“ラピダス” の千歳市進出に沸く北海道の経済界だが、はたしてその実状は??北海道新聞社の経済通の記者からその内実を聴いた!
11月7日(火)午後、かでる2・7(道民活動センター)の「学びの広場で学ぼう」講座が開講され参加した。今回は「北海道経済の行方」と題して、北海道新聞社の特別編集委員をされている鈴木徹氏を講師に迎えて開講された。
※ 講師を務めていただいた北海道新聞特別編集委員の鈴木徹氏です。
鈴木氏は次の3つ※の問いからテーマに迫ってみたいと述べた。その3点とは…、
① 半導体産業は北海道経済を救うのか?
② SDGsは北海道にとって追い風か?
③ 公共交通をどう守っていくのか?
一見3点は関係ないように見えるが、お話を伺ううちに実は密接に繋がっていることを教えられたのだった。
日本の主要企業8社が資本を出資して、世界の最先端をゆく半導体メーカーを目ざしてRapidus(ラピダス)を設立したのが昨年(2022年)8月だった。そして今年2月、その主要工場を千歳市に設立するとなってから北海道は大いに沸き立っている。会社設立からわずか半年で降って涌いたように主要工場を千歳市に設立すると決まったことに驚きを覚えてしまう。
※ 鈴木氏が提示してくれたスライドの一部です。
さてその “半導体” であるが、正直言って私には良く分からない物体である。鈴木氏がごく簡単に “半導体” についてレクチャーしてくれた。一口に “半導体” といってもいろいろ種類があるらしい。「ディスクリート半導体」、「オプト半導体」、「センサー半導体」、「ロジック半導体」、「メモリー半導体」、と…。
今問題となっているのは「ロジック半導体」のことで、鈴木氏によると、「ロジック半導体」は「半導体の王様」ということだ。その「ロジック半導体」は今、世界的には微細化の戦いの渦中にあるらしい。日本で現在生産されている半導体の大きさは40NM(ナノメーター)だそうだが、半導体生産の先進地である台湾、韓国では3NMの半導体を生産しているとのことだ。現状で日本は台湾、韓国にまったく歯が立たない現状にあるため、Rapidusで2NMの半導体を2025年までに試作し、2027年には量産を目ざすという計画だという。
さて、そこで問いの①についてであるが、半導体の生産基地をなぜ千歳市に設立することになったかというと、一つは北米や欧州に近いこと(航空路線)。広大な土地や水が豊富なこと。再エネを産出できる可能性があること。観光や食に魅力があること。といった利点から選出されたという。
Rapidusの目論見通りに生産が順調に始まり、輸出も順調だったとして、北海道の経済を救うのか?という問題については、残りの二つの点を考察する中で総合的に考えることにする。
※ Rapidus千歳工場の完成予想図です。
ということで、②のSDGsは北海道にとって追い風か?という問題についであるが、近年企業においては「ESG投資」ということが問われる時代となっているそうだ。ESGとは、「Environment=環境」、「Social=社会」、「Governance=企業統治」の頭文字をとった言葉で、企業が長期的に成長し続けるためには、この3つの観点で事業リスクや事業機会を長期的に把握しなくてはいけないという考え方で世界的に広まってきているそうだ。つまりこれからの企業は、「環境」に配慮し、かつ「社会」と良好な関係を築き、不祥事の回避などリスク管理がしっかり構築されているかどうかが問われているそうだ。
こう説明されると、ESGはSDGsとの共通性が見えてくる。つまりこれから企業が成長していくためにはSDGsを意識した企業活動が必須であり、そのことを意識しなければ投資が集まってこないとも言えるそうだ。
このような環境の中で、北海道は?というと、再エネ生産基地としては国内的に見ても最適地であり、産業基地としての可能性を秘めている地域と言えそうだ。
3番目の「公共交通をどう守っていくのか?」という問題であるが、北海道の鉄路は不採算路線が続出し、多くの鉄路が廃線の危機に直面している。鈴木氏は「貨物列車が鍵である」と言う。貨物はトラック輸送が主力であるが、現在運転手不足は深刻な状況にあるという。その点、貨物列車は一人の機関士(列車運転士)でトラック60台分を貨物を運送できる点を見直し、アピールする必要があると指摘する。鉄路を守ることはCO²を排出を抑えることで、SDGsの推進にも加担することに繋がると…。
こう考えてくると、世界の潮流に対して北海道の秘めたる可能性はかなり高いものであることが浮かび上がってくる。
Rapidusが北海道に主要工場を設立し、SDGsの風が追い風となり、と考えると北海道経済は順風満帆のようにも見える。「ただ…」と鈴木氏はくぎを刺した。「過剰な期待は禁物だ」と…。Rapidusが順調に稼働し始めたとしても、Rapidusの収益のなかの数分の一(あるいは数十分の一)が北海道に落ちるに過ぎないのでは?と警告した。
北海道の人材を、北海度の資源を、どう絡ませていくのか?素人の私には分からないが、関係者の叡智によって、北海道も他の地域に遅れぬように発展の道に舵を切ってもらいたいものである。まさに「試される大地」(以前の北海道のスローガン)なのではないだろうか??