2017年3月23日、森友学園理事長籠池泰典の証人喚問が午前中参院予算委で、午後衆院予算委で行われた。森友学園が瑞穂の国記念小学校建設用地として購入した国有地の格安売却について国が便宜を図ったのではないのか、その便宜は政治家の関与を受けたもの、あるいは政治家の意図を忖度したものではないかとの疑惑が持ち上がっていた。
当然、証人喚問はこれらが事実か否かを問い質す展開で推移しなければならない。と言うことは、質問者は最初から容疑を疑ってかかる取調べの警察官や検事ではあってはならない。あくまでも公平中立な立場から事実は何かを追及する姿勢を失ってはならない。
と言っても、悲しいかな、人間は感情の生き物であると同時に党利党略といった自己利害に縛られがちな利害の生き物である。厳正な公正中立を維持することはなかなか難しい。だとしても、自己の立場・自己の思想に左右されない、いわば自己利害に左右されない厳正中立な姿勢を可能な限り心がけなければならない。
厳正中立性は至って政治的中立性に関連していく。何事に対しても厳正中立な姿勢を蔑ろにすると、何事の一つである政治的中立性をも必然的に失うことになる。
どちらの姿勢も自己の政治的立場や思想的立場等々の自己利害に左右されるという共通項を持つにことによって生じるからだ。
ところが、午前中の参院予算委での証人喚問で質問者に立った自民党西田昌司は厳正中立な姿勢から程遠く、籠池泰典を最初からウソつきな人間に仕立てる印象操作に偏った追及となっていた。
尤もこのことは証人喚問が始まる前から、多くが予見できたことだったはずだ。2017年3月6日の参議院予算委で質問に立った西田昌司は国有地売却に関して、「ハッキリ言って冤罪である」とか、「私は与党を代表して今回の疑惑と言われている森友事件は疑惑というより真実をきちんと報道していない、トランプさんに言わせればフェイクニュースだ。まさにそれに等しい」と、全てが明らかになっていない状況にあるにも関わらず、マスコミが創り上げた疑惑だと疑惑追及の野党と疑惑を報じるマスコミを断罪、政治的関与を疑われている安倍晋三を頭からシロだとキッパリと擁護しているのだから、証人喚問で見せた姿勢は当然の帰結である。
要するに森友学園理事長の籠池泰典をウソつきな人物像として描き出すことで、安倍政権や自民党に不都合な事実は全てをウソだと印象操作する戦術に出た。
確かに大阪府と国と開校予定地に近い大阪空港の運営会社に対して補助金や助成金を得る目的で日付や内容以外は金額がそれぞれ異なる建設契約書を3通出していたことが判明していて、かなりインチキなことをしている。
だが、国や自治体の補助金、あるいは助成金の誤魔化しは企業の間やNPOの間等でかなり広範囲に行われていることで、跡を絶たない。だからと言って、そのようにインチキなことをしている企業やNPOの全てがインチキで成り立っているとは断定できない。相当に真っ当な業務を行いながら、補助金や助成金を利用している企業も存在する。
国にしても一部国民からの税金で成り立たせていた復興予算を全額東日本大震災被災地の復興に役立てるのではなく、青少年の国際交流事業費や被災地外の刑務所に於ける職業訓練費、シー・シェパード(反捕鯨団体) 対策費、国立競技場補修費等々にさも復興に役立つような口実を設けて数兆円規模で流用していたことは他省庁が復興庁の予算にたかって自らの事業に利用している点、助成金や補助金の利用と本質的には構図は同じである。
だからと言って、国のやっている全てをインチキだと断罪することはできない。
だが、西田昌司はできないことをできると信じ込んで、印象操作に時間をかけるムダな努力に血道を上げていた。
そう言えば、「印象操作」とか、「イメージ操作」、あるいは「レッテル貼りだ」といった言葉で野党の追及を一言で否定しさるのは安倍晋三が最も得意とする手となっている。
