年経れば わが黒髪も白川の みつはぐむまで 老いにけるかな
老女物で能の中で重きを置かれる曲「檜垣ひがき」を題材とする「世阿弥シンポジウム2013 世阿弥の舞い」が9月2日午後3時半から、東京・渋谷の観世能楽堂で開かれる。とかく幽玄、洗練という観点からとらえられがちな名曲に、劇的な身体性を取り戻そうという狙いで、通常とは異なる舞で「檜垣」を見直す実演も行う。若き日に美しい白拍子として多くの人間を魅了した女の霊が老女として出現、生前の業ごうゆえに苦しみ続け、僧に助けを求める。老女らしく「序ノ舞じょのまい」と呼ぶ物静かな舞を見せていた。一方、「老女が過去の恋の情念を燃え上がらせるのを見せるのが作者の世阿弥の狙いだった」という説があり、これまでも一部で「乱拍子らんびょうし」と称する小鼓とシテ(主役)との緊迫感あふれる呼吸の間合いが見どころの舞を取り入れる動きがあった。能が専門の松岡心平東大教授は「戦国時代が終わってから能では美しい舞が重視され、生々しく土俗的要素のある乱拍子は『道成寺』のような曲に限られた。それは、舞手が神がかる憑依ひょうい芸能だった能の身体性を抑圧することにつながった」と語る。根底には、美しく舞ってまとめるような曲ばかりでは、能が小さくなるという考えがある。「世阿弥の原点に立ち返り、能を読み直して閉塞感を打破する契機にしたい」と話す。
シンポジウムでは、松岡教授らの講演に続いて、シテ方の観世清和のほかに、藤田六郎兵衛(笛)、大倉源次郎(小鼓)、亀井広忠(大鼓)という囃子はやしが参加し、舞台で様々な試みを行う。松岡教授は「今年は世阿弥生誕650年。今後も様々な観点から能の再検討を試みたい」と意欲的だ。(電)03・3469・5241。
(2013年8月26日 読売新聞)