自民党総裁選・消費税論争の美しくない日本の風景

2006-09-06 15:30:28 | Weblog

 世論調査では今後の政策課題として社会保障・経済格差の是正・消費税に国民は強い関心を持っているというが、自民総裁選での谷垣候補の消費税姿勢は正否は別として明確である。「増大する社会保障の財源として消費税率を2010年代半ばまでに10%まで引き上げる」

 対する安倍・麻生氏は経済成長を重視し、その中で歳出削減等を行って財政を健全化していく考えである。

 安倍氏「なお対応できない部分を消費税でお願いする。抜本的な税制改革の中で国民と議論する」と消費税増税は最後の最後だとしている。この点は麻生氏も同じである。

 麻生氏「歳出削減で足りないとなって、初めて消費税、間接税という話になる」

 麻生氏は次のようにも主張している。「直接税の伸びが分からない段階で、景気を中折れさせかねない消費税を何年にいくら上げると言うのは、軽率のそしりを免れない。消費税率を3%から5%に上げて逆に税収が減った教訓から学ぶなら、今の段階で決めるべきではない」

 対する谷垣氏は「『将来のことがわからないから具体的なことを語れない』では、国民の将来への不安を拭うことにはならない」

 麻生氏「景気が上がるときに消費税を上げると言ったら景気が萎えるでしょ。これまたやったらアホですよ」とテレビで放送していた。いわゆる中折れ懸念説の繰返しである。

 再び対する谷垣氏「時間はあまりない。少なくとも10%必要だと認識する必要がある。日本は中福祉低負担だ。見合う負担をしないと、子供や孫にツケを回す」といったような反論を試みていた。  

 安倍・麻生両氏の消費税増税先送り論は景気回復維持による税収増を前提としている。景気変動の危険性を無視しなければ成り立たない〝経済成長〟論とも言える。失われた10年からやっとこさ脱却した途端に、バブルから突き落とされて暗い谷底を10年間も彷徨った苦い経験から得た右肩上がりが永遠に続くことはないという教訓を忘却の彼方に置き忘れてきてしまったらしい。

 今回の景気回復が自力回復なら、自信を持つのもいい。中国・アメリカの景気拡大に牽引された他力回復であり、証券取引の活況も外国人投資家が先導役を果たした活発化と株価上昇であった。キャリーファンドとかの外国人投資家が日本のゼロ金利政策を利用して日本の金融機関からタダ同然の多額の融資を受け、それを外国で運用して得た利益が10兆円にものぼると、確かNHKだかで放送していた。国の借金が8000兆円超、地方が200兆円超、合わせて1000兆円超とも言われている財政赤字を抱えていながらである。勿論外国投資家だけではない。日本の持てる者の持てるカネを有効に活用せしめ、格差社会を形成したゼロ金利でもあった。一方で社会保障費の削減で低所得層に痛みを強いていながらである。その結果の格差社会でもあった。
 最も始末の悪いことは周囲の状況に恵まれた僥倖に過ぎない景気回復を小泉構造改革による直接的な成果だと小泉首相自身も周囲もそう信じていることだろう。その過信が税収増に景気変動のファクターを加えない誘因だとしたら、安倍氏も麻生氏も政治家として美しい姿とは言えない。

 小泉構造改革が失われた10年からの景気回復をもたらしたと位置づけること自体が滑稽な過信に過ぎないのだが、戦後の日本の発展は靖国神社に祀られている戦没者の礎の上に築かれたとする小泉首相自身の、戦争のマイナスに戦後の発展をプラスすることで差引き戦争のマイナスを限りなくゼロに近づけようとするペテンにも通じる自己欺瞞の類ではないだろうか。

 日本は自ら犯した侵略戦争によって多くのものを失ったが、他国が犯した朝鮮戦争によって失った経済を回復させ、戦後の発展の礎としたというとろこがウソ偽りのない歴史的事実であろう。アメリカの援助もあった。明治以降、今日まで輸出依存・外需依存の発展を日本の歴史・伝統・文化としてきたのだから、そのことに連動する日本民族の自力性の欠如なのである。大和政権成立以前から中国から制度・文物・文化を移入して日本という国を成り立たせ、現在も欧米、特にアメリカの制度・思想を手直しして日本の運営に応用していることがそのことを証明している。