野党が安倍晋三に対して森友学園に国有地を格安売却したのは財務省や国交省が政治家の介入があって、その意図を忖度したからではないのかといった趣旨の質問に対して、「(役人が)忖度した事実がないのに、(あると)言うのは典型的な印象操作だ」と国会答弁している。
昨日の国会証人喚問でも政治家の介入があったのかどうかの面から籠池泰典に質問が行われているにも関わらず、「忖度した事実がない」と勝手に決めつけているのは介入があった場合、自身が都合の悪い立場に立たされる自己利害からに過ぎない。
ましてや疑われているように瑞穂の国記念小学校名誉校長だった安倍昭恵を通して安倍晋三自身の意図を忖度した格安売却という事実がもし出てきでもしたなら、安倍晋三は辞任すると約束しているのだから、最悪の事態となる。
「産経ニュース」記事が証人喚問の質疑を文字化した記事を載せているから、それを利用して、籠池泰典を最初からウソつきな人間に仕立てて、事件のすべてをフェイクニュース化しようとする印象操作に偏った追及を最初から行っている発言のみを抜き出して、西田昌司が如何に可能な限り事実を質していくという厳正中立な姿勢から離れているかを証明してみる。
文飾は当方。
西田昌司「今(冒頭発言で)、籠池証人は、総理の奥さんから(100万円の寄付を)直接、貰ったというふうにお話になりました。しかし大事なことをおっしゃったのはですね、そこには奥さんと2人だけだと、こういうことなんですね。で、実は私はこの質問する前に、奥様の方から事情を聴いております。そうすると、その日は、当日はですね、2名のお付きの方がおられたと。そして2名がずーっとですね、一緒に奥様とおられて、次の予定で出られるときには1人の方が出てですね、電話連絡等あったけれども、その席を外したことはないと。つまり奥様1人ではないとおっしゃってるんですよ。あなたの証言とは全く食い違うんですが、事実じゃないんじゃないですか」
籠池泰典「えー、そのお話は違っていると思います。えー、私とご夫人と、そして秘書の方、いらっしゃいましたが、秘書の方は直前にお人払いをされましたので、2人であります」
西田昌司「そうするとね。まあ、これは事実をどうやるかということですが、奥様もおられない。で、夫人と2人だけだということになりますとね、まあこれ、堂々巡りの話になりますが、とにかく私は、今のあなたの証言を聞いてましてね。要するに、自分の都合のいい事実はそういう形で言えるけれども、それが事実かどうかということの証明ができないんですよ。
で、特に、その郵便局で振り込みに行かれたという話です。で、当然ですね、これは安倍総理からお金がいってないんですから、安倍総理の名前で振り込むことはできないわけなんですよね。で、できないのに、わざわざですね、その、安倍総理の名前で振り込みをしようとした、その意図は何ですか」
以上の発言だけを見ても、厳正中立を大きく踏み外した自己都合に満ち満ちていることが分かる。
「実は私はこの質問する前に、奥様の方から事情を聴いております。そうすると、その日は、当日はですね、2名のお付きの方がおられたと。そして2名がずーっとですね、一緒に奥様とおられて、次の予定で出られるときには1人の方が出てですね、電話連絡等あったけれども、その席を外したことはないと。つまり奥様1人ではないとおっしゃってるんですよ。あなたの証言とは全く食い違うんですが、事実じゃないんじゃないですか」
西田昌司は最初から奥様ことアッキード疑惑の渦中にある安倍晋三夫人安倍昭恵の言い分を全て絶対正としている。首相夫人だからウソはつかないを絶対とすると、韓国大統領パククネの収賄疑惑にしても韓国検察が取調中にあるにも関わらず、西田昌司の言い分を借りると、「ハッキリ言って冤罪」ということになる。
人間である以上、どのような地位についていようと、ウソをつかない人間は存在しない。だから、疑わしきに対して取調べという機能が必要となる。
