中国冷凍餃子問題/中国の情報統制・人権抑圧政策の共犯者となった日本政府

2008-08-14 10:16:09 | Weblog

 中国国内でも「天洋食品」製冷凍餃子を食べて中毒症状を来たした事件が発生したという。

 08年8月11日の「毎日jp」記事≪読む政治:「中国でもギョーザ中毒」1カ月間公表せず 食の安全、感度鈍く≫を参考に事件のあらましを箇条書きにすると、

1.7月初めに「通常の正式な外交ルート」(高村外相)を通して発生時期や場所まで特定した具体的な
  内容で「天洋食品」製冷凍餃子を食べて中毒を起こした被害者4人からメタミドホスが検出されたと
  知らされた。
  毒物混入が中国国内で行われたことがほぼ確実となる重要な捜査情報だった。
2.外務官僚が高村外相に「中国が公表しないでほしいと言っている」と報告。外相は「当然だ」と異論
  をはさむことなく非公表方針が決まった。
3.外務省は官邸と警察庁に連絡。警察庁には「外交ルートで来た情報なので表には出せない」と念押し
  。
4.官邸は政治家の判断を仰がず、官僚レベルで情報共有を外務省、警察庁に限ることを決定。
 「日本国内で新たな被害が出る恐れはないから、公表の有無を議論した覚えはない」(政府高官)
 「捜査中の中国の意向を尊重するのは当然」(外務省幹部)
 「通報は指導部トップの判断だったと聞いた」(外務省幹部)

 「指導部トップの判断」であり、「捜査中の中国の意向を尊重するのは当然」だからと非公表の要請を蔑ろにはできないとした外務省の決定理由は、中国が国内の捜査情報を他国に知らせるのは異例だし、混入場所を「日本国内」と主張していたメンツもつぶれる。首相との信頼関係を重視する胡主席が首脳会談前に知らせておくことを決めた高度に外交的な配慮に違いないと忖度しての非公表ではないかとの「毎日jp」の解説である。

5.約1週間経過後の北海道洞爺湖サミット最終日7月9日の胡錦濤国家主席との首脳会談30分前の午
  後4時半、福田首相は外務官僚らとの打ち合わせ中、「6月に中国内でもギョーザ中毒事件が起きて
  いたと中国政府が知らせてきた」と知らされる。

 7月はじめに中国側から知らされた報告については上記「毎日jp」記事よりも5日遡る8月6日付(08年)の「読売」記事≪「天洋食品」回収ギョーザ、中国で中毒…現地混入が濃厚に≫が日本最初の報道として詳しく書いている。

 事件発生時期を<6月中旬>のこととして、<中国製冷凍ギョーザ(餃子)中毒事件で、製造元の中国河北省石家荘の「天洋食品」が事件後に中国国内で回収したギョーザが流通し、このギョーザを食べた中国人が有機リン系殺虫剤メタミドホスによる中毒症状を起こして、重大な健康被害が出ていたことがわかった。>ことと、中国側が<7月初め、北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)の直前に、外交ルートを通じて、日本側にこの新事実を通告、中国での混入の可能性を示唆した>ということを報道、その結果日本政府が中国の非公表要請に加担して国内非公表を決定したことが明るみに出た。

 非公表決定の瞬間、日本政府は中国共産党一党独裁式情報操作と人権抑圧政策の共犯者となったのではないか。

 5番の7月9日の胡錦濤国家主席との首脳会談30分前の午後4時半に福田首相に伝えられたという点は8月12日(08年)の「読売」インターネット記事≪中国でのギョーザ中毒発生情報、日本伝達は7月7日深夜に≫では1日前の「7月8日」となっている。いずれにしても洞爺湖サミット開催中(2008年7月7日~2008年7月9日)であることに変りはない。

 だが、福田首相が知らされて、中国側の非公表要請に対してどういう言葉で非公表の企みに乗ったかは「毎日jp」記事と同様に上記「読売」インターネット記事も何ら伝えていない。参考までに8月12日の「読売」記事を引用しておくと、

 <中国製冷凍ギョーザ中毒事件で、中国国内での被害発生情報は北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)初日の7月7日に日本政府に伝えられていたことが12日、分かった。

 国会内で同日開かれた民主党の同事件対策本部の会合で外務省の小原雅博アジア大洋州局参事官が明らかにした。

 小原参事官の説明によると、連絡は7月7日深夜に在北京日本大使館に伝えられた。中国側が「公表しないでほしい」と要請したことを踏まえ、斎木昭隆アジア大洋州局長は8日、「捜査情報なので公表すべきではない」と判断。同日中に高村外相のほか、首相秘書官を通じて福田首相にも報告した。外務省は、首相から公表指示がなかったため、「公表しない方針は了承されたと認識していた」としている。>

