外国人労働者受入れ拡大を目指す入管難民法改正案が国会で審議入りしたが、野党は外国人技能実習制度に多くの矛盾した問題点を抱えていて、その問題の検証・解決なくして外国人材受入れ拡大の来年4月導入を目指して今国会成立を譲らない政府の態度は余りにも拙速、外国人材を必要とする企業側の要望に応えて来年夏の参院選対策に利するためではないのかとまで反発、国会質疑は紛糾している。
そこに来て先週、失踪した技能実習生の調査内容を集計した法務省の資料に誤りが見つかり、野党側が反発。いわば技能実習制度や新たな外国人材受入れ制度を管轄する法務省の技能実習生に関わる誤ったデータに基づいて安倍晋三も山下貴志も野党の質問に国会答弁を繰返していた。
特に技能実習生の少なくない就労現場からの失踪動機に関して「より高い賃金を求めて」約87%という数字を掲げていたことは技能実習生側の姿勢と責任の問題としていたことになるが、新たな調査では「低賃金」が約67%を占めていると公表、主として使用者側の姿勢と責任の問題問題であったことが明らかになって野党は更に反発、国会質疑はより紛糾することになった。
2018年11月7日の参議院予算委員会でも共産党の小池晃の質問に安倍晋三も山下貴志も法務省の誤ったデータを基に技能実習制度1割使い捨て・9割機能論をブチ上げていたことになる。
山下貴司「先ず制度全体のファクトの問題として申し上げます。即ち29年、技能実習で在留していた、前年度末で在留していた技能実習生が22万超。そしてそして新規入国者数が29万超。そしてその中で失踪された方が7089人でございます。
で、そうすると、少なくとも9割を遥かに超える技能実習生の方々が技能実習生計画に基づいてこの日本での、まあ、実習に勤しみ、そしてそれを見守る方々がおられるという制度なんです。このことを前提に考えなければならないと思っております」――
安倍晋三「ですから、今山下大臣がお答えしたようにですね、今までもですね、9割の方々が技能実習生、まさに目的に添った形でですね、日本で技能を身に付け、母国に帰って、その技能を活かして、活躍しておられるんだろうと、こう思っておりますが、その中に於いて小池委員がですね、指摘をされた問題、我々もそれを把握しているということを申し上げておきます」
要するに技能実習制度の問題点は失踪する側の姿勢と責任にあって、残る9割に関しては技能実習制度に順応、十分に機能しているからと、その9割を以って外国人材受入れ拡大政策も順調に機能する根拠としている。
いわば1割程度の切り捨ては問題にしなくてもいいということになる。
ところが、この1割切り捨て論も法務省の誤ったデータに基づいていたことになる。法務省が失踪外国人技能実習生に再聴取した「聴取票」は「立憲民主党」サイト記載の「20181116法務理事懇資料(技能実習者からの聴取票の集計ミス)」として紹介されている。
但しこの聴取は不法残留等の入管法違反で入国管理局が保護(逮捕?)した技能実習生からの聴取であって、当然のことだが、帰国しないまま不法滞在の形で行方不明となっている元実習生は含まれていない。
PDF記事から法務省の「失踪理由」と「失踪動機」、「1ヶ月あたりの月額給与」を纏めた画像を借用、転載しておいた。
(注1)に、〈聴取票上は,『より高い賃金を求めて』というチェック項目はない。これに対応するものとして『低賃金』『低賃金(契約賃金以下)』『低賃金(最低賃金以下)』という項目があり,今回の精査結果については,このうちいずれかあるいは複数にチェックしている者の人数を計上したもの。〉とあるが、「原提出資料」では『より高い賃金を求めて』というチェック項目を設けていたが、今回調査では設けなかったという意味であろう。
要するに『より高い賃金を求めて』というチェック項目はふさわしくないとして却下したことになる。元々の調査では失踪実習生は賃金に関わるチェック項目がなかったから、仕方なく『より高い賃金を求めて』というチェック項目に誘導されてチェックを入れたことになる。
この点を見ただけでも、調査は意図的作為に基づいて行われた捏造を疑わざるを得ない。
調査対象の2870人から各月額賃金分布の割合を見てみる。
「10万円以下」57%
「10万円超~15万円以下」36%
「15万円超~20万円以下」5%
「20万円超」0.49%
「10万円以下」が半数を超えた57%で、「10万円超~15万円以下」の36%をプラスすると、93%、ほぼ全体を占める。
技能実習制度はその報酬の額を「日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上」と定めている。にも関わらず、低賃金を理由とした失踪、と言うよりも、逃亡が1割を占めている。
但し残り9割は技能実習制度に順応、十分に機能していると安倍晋三も山下貴志も請け合っている。つまり失踪実習生だけがたまたま低賃金労働に遭遇し、他の9割は日本人と同等の報酬を保証されていたのかが問題となる。
「外国人技能実習制度の現状、課題等について」(厚労省/2018年3月23日)から、2017年6月末時点の《在留資格「技能実習」の国籍別在留者数》の主なところをみてみる。