西田昌司が安倍昭恵を絶対正としている態度は籠池泰典をウソつきで絶対悪と決めつけている態度の裏返しとして現れている厳正中立喪失の印象操作以外の何ものでもない。
「で、当然ですね、これは安倍総理からお金がいってないんですから、安倍総理の名前で振り込むことはできないわけなんですよね。で、できないのに、わざわざですね、その、安倍総理の名前で振り込みをしようとした、その意図は何ですか」
「安倍総理からお金がいってないんですから、安倍総理の名前で振り込むことはできないわけなんですよね」
例え水掛け論になろうと、それぞれの言い分が対立した現在進行形の状況にある。「いってないんですから」とそれを絶対的事実とするためには「いってない」ことを証明しなければならない。証明を根拠とせずに言葉のみで否定することも、可能な限り厳正中立であろうとする姿勢を忘れた印象操作に当たる。
「堂々巡りの話になりますが、とにかく私は、今のあなたの証言を聞いてましてね。要するに、自分の都合のいい事実はそういう形で言えるけれども、それが事実かどうかということの証明ができないんですよ」
籠池泰典の発言を「自分の都合のいい事実」だと断罪している。
これもそれが「自分の都合のいい事実」かどうかを立証する責任を有する。印象操作だけで、安倍晋三からのカネを安倍昭恵の手を通して籠池泰典に渡ったとすると証言をウソと断定することはできない。
それが事実であった場合、自分たちに不都合が生じる自己利害からの可能な限りあるべき厳正中立性の喪失に当たる。
自分たちの立場を守るための自己利害から出ているこの手の厳正中立性の喪失は自民党では何も西田昌司一人ではない。
2016年7月、各マスコミが自民党が「学校教育における政治的中立性についての実態調査」を始めたことを一斉に報じた。
所詮、自分たちの国家主義的な教育観、国家観に反する教育を行う教師が自らの思想的立場上気に食わないからと、実態調査の名を借りて心理的圧力を加え、あわよくば言論や思想の自己統制に持っていこうという魂胆から出た自己利害なのは明らかで、厳正中立性の喪失が悪影響した政治的中立性の侵害に他ならないはずだ。
このような厳正中立性の喪失が悪影響した政治的中立性の侵害の例の一つとして2014年12月14日投開票の総選挙前11月20日に「自由民主党 筆頭副幹事長 萩生田光一/報道局長 福井 照」の差出し人名で在京テレビキー局の編成局長、報道局長宛てに、《選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い》と題する文書を送付し、こうして欲しいという指示を事細かに出して選挙報道の公正中立求めたことを挙げることができる。
要するに「報道の公平中立ならびに公正の確保」(=厳正中立性)をタテマエとして、自分たちの選挙に都合のいい報道に持っていき、自分たちに都合の悪い報道は可能な限り排除して、自分たちの政治的立場、思想的立場を可能な限り有利にしようとする自己利害から出た政治的中立性の喪失(=厳正中立性の喪失)なのは説明を待つまでもない。
当然、自由な言論への暗黙の統制圧力とならなかったはずはない。大体が統制圧力とすべく文書を出したはずだ。そうでなければ、出す意味を失う。
2017年3月3日、米国務省が世界各国の人権状況に関する2016年版の年次報告書を発表し、日本について「報道の自由に関する懸念がある」と指摘したのに対して安倍政権は日本では報道の自由は守られていると反論したが、以上指摘してきた、政治家が採るべき相互にリンクした政治的中立性と国会質疑等に於ける厳正中立性が自己利害に左右されて喪失している状況を見る限り、報道の自由は、少なくとも脅かされかねない状況にあると言うことこができる。
自民党西田昌司の森友学園理事長籠池泰典に対する証人喚問での籠池泰典を最初からウソつきな人間に仕立てる印象操作に偏った厳正中立性の喪失を見て、安倍晋三を筆頭とした自民党議員の報道の自由を脅かしかねない政治的中立性の喪失にまで思いが及んだ。