一つイメージが浮かぶ。岸壁の上部で、寒山が、身体を丸めるような、いい加減な体勢のまま筆を持ち、巻紙に寒山詩を書きつける。巻紙は岸壁を伝い流れる滝水のように、S字を描きながら岩に沿って垂れ下がる。数メートル下では、傍に箒を立て掛け、岩を硯に墨を摺る拾得。 山中でところ構わず詩を書きつける寒山と墨を摺る拾得は、数多く描かれて来たモチーフであるが、アクセントとして、巻き物を滝の流れに見立てて配してみたい。この程度のアイデアは過去にあったろうが私は知らない。 棚からぼた餅が落ちて来るように思い付いた時、私はいかにも思い付いた、という顔をするそうだが、いきなりドスンとピントピッタリ受け止めてしまうと、そこから融通が効かず、左向きを右向きにさえ変えられなくなるところがある。なので目を細めるようにボンヤリ受け止め、細かいイメージまで至らぬようにした。最初のイタズラ描きを超えられず、ゴミ箱の反故紙を何度漁ったろうか。なので今は滅多にスケッチはしない。