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【京都幕間旅情】永観堂,京都には歴史がある-称名念仏と民衆救済のその先に静遍と法然の出会わぬ出会い

2022-10-05 20:22:44 | 写真
■時空を超えた出会いがある
 時空といえば大袈裟かもしれませんが今の禅林寺には同時期に生きながらも直接会う事の無かった二人の僧侶との著書を通じた出会いがあるのです。

 永観堂。称名念仏の重要性を説いた永観は晩年、往生講式と往生拾因という著書を記しました。東大寺別当に任じられ南都東大寺での職務は、しかし民衆救済の考えからは少し離れるものであり、日本の国宝である正倉院や今は無き七重塔の修繕等に当りましたが。

 能治の永観、こう慕われた永観は1104年こと長治元年の改元に際し漸く京都に戻る事が許され、禅林寺へ戻りました。往生講や迎講、生涯の旅路を終える事を察していた永観は天永2年こと1111年、この世を去りました。永観は後に浄土宗八祖の一人に列せられました。

 浄土宗八祖と後に数えられる永観の没年から数えて22年、美作国久米、現在の岡山県にて押領使、今でいう警察官の子として勢至丸が生まれます、9歳の時に父親を失い僧侶観覚に引き取られ出家します、この子の名前を法然という。日本に浄土宗を起こす革新の僧侶だ。

 法然上人、その活躍は数多記したところですが、法然が活躍した時代に禅林寺の住持は静遍、十二代住持の頃でした。この少し前の京都は平治元年こと西暦1159年、急速に台頭した武家階級が源氏と平氏に分かれ戦う平治の乱が戦われ、源氏は敗北、滅亡の瀬戸際へ。

 平清盛は源氏廃滅を考えますが、義母池禅尼が後の源頼朝始め源義朝遺児の助命を命がけで嘆願します。これは後に頼朝挙兵により平家滅亡へ繋がるのですが、頼朝は自らの出自に鑑み恩人池禅尼の子は助命する決断を下し、その中には平頼盛が居ました、静遍の父だ。

 静遍は、いわば源平合戦最前線のもっとも数奇な運命の最中を永らえた僧侶で、真言宗に帰依し醍醐寺の勝賢や興福寺の貞慶に師事し密教修行に励んだのち、永観の教えに惹かれ禅林寺住持となりました、仁安元年こと1166年に生まれ、法然より33歳年下という。

 選択本願念仏集、法然の没年となる建暦2年こと西暦1212年から間もなく、選択本願念仏集という法然の教えを纏めた著書が発表されますと、京都の仏教界に大変な衝撃を受け、浄土宗に帰依するか法然を論破するかという大変な騒ぎとなり、貞慶は批判したひとり。

 貞慶はかの仏師快慶と親友であり朝廷からの信頼は熱く、しかし生前の法然追放を朝廷に訴え出た興福寺奏状の起草者であり、しかし法然の没年の翌年に自らも没しています。静遍はそこで貞慶の意思を継ぎ、選択本願念仏集を論破しようとしたのですが、しかし。

 源平合戦に京都と鎌倉二つの首都、日本が文字通り荒廃する最中に法然の選択本願念仏集は心に沁みたといえ、自らは実は十一代住持であったのですが、禅林寺十一代住持を故人であった法然に列する決断と、自らを継ぐ十三代住持に法然の高弟を迎える決意とします。なにか出会わぬ出会いのよう。

 証空は法然の高弟、こうして禅林寺は浄土宗の寺院となったという。ただ、真言宗を排したのではなく、なにか幾何学文様のような二つの宗派の、しかし元々永観の頃より浄土教の影響と民衆救済を掲げた寺院の調和があったようです。証空は浄土宗西山派をひらく。

 永観堂は、ただし1467年こと応仁元年の応仁の乱において灰燼に帰すとともに復興は16世紀以降になったという、この際に勧学院が設置され学問の寺と転じますとともに、しかし民衆救済の所謂社会福祉事業は継続され、驚くことに明治維新後にもそれは続きました。

 京都には歴史がある、永観堂の変遷と信仰の厚さという歴史は日本の社会と価値観の根底に流れる一要素ながら確たる部分のように思えるのですが、その歴史を散策し深く考えるには、紅葉の鮮やかで活気に満ちた永観堂よりは、この季節の拝観が、良いと思えますね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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