我が家の歴史を書き残しておこうと筆を進めているが中々思うように進捗しない。細川家に仕えた歴代も、平々凡々たる人生であったようだし、近代にいたっての先祖たちも西南戦争にも加担せず、日清日露は云うに不及太平洋戦争にも参加していない。
おまけに祖父母と父が昭和19年に病死し、幼少であった私が我が家の歴史に興味を持ちだしたころには、父方の伯叔母(三人姉妹)たちも亡くなり伝え聞くすべも失ってしまった。それでもインターネットの世界は有り難いもので、祖父や父の名前を打ち込むと、かすかながらの反応があった。
そんな事を含めてまとめようと思っているのだが、なかなか難儀している。
数か月前にオークションで手に入れた江藤淳著の「一族再会」は、ぱらりと読み流して本棚に入れたままにしていたので、お盆ではあるし又参考に成ればと読み始めた。著者が「小説とも、エッセイとも、論評とも、どのジャンルの枠にも収まり難いもの」と云っているが、ドキュメンタリーともいえる一族史である。
この本には小さく「第一部」と書かれている。あとがきで氏は、「第一部まで本にまとめることにしたのは、これを近い将来に完結することが不可能なのがわかったからである」と書いている。事実そうなった。氏はご夫人の死去一年後みずから跡を追われたからである。
江藤氏の本姓は江頭氏、皇太子妃雅子様のお母様の家系でもある。それらのことについては一切触れておられないが共通する先祖の生きざまを、雅子様に伝えられようとしたのかもしれない。
ごくありふれた家族のかすかな想いの行き違いを淡々と描いた小津安二郎監督の「東京物語」は、いまだに深く心に残っている。
平々凡々たる我が人生も思い返すと紆余曲折があり悔いの残る事が多々あるが、東京物語のように流れに逆らわず、残りの人生を悔いなく生きようと思うばかりである。先祖もまた平々凡々のように見えるその人生も、精いっぱい生きて子孫に後事を託したのである。そのことをどう書き綴るのか、生きている間に書き終えることが出来るのか・・・・ハードルは高いが何とか頑張ろうと思っている。