コリン・ウィルソン『覚醒への戦い』(紀伊国屋書店、原著1980年)を読む。
19-20世紀の神秘思想家G.I.グルジェフの評伝である。
コリン・ウィルソンはなるべく客観的に書こうとしてはいる。たとえば、砂嵐を避けるために、ものすごく背の高い竹馬で砂漠を越えたなどという記述が『注目すべき人々との出会い』にあるものの、それは嘘だろうとばっさり結論付けるなど(というか、当たり前だ)。グルジェフをいま読めばときどきネタかと思ってしまうような奇天烈なことが書かれているのだが、それは同時代人にとってもそうであったようだ。新作の朗読会では、それを書いたグルジェフ以外は、皆が壮大な冗談だと思ってしまったとのエピソードがある。
しかしその一方で、ウィルソンはグルジェフに傾倒していたことがあるようで、どうしてもかれへの心酔が筆から流れ出している。かれによれば、グルジェフには、自分の持つエネルギーを目の前の相手に注ぎ込む超能力があった(と信じ込んでいる)。そうか、『宇宙ヴァンパイアー』のアイデアはグルジェフから取ったものだったのか。誰もトビー・フーパー『スペースバンパイア』の映画評においてグルジェフなんて言っていないと思うがどうか。
グルジェフの思想は、機械のように惰性で動かしている肉体を緊張感を持ってとらえ、制御を意識の中に持ち込むところにあった。あるいは、心身を活性化させるエネルギーを放出させることを意識して行うところにあった(疲れていても嬉しいニュースがあれば元気になる、なんてこと)。その「覚醒」のために、人を敢えて挑発して怒らせたり、消耗してしまうほどの作業を強制したりといったことが頻繁にあったようだ。つまり、大きなお世話の迷惑おじさんであり、現代では存在しえない人である。
●参照
G.I.グルジェフ『注目すべき人々との出会い』
ピーター・ブルック『注目すべき人々との出会い』、クリストのドキュ、キース・ジャレットのグルジェフ集
小森健太朗『グルジェフの残影』を読んで、デレク・ジャーマン『ヴィトゲンシュタイン』を思い出した
コリン・ウィルソン『宇宙ヴァンパイアー』
トビー・フーパー『スペースバンパイア』