タイ当局のミャンマー少数民族海上遺棄、タイ首相、否定から一転認める

2009-02-14 11:54:10 | Weblog

 解決は国際社会が担うべき

 訂正=2月6日記載の当ブログ≪タイ王国のロビンギャ族海上遺棄は「敬虔」というタイ国民性が状況主義であることの暴露≫ で、ミャンマー少数民族「ロヒンギャ族」の表記を一部間違えて「ロビンギャ族」と書いてしまいました。謝罪し、訂正します。 


 先月1月初めと今月2月初めにミャンマーから海上経由で逃れてきたミャンマーイスラム系少数民族ロヒンギャ族をタイ国軍が拘束、孤島に連行して2カ月押し込め、その後ロープでつないだ小船に乗せて沖合いに曳航、わずかな食料と水を与えたのみで遺棄、20人以上の死者を出しているという。

 拘束中、暴行を受けたというロヒンギャ族の証言もある。

 タイ国軍は事件を全面否定。アピシット・タイ首相も、「証拠はない。(避難民は)仕事を目的にした違法入国者」(「毎日jp」)と疑惑を否定。だが、昨13日になって、タイ首相が一転して一部を認めたと2月13日の「CNN」インターネット記事が次のように伝えている。但し、全面的に認めたわけではない。

 ≪タイ首相、ミャンマー難民追放で「事例あり」と認める≫(2009.02.13 Web posted at:13:48 JST Updated)

 <バンコク(CNN) タイ国軍がミャンマー(ビルマ)から逃れてきた少数民族の難民を虐待、追放しているとして、国際社会から非難を浴びている問題で、アピシット首相は12日、難民の船が追い返された事例が「何件かある」との認識を示した。CNNによる独占インタビューで語った。

 首相はこれまで、虐待や追放の証拠はないとして問題を否定していたが、同日の発言では「事実だと信じるだけの理由がある」と率直に認めた。一方で、「いずれの政府機関もそのような方針はないとしており、行為を承認した責任者は特定されていない」と説明。「その人物がだれであるか、証拠が得られれば断固として責任を追及する」と述べ、問題解決に努める姿勢を示した。

 難民はミャンマーのイスラム系少数民族、ロヒンギャ族。政府による弾圧を逃れ、タイやマレーシアなどの近隣諸国に流れ込んでいる。CNNは先月、タイ国軍がロヒンギャ族の船を沖にけん引し、海上に置き去りにする場面の証拠画像を入手した。タイ当局は疑惑を否定する一方で、事実関係の調査に乗り出していた。

 アピシット首相はインタビューで、流入する難民の数が最近急増していることを指摘。「これを受けて、船がほかの場所へ漂着するよう仕向けた例はあったようだ。ただし、水や食料が十分にあることを確認したうえで実行されていたはず」と話した。>・・・・・・・

 アピシット首相の言葉を拾い出してみる。

 「何件かある」
 「事実だと信じるだけの理由がある」
 「いずれの政府機関もそのような方針はないとしており、行為を承認した責任者は特定されていない」
 「その人物がだれであるか、証拠が得られれば断固として責任を追及する」
 「これ(流入難民の急増)を受けて、船がほかの場所へ漂着するよう仕向けた例はあったようだ。ただし、水や食料が十分にあることを確認したうえで実行されていたはず」

 実行者はタイ海軍と分かっている。問題はタイ海軍の実行者が海軍内のどの段階の責任者の了解、もしくは命令・指示の類を得て行ったのか、責任者の関知しない場所で実行者が独断で行ったかであろう。

 それを「事実だと信じるだけの理由がある」という表現を使って肯定した。いわば「何件かある」らしいが、はっきりとした実行件数も実態も断片的証拠、あるいは断片的証言のみを得たもので、全体像は断定できる段階ではない、まだ曖昧なままだとしている。

 つまり、「そういうことがあったようだ」と認めたに過ぎない。

 タイ首相が言っているとおりだとしても、タイ海軍の艦船が行った“海上遺棄”であることは逃げおおすことのできない事実なのだから、船を操る最終権限は艦長にあり、その権限のない艦船内の一番下っ端のメンバーが独断で行ったと考えることは不可能で、実行艦船の艦長が許可した、あるいは命令・指示した“海上遺棄”あろう。

