退避させたと説明した。

「英国民と渡航許可のあるアフガン人を国外退避させるという我々の義務を果たすべく、今後も全力を尽くす」と、同報道官は付け加えた。

ドミニク・ラーブ英外相は8月29日、主要7カ国(G7)や北大西洋条約機構(NATO)加盟国のほか、トルコやカタールとバーチャルで会談。渡航許可のあるアフガン難民が安全に避難できるルートを確保するため、協力を促した。また、「過去20年間の前進」と「人権」を守る必要性を強調した。【9月1日 BBC】
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日本関係者についても“「置き去りにしないで」悲痛な叫び 自衛隊機で退避予定が中止に”【8月30日 FNNプライムオンライン】など。

【菅首相「最大の目標というのは、邦人を保護することでありました。そういう意味では良かった」】
こうした状況でアメリカ・バイデン大統領は今回の撤退を「素晴らしい成功」だったと、胸を張っています。

****バイデン大統領 アフガン撤退「素晴らしい成功」 現地には“未救出”100人超****
アメリカのバイデン大統領は、日本時間1日午前4時半ごろ、アフガニスタンからのアメリカ軍の完全撤退について演説し、「素晴らしい成功だった」と強調した。

アメリカ・バイデン大統領「アメリカしか達成しえなかっただろう作戦は、勇敢な行動力によって素晴らしい成功を収めた」

バイデン大統領は、「12万人以上のアメリカ人や協力者を救い出した」と述べ、「アメリカ史上最大規模の救出作戦に成功した」と強調した。

また、「撤退は、これ以上秩序立った方法で行うことはできなかった」として、「最善の判断だった」と述べた。

現地に取り残されている100人以上のアメリカ人については、「今後、外交努力による解決を目指す」と述べている。

一方、アメリカメディアは、「バイデン大統領が、混乱や多くの犠牲者が出たことに対する謝罪の言葉は一言もなかった」と批判している。【9月1日 FNNプライムオンライン】
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アフガニスタンからの退避を望むアメリカ民間人は「200人以下、おそらく100人近く」でしょうが、残された現地協力者は桁違い(一桁ではなく二桁)に多いことでしょう。それらの者を今後どうするのか?

もちろん、バイデン大統領も忸怩たる思いはあるのでしょうが、“政治化”“大統領”としては、批判を振り切るために胸を張って強弁するしかない・・・ということなのでしょうが・・・。

“米メディアによると、現地に残された政府機関やメディアのアフガン人協力者、アフガンの人権活動家らは数万人とみられている。米紙ワシントン・ポスト(電子版)は30日の論説記事で、「バイデン政権の戦略的、戦術的なミス」に起因する「道義的な災害」だと厳しく批判した。”【9月1日 毎日】

現地スタッフの救出が全くできなかった日本では菅首相が・・・

****自衛隊のアフガン退避で菅首相 日本人1人の出国を評価****
自衛隊機によるアフガニスタンからの退避任務でおよそ500人の対象者のうち、出国できたのは日本人1人だったことについて、菅総理は邦人保護を成功させたとして評価する考えを示しました。

菅首相 「最大の目標というのは、邦人を保護することでありました。そういう意味では良かったというふうに思ってます」

政府はきのう、アフガニスタンからの自衛隊による退避任務について、アメリカ軍の撤収により空港の安全確保が困難となることなどから終了し、撤収することを決めました。これまでに日本人1人を含む15人を隣国に出国させましたが、菅総理は退避任務の最大の目標は邦人保護にあり、出国希望の日本人を全員退避させられたとして、任務を評価しました。

一方で、退避対象のおよそ500人の日本大使館やJICAの現地スタッフ、およびその家族は全員が残されたままとなっています。

退避計画を進める過程で、対象者リストがイスラム主義組織タリバンに提出されたことも明らかになっており、政府には今後、現地スタッフらを守りながら、早期の出国を目指してタリバンや関係国と交渉を続けるという大きな課題が残りました。【9月1日 TBS NEWS】
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【対象者リストがタリバンに】
救出できなかっただけでなく、“対象者リストがイスラム主義組織タリバンに提出された”ことで、タリバン側に対象者を把握された状況にあります。

予想をはるかに超えたハイスピードの首都陥落、期限を切られた撤退作業、自爆テロ・・・大混乱のなかで、多くの重要情報も適切に廃棄されることなく現地に残されたことが懸念されますが、その中で協力者リストに関するアメリカの反応が下記。

