常に心の内をかへり見て一點の私欲邪念あらば早く去るへし 私欲とは名利名貨の欲とて名聞を好み利分を好み色を好の類并耳目口體の好む處の私する欲を云ふ 邪念とは人を虐け人を怒り諍ひ私自身にほこり人をあなどり人をそねみそしり人にへつらい人をあざむき偽る類をいふ 皆是邪悪のこヽろ也 若是等の事露斗もあらばすみやかに去べし 心を害する事甚敷けれはなり 又気質の偏あらば勝べし 気質の偏とは生れ付にかたおちたる所有を云 気あらきとはさはかしきと又やわらか過てよわきと或はや過たるとにふくゆるすきたるの類 或生れ付ていかり多く欲深き類を云 皆是気質の偏也 心を害す凡気質の悪敷所を変化する事は極てかたし 平生心を用てかたすんばあるべからず 又あやまちあらば速に改むべし 過とは工みて悪をするにあらず是非を知らずして不意に道理にそむくを云 気質の偏により私慾の妨みよりて過を成す事多し 人聖人にあらず誰も過多し 過としらば速に改て善に移るべし 吝かなるべからず吝成とは過をおしみて改兼ねる云 凡私慾邪念気質の偏と過と此三ッの物ありては心術を害す 心を正敷し道を行んとすれども是等の過悪有て去されば徳に進べき様なし 假ば田を作るに莠を去されば水をそヽぎ肥ても莠のみしけりて苗に益なし 先莠を去りて水と肥を用るが如し 亦身の病を去りて後保養するがごとし
日新之覺
一、忠孝武ノ三道片時モ不可忘此三ヲ能ワキマエ勤行事學ニアラザレバカタキ事
一、侍ノ格ヲハツサス一身ノ威ヲ不可失但威ヲ立ントスレハ威ヲ失フ事
一、邪智ヲ拂ステ心ハセテ誠實ナラシメ武略ノ外事を巧ニスヘカラサル事
一、行跡ハ正ク堅キ所肝要之事
一、言ハ少シテカリニモ偽カサルへカラサル事
一、義ニヨツテ交リ信ヲ以テナムヘシ不依親疎無禮スヘカラサル事
一、弓馬兵法等ノ家藝ニ不怠兼又合戦勝負ノ道ヲタツネ學フ事
一、好テ戯ノ遊宴ヲナスへカラス武器ニタヨリテ気ノ屈テ散ヘキ事
一、物ヲ玩ハ志ヲ失フトイエル言不可忘事
一、人ノ非ヲキラヒ嘲へカラス身ヲカエリミル事
一、神道ヲ能信シ尊テ聊モ軽シ奉ルへカラス但罪ヲ天ニウレハ■所ナシトイヘル言貴カナ
右何レモ中庸ノ徳ヲ不可失
一牧士書 蒲池三郎兵衛
一、奉公之仕様新参に出たる時の志を後迄不可忘
一、孝行之為様身之養生を能して不煩を孝の第一とす
一、傍輩之者相廣交慇懃成がよし
一、内之者之使様教を先として呵事を次とすべし
一、所務之仕様免を軽くして催促を厳敷するがよし
一、造作之仕様丈夫に成果を本として奇麗を次にすべし
一、諸道具調様能物を高値に買がよし
一、軍法以味方實待敵之虚討
一、日取之事天気清明之日を吉日にすべし
一、身之行勇にして分別有て物言和かなるがよし
一、三悪とは偽と盗と臆病と也
従若至于老可恐可慎者此三也
赤松則祐の歌
もてあそふその品々はおふくとも
常にわするなものヽふのみち