明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 

一日  


小津安二郎像収蔵の件で、古石場文化センターに行くと、小津の展示をしていて、例の小津の帽子の実物を展示していた。汗を抑えるためのもので、沢山持っていたそうだが、未だにポマードの匂いがするらしい。深川図書館の貸し出し不可の資料に関して、職員のNさんに聞いて貰っていたのだが、手続きさえすれば、貸し出し許可が出そうだという。もう首が完成だ、という今頃になって、という話である。某大学から借りられたのは、結局オリジナルではなく、縮小版で、写真は小さく、ディテールも再現されていなかった。それにしても首の完成を目の前にして、新資料が出てくるというのは、複雑な気分である。おかげで完成直前のはずが台無しに、ということが充分あり得るからである。とはいえ耳の形など、何を見ても、よく判らなかったので有り難い。
帰りに蕎麦屋に寄り、蕎麦焼酎の蕎麦湯割で温まりながら、出掛けに郵便受けに届いていた本と、図書館で借りた本を読む。Dの制作のため、さる業界のことは興味深々で、何を読んでも面白い。  作るとなれば、蛇蝎の如くに嫌っていた人物でも、良い所が見えてくるし、なかなか面白いじゃないか、と熱中もするが、完成してしまうと『そうはいっても、心中してテメエだけが助かるなんて、やっぱり嫌な野郎ではある』と醒めたりする。制作中のDは、私が気になっていて提案した人物なので、そんなことは無いだろう。だいたいそんなことになったら、壁にダラリと下った、D直筆の滝の掛け軸が哀しいことになる。

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