最近はGX(グリーントランスインフォメーション)に対する議論が活発に交わされるようになってきた。今回は北ガスと北大が主催して、識者の講演、ならびにパネルディスカッションの議論に耳を傾けた。
最初に「GX」について確認すると、GXとは「温室効果ガスを発生させる化石燃料から太陽光発電などのクリーンエネルギー中心へと転換し、経済社会システム全体を変革しようとする取り組み」とされ、最近はこのことに関する議論が特に活発になっている。
3月5日(火)午後、北大クラーク会館において、北海道大学と(株)北海道ガスが共催で「カーボンニュートラルと地域創生~北海道のポテンシャルと地域課題の解決~」と題するシンポジウムが開催されたので、どこにでも出没する私としては当然のように参加させていただいた。
※ 環境省の和田事務次官です。
最初に環境省の和田篤也事務次官が「再エネ・ゼロカーボンで地域創生、更にその先へ!」と題して、オンラインで基調講演された。
和田氏はまず、気候変動問題に対する世界の動きの変遷を概観し、2020年に当時の菅首相が「2050年カーボーニュートラル」宣言をしたことを契機として、2023年には「G X推進法」を成立させたことなどを紹介した。それを受けて環境省では、脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動の愛称として「デコ活」なる言葉を推奨していると紹介された。
そして環境省では脱炭素先行地域として全国95市町村から脱炭素の取組みを進める自治体を選定(その一つに十勝管内の上士幌町のバイオガス発電も含まれている)することで、地域課題を解決し暮らしの質を向上させるカーボンニュートラルの取組みは、地域創生、そして暮らしのウェルビーイング(心身の健康や幸福)を実現できると強調された。
※ 国際大学の橘川学長です。
続いて国際大学長の橘川武郎氏が「カーボンニュートラル・ガス産業・北海道」と題して基調講演された。
橘川氏は基本的にはGXに対する推進者の立場の方だと解するが、氏は現状の前のめりのような議論に掉さす立場の方だと理解した。例えば、橘川氏は二酸化炭素の排出量は「脱炭素」ではなく「低炭素」で良いのだと主張します。そして、再エネでエネルギーを生産する際のコスト高が大きな課題であるとし、コストを下げるには技術革新と共に既存インフラの活用が鍵だとし、泊原子力発電所の1号機を運転する必要性についても言及された。
このあたりは、GX推進者の間でも議論が分かれるところなのではないだろか?
休憩を挟み、4人の方が登壇し、北大の瀬戸口工学研究院教授の司会でパネルディスカッションが行われた。
※ パネルディスカッションに登壇した 4人の識者です。
登壇者は竹中上士幌町長、岸北大工学研究院教授、若松北ガス研究所長、そして橘川氏の4人が登壇した。各氏の主たる発言を紹介すると…、
🔳竹中上士幌町長
上士幌町は2022年に脱炭素先行地域に選考された。その他関連した表彰も受けた。町の主な取り組みとして、家畜のふん尿をバイオマスプラントで発電し、地域に配電している。またプラントで生まれた液肥を地域の畑に還元しているとした。また、太陽光発電、バイオマス発電にも取り組んでいる。「ない」ことの多い北海道だが、「ない」を資源にすることを考えたい。上士幌は「スギ花粉」がないことを売りに、観光開発をしようとしている。
また、再エネの生産には地域住民が主役となることが必要とも強調された。
🔳岸北大工学研究院教授
北海道の交通体系はGXの観点から見ると矛盾点が多い。広大な北海道において長距離移動の手段が自家用車となっている。他方、鉄道路線は廃線が続きやせ細るばかりである。カーボンニュートラルの観点から考えると、これからの北海道においては公共交通をいかに維持していくかが一つの課題である。
また、省エネの観点からいうと北海道の気密性の高い住宅は、寒冷地だからこそ建築技術が育った。その技術を他地域の高温地域の住宅建築に技術移転する視点を持ちたい。
さらに、広大な北海道において人口減少がもたらす過疎のインフラをどう維持するかも課題である。コンパクト化は避けて通れない課題であるとも指摘した。
🔳若松北ガス研究所長
北ガスでは道内7市町村と連携を締結して、マイクログリット(小規模電力網)の整備を進め、エネルギーの地産地消を目指している。
また、水素とCO²から都市ガス原料の主成分であるメタンを合成するメタネーションにも取り組み、「合成メタン」の製造にも力を入れていると言明した。
🔳橘川国際大学長
北海道はあらゆる再生可能エネルギーを産み出すポテンシャルの高い地域であり、水も豊富である。資源の豊かな北海道はラピダスだけではなく、データセンターなども誘致して北海道で仕事を増やすという視点も必要である。
※ パネルディスカッションをコーディネイトした瀬戸口北大教授です。
今やGXとか、再生可能エネルギーという単語は時代のキーワードとなったている感がある。おそらく北海道のみならず、全国的にこうした類のフォーラムやシンポジウムが展開されていることが想像される。その中でも橘川氏が指摘するように北海道は再生エネルギーを産出するポテンシャルに富んだ地域であると言われている。この機会をチャンスと捉え、関係者の健闘を期待したいものである。
私には声援を送ることしかできないが、躍進する北海道を夢見たい。
まさに “試される大地 北海道”である。