 福田首相が例の表情、例の口調で、「あ、そう」と一言で片付けたわけではあるまい。知らされると同時にどのような言葉で応じたかは藪の中となっている。

 以上を箇条書きにお浚いすると、

1.6月中旬に回収されたにも関わらず市場に出回った「天洋食品」製冷凍餃子を食べた中国人が有機リ
  ン系殺虫剤メタミドホスによる中毒症状を起こして、重大な健 康被害に陥った。
2.約1ヶ月近く経過した7月7日深夜に中国側は「公表しないでほしい」という要請と共に上記事実を
  在北京日本大使館に伝えた。
3.斎木昭隆アジア大洋州局長が次の日の7月8日、「捜査情報なので公表すべきではない」と判断。同
  日中に高村外相と首相秘書官を通じて福田首相に報告。外務省は、首相から公表指示がなかったため
  、「公表しない方針は了承された」ものとする。
4.さらにほぼ1カ月後の8月6日に「読売」記事が市場に流通した「天洋食品」製冷凍餃子を食べた中
  国人が重い中毒症状を引き起こしたこととその事件が中国側から日本政府に伝えられていたことを報
  道、日本政府は非公表は中国側の要請を受けたもので何ら間違っていないと開き直る。

 ここで最初に誰もが疑問に思うことは、なぜ中国側は洞爺湖サミットが開催されるまで中国内の事件発生から1カ月近くも事実を隠していたのだろうかということであろう。それとも洞爺湖サミットを照準とした情報提供だったのだろうか。いわば洞爺湖サミットまで隠す必要があった。

 そうだとすると、福田・胡錦涛首脳会談に合わせた予定行動の中国側の情報提供だったことになる。

 第2の疑問は、なぜ中国側は非公表を要請したのか。

 第3の疑問は当然、どうして日本側がいとも簡単に中国側の非公表の要請に同調して情報操作、あるいは情報統制の共犯者になったのだろうかということであろう。

 日本政府の非公表対応に向けた民主党の批判に対する福田首相の反論を昨20日早朝の「日テレ24」が報じていた。

 福田首相「国民より、中国への配慮っておっしゃったんですか。中国への配慮というより、真相究明じゃないですか。相究明してもらわなきゃ困るんですよ。捜査の途中で、ええー、それが確定的なのかどうか、というようなことについてですね、明確でない。そういうときに公表しますか?(公表しないことはよくあることじゃないですか、日本国内でもね)」(カッコ内は「朝日」テレビ)

 では高村外相の弁明。マスコミ各社ともニュアンスが少ずつ異なるので、いくつかの記事を引用してみる。

 (8月7日の発言)「中国側から『捜査の過程で支障があるので今は公表しないでほしい』と言われた。こちらもそれを守るため、官邸と警察、外務省という一定の範囲内で情報共有した」(「日経ネット」08年8月8日)

 (8月7日の発言)「7月初めに報告を受けた。中国から捜査に支障をきたすので公表は差し控えてほしいと言われ、捜査の進展を期待して公表しなかった」(「毎日jp」08年8月8日)

 「わが方に有利な情報を中国が伝えてきたことは多とする」(同「毎日jp」)  
 「情報の世界では、提供者がしばりをかけた場合、よほど特殊な事情がない限り従うことが大原則」(同「毎日jp」)

 外務省幹部「福田康夫首相は会談の時点で事実関係を知っており、念頭に置いて会談でギョーザ問題を取り上げた」(同「毎日jp」)

 高村外相(8月7日)「情報提供者が公表しないでほしいと言っている以上、われわれは公表しない。同時に<捜査のことだからということに一定の合理性がある」(「MSN産経」08年8月7日)

 「今発表されてしまうと捜査に支障を来すので、これから捜査が進むまでは発表しないでくれとの縛りをかけた情報提供だった」(同「MSN産経」)

 「真相究明」捜査の進展」を優先させた、そのための非公表だとしている。その理由は当然のことながら、日本の公表が中国側の「真相究明」捜査に支障をきたすと言うことだからだろう。どう支障をきたすのか中国側から詳しく説明があって日本側が納得した非公表、「真相究明」優先のはずだから、支障理由を日本政府は国民に逐一説明する責任を有することになるが、「捜査途中で真相が確定していない、真相を究明するところまで持っていってもらわなければならない。だから公表しなかった」では支障理由の説明にはならないはずだが、「捜査途中」と「真相究明」一点張りで済ませている。これは説明不足というよりもゴマカシ以外の何ものでもないと思うのだが、そうではないだろうか。

