新宿で時間つぶしのために入ったレコード店で、ギル・エヴァンスの『Hamburg October 26, 1986』というDVDを見つけた。1000円だった。
ドイツ・ハンブルグでのジャズフェスのテレビ映像らしい。「Up from the Skies」、「Little Wing」、「Sometimes」、「Voodoo Chile (Slight Return)」の4曲が収録されている。「Sometimes」はデルマー・ブラウンの曲かな、あとはジミ・ヘンドリックスの名曲。もちろん、ギルはこの10年以上前に、『Plays the Music of Jimi Hendrix』という傑作を作っている。
演奏がはじまると、そのユルさに意外な印象を持つ。ところが、このあたりがギルの魔術なのか、一見緊密なアレンジでなくても重層的なサウンドが迫ってきて、ひとつひとつの音が、鼓膜だけではなく、身体のあちこちのツボを押すようで、とても不思議。
ソロイストは、ハイラム・ブロック(g)、ビル・エヴァンス(ts)、ルー・ソロフ(tp)、ピート・レヴィン(key, vo)、ハワード・ジョンソン(tb, piccoro)。大野俊三の姿も見えるが、ソロはない。ギルはというと、もちろんキーボードを弾きながらユルく指示を出している。「Sometimes」を高音で歌うレヴィンを、顎を両手の上に置いてうっとりと眺めるギルの横顔が、何とも言えず良い表情。そして、最後の「Voodoo Chile」において、張り切りまくるハイラムとハワードはさすがの迫力。
45分の演奏を観終わって消そうとしたら、あれあれ、別の映像が入っている(プライヴェート盤ならでは)。どうやら、1984年のよみうりランドにおける「Live under the Sky」のテレビ放送のようで、画質は汚い。それでも、ジャコ・パストリアスがゲストとして加わってベースソロをここぞとばかりに見せつけ、血管が切れそうなハンニバル・マーヴィン・ピーターソンの長いトランペットソロ、ジョージ・ルイスの理知的な感じのトロンボーンソロなんかを観ることができた。メンバーの中にいたジョージ・アダムスの姿もとらえてほしかったところだが、拾い物だし贅沢は言わない。
●参照
ギル・エヴァンス『Plays the Music of Jimi Hendrix』
ギル・エヴァンス+ローランド・カーク『Live in Dortmund 1976』
ビリー・ハーパーの新作『Blueprints of Jazz』、チャールズ・トリヴァーのビッグバンド(『Svengali』)