 当然、その艦長の独断なのか、さらに上の命令・指示を受けたものなのかに調査は向けられるはずである。いわば艦長以上の上からの命令・指示なのか、艦長の独断行為なのか、いずれかに調査の対象は絞られる。

 だが、「いずれの政府機関もそのような方針はないとしており、行為を承認した責任者は特定されていない」という言い方で「政府機関」が決定した「方針」ではない、「行為を承認した責任者は特定されていない」と上からの命令・指示に従って行われた“海上遺棄”ではないとして、このことに関しては遠まわしにだが、否定のメッセージを発している。

 では、艦長の独断なのか。艦長の独断で2カ月も孤島に拘束しておくことができるのか。2カ月という拘束期間は何を意味するのか。最初から“海上遺棄”が目的なら、海上で拿捕した時点で、沖合いに曳航、タイの陸地に流れ着かない海流地点を見計らって“海上遺棄”したなら、2カ月という拘束の面倒は省けたはずである。

 さらに「これ(流入難民の急増)を受けて、船がほかの場所へ漂着するよう仕向けた例はあったようだ。ただし、水や食料が十分にあることを確認したうえで実行されていたはず」と、推測のみで「ほかの場所へ漂着するよう仕向けた例はあったようだ」、「水や食料が十分にあることを確認したうえで実行されていたはず」と“海上遺棄”を否定している。

 事実の有無の調査を行いながら、具体的証拠を以ってではなく、推測で証拠立てる曖昧さを平気で演じている。

 タイ首相の釈明の経緯を振返ると、認めざるを得ないから事実を認めたが、責任部署も曖昧、責任者も曖昧、どのような命令・指示の系統を受けた実行なのか、どの段階の責任者による命令・指示に従った行為なのかとなると、一切触れていないメッセージとなっている。

 裏を返すと、曖昧にしたり隠したりする必要があるほど、「政府機関」のかなり上の部署の命令・指示によって決行された“海上遺棄”ということではないのか。前のブログでも触れたが、決定が難しい問題だったから、孤島での拘束に2カ月も必要とした。――

 日本がかつて南京虐殺を事実無根と否定していたが、認めざるを得ない事実が発見されると、認めるようになったものの、虐殺の人数がはっきりしない、中国側の発表よりもかなり少ない人数だと罪薄めを謀ったように、タイ首相も曖昧にすることで罪薄めを謀ろうとしているのではないのか。そのように十分に疑うことができる釈明となっている。

 タイは漂流ロヒンギャ族を一旦はタイ国内に保護し、国際社会に支援を求めるべきだった。求められたなら、国際社会はタイの要請に応えるべきだろう。

 ミャンマーの軍事政権はイスラム系少数民族ロヒンギャ族に国籍を与えず、迫害の対象としてきた(「毎日jp」)。当然、満足な仕事にも就くことができず、生活困窮者の位置に置かれていたはずである。

 だが、国際社会はミャンマー軍事体制の民主化に無力をさらけ出し、少数民族迫害のみならず、軍事政権と対立する民主化勢力への自由の制限・抑圧にも解決の力を見い出せずにいる。

 日本もかつてはミャンマーに対する最大の援助国でありながら、援助を通じた経済利益を得るものの、民主化には無力で、逆に援助を通じて軍事政権の強化・維持に貢献してきた。民主化勢力弾圧や少数民族迫害にも日本を含めた国際社会は責任を負っているはずである。無力が招いている責任を。

 責任を負っていながら、ミャンマーの豊富な天然ガス、鉱物資源を自国国益向上に役立てている国々が存在する。あるいはミャンマーとの貿易取引で利益を得ている。国際社会は経済的利益を得ている量に応分して、ミャンマー難民に手を差し伸べるべきである。

 民主化に向けた努力を続ける一方で、そういったルールを確立すべきではないだろうか。

コメント (1)
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