 「天洋食品」が直接回収し市中に流通した、いわば中国国外に一度も出ていない「天洋食品」製冷凍餃子を食べた中国人が有機リン系殺虫剤メタミドホスによる中毒症状を起こして重大な健康被害に陥ったという事件の経緯自体は有機リン系殺虫剤メタミドホス中国混入説を裏付ける絶対的な証拠とはなる。

 だからと言って、日本で混入した毒物ではありません、中国で混入した毒物ですで済ますことができたなら、公表するしないは問題にはならないはずである。 問題になるのは中国の政治体制の一翼を担う公安当局が音頭を取って中国混入説を否定、間接的に日本混入説を打ち立てたことではないだろうか。

 国家質量監督検験検疫総局(「質検総局」、品質検査当局)王大寧・輸出入食品安全局長「初歩的な調査と検査の結果、中毒事件に関係したギョーザはそれぞれ同社(注・天洋食品)が07年10月1日に生産した13グラム規格と同10月20日に生産した14グラム規格の豚肉・白菜入りギョーザで、ショウガや白菜などの原料に対しては輸出前にメタミドホスを含む残留農薬の検査を実施しており、すべて合格していた」(「人民網日本語版」 2008年02月01日 )

 中国公安省刑事偵察局・余新民副局長が記者会見を開いて、餃子の倉庫保存、輸送、販売時の冷蔵温度であるマイナス18度の条件下で餃子包装袋を1%、10%、30%、60%と濃度の異なるメタミドホスに浸したところ、いずれも10時間以内に袋の内側に浸透したという中国側の「浸透実験」結果を根拠に「中国国内で(メタミドホスが)混入された可能性は極めて低い」(「MSN産経」記事/08年3月2日)と日本の警察の浸透実験による袋はメタミドホスを浸透しないの結論(=日本混入説の否定)を完全否定。問題が大きくなったことから、言ってみれば、中国の正義を打ち立てたのである。

 中の不純物の中国製の可能性の指摘に対しても、「(不純物は)各国で生産する中に普遍的に存在する。成分検査をもって、どこで生産されたものか判別することはできない」(同「MSN産経」記事)

 天洋食品の工場長だかがテレビで憤懣やる方ない様子を顔中に見せ、「一番の被害者は私たちだ」と中国及び中国人無罪説、と言うよりも日本による中国及び中国人に対する冤罪を訴えて、やはり中国の正義を打ち立てていた。

 「Wikipedia」によると、<中華人民共和国公安部(省)は、日本の警察の公安警察とは異なり、中国領内での日常警察業務全般を遂行する組織であり、国務院に所属する。つまり日本の国家公安委員会および警察庁に相当>し、<日本の警察では認められない予防拘禁制度があり、政治犯の拘禁も行ってい>て、<公安機関と中国人民武装警察部隊>を管轄下に置いている。

 「中国人民武装警察部隊」(略称は「武装警察」あるいは「武警」)は<国内の治安維持や国境防衛などを担う中華人民共和国の準軍事組織である。公安部が行政上管轄しているが、同時に中国共産党中央軍事委員会の指導下にもあり、この意味において所謂国家憲兵ではなく、あくまで党所有の治安部隊である。名称には警察が含まれているが、隊員は兵士・将校とされ、現役軍人としての資格・権利を持つ。>(同「Wikipedia」)

 中国人民解放軍が国家の軍隊であるよりも中国共産党の軍隊であることと重なる共産党との関係にあると言える。

 このように共産党一党独裁体制を国内治安面から担う、それゆえに常に正義を体現していなければならない大層な国家組織が正義の体現に反する不正、もしくは何らかの重大な失態を犯した場合、貧富の格差社会の貧困層に閉じ込められた多くの国民の不信を買うだろうし、買えば当然、その不信は格差を生み出している政治体制の担い手である共産党指導部に向かう可能性は否定できない。指導部に向かえば国家体制そのものを揺るがしかねない事態も視野に入れておかなければならない。

 いわば正義を体現できずに不正・失態を犯す公安当局の欠陥は共産党一党独裁体制そのものの欠陥となる関係に両者はあることになる。

 そのような絶対正義体現者でなければならない公安当局が記者会見まで開いて、中国側の「浸透実験」をもとに日本の実験結果を否定することで「中国混入説」を否定し、間接的に「日本混入説」を打ち立てて中国の正義を誇示した。

