ビーがうちに来て今年で4年目。
そろそろビーのパパに、もう一度会いたいと思った。
ビーパパは、K町の野良猫のボスで、堂々たる体躯の鯖虎猫。
2000年の夏。私やダーの留守中、
殿がひとりじゃさみしかろうと相方の猫を探していて、
地域猫の活動や猫のボランティアなどをしているOさんと出会った。
はじめてOさんの家に行ったとき、
Oさんに保護されていた子猫のビーは、
ほかに3人の人がいる中で、
まっすぐ私の膝に来て眠りこけた。
その時から今まで、ビーは私であり、私はビーであり、
ダーが私とビーの共通点をあげればきりがない。
その話はまた今度するとして、ビーをOさんから引き取ったとき、
Oさんの家の駐車場には、野良猫のための餌場があって、
その日も数頭の野良猫がたむろっていた。
「あの子がこの子のママで、あの子がパパよ」とOさんは教えてくれた。
ママは器量よしで身体が小さめの鯖虎猫、
パパは大きくていかにも強そうな鯖虎猫だった。
だが、ビーを引き取る事でテンパっていた私は、
彼にゆっくり挨拶すらできなかった。
Oさんは、野良猫が増えすぎないように
不妊や虚勢手術を定期的に行っていたが、
ビーパパは、どうしても人の手につかまらない生粋の野良で、
周辺のボス猫でもあり、
あまたの愛人を持つゴッドファザーだった。
確かに周辺の猫たちはほとんどが彼と同じ柄の鯖虎猫だった。
彼の堂々たる体躯は娘のビーにも遺伝して、
ビーは女の子なのに子供に
「でっかい猫がいる~!」と驚かれるほどたくましく成長した。
そして2004年の夏。
ビーがすっかりうちの猫として落ち着いた今こそ、
ビーパパに会いたいと思った。
ビーみたいなユニバーサル級の器量よし、
そのかわいさたるや山をも動かすで~、
と自信を持っていえるビーのルーツであるビーパパに、
もう一度ゆっくり会いたいと思ったのだ。
暑中見舞いのはがきに、簡単にその旨をしたためてOさんに送った。
すると何日かして、Oさんから電話があった。
そして、この夏のはじめに、ビーパパが病気で天に召されたことを知った。
「この夏はボクちゃんの看病と、ボクちゃんを送ることで終わったわよ~」とOさん。
Oさんは野良猫には名前をつけずに、オスは皆ボクちゃんと呼ぶ。
「でも遊びに来て、ね、ね、ね!」といわれ、
お盆のあたりで遊びに行くことにした。
翌週、お盆の終わり頃Oさんの家に行った。
Oさんお手製のピザをいただきながら、
ビーコパパの最期の話を聞いた。
猫エイズにかかったボクちゃんは、
他の猫に病気がうつらないよう駐車場の片隅に
Oさんがしつらえた寝床に隔離した。
食欲はなかったが生ものはよく食べるので、
Oさんはえびや鯛のお刺身を彼に食べさせた。
一度にたくさん食べられなくなると、
1日に6~7回に分けてご飯をあげた。
つきっきりで看病していても、
ボクちゃんは野良猫らしく触られるのは嫌がった。
けれど最期の日、Oさんがボクちゃんの様子を見に行くと、
ボクちゃんは初めてお腹をみせてゴロン、と横になった。
Oさんが近づいて撫でると、
気持ちよさそうに目を細めて喉をごろごろ鳴らし、
しばらくそうしていた。
Oさんはボクちゃんの最期が近いことを感じて、
ボクちゃんを一人にした。
1時間くらいして様子を見に行くと、
ボクちゃんは天に召されていた。
この話をしながらOさんは涙し、私も泣いた。
あとからきたCも話を聞いて泣いた。
Oさんは、今年になって3匹送ったといっていた。
頭が下がる。私もうちの猫だけじゃなくて、
猫全体のために何かやってあげたいと昔は思っていたけれど、
ビーが家出したときに精神的に追い詰められ、
廃人のようになってしまい、
これでは自分の飼ってる猫のケアだけで精一杯、
それ以上は自分の身がもたない、と思っていた。
その日も、Oさんはつい先日保護したという
野良の子を2階の1室にかくまっていた。
「かわいいよ~、見に行く?」「うん!」
部屋に入ると、白地に茶ブチの子が元気に駆け寄ってきた。
オモチャを振ると、子猫は大喜びで走り回り、
膝の上によじのぼったりもした。
「このボクちゃんは一番元気でね、人にもよく慣れてるの」
しばらくすると、家具の隙間から、
黒地の三毛猫が出てきた。
その子は人が怖いらしく怯えた顔をしていたが、
Oさんが首をつかんで私の膝におろすと、
じっとうずくまってゴロゴロ言い出した。
「この子もね、すごいなつこい子になると思う」
三毛が家具の隙間に入っていったので、
その隙間を覗いてみると、もう1匹茶虎の猫がいた。
「もう1匹いるよ!」
「うん、その子は人が怖いみたいでね、触らせてくれないの」
