生産性向上とは、難しいことは言うことはできないから、簡単に言うと、より少ない限られた人材を用いて生産の効率を上げると同時に常に新たな発想に基づいた新たな価値を付加したモノを生み出し続けることを言うはずである。
と言うことは、生産性向上はより少ない限られた人材を元手とするから、生産の効率という点では少子高齢化、このことを受けた人手不足に自ずと対応させることになる課題となる。ところが安倍晋三は第2次安倍政権発足当時はまだ人手不足に対応させた課題とはしていなかった。
安倍晋三は2013年6月14日閣議決定「日本再興戦略閣議決定」で次のように生産性について各々謳っている。
〈今回の成長戦略を始めとする三本の矢を実施することなどを通じて、中長期的に、2%以上の労働生産性の向上を実現する活力ある経済を実現し、今後10年間の平均で名目GDP 成長率3%程度、実質GDP 成長率2%程度の成長を実現することを目指す。〉
〈特に、20年の長きにわたる経済低迷で、企業もそこで働く人々も守りの姿勢やデフレの思考方法が身に付いてしまっている今日の状況を前向きな方向に転換していくためには、賃金交渉や労働条件交渉といった個別労使間で解決すべき問題とは別に、成長の果実の分配の在り方、企業の生産性の向上や労働移動の弾力化、少子高齢化、及び価値観の多様化が進む中での多様かつ柔軟な働き方、人材育成・人材活用の在り方などについて、長期的視点を持って大所高所から議論していくことが重要である。
〈(女性が働きやすい環境を整え、社会に活力を取り戻す)
特にこれまで活かしきれていなかった我が国最大の潜在力である「女性の力」を最大限発揮できるようにすることは、少子高齢化で労働力人口の減少が懸念される中で、新たな成長分野を支えていく人材を確保していくためにも不可欠である。〉
〈2.雇用制度改革・人材力の強化
経済のグローバル化や少子高齢化の中で、今後、経済を新たな成長軌道に乗せるためには、人材こそが我が国の最大の資源であるという認識に立って、働き手の数(量)の確保と労働生産性(質)の向上の実現に向けた思い切った政策を、その目標・期限とともに具体化する必要がある。
このため、少子化対策に直ちに取り組むと同時に、20歳から64歳までの就業率を現在の75%から2020 年までに80%とすることを目標として掲げ、世界水準の高等教育や失業なき労働移動の実現を進める一方で、若者・女性・高齢者等の活躍の機会を拡大する。これにより、全ての人材が能力を高め、その能力を存分に発揮できる「全員参加の社会」を構築する。〉云々――
安倍晋三の頭の中ではこの頃はまだ生産性向上は単なるアベノミクス成長戦略の一つの方便としているに過ぎない。少子高齢化はアベノミクス成長戦略にとっての一つの障害と見ている。そのために少子高齢化による労働力人口減少を補う素材として女性の活用を訴えている。
つまり生産性向上そのものを人手不足に対応させた課題とするにはまだ至っていなかった。
2013年4月19日の安倍晋三の日本記者クラブ講演「成長戦略スピーチ」は約2ヶ月後の上記2013年6月14日閣議決定「日本再興戦略閣議決定」に反映させていることは、女性の価値を労働力の一つと見ていることからも明らかである。
〈人材、資金、土地など、あらゆる資源について、その眠っている「可能性」を、存分に発揮させる。そして、生産性の低い分野から、生産性の高い分野へ、資源をシフトさせていくこと。「成長」とは、それを実現していくことに他なりません。
優秀な人材には、どんどん活躍してもらう社会をつくる。そのことが、社会全体の生産性を押し上げます。
現在、最も活かしきれていない人材とは何か。それは、「女性」です。〉――
このスピーチには「人手不足」という言葉は一つとして見当たらない。あくまでも生産性向上はアベノミクス成長戦略推進のエンジンの一つとしてのみ把握している。
2015年7月9日の「安倍晋三基調講演」(首相官邸)では、次のように発言している・
安倍晋三「生産性革命によって、未来を切り拓く。これが、先週決定した新たな成長戦略のキーワードです」
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女性、さらには外国人材なくして、もはや、グローバルな舞台で戦うことはできません。多様で柔軟な働き方を可能とし、労働の質を高めていくことも必要でしょう。ITやロボット、新たな技術もどんどん活用していきます」(文飾当方)
ここでは少子高齢化という言葉も人手不足という言葉も一言も発していないが、女性や外国人材を用いなければならないということは少子高齢化を受けた人手不足に対応さた課題としていることは見て取れるが、生産性向上と人手不足を未だに直接的には繋げていない。
