京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

生まれてきたことが花なんだ

2022年03月10日 | 日々の暮らしの中で
よい小説には必ず幸福感がある、と辻原登氏が言われたことを思いだしている。物語は楽しくなければならないという思いと通じるのだろうか。

『残月記』(小田雅久仁)読後感が胸元に重くつかえたままで、どうにもはけない。
月昂という感染症を発症し隔離施設に拘束された27歳の宇野冬芽。救国党の一党独裁政権下。
党首主催の秘密裏のイベント、感染者同士の格闘技大会で冬芽は剣闘士として試合を重ねる。
政権内部の当主暗殺計画。混乱の中、生き延びた残りの人生は身を潜め、鎮魂の思いを込めた行為をし続ける。
一人、どのような最期を迎えたか。患者としては長生きだった。…すべて虚構だが。凝った虚構は強度だ。

友人とこの話をして、「悲劇だけど冬芽の悲しみをkeiさんは十分に楽しんだってことになるのではない?」「悲しみを受け止め過ぎ。それだけ感情移入できたわけでしょ」などの言葉が返ってきた。


仏教では死に方に善悪はなく、一つの「死」があるだけ。冬芽が精一杯高潔に生きたところに花が咲いた。
友人が手渡してくれた小さな冊子。そこにアントニオ猪木さんの言葉が紹介されていた。
  人生に花が咲こうと咲くまいと、
  生きていることが花なんだ。
  生まれてきたことが花なんだ。

虚構の中のつらい真実を読むことで、これはこれで自分の深まりにつながったのかしらん。



2014.3.18 「花は咲く」を歌う補習校の子供たち  
右から6人目あたりの黄緑のシャツを着た男児の後ろに、赤いリボンで目立とうとした孫Jessie(8歳)の顔

 
コメント (8)
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