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私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

W.SクラークのBoys, be ambitiousを考える

2023-01-12 13:30:31 | 講演・講義・フォーラム等

 札幌農学校の創始者の一人であるクラーク博士が札幌を離れる時、教え子たちに言った「Boys, be ambitious」を「少年よ、大志を抱け」と訳した言葉は有名である。しかし、この訳に異論を唱える向きもあったという。真相はいかに?

        

 1月10日(火)夜、札幌市時計台ホールにおいて、認定NPO法人クラーク会が主催する「クラーク博士と音楽の夕べ」と題する催しがあったので参加した。

 イベントは講演とコンサートの2部構成だった。講演は元北海道大学副学長を務められた藤田正一氏「立身出世に代わる大志の訓え~クラーク博士のBoys, be ambitiousの真意とは~」と題するものだった。藤田氏は大学人らしく、関係する豊富な資料を探し出し、それらを提示することによってテーマに迫った。

   

 私たちのほとんどはクラーク博士が言った「Boys, be ambitious」の言葉を「少年よ、大志を抱け」と解している。この訳はクラーク博士の生き様と思想を知る札幌農学校の一期生である大島正健が訳したとされ、それが広く後世に伝えられている。

 ところがambitiouという言葉には「野心的」とか、「成功、富、権力などを求めて大きな望みをもって」というような意味も包含されているという。そこの部分をフォーカスしてクラーク博士の言葉を論じる米国での論文が出されたり、あろうことか北大内の文書の中にも一時そのような言辞が使われていたりしたことがあったという。

          

    ※ いかにも元北大応援団長だった面影を残す講師を務めた藤田正一氏です。

 しかし、藤田氏はこれらの言辞を全て全面的に否定する。そこにはクラーク博士の生き様が何より彼の真意を語っているという。その一つ、クラーク博士が来札する15年前、勃発した南北戦争において、奴隷解放を支持して、志願兵マサチューセッツ第21連隊少佐として出征している。クラーク氏その英雄的な戦いから准将に推挙されるが、地位も名誉も名声も、それに伴う富も約束されたそのオファーを惜しげもなく断り、自分の使命とする学究生活に戻ったという。

 またクラーク氏はドイツに留学した際に農業教育の重要性に気付き、帰国後マサチューセッツ農科大学を開校し、そこの学長に就任して大学を軌道に乗せた。その手腕を買われ総合大学の学長に推挙された際にも、その要請を潔く断ったという。まさにクラーク氏の生き方そのものが、地位や名誉には無関心で自らの信ずる道をまさに “大志” を抱いて生き抜いた人そのものだった、と藤田氏は強調した。そうしたクラーク氏の影響を受けた新渡戸稲造、内村鑑三をはじめとして札幌農学校の一期生、二期生からは多くの偉大な人物が誕生したことは多くの知るところである。

 藤田氏のお話は膨大な資料を提示するものだったために、メモすることもできず、藤田氏の真意をレポするものになってはいないかもしれない。しかし、伝えられているようにクラーク博士の言葉は多くの若者、そして日本人を鼓舞する言葉としてその輝きを失っていないことを感ずる。

 藤田氏は最後に、クラーク博士の「大志を抱け」が内包する精神は、今日の拝金主義に毒され、卑俗な野心に邁進する我々日本人がもう一度、人としてあるべき姿を取り戻す力となろう、と結んだ。

       

 ※ 会場の時計台ホールには写真のようにベンチに座ったクラーク像がステージ上に鎮座しています。

 認定NPO法人クラーク会は、クラーク精神のさらなる啓蒙のために、クラーク博士と教え子たちが別れた地、北広島市の旧島松沢駅逓跡に「馬上のクラーク博士」像を2026年に建立すべく、募金活動を開始したという。私も微力ながら一口賛同したいと思っている。

 コンサートの様子については明日レポしたい。