茶虎の子は、怯えた目で私をじっと見た。
私もじっと見たが、茶虎の子は目をそらさない。
触ろうとして手を伸ばすと怯えた顔のまま口を開けて「かっ」といった。
「この子たちの里親探してるんだけど、誰かいないかな」
Oさんが数多くの猫の世話を
一人でやってのけているのを目の当たりにし、
たった2匹で精一杯なんて決め付けるのはどうかと思っていた私は、
もう1匹引き受けてみようかな、とすぐに考えた。
モンチ兄のはいほーくん
リビングに戻り、ワインを飲むうちに日が暮れ、
外で遊んでいたOさんちの猫4匹が順番に帰って来た。
お客さんに対して「いらっしゃ~い、ゆっくりしてってね、
まあ飲んで飲んで、これも食べて、泊まってって~」
と大歓迎してくれるOさんに似たのか、
Oさんちの猫はみんなお客さんが好きで、
かわいらしくすり寄ってくる。
4匹のほかにも、窓の外の猫の餌場に、
いろんな猫がかわるがわる来てはごはんを食べていた。
白っぽい三毛がやってくるとOさんは、
「あの子が多分、上の子たちの母親なの。
困ったことにね、また妊娠してるみたいなの。
上の子たちの貰い手も見つからないのに。それ考えると心配で夜も寝れない」
帰る前、子猫たちをもう一度見に行った。
茶ブチの男の子はすぐに「遊ぼ遊ぼ」と寄ってきた。
三毛の子も顔を見せてくれた。
引っ込みっぱなしの茶虎の子を覗くと、
また怯えて「かっ」といった。
「この子はね、人になつかないから、手術したら放そうかなって思ってるの」
家に帰って、殿とビーに、
「うち、猫増えるかもしれないよ、いいかな」とお伺いをたてた。
殿もビーも余裕の顔をして寝こけていた。
ダーも、はじめはダメだよ、といっていたが、
私がその後猫のことしか頭にないことに根負けしたのか、
何かの拍子に「3匹になるんだね」、といった。
Oさんに電話して、茶虎の子をもらうことにした。
殿とビーとうまくやれるか心配だったので、一応ケージを用意した。
茶虎の子はうちにくると、あいかわらずの怯えた表情で、
近づくとかっ、といって触らせようとしなかった。
けれどご飯はちゃんと食べるし、
トイレも砂の上でした。
ただ砂の上にうずくまって、ウンコまみれになったので、
無理やりつかまえて拭いた。
2回目からは普通にするようになった。
殿もビーも知らない猫が縄張りに入ってきて大そう腹をたて、
何度も「シャア」といいに来た。
名前を早く付けた方がいいと思い、
なんとなく呼びやすくて響きもかわいいのでモンチ、と名づけた。
モユと同じ柄なので、モユのモの字を念頭にいれて。
この写真なんかモユそっくり!
新しい猫が来た日は、
新しい猫より先住猫のケアが大事。
モンチはとりあえずケージにおいて、
殿とビーコに土下座する勢いで新猫を受け入れてくれとお願いした。
モンチは部屋に一人になると、
甲高い声で鳴いた。
モンチはケージから出て、積極的に殿やビーに向かっていった。
どんなに「シャアシャア」いわれ、
猫パンチで頭を小突かれても、
モンチは殿やビーの姿を探しては向かって行った。
賢い殿とビーは、私のハラが決まっていることをすぐに察し、
どんなに「シャア」といったところで新猫を追い出すことはできない、
あのチビはうちの猫になったのだと早い段階で気づいていた
(と思う、シャアは最初だけだった)
モンチが来て3日目には、3匹同じ部屋で寝るようになった。
モンチが人に慣れるのにも時間はかからなかった。
来た日の夜にはオモチャで遊び、
次の日には膝に乗せると気持ちよさそうにうずくまってゴロゴロいった。
今ではまったく人みしりすることなく、うちで一番怖いものなしの顔をしている。
Oさんの猫愛ぶりに感動したCや、
出会った猫たちのためになにかしてあげたいと思った私も手伝った甲斐あって、
モンチの兄弟もほどなくしていい人たちに貰われた。
今回私がモンチと出会ったのは、
ビーパパのボクちゃんのガイドじゃないかしら、とふと思った。
ボクちゃんに呼ばれて、私はこの夏Oさんの家に行き、
モンチと出会ったんじゃないかしら。
ボクちゃんが遺した数多くの子の中でも
チャンピオン級にかわいいビー、
そのビーの選んだ私にボクちゃんは目をつけて、
死の間際まで世話になったOさんのもとへ私を向かわせたんじゃないかしら。
そして、モンチだけじゃなくて、
Oさんの家の界隈の猫たちを、
精霊になったボクちゃんは守ってくれてるんじゃないかしら。
なんたってゴッドファザー猫であり、A銀河最高の美猫ビーのパパなんだから。
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