2017年9月20日の「ニューヨーク証券取引所における安倍晋三経済スピーチ要旨」(外務省)でも、「人口減少の中で,『生産性革命』と『人づくり革命』に取り組む」と発言しているが、これらの革命をアベノミクス成長戦略の最大の柱と位置づけているのみで、直接的には人手不足に対応させた生産性向上を謳っているわけではない。
2017年年11月17日に首相官邸で第12回未来投資会議が開催され、そこでの「スピーチ」(首相官邸)で、アベノミクス成長戦略推進の鍵として掲げていた「生産性革命」の実現を約束する中で、「雇用情勢が大きく改善する中、人手不足に悩む中小・小規模事業の生産性向上は国の課題です」と発言して、このときが初めてかどうか分からないが、生産性向上を人手不足に対応させた課題として掲げている。但し中小・小規模事業限定の課題となっている。
2017年12月15日の「共同通信加盟社編集局長会議 安倍晋三スピーチ」(首相官邸)で明確に生産性向上を人手不足に対応させた課題として前面に打ち出している。
安倍晋三「5年間のアベノミクスによって、史上初めて47全ての都道府県で有効求人倍率が1倍を超え、その状態が続いています。そうした中で、深刻な人手不足に悩む中小・小規模事業者の皆さんのためにも、生産性革命のうねりを全国に広げていかなければならない。そのため、昨日決定した税制改正大綱では、自治体の自主性に配慮しつつ、設備投資にかかる固定資産税が0となる初めての税制を導入することを決定しました。
生産性をしっかりと上げていくことができれば、人手が少なくて済むだけではなくて、賃金も上げることができる。当然一人一人の生産性が上がっていくわけでありますから、賃金も上げていくことが可能となっていきます。そうすれば、人手不足の解消にもつながると期待しています」
「生産性をしっかりと上げていくことができれば、人手が少なくて済むだけではなくて、賃金も上げることができる」と、生産性向上が人手不足解消の良策であるとしているが、「中小・小規模事業者の皆さんのためにも」と、ここでも特に中小・小規模事業者を対象としている。
安倍晋三は通常国会閉会を受けて2018年7月20日に「記者会見」を行っている。
安倍晋三「深刻な人手不足に直面する中小・小規模事業者の皆さんへの支援もしっかりと行ってまいります。生産性を向上させるための投資には、固定資産税をゼロにするかつてない制度がスタートしました。ものづくり補助金や持続化補助金により、中小・小規模事業者の皆さんによる経営基盤の強化を応援します。4月からは相続税の全額猶予により、次世代への事業承継を力強く後押ししています。一定の専門性、特定の技能を持った優秀な外国人材を受け入れるための新たな在留資格の創設に向けて準備を進めてまいります」(文飾当方)
ここもで特に「中小・小規模事業者の皆さん」を対象としているが、「一定の専門性、特定の技能を持った優秀な外国人材」の受入れを訴えることで外国人材受入れ拡大策を人手不足に対応させた課題として掲げている。
当初はアベノミクス成長戦略の推進を目的として生産性向上を公約として掲げていた。そのための方策の一つが新たな成長分野を支えていく人材確保の対象とした女性の社会参加であり、高齢者の活用であった。
生産性向上を人手不足に対応させた必要課題として掲げるのはあとになってからだが、当初から掲げていた生産性向上の公約を見事果たしていたなら、政府が2018年11月14日に衆院法務委員会理事懇談会に外国人材受入れ人数の試算を提示したが、初年度に最大4万7550人、5年間で最大34万5150人も受入れる必要はなかったはずだ。
「日本の労働生産性の推移」(日本労働生産性本部)
労働者就業1時間当たりの日本の労働生産性水準
2012年 4358円
2013年 4440円
2014年 4511円
2015年 4568円
2016年 4671円
2017年 4694円 (2017年は別PDF記事から)
第2次安倍政権が発足する前の2012年から2017年まで、336円しか上がっていない。8時間労働として1日2688円。このような生産性だからこそ、OECD データに基づく2017年の日本の労働生産性はOECD加盟35カ国中、2016年と順位は変わらない20位ということなのだろう。
安倍晋三はアベノミクス成長戦略で掲げた「生産性革命を我が国がリードする」とか、「生産性革命によって、未来を切り拓く」などと立派なことを言っていたが、「生産性革命」と大層な名前を付けようが付けまいが、生産性向上が日本の労働者に機能して少子高齢化を受けた人手不足の解消を結末とするのではなく、結局のところ、外国人受入れ拡大によって人手不足の解消を目的とする結末を迎えることになった。
要するに大言壮語(「実力以上に大きな事を言うこと」を吐いただけで終わった公約違反と言ったところであるはずだ。