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橋爪文さん

2011-08-07 00:16:39 | 日記・エッセイ・コラム

8月6日 ヒロシマの日。静かに黙祷。

今年は特に原発事故もあり放射能汚染、被爆を考えさせられる。

数日前の新聞で詩人の橋爪文さんを見た。ここしばらくご無沙汰しているが、お元気でなにより。文さんは広島で女学生のとき、労働に駆り出され、被爆している。文さんは使命として、今も反核、反戦を訴え、世界を行脚している。詳しくはURLを紹介しておくので、そこを開いて読んでほしい。

http://www.h3.dion.ne.jp/~sitar/profile/swaraj/file1/hasizume.htm                                                                                                                                                              

                                                                                                                    http://www.youtube.com/watch?v=Md377zKfg5Q

                                                       

文さんと知り合ったのは作曲家の青英権さんのところであった。文さんの詩集は全部持っている。紀行文も持っている。原爆体験は、小田原の消費生活大会には講師としてきていただき、話を聞いた。真鶴在住の詩人、前田鉄之助さんをしのぶ会でに真鶴までおいでいただいた。ベラルーシの子どもたちを預かったときも、子どもたちに会いに来てくれた。

青さんは文さんの詩にかなりたくさん曲をつけている。私は「おとうと」が好きである。you tubeを探せば、曲があるかも知れないが、文さんの詩はwebで簡単に探し出せたので、ここに載せておこう。青さんの歌曲では、最後にもう一度、「おとうとよ」という言葉が入る。ソプラノがピアニッシモで歌い上げる、この最後の言葉に、いつもつい涙が出る。                                                

               

おとうと

 

弟よ あなたは 七才

くりくり目玉で いがぐり頭の一年生

腰に棒の刀を差し

(ぼく 軍曹だよ

  軍曹は長い剣を持ってるんだ!)

 

広島は軍隊の街

元気な大人は兵士たちだけだった

 

弟よ

あなたは怖れた

空を揺るがす空襲警報のサイレンを

(こわいよ!)

(こわいよ!)

誰よりも先に防空壕に逃げ込み震えていた

 

一片のお菓子の甘さも知らず

一切の肉の味も知らず

くる日も くる日も大豆ばかり

母が工夫の大豆パンも

飢えて枯れ枝のように痩せた手で

そっと押し返した

(また これ?

  もう 欲しくないよ)

 

あのとき

弟は校庭にいた

あのとき 家に向って走る弟の服は

めらめらと燃えていた

 

一瞬にして街は崩れ伏し

鳥は墜ち

樹は焦げ

土さえも炎を吹き

生きとし生けるものは焼かれた

 

家を失い 家族を喪った人びとは

焼け爛れ 呆け

襤褸のように垂れ下った皮膚を曳きずって

逃げた 河へ

河へ

 

  広島は 水の都

  美しい七つの河に抱かれた 水の都

  水は

  春は萌黄に移ろい

  夏は涼風を遊ばせ

  秋は紅葉に歌い

  冬は小雪と戯れて

  人びとの日々を彩っていた

  人びとの哀歓を湛えていた

 

人びとは逃げた

嬰児(みどりご)のように水の懐に身を委ねた

 

そのとき 瀬戸内海の潮は

河を遡り 満ち 溢れた

満ち溢れて人びとを呑み込み攫った

 

弟よ 母は傷ついてぶらぶらの両腕に

あなたを抱きしめた

抱きしめて潮からあなたを守った

やがて

焼け爛れた身体を河原に横たえられたあなたは

裸身を怖れた

(こわいよ! こわいよう!

  ぼくに なにか掛けて!)

父は一晩中草を毟(むし)って 苦しみ悶える

あなたの身休を覆いつづけた

 

その夜は 降るような星月夜だった

満天の星を従えて

天は静かに地上に近づき

手を伸ばせば届く空から

夜目にも白い薄衣の雲を地上に降ろした

冷んやりと夜露を含んだ羽衣が

人びとの焼けた身体をやさしく包み

彷徨いはじめた魂をそっと掬いあげ

天へ運んだ

 

弟よ あなたも

暁を待たず昇天した

 

他の作品もここに入っている。

http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/antiwar/hashizumebun.html

          

                                                         

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