新渡戸稲造…、札幌農学校出身で国際連盟の事務局次長を務めるなど国際的に活躍された教育者・思想家であるが、キャリアの途中で母校札幌農学校の教師を務めた際、恵まれない境遇の子等のために「遠友夜学校」を設立し、初代校長を務めたエピソードを中心に描いたドキュメンタリーである。
7月10日(水)午後、シアターキノにおいて映画「新渡戸の夢」を観た。
この映画は国際的に活躍した新渡戸稲造の業績の数々を描いたものではない。彼の思想の源泉にあった「どんな人でも勉強する権利がある」という思いの実践の場として「遠友夜学校」を設立し、恵まれない人たちに無償の学び舎を提供し、彼の夢を受け継いだ人たちによって昭和19年に閉鎖されるまで50年間も継続し、延べ5千人もの人たちが「遠友夜学校」で学んだという業績に光を当て、そのエピソードを描いたものである。
映画に「遠友夜学校」で学んだ人は残念ながら一人も登場しない。全ての人たちがすでに亡くなられていることから、実際に学んだ人たちの子どもに当たる方が二人登場し、親の姿を見たり、伝えられたりしたことを語る。
また、「遠友夜学校」の精神を受け継ぎ、「平成遠友夜学校」と称して市民に学びの場を提供している藤田北大名誉教授の実践も紹介している。
しかし、映画の大半は、やはり新渡戸の思いを受け継ぎ民間サイドで学びの場を提供し続けている「札幌遠友塾 自主夜間中学」の設立に関わり、長い間代表を務めた工藤慶一氏にスポットを当て、新渡戸の夢を引き継ぎ、実践を続ける姿を追う。
※ 遠友塾 自主夜間中学で教える工藤慶一氏の一コマです。(左の人)
私が微笑ましいと感じたのは、「映画を出しても良い」と了解を得たと思われる一人お婆ちゃんの学ぶ姿だった。小学校の算数の問題を友人たちと試行錯誤しながらも、飾ることなく明るい表情で学ぶ姿が印象的だった。
また、映画では「遠友夜学校」を設立したものの、長く学校を離れていた新渡戸が20数年ぶりに「遠友夜学校」を再訪した際に「学問より実行」という書を認めたというエピソードが紹介された。新渡戸は「学問の目的は人格の完成にある」ということを生徒たちに伝えたかったのだと映画は解説した。
※ 新渡戸稲造が「遠友夜学校」を再訪した際に認めた書です。右から読みます。
映画の最後は前出の工藤慶一氏は「北海道に夜間中学を作る会」の代表を務められていて、工藤氏が国会においてその請願をする場面で終わる。
その工藤氏たちの願いは、2022(令和4)年、北海道で初めての公立夜間中学校「星友館中学校」として開校され、工藤氏たちの願いは実現して現在に至っている。
昨日、私はその「星友館中学校」を見学する機会を得た。その模様については明日レポすることにしたい。