****米軍協力者の「生体情報」を手にするタリバン――懸念されるアフガン撤退に伴う情報保全****
米軍やNATO加盟国らの連合軍のアフガニスタン撤退に際し、各国政府の懸念事項の一つが、いかにタリバンから機密情報を守るかだ。機密情報がタリバンの手に渡れば、今後の対テロ作戦のみならず、協力者の人命も脅かされる。

しかし、既に一部の個人情報や米軍の生体認証機器をタリバンが入手してしまっている。(中略)

そんな矢先に飛び込んできたのが、米ポリティコ誌による8月26日の驚愕のスクープだ。
カブールにいる米国政府関係者が、カブール空港に入ろうとしている米国市民、グリーンカード保持者やアフガン人協力者の名前のリストをタリバンに渡していたという。

待避を迅速に進めるための措置だったとされるが、アフガン人協力者に危険が及ぶとして、議員や軍関係者が怒りを露わにしている。
 
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、アフガン人の通訳たちの米ビザ取得が間に合わないまま、カブールが陥落。タリバンが米軍協力者をしらみつぶしに探し回り始めたため、ビザ申請書類を焼却処分するよう通訳に伝えた米軍関係者もいる。
 
元海兵隊員ピ―ター・ジェームズ・キエナンは、寝食を共にし、命を救ってくれた通訳の米国ビザ取得を、6年前から手伝ってきた。通訳が米国政府に協力していた事実を証明すべく、書類を苦労して集めてもらっていたにもかかわらず、このような依頼をする事態となり、断腸の思いだっただろう。(後略)【9月1日 Foresight】
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日本関係の現地スタッフも同様の立場に置かれています。

アメリカと日本ではタリバン側の対応が異なる、日本はそんなに敵視されていない・・・と楽観するのではなく、今後、関係者の生命保全について日本政府はタリバンに強く申し入れて行く必要があります。

たとえタリバン側が要求にまともに反応しないにしても、とにかく「関係者に危害を加えると面倒なことになる」と思わせるぐらいに。

タリバンも国外資金を凍結され、国際機関からの支援もストップした状況で、今後の国家運営に関して国際的な承認を切実に必要としていますので、そこらを絡めて強くタリバンに要求することが望まれます。

【「失敗」をめぐる議論】
いずれにしても、菅首相が何と取り繕うと、今回オペレーションは大失敗です。
もちろん、テロ発生のタイミングなど不運な面は多々ありましたが、結果としては「大失敗」です。

****アフガン撤収完了 無残な終幕は米の汚点だ 日本政府は協力者救出を急げ****
バイデン米大統領がアフガニスタン駐留米軍の撤収完了を発表した。2001年の米中枢同時テロを機に始まり、「米国史上最長の戦争」と呼ばれた米軍のアフガン駐留が終わった。

莫大(ばくだい)な費用を投じて、若い兵士の犠牲を強いる作戦を永遠に続けるわけにはいかない。だが、性急な撤収は、過激武装勢力の自爆テロを許し、米兵らに多数の犠牲を出した。無残な終幕は、米国の威信を損なった。

最大の失態は、米国や同盟国の国民、アフガン人の協力者の安全な国外退避が米軍の撤収完了に間に合わなかったことだ。

タリバン「退避」履行を
米軍が8月末を期限に撤収を始めると、イスラム原理主義勢力タリバンが大攻勢をかけ、アフガン政府はあっけなく倒れた。見通しを誤ったバイデン政権は、撤収期限を延長し、米軍に人々の安全を守りきらせるべきだった。米野党共和党が、アフガン撤収は失敗だと批判したのは当然だ。

国連安全保障理事会は、希望者の安全退避をタリバンに求める決議を採択した。日米欧などの共同声明は、タリバンが出国を保証したと明らかにした。
タリバンはこの約束を守らねばならない。それができないなら今後、多くの国が話し合いの相手とみなさないと覚悟すべきだ。(中略)

それ自体は、日本の国益とも合致する。日本は、バイデン政権のアフガン撤収の決断を重く受け止め、米国との対中連携を一層進めるべきだ。

米国のアフガン撤収に伴う混乱は、日本の危機対処能力の欠如を露呈させた。自衛隊機派遣による退避作戦の失敗である。政府は猛省し、問題点を洗い出して改めなくてはならない。

首都カブールがタリバンに制圧された8月15日前後から各国の軍用機による退避作戦が実施された。米国が10万人以上、英国が1万5千人以上、ドイツが約5千人、韓国が390人を救い出した。自衛隊機で出国したのは、日本人1人と米国から依頼されたアフガン人14人の計15人だった。

