「たらたら飲んで、食べて、何もしない人の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」――
「タバコを値上げされてまで、タバコを吸わない人の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」
たばこ税増税は自民党税制調査会が見送りを決めた。反対の理由を各メディアがそれぞれに伝えている。
党税調幹部「たばこ税を社会保障の特定財源にする考え方は間違っている」(「asahi.com」)
党幹部「喫煙者だけに大きな負担を押し付けるのは理屈が立たない」(「毎日jp」)
町村信孝前官房長官「たばこ税をあげても税収が増えるかどうか、まったく定かではない。消費の減退もあるし、値段をあげれば過去の経験値では何%か売り上げが減る」(「asahi.com」)
与謝野経済財政相「社会保障費というのはたばこを吸う人たちだけに背負わせていいのかという問題がある」(「asahi.com」)――
「たばこ税を社会保障の特定財源にする」としたら、揮発油税や石油ガス税、自動車重量税等を道路特定財源とする税方式と重なる。
しかしこの「考え方は間違っている」と言えるのだろうか。喫煙と健康被害の関係で言うと、HP≪喫煙と健康について≫(ウスイ内科クリニック/かかりつけクリニック)が次のように教えてくれる。
<◇ どの様な害があるのですか!?
タバコと健康の害と言うと、”タバコ=肺がん”というイメージだけを持つ方が多いと思いますが、”非喫煙者”と比較した場合、喫煙者においての死亡率の増加割合を見ると、全部の癌において1.7倍、クモ膜下出血で1.8倍、口腔癌で2.8倍、喉頭癌で32.5倍!、食道癌で2.2倍、肺癌で4.5倍!、虚血性心疾患で1.7倍、肝臓癌で1.6倍、胃潰瘍で1.9倍、胃癌で1.4倍、膵臓癌で1.6倍、膀胱癌で1.6倍、子宮頸癌で1.6倍の死亡リスクの増加を示しています。
◎ちなみに、禁煙係数と呼ばれるものがあり、禁煙係数:一日の平均喫煙本数×喫煙年数であり
、400を超えると、“肺癌にかかる確率が飛躍的に上がる”とされています。
喫煙と発癌の因果関係に関しては、ニコチンの直接作用ではなく、火を着けて吸引するタバコの煙に、発癌物資が含まれるとされており、タバコの煙中には発癌性物資が既に40種類以上は検出されています。
また、心筋梗塞や脳血管障害の危険因子としては、その血管収縮の作用や、HDL-コレステロールという善玉のコレステロールを減らす点、さらには抗酸化物質を破壊し動脈硬化を促進する為によるとされています。
男女比では、各疾患の罹患危険率に大きな変化は認めないものの、妊娠と喫煙に関しては、早産をする方が、喫煙者は非喫煙者に比べて3.3倍、生まれた時の赤ちゃんの体重の少ない低出生体重児の割合が2.4倍、先天性異常の確率も1.3倍とされており、はっきりと因果関係が疫学的に証明されている先天性異常では、”口蓋裂”との関係があり、先天性心疾患にもかなりの確率で影響があるとされています。>――――
また、非喫煙者の喫煙者からの「受動喫煙」と言う問題もある。
「Wikipedia-受動喫煙」――<受動喫煙とは、喫煙者の周囲の人が、自分の意思とは無関係に環境たばこ煙(environmental tobacco smoke:ETS)に曝露され、それを吸入することである。ときに「間接喫煙」、「不随意喫煙」、「不本意喫煙」ということもある。対義語は能動喫煙(のうどうきつえん)。
環境たばこ煙とは、副流煙(喫煙者が直接吸う主流煙に対し、たばこの先から立ち上る煙)と、呼出煙(喫煙者の吐き出す煙)が混じり合った煙である。
副流煙は主流煙よりも多くの有害物質が含まれており、非喫煙者であっても喫煙者の煙を吸うことで、健康に悪影響を及ぼす危険性が増大する。>――
喫煙はかくも人間の健康に害を与えている。重大な病気に罹る危険率が高いとなれば、当然のことに病院で診察・治療する機会も多くなるのは必然の結果であろう。
医者にかかる機会が一般的に非喫煙者よりも多く、それがより重い病気となる傾向が高いということなら、喫煙者に対する医療保険に於ける公費負担の占める割合も大きくなる。
道路特定財源制度が道路の維持・整備によって歩行者や自転車も、あるいは商店や会社も利益を受けないわけではないが、より多くの利益を得る自動車利用者がその費用を自ら負担すべきとする「受益者負担の原則」に基づく制度だと言うなら、病院での診察・治療の機会が多いことから喫煙者を公的医療保険制度の公的負担によって一般的には非喫煙者よりも多くの利益を得る「受益者」に位置づけることも可能で、そうであるなら、道路特定財源の精神を社会保障制度にも応用して、「受益者負担の原則」を喫煙者に当てはめて、より多くの利益に対する応分の負担として喫煙を通じて税の形で捻出させても、それほど不都合なことではないに違いない。