 最近米国景気の減速傾向が言われている。だが、04年に中国が米国を抜いて日本の最大の貿易国にのし上がり(中国側からすれば中国の最大の貿易国は欧州連合で、次いで米国。日本は03年1位から第3位へと位置を下げている分、上位2国と比較した場合、その絶対性は薄れている)、米国の景気減速の日本への影響は少ないとする考えもあるようだが、中国経済の成長パターンが日本と同じ輸出依存で、輸出の2割が米国向けであることから米景気の減速が中国の景気に影響を与え、それが撥ね返って日本の対中輸出を冷え込ませる要因となる可能性が高いと言うことである。勿論米国景気の冷却による日本への直接的影響は全然ないというわけではないから、対中米合わせた輸出量の低下は相当な打撃となる可能性無きにしも非ずであろう。

 いわば景気拡大は絶対前提とはならないということである。現在の原油高の景気に与える影響も計りかねているはずである。景気が減速し、税収が伸びない中での財政運営にしてもままならないだろう。税収がマイナスに転じたら、歳出削減と赤字国債発行を常に連動させていかなければならないといった事態も起きかねない。

 現在の景気が不安定なバランスの上に成り立っていることを指摘する『朝日』夕刊記事(06.9.1.『朝日』夕刊)がある。

 「世界貿易、日独もっと貢献を 06年国連報告書 不均衡是正、米国頼み懸念」
 
 「【ジュネーブ=大野良裕】途上国の立場から世界貿易の拡大と開発の両立に取り組む国連貿易開発会議(UNCTAD)は8月31日、06年の貿易開発報告書をまとめた。米国の国内消費が世界経済を牽引している今の状態は『永遠に続くものではない』と分析。先進国で大きな経常黒字を抱えている日本とドイツを名指しし、『国内需要の拡大によって世界的な貿易不均衡の是正に貢献すべきだ』と呼びかけている。
 報告書はまた、貿易不均衡が原因となって途上国の通貨、株式、商品市場の変動幅が大きくなっていると指摘。90年代後半のアジア通貨危機のような大規模な金融危機が起きる可能性は低いものの、世界の経済成長を米国の消費が支えている現状は、米国にとって過大な負担になりつつあると分析している。
 その上で、米国の輸入需要が落ち込めば世界経済の悪化が連鎖的に拡大するとの懸念を提示。日独などが米国の負担を分かち合う必要があると主張している。
 報告書はまた、90年代からの中国の国内需要の伸びが、途上国全体の成長に弾みをつけてきたと評価。この傾向を維持するために『人民元の切り上げは急速にではなく、斬新的に進めなければならない』としている」
 日本の景気回復が「米国の消費」と「中国の国内需要の伸び」に支えられたもので、自力性からの実現値ではないことを国連貿易開発会議の『貿易開発報告書』は伝えている。そしてアメリカにおんぶに抱っこの他力本願はそろそろ改めろとの警告である。

 「米国の国内消費が世界経済を牽引している今の状態は『永遠に続くものではない』」にも関わらず、自力回復ではない、外需依存によってプレゼントされた日本の景気回復プロセスを無視して、日本の総理・総裁を目指そうという政治家が景気拡大を絶対前提として、消費税増税は今語る時期ではないといったことを主張している。まったく以て美しい姿と言えるだろうか。

 国・地方を合わせた巨額の財政赤字、巨額の国債発行残高、景気回復がマイナスの要素として働く国債利払いの増額、それに日本の政治家と官僚たちの美しくない私利私欲癖と無能と惰性がグルになってもたらしている非効率な予算遂行上のムダの累積等々を見ると、素人目にも日本の財政状態が軽症を超えてかなり重症に陥っているように見える。

 重症状態にある症状を景気の状態によって効き目が良くもなれば悪くもなる漢方薬を息長く使って解放に向かうのをじっと待つのが得策か、こちらから緊急の大手術を仕掛けて、回復を策してみるのが得策か。麻生氏が言う「消費税率を3%から5%に上げて逆に税収が減った教訓から学ぶなら」、そのことを恐れるだけの姿は美しくなく、再び同じ轍を踏まない政策の創造をしてこそ美しい姿と言えるのであって、その鍵は例えば食料品に関しては従来どおり5%とするといった運用方法と国民への説明にかかっているはずである。

