弘法さんや天神さんの市では、茣蓙の上や陶器が並ぶブルーシートの隅に段ボールに入ったままの雛人形を見つけることがある。
目や口の周りや頬の白い塗りは剥がれ落ち、黒髪がそそけた官女雛。15センチほどの高さで、ほとんど重さを感じさせない古雛は、小袖に長袴の装束をまとう。経年で劣化しているはずが、白と朱赤の色が妙に鮮やかに映る。それが傷ましい。それらの雛に宿された思いの強さの名残りと見えなくもない。
娘の幸せを願い、成長を喜びとする家族の中にあったはずの雛。どんな事情があって、春の陽の下にさらされているのか。
もてなし好きだった義母は、雛段の美しさを感嘆しているだけの人ではなかった。どう楽しもうか、思いはいつもそこにあった。近所の女の子たちを招き、やがては娘本人の親しい友人たちに変わっていくが、彼女たちの雛会を歓待し支えた。
あの賑やかさが消えて久しいが、今年も少し多めのでんぶを添えて、華やかな彩りのばら寿司を供えよう。
春を召しませ。