Sightsong

自縄自縛日記

アンドリュー・シリル『Duology』

2014-06-19 22:10:20 | アヴァンギャルド・ジャズ

アンドリュー・シリル『Duology』(jazzwerkstatt、2011年)を聴く。

Andrew Cyrille (ds)
Ted Daniel (tp, flh, khakhai)
Michael Marcus (cl)

タイトルからは、トランペットとクラリネットが入れ替わりつつ、シリルとのデュオを行うことを想像するが、そうではなくトリオによる演奏である。(どんなわけでこのタイトルにしたのだろう?)

かのセシル・テイラーと組んでいたからといって、シリルのドラミングはエネルギーがどどどどどと迸り出るものとは違う。どちらかといえば構成的で、かっちりと下からリズム世界を組みあげていく印象のプレイである。理知的にも感じられる。

確かに、セシルとのグループはともかく、オリヴァー・レイク、レジー・ワークマンとのトリオでも、イーヴォ・ペレルマンのグループでも、彼のプレイはそうだったのかなと脳内で反芻してみる。

ヘンリー・スレッギルのグループ「エアー」において、フェローン・アクラフの次にドラマーを務めたのはシリルだったらしい。録音は残っていないそうだが、どんな演奏だったか興味がある。

●参照(アンドリュー・シリル)
セシル・テイラー『Dark to Themselves』、『Aの第2幕』
ジョー・ヘンダーソン『Lush Life』、「A列車で行こう」、クラウド・ナイン
デイヴィッド・マレイ『Saxophone Man』
ウィリアム・パーカーのベースの多様な色
ブッチ・モリス『Dust to Dust』
ザ・ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ


ハル・ハートリー『シンプルメン』、『はなしかわって』

2014-06-19 07:24:26 | 北米

仕事帰りに、ポレポレ東中野で、ハル・ハートリーの映画を2本。

『シンプルメン』(1992年)

ニューヨークに住む、泥棒の兄と学生の弟。父はMLBの有名な遊撃手だったが、テロの容疑で服役中。兄弟が会う人の中には、それを理由に罵る者も、父の思想に共鳴し冤罪だと励ます者もいる。ところが、弟が面会に行くと、父は脱獄していた。兄弟は、残された手掛かりをもとに、なけなしの金をもってロングアイランドへ行く。そこでは、兄弟は、奇妙な人たちに出逢う。父は、港に繋留された船で、仲間に革命を説いていた。

まずは、人物へのカメラの迫りように驚く。各々に最低限許されるであろう制空権に、やすやすと踏み入っているのである。そして、画面に映し出される顔や手足には、いちいち、迷いや、その場限りの思い付きが見え隠れする。状況も演技も一期一会。

ロングアイランドでは、兄弟が、不良少女、バイクをくれる男、バーの姉妹、ガソリンスタンドの店主、ひとりで「グリーンスリーブス」を弾く店員、迷いを露骨に顔に出す警官、漁師たちと、はじめて逢うにも関わらず、テキトーかつ濃密な関係を結ぶ。自分はこう行動し、こう責任を負うのだという、個々の矜持が炸裂していて、実に嬉しくなってしまった。

『はなしかわって』(2011年)

スキンヘッド、険しい顔、万年同じ服、手には修理ツールやドラムスティックが入ったアルミのアタッシェ。あやしい男である。かれは、生きていくために、オカネの工面をし、ドラマー、映画、窓の輸入、水道工事などさまざまな仕事を抱え、マンハッタンを一日中歩き回る。それでいて、カッコつけて仕事の謝礼を断ったり、ブルックリン橋で出逢った自殺願望者のことをずっと心配したりする。 

都市で暮らす者は、ひとつひとつフックを見つけて、紐を結えていかなければならない。絶望の映画ではなく、明らかに希望の映画。