 だが、中国国外に一度も出ていない「天洋食品」製冷凍餃子を口にした中国人が有機リン系殺虫剤メタミドホスによる中毒症状を起こして、重大な健康被害に陥った。

 これはただ単に「中国非混入説」の主たる根拠とし、間接的に「日本混入説」に持っていった自分たちの「浸透実験」が間違っていたといった技術的な未熟の問題で済ますわけにはいかない事柄であろう。マイナス18度の条件下で餃子包装袋を1%、10%、30%、60%と濃度の異なるメタミドホスに10時間浸して内側に浸透するかどうかといった間違うはずのない初歩的な「浸透実験」だからだ。

 間違うはずのない初歩的な「浸透実験」を間違えたという事実は実験結果の人為的な捏造なくして不可能という経緯を否定し難く抱えるはずで、当然のこととして中国の正義、国家の正義の描出は実験結果の捏造・デッチ上げが可能としたマヤカシであり、そのことを露見させた中国人中毒事件だったということになる。

 中国国民の不正義を監視し、正義を奨励して中国社会の秩序確立を担う役目を持ち、中国の国家体制・国家権力を側面から支える主要な治安機関である公安省自らが自らの正義の体現に反する実験の捏造という情報操作までして中国の正義、国家の正義を偽装した、そのことの露見なのである。

 その上、天洋食品と癒着して甘い汁を吸っていたがゆえに天洋食品に有利となる「立ち入り検査」や「検査」捏造だったとしたら、公安省やその他の関係機関は最悪の立場に立たされる。その疑いさえ否定できない捜査経緯であった。

 可能な限りの情報統制・可能な限りの情報管理・可能な限りの情報制限・可能な限りの情報操作・可能な限りの報道管制を行って共産党一党独裁体制を維持している国家権力が権力身内が仕出かした「中国正義」の偽装・「国家正義」の偽装を軽々に公表できるだろうか。

 オリンピック開会式の花火のテレビ放送はCG、開会式で美しい声で歌った幼い少女はただ口をパクパクあけていただけで、別の少女の歌声を流したといった偽装があったということだが、公安当局の偽装から比べたら、これらまだまだ小さな問題であろう。

 中国という一国のみにとどまる問題ではなく、表面は互恵関係を装ってはいるが、ホンネのところではあらゆる面でライバル関係にある日本という外国が関わっている偽装であって、その外国に対して中国国家体制の欠陥を曝すことになる公表なのである。

 中国国内で発生した中国人中毒事件を隠蔽し通して日本に報告せず、万が一露見した場合に中国が立たされかねない窮地、失点となりかねない責任問題を考えた場合、報告しないわけにはいかず、だが、報告して日本が公表しインターネット等を通じて中国国内に広く知られた場合の国民に露見することとなる国家体制の偽りの姿、剥がされることになる国家的体面をも計算に入れると、残された道が日本に公表を思いとどまらせることではなかったろうか。

 そのために言われているところの福田首相と胡錦涛主席の信頼関係を利用すべく、二人が直接会ってそのような関係を再確認し合い、最も高め合うことになる洞爺湖サミット福田・胡錦涛首脳会談にタイミングを合わせた?――

 そのために「6月中旬」の事件の発生でありながら、日本への報告が1カ月近い後れの7月7日となった。まさか七夕の日だからと、その日に合わせたわけではあるまい。

 最初に報告を受けた在北京日本大使館の人間も、順次報告を受けることとなった高村外相も町村官房長官も、その他の人間もすべて福田首相と胡錦涛主席の信頼関係が頭にあり、最初に働かせた意識は両者の信頼関係を損なわないことへの配慮だったろう。損なわせたなら、即日本と中国の両国関係に関わってくる。最も損ないたくなかったのは福田首相だったことは想像に難くない。低い支持率ながら、支持を得るささやかな得点となっている中国との信頼関係であり、福田首相の大事なウリの一つでもある。

 信頼関係を崩したくないばっかりに、そのことを最優先させて、結果的に相手方の言う「真相究明」、「捜査の進展」を真に受けることとなった――ということではないだろうか。

 中国側としたら、国家体制の不備・不正義を曝す最悪の事態を免れ、少なくとも問題を「真相究明」、「捜査の進展」の問題へと矮小化することに成功している。 いずれにしても日本政府が中国の情報統制・人権抑圧政策の共犯者となったことは間違いない。中国内の冷凍餃子中毒事件に関わって中国政府の情報操作に加担することで間接的に中国国民の生命を蔑ろにする人権抑圧に手を貸したことになるからだ。

 今後中国側がなすことは公安当局の失態・不正義を中国社会に曝すことなく、問題の収束を図ることだろう。

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