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桜と絵本と豆乳と

治らないけど治めることはできる

2019年09月02日 | 読書
 家人が学校に勤めていた頃、書いていた保健だよりのタイトルは「すこやか」だった。勤務校が変わってもそれは変えなかった。いい意味で言えば(笑)不動の目標、揺らがない願いだったからか。人にとって最も大切なのは「健やか」つまり「心身ともに正常であるさま」かもしれない。それはまたそう簡単ではない。


2019読了82
 『すこやかな生き方のすすめ』
  (桜井章一・よしもとばなな  廣済堂出版)



 そもそも何が「すこやか」つまり「正常」なのか見えなくなっている。この対談で桜井が強調すること、それは「『たからない』生き方」である。典型は終章で取り上げた映画『東京物語』の老夫婦の姿と言えるだろう。つまり、日本人の多くが見失ってしまった心である。自分自身を見ても結構たかっている生き方だ。


 自己中心的という古典的な語に言い換えてもいい。心に沁みたのは子供を相手にする時の何気ない言動。「ちょっと待って」という言葉を、今の自分も孫相手に多用するけれど、それは本当に誤魔化しになっていないか、問いかけてみる。愛情なんて簡単に口にするけれど、そうした些細な場面でこそ問われているのだ。


 桜井は「人間の欲というものは(略)決して『治る』ことはないんですよ」と前置きしたうえで、「治らないけど『治める』ことはできる」と語る。この一言には励まされる。すこやかであるための正常さとは、異常さを認めたうえでそれを抑えつつ遣り繰りすること。よしもとも「治らないと思えば楽になる」と語る。


 桜井章一という人物に興味を持ち手にした一冊だ。そのカリスマ的迫力は十分に伝わってきた。それは普通に信念や矜持と言ってもいいが、より生活に正対したスタイルのようなイメージだ。桜井のような一般人が持ち合わせ得ない能力とは、おそらく日々の一貫性から養われるのではないか、そんなことを考えた。


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