がん治療の最前線は著しく進歩を遂げていることを再確認した講義だった。しかし、医療の進歩によって平均寿命は延びたが人の生涯においておよそ1/3が癌に罹るという事実は消えていないという。癌に “備える” 術を聴いた。
※ 実は北大講座の第5回講座を受講したのだが、哲学の話とあってレポするには荷が勝過ぎて、私の手には余ってしまった。そのためこの回はやむをえずパスすることにした。
北大の全学企画である公開講座「ウィズコロナの時代をどう生きるか “備える”」の第6回講座が7月8日(木)にオンラインで配信された。第6回講座は「がんに克つ ~現代の武器を知る~ 」と題して、北海道大学病院准教授の樋田泰浩氏が講義を担当された。
樋田氏はまず「がんが発生する原因は、遺伝子の異常であるが、それは細胞が分裂するたびに起きる可能性があり、完全にがんの発生をゼロに抑えることはできない」とした。
そしてがんの主要因は「喫煙、感染、飲酒」にあり、これらはいずれも遺伝子の異常を引き起こし発がんを促すとした。喫煙、飲酒については個々人の自覚に任される側面が大きいが、感染によるがんについてはウィルスや治療薬の開発が近年進んでいるとした。具体的には肝がんの肝炎ウィルスを叩く肝炎の治療薬、胃がんのピロリ菌を除菌させる方法、子宮頸がんのワクチンの開発などである。
がんは早く発見することで治る確率が高まり、治療の負担も軽く済ませることができることは今や多くの人が知るところである。そのため勧められているのが「がん検診」である。このことに関し樋田氏が強調されたことは、「がん検診の最大のメリットはがんが早く見つけられることだが、デメリットとしてがんが100%見つかるわけではないこと、また不要な検査や治療を招きかねない」ことがあり、現時点では国が推奨する「胃がん」、「子宮頸がん」、「肺がん」、「乳がん」、「大腸がん」の五つの検診で良いのではないかとされた。
※ この図は講義で使用されたものではなく、ウェブ上から拝借しました。
続いて、がんが見つかった場合についての患者として心構えについて述べられた。がんが見つかった場合、医師はその種類と進み具合を診断し、適切な治療法を選択するが、現在では国内、国際的なガイドラインが整備されていて「標準治療」が公表されているという。「標準治療」とは、数多くの治験、臨床実績の中から、確かな実績によって認められてきた最高の治療法と考えてもらいたいと樋田氏は説かれた。そしてネット上で出回る風説や民間療法などに惑わされてはいけないと強調された。ただ、医師や医療機関によっては治療方針が異なる場合があるので。不安を感じた時にはセカンドオピニオンに頼ることも一つの方法であるとされた。
講義の最後に樋田氏はがんの最新の治療法について触れた。がんの治療法は長い間「手術」、「放射線治療法」、「薬物療法」が三大治療と言われてきたが、2000年代に入り「抗体医薬」、「分子標的薬」、「免疫チェックポイント阻害薬」が登場して治療実績の向上に大きく貢献した。そして2020年に入って日本が世界に先駆けて「光免疫療法」なるものが発明したという。その発明に関わった一人が北大薬学部に所属する小川美香子教授だという。その他北大には「動体追跡陽子線治療法」を開発された白土博樹教授が在籍するなど、がん研究の最前線を担っているという、頼もしいお話を最後にされて講義を締めくくった。
樋田氏の講義は、がん治療の最前線のお話を整理され、一般市民にも理解できるように配慮されながらお話され、非常に良く理解できる内容だったことを感謝したい。