アメリカ、EUが、ロシアがウクライナ領土の一部クリミアを盗み取った国際法違反に制裁を追加していく形でロ ア政府やロシア政府高官 ロシア企業、あるいはクリミア企業に対してビザ発給停止や貿易停止、資産凍結、投資停止等を科しているのに対して日本は口では、「ロシアがクリミア自治共和国の独立を承認したことはウクライナの統一性、主権及び領土の一体性を侵害するものだ」、「力を背景とした現状変更の試みを決して看過でない」などと厳格なことを言いながら、3月17日、日ロ間の渡航者のビザ発給手続き簡略化のための協議停止、新投資協定や宇宙協定、危険な軍事活動防止に関する協定などの日ロ間の新たな交渉開始を見合わせる対ロ制裁を科し、追加制裁として4月29日、 ロシア政府関係者ら23人へのビザ発給当面停止という、アメリカ、EUに比べて実害と言う程の実害を与えない、当り障りのない格落ちの制裁でお茶を濁した。
お茶を濁すなら、「ロシアがクリミア自治共和国の独立を承認したことはウクライナの統一性、主権及び領土の一体性を侵害するものだ」とか、「力を背景とした現状変更の試みを決して看過でない」などと言わない方がいい。言っていることが国際法違反に対する非難であるにも関わらず、違反を阻止する強い意志を伴わせた制裁となっていないからだ。
昨日のマスコミがロシアのナルイシキン下院議長の 6月訪日予定を伝えていた。目的は東京で 開催のロシア文化フェスティバ ルの式典出席ため。但しナルイシキンはプーチン大統領の側近で、ウクライナ問題に絡んで米国や欧州連合(EU)から渡航禁止の制裁を受けている、 言ってみればお尋ね者の身である。Wanted!――!
菅官房長官は5月14日の記者会見で、ナルイシキンの 訪日は問題ないと発言している。《ロシア下院議長の訪日は問題なし》(NHK NEWS WEB/2014年5月14日 13時05分)
菅官房長官 「ロシアのナルイシキン下院議長が、来月に日本で行われるロシ ア文化フェスティバルという民間主催の文化行事に出席する意向を示したことは承知している。現時点において滞在中の日程はまだ明らかになっていない。
渡航禁止のリストを示しているが、抵触していないので、そこは問題ないと考えている」――
政府主催の政治的行事ではなく、民間主催の文化行事だからと、その点に先ず免罪符を置いている。
そして「渡航禁止のリストを示しているが、抵触していない」 と、ビザ発給当面停止対象の23人のリストには入っていないことを理由に日本への入国は問題ないとしている。
ここで疑問が一つ湧く。米国やEUがプーチン側近としてビザ発給停止対象者リストに載せていながら、日本の対象者リスト23人の中になぜ入れていないのだろうか。
アメリカやEUと日本の対ロ制裁の程度の差だとでも言うのだろうか。
プーチンがクリミアを独立国家として承認する大統領令に署名した3月17日、ナルイシキンはクリミアの編入に関する法律的な手続きについて議会として「迅速に責任を持って対応するつもりだ」と述べたと、「NHK NEWS WEB」 (2014 年3 月18日 4 時38分)記事が伝えている。
プーチンの側近としてプーチンと共にウクライナ領土の一部略奪を謀議し、成功させた主たる積極的協力者の一人なのである。安倍晋三や菅官房長官や岸田外相が主張していることに反して、「ウクライナの統一性、主権及び領土の一体性を侵害」した、プーチンを主犯としたロシアの無法者たちの中で主犯に近い国際法犯罪者であり、「力を背景とした現状変更の試み」を不法に強行し、国際秩序騒乱に積極的な立場から加担した一人である。
日本政府の対ロ制裁ビザ発給当面停止の23人の中に入っていないからと言って、しかも民間主催の文化行事だからといって、ナルイシキンの国際法違反に目をつぶることになる入国許可は理解に苦しむだけではなく、安倍晋三や菅、岸田の国際法上の感覚を疑わざるを得ない措置に見える。
アメリカやEUは制裁を科すと同時に制裁対象の金融機関名や政府高官名、企業名を公表している。だが、日本政府はビザ発給当面停止の対象者すら公表していない。菅官房長官が「渡航禁止のリストを示している」 と言っているから、ロシア政府 には伝えているのだろうが、ロシア政府に伝えて、日本国民に知らせないのは国民に対する説明責任を無視していることになる。
いわば特定秘密指定にでもしているのか、日本国民に秘密の状態にしている。秘密の状態にしていてもいい正当な理由を説明すべきだろう。
疑うなら、秘密にしていることによって、対象者を入れ替えることもできる。ナルイシキンを実際には制裁対象者リストに載せていながら、民間行事に出席させる形で訪日させる制裁破りに密かに協力することで、日本の対ロ制裁が有名無実であることを知らしめることができて、結果、ロシアの反発を弱め、歓心を買うことが可能となり、日ロの後々の友好関係に役立てることができる。
日本の制裁は実際には形ばかりで、大したことはないんですよと。
もしナルイシキンを最初からリストに載せていなくて、23人をプー チンの側近か ら程遠い有象無象で構成していたとしたら、最初から無害であるとブロックサインを複雑・巧妙にも出した日本政府の形式的な対ロ制裁と言うことになる。形式的な制裁でないことを知らしめるためにも、ウクライナからの領土一部略奪に深く関わっているナルイシキンをリストの最初の方に積極的に載せるべきだが、載せていないとしている。
ウクライナ領土の一部を盗み 取った泥棒の一人を民間文化交流だからと迎える入れる国際法上の感覚と言い、プーチンと共に側近とし領土略奪に深く関わった>ナルイシキンをビザ発給当面停止23人の対象者リストに載せていなかったことと言い、安倍晋三やそれ以下の対ロ制裁の本気度は限りなく疑わしい。
「ウクライナの統一性、主権及び領土の一体性を侵害」とか、「力を背景とした現状変更の試み」といった非難は実際はロシア向けではなく、アメリカとEU向けのポーズに見えてくる。