日本は日本人数人や日本大使館勤務などのアフガン人とその家族の約500人の国外退避を目指した。だが、自衛隊による警護もなく、自爆テロの発生もあって空港にたどり着けなかった。

米軍の完全撤収で国際空港への離着陸は当面困難だ。政府は隣国パキスタンで待機する自衛隊の撤収を決めた。

外務省は失態猛省せよ
それでも、取り残された約500人を見捨ててはいけない。人道と日本の信義が問われている。タリバンの要請でトルコが国際空港を管理する話が進んでいる。政府は自衛隊機や民間機による退避を追求してもらいたい。

政府の一連の対応には多くの疑問符がつく。外務省の失態は本当に情けない。カブール制圧時に日本の岡田隆大使は現地に不在だった。残る日本人大使館員は同17日、英軍機で国外へ脱出した。アフガン人職員らを伴わずに、である。数人でも大使館員を現地に残さなかったことが、退避作戦に響かなかったわけがない。

政府の自衛隊機派遣決定の遅れは致命的だった。邦人輸送の自衛隊派遣は自衛隊法上、外相が依頼する。派遣の正式決定はカブール陥落から8日もたっていた。

8月上旬から政府は民間機による退避の準備を進めていたというが、並行して自衛隊機派遣も準備し、現地情勢の急転で直ちに切り替えるべきだった。情勢分析も甘かったのではないか。

国家安全保障局(NSS)、外務・防衛両省はもとより、菅義偉首相や加藤勝信官房長官、茂木敏充外相、岸信夫防衛相、与党幹部はいったい何をしていたのか。コロナ対応と政局だけしていればいいわけではない。【9月1日 産経】
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自身の地位と政局の今後で頭が一杯の菅首相に何を言っても無駄でしょうが、現地協力者の命がかかっています。
それは日本という国家の「信義」が問われる問題です。

日本の「失敗」が、協力者の救出に「成功」した韓国から「カブールの恥辱」と揶揄されていることは周知のところですが、タイミングの運・不運はあったせよ、結果としては揶揄されても致し方ない面も。

“明暗分かれた日韓のアフガン退避作戦 なぜ”【8月29日 日テレNEWS24】
“韓国、アフガン390人退避成功の“奇跡”…日本との明暗分けた「水面下での動き」と「初動の差」”【8月30日 文春オンライン】

【日本の信義が問われる今後の交渉】
加藤官房長官は1日午前の会見で、アフガニスタンへ派遣した自衛隊機が撤収した後も、現地に残っている少数の邦人や現地採用職員の安全確保や必要な出国支援に向けた努力は続けていくと述べています。当然です。

沈む船に乗客を残して船長以下のスタッフがいち早く逃げてしまったような「失態」の外務省ですが、今後のタリバンとの交渉はドーハの臨時事務所で行うことに。

****アフガニスタンの日本大使館 臨時事務所をドーハに移転 外務省****
外務省は、アフガニスタン情勢の急速な悪化を受けて、首都カブールに置いていた大使館を一時閉鎖し、トルコのイスタンブールに臨時事務所を設けて業務を行っていましたが、1日、カタールの首都ドーハに臨時事務所を移転しました。

外務省の吉田外務報道官は、記者会見で「カタールには日本人などの退避のオペレーションで大変お世話になり、日本とは極めて良好な関係を維持している。加えて、ドーハにはタリバンの政治事務所もあり、そうしたことを総合的に勘案した」と述べました。

アフガニスタンにおける大使館機能をめぐっては、アメリカも現地の大使館を一時的に閉鎖し、ドーハに拠点を移したことを明らかにしています。【9月1日 NHK】
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自衛隊を使う今回のような活動について、憲法との関連についての議論も。
“アフガン退避支援の自衛隊撤収 邦人保護に憲法の壁”【8月31日 産経】
“混沌きわめるアフガニスタン、日本の退避行動はなぜ遅れたか…今後の対応の方策を探る”【9月1日 BSフジLIVE プライムニュース】

ただ、こうした流れへの警戒感も
“アフガン避難作戦に失敗したのは平和憲法のせい?奇妙な日本の論理=韓国報道”【8月29日 WOW! Korea】

関係者を多数残した形での撤退終了はドイツでも政治問題となっています。
“アフガン情勢判断ミスで、メルケル政権が窮地に”【9月1日 Foresight】
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