 安倍氏にしても「なお対応できない部分を消費税でお願いする」と言い、麻生氏にしても「歳出削減で足りないとなって、初めて消費税、間接税という話になる」と消費税増税への道を全面的に閉ざしているわけではない。麻生氏の景気の中折れ懸念も、安倍氏の消費税増税の当面の排除も実際は表向きの理由で、消費税増税を前面に出した場合の不人気からの来夏の参院選への影響を恐れる選挙都合からの措置だとしたら、いわば参院選を凌いでからそろりと持ち出すべき増税論だとしているとしたら、国の進路を担う政治家として美しい姿どころか、潔くない醜い姿だと言わざるを得ない。

 参院選で自民党敗北ということになったなら、安倍内閣は短期政権で終わる可能性が一気に吹き出てこないとも限らないから、麻生氏よりも当選が確実視されている安倍氏の〝饅頭恐い〟ならぬ〝消費税恐い〟の意識は強いだろうが、「美しい日本」を掲げる以上、自己都合を排除すべきである。そうでなければ言行不一致の美しくない姿を曝すことになる。国民の顔色を窺って無難な形で持ち出すとしたら、〝改革〟の名が泣く。

 国連貿易開発会議の上記分析が指摘している世界とアメリカとの経済に関わる関係を別の面から表現した私自身の2003年5月18日付のメールを見つけた。アメリカのイラク侵略に今からでも遅くない、アメリカ製品の不買運動を通して反対の姿勢を示そうと呼びかけたメールに対する私の返事である。現在も続いているイラクの内戦状態に関わることなので、参考までに記載してみようと思う。
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 「Re: [kokkai2] イラク戦争への反対は今から」(2003年5月18日 18:15)

 手代木です。

 アメリカは世界の胃袋です。その胃袋たるや、ゲテモノ食いの胃袋であって、世界各国が生産する自動車からテレビ、カメラ、高級エビなどの魚類、衣類、雑貨、その他その他、自国が輸出する総額以上の金額の製品を、呑み込んでいます。極言すれば、世界の経済はアメリカの貿易赤字で成り立っていると言えなくもありません。アメリカが貿易赤字だと言うことは、世界の多くの国々が対米黒字の恩恵を受けていると言うことです。日本もその内の一国に入ります。

 もし世界がアメリカ製品不買運動を本格的に展開したなら、アメリカ国民も対抗上、それぞれの国のアメリカ向け主要輸出品に対して不買運動を起こすでしょう。経済的な打撃は貧乏な国・貧乏な人間からと相場が決まっています。日本が例え生き残ることができたとしても、発展途上国・後進国から恨まれることになるでしょう。

 私はアメリカのイラク攻撃を支持した人間の一人ですが、イラクのフセイン政権崩壊は既に既成事実となった出来事であり、その事実の上に事態を進展させる他はありません。フセイン政権崩壊後のイラクがどう転ぶかは、イク人自身の問題です。利権争い、主導権争い・宗派闘争・個人的名誉欲等に打ち勝って、平和で民主的な新生イスラム国家の基礎をつくれるか否かは自己決定案件であって、(アメリカの)最終的関与はアメリカの手から離れたところにあります。

 世界のマスメディアが大量破壊兵器が未だ発見されないことを以って、イラク攻撃の大義の不在をあげつらうばかりなのをやめて、イラクの将来はイラク人自身の問題であることをすべてのイラク人に伝えなければ、私欲や雑念から離れた国づくりの自覚を促すことはできないと思います」
* * * * * * * *
 イラクは今以てイラク人自身の愚かさを繰り広げている。それを煽ったのはある意味反戦平和を掲げる世界のマスメディアと言えるのではないだろうか。イラクの現在の内戦状態をアメリカの責任と把える報道が跡を絶たないのだから。

 cf:安倍新総理に敬意を表して、それが短期政権で終わること願いつつ、今後とも〝美しい・美しくない〟をキーワードに無理なこじ付けが混入するかもしれないが、情報を解読していきたいと思っております。

コメント (1)
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