ベトナム104802人
中国79959人
総数251721人
ベトナム人実習生+中国人実習生で全体の73%を占めている。日々変動するが、円とベトナムのドンの為替レートを見てみる。ネットで調べてみると、11月20日時点で1円 はベトナム206.79ドンとなっている。更にベトナムの物価は一般的には日本よりも安いと言われている。
つまり日本で働いて10万円貰うと、ベトナムでは60万円分になる。しかも一般的には日本よりも物価が安いとなれば、60万円以上のお得感が出る。当然、日本人と同等の報酬であることは前以って説明を受けているだろうから、誰にしたってその保証を強く求めることになる。
中国の為替レートを見てみる。1円 は0.062中国人民元。10万円の給与であっても、中国で6200円分にしかならない。これでは物価の多寡にさして関係なく、お得感は出てこないはずだ。このようなことから中国人実習生が減って、ベトナム人実習生に取って代わられた理由なのかもしれない。
但し「中国の格差:安すぎる、中国のお給料事情」(中国語講座チャイニーズドットコムのブログ)なるサイトを見ると、技能実習制度に応募してお得感を感じることができる中国人は都市部の住人ではなく、地方の山村部の中国人程、お得感が出てくることが分かる。
この記事は日付が記載されていないから、いつの記事か正確には分からないが、〈上海の平均月収は8,000元です。今のレートは16元ですので計算すると平均月収は日本円で128,000円になります。〉との記述があるから、8,000元÷128,000円=0.0625元/1円となり、最近の記事だと分かる。
但し記事は、〈例えば住む場所でもかなり月収は変わってきます。上海(shànghǎi)や北京(Běijīng)、また広州(guǎngzhōu)などは金融都市で月収も比較的良いですが、山西省(shānxīshěng)などの内陸では非常に低い賃金です。
山西省では3,000元(48,000円)もらえれば良いほうです。
中国の田舎は本当の田舎
日本では田舎(农村 nóngcūn)に住んでいれば、都会程は賃金が高くないでしょう。
しかし、家は持ち家で食費にお金がかからない場合が多いのではないでしょうか。その分都会に住んでいる人よりも裕福な暮らしができる、と言えることもあります。
しかし、中国の田舎の場合、そうはいきません。賃金が低すぎてお金に余裕がありません。一か月1,000元(16000円)も貰えるところはないでしょう。〉と書いていて、都市と地方の大きな賃金格差を伝えている。
一か月1,000元(16000円)なら、日本で10万円稼げば、✕0.62=6200人民元となって、地元でよりも月額6倍の収入となる。ここら辺りの事情が中国人実習生の人数が減っても、決定的に少なくならない、ベトナムに次いで2番目に多い理由なのだろう。
更に言うと、実習生を使う日本側にしても、いくら低賃金でも、国で貰うよりも多くなるはずだとの計算で低賃金を正当化している可能性も疑うことができる。(2018年11月21日14:05加筆)
ここで問題となるのは当初説明された月額収入よりも少ない賃金で働かされた場合である。例え少なくても、地元の収入よりも少ないわけではない、多くなるからと我慢する実習生と、日本人と同額の報酬と説明されている以上、契約と看做されるのだから、同額以下は認める訳にはいかないと強い人権意識を働かせる実習生、あるいは同額のカネの必要に迫られている実習生、いわば当初の目算を狂わされた実習生は、その目算の狂いが大きければ大きい程、その現場の労働を拒否する態度に出たとしても、ある意味自然な行動と言える。
となると、安倍晋三と山下貴志が主張している、問題が生じているのは実習生の1割に過ぎず、技能実習制度に順応、制度は十分に機能していることの根拠としている残り9割の中でも、当初の説明以下の賃金で働かされても、地元の収入よりも少なくなるわけではない、少しは多くなるからと我慢する実習生もかなり混じっていると見なければならない。
そう見る根拠は実習生の失踪理由が「10万円以下」が半数超えの57%、「10万円超~15万円以下」の36%をプラスすると、93%とほぼ全体を占めていて、この極端な低賃金傾向は失踪実習生以外に反映されている状況にあるのかどうかを考えた場合、技能実習制度の活用業種・企業は人手不足に悩まされているからこその利用であって、人手不足は低賃金、あるいは嫌われる職種程、見舞われる傾向を当てはめると、低賃金傾向は失踪実習生以外にも反映されている状況にあると見ないと、合理的整合性を見つけることはできない。
安価な労働力獲得が実態となっている技能実習制度であるということであろう。
政府は14業種に於ける新たな在留資格による外国人材受入れ人数の積算は技能実習生からの移行を期待して推計したということだが、となると、低賃金は新たな制度に対しても反映される傾向と言うことになる。
反映が事実となった場合、安価な労働力獲得が実態の外国人材活用であることを益々色濃くすることになる。この低賃金傾向は日本人の労働者に反映されないはずはない。