この指摘が間違っていないとするなら、「たばこ税を社会保障の特定財源にする考え方は間違っている」とは言えなくなる。
あるいは党幹部の「喫煙者だけに大きな負担を押し付けるのは理屈が立たない」とする考え方も、与謝野経済財政相の「社会保障費というのはたばこを吸う人たちだけに背負わせていいのかという問題がある」も、的から外れた主張と言うことにならないだろうか。
また町村信孝前官房長官は「たばこ税をあげても税収が増えるかどうか、まったく定かではない。消費の減退もあるし、値段をあげれば過去の経験値では何%か売り上げが減る」と言っているが、増税によって喫煙者が減るなら、そのことによって「税収が増え」なくても、禁煙によって病気にかかる確率が減ることになれば、社会保障費の抑制につながって増税の効果は違った形で現れることになる。
たばこ税増税が禁煙の機会につながって社会保障費の伸びを抑えるか、あるいは一時的な消費の減退はあっても、さしたることはなく一応の消費が続いて税収が増えて社会保障費の財源手当てに役立つプラスの利益が確保可能なら、そのことによって増税反対派が唱えている「(たばこの)店や農家が、場合によっては廃業せざるをえない所も出る」(「TBSニュース」インターネット記事)とするマイナスの利益が生じたとしも、その分のある程度の生活補償をすることで補い、社会保障に関わるプラスの利益と生活補償経費との差引きによって上まわる利益の方を採るべきであろう。
禁煙が国民の健康を守る一因となるということなら、農家やタバコの販売を扱う店への補償と比較して、その利益は計り知れないものがあるのではないだろうか
1本で3円(1箱60円)程度の引き上げなどとケチ臭いことは言わずに、社会保障費の抑制を目指して1箱1000円に上げてもいいのではないのか。
勿論、麻生太郎が愛用しているという葉巻も大幅に税をかけるべきである。
下記「毎日社説」記事は当ブログ記事とは違って高邁な内容となっているが、主旨はほぼ似ていて、「喫煙と健康」の関係からたばこ税増税を解説している。参考までに引用。
≪社説:たばこ増税 見送りで一件落着にするな≫「毎日jp」2008年12月12日 0時17分)
政府・与党がたばこ増税見送りの方針を固めた。「喫煙者だけに負担を押しつけるのは理由が立たない」「総選挙の前に増税はしたくない」など、与党内から反対が強まったためだ。
政府・与党内で、財源論や総選挙を意識した議論だけが先行し、たばこと健康についての冷静な議論が深まらなかったのは残念である。
たばこ増税の議論が社会保障の財源論に矮小化(わいしょうか)されてしまったのが、そもそも誤りだった。「増税でたばこ消費が減れば税収は増えない」という反対論だけでは、喫煙が健康に与える悪影響を食い止める方向に議論は広がらない。
政府は社会保障費の伸びを2200億円抑制する方針を決め、その財源としてたばこ税を1本3円(1箱60円)程度引き上げ、千数百億円を充てようと検討が始まった。これまでも旧国鉄債務の肩代わりなどのために1本1円の増税が行われてきたが、今回も安易な議論に終始した。たばこと健康の問題や「たばこ煙ゼロ環境」の実現に向けて、広く国民的な議論をするチャンスだったのに、それができなかった。
世界保健機関(WHO)は、20世紀中に喫煙を理由とする疾病で1億人が死亡し、今世紀には10億人が亡くなると予測している。
禁煙が広がっていけば、健康被害が防止でき、医療費や職場の環境対策に使われる費用も節減できる。たばこ増税を行う最大の理由は、喫煙者の健康や環境問題を考えてのことであり、増税による財源を社会保障費に充てることが主目的ではない。
日本も締結している「WHOたばこ規制枠組み条約」は、たばこ消費を減少させて疾病や死亡を減らすこと、たばこ税の引き上げや禁煙指導の実施--などを各国に求めている。日本で今、議論しなければならないのは、同条約に沿ってどう対応するかだ。目先の財源論に目を奪われると、大局を見失ってしまう。
日本のたばこ税と価格は主要国に比べて相当に低い。たばこの価格を主要国並みに上げることの是非について議論し、合意を目指すのが政治の仕事である。
麻生太郎首相は、自民党税制調査会に、たばこ税の引き上げを要請したというが、結果的には見送られた。首相の求心力低下を指摘されても仕方ないだろう。たばこ規制枠組み条約に沿って禁煙対策に積極的に取り組んでいく意気込みが必要であり、強いリーダーシップを発揮してもらいたい。
来年度のたばこ税増税は見送りの方針だが、これで一件落着ではない。考えようによっては、1本3円増税などという、つじつま合わせの財源対策が見送られてよかったという面もある。たばこと健康問題についての議論を新たに始めるチャンスと考えればいいのではないか。