
「ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて」安田浩一
2012年 第34回 講談社ノンフィクション賞受賞
在日特権を許さない市民の会、略して『在特会』、会員数約1万人、日本最大の「市民保守団体」。
彼らの特徴は、ヘイトスピーチによる街宣、それを即動画に投稿するネット活用。
少数派と侮ってはいけない。
氷山の一角、と思える。
P115
先頭に立って騒ぐ在特会と、抗議を要請した住民、そして抗議に加わらないものの、心情として朝鮮学校を嫌悪する住民。この3者は見えない糸で結ばれているのではないか。
P252
「在特会の主張を聞いていますと、私のような人間には、彼らにとって、いったい誰が敵なのか理解できないんです。まったく敵の姿が見えてこない。在日の人たちを攻撃することで、どんな世の中ができあがっていくのかもわかりません。私はね、日本人は本来、おおらかな気風を持った民族であると信じているんです。外来文化を受け入れ、独自の形をつくりあげ、優しい風景をつくりあげてきました。そのことに誇りを感じれば十分ではないかという気もするんですけどね。(後略)」
P347
社会運動は理屈よりも勢いで広がるものだと思う。そして勢いは、「守り」よりも「変革」を希求する側に味方する。かつての学生運動が勢いを持ったのは、なによりも体制をブチ壊すことへシンパシーが集まったからではなかったか。一方、現実の左翼は「守り」一辺倒の運動だ。平和を守れ。人権を守れ。憲法を守れ。我々の仕事を守れ。片や在特会など振興の保守勢力は、それらすべてを疑い、「ブチ壊せ」と訴える。左翼が保守で、保守が革新という“逆転現象”起きてきているのだ。
「うまくいかない人たち」が変革の側につくのは当然のことだといえよう。
P313
在特会は「生まれた」のではない。私たちが「産み落とした」のだ。
【言葉について】
hate speech・・・一般には、憎悪表現、憎悪発言のこと。
人種、属性や外見を理由に他人を貶めるような言動
hate-monger・・・
偏見や憎悪の念をかきたてる扇動者のこと。
*街宣の様子を知りたい方は、ネットで「ヘイトスピーチ」「新大久保」で検索すると出てくる。
(なんとも、やるせない気分)
【ネット上の紹介】
特権をむさぼる在日朝鮮人どもを日本から叩き出せ!!」聞くに堪えないようなヘイトスピーチを駆使して集団街宣を行う、日本最大の「市民保守団体」、在特会(在日特権を許さない市民の会 会員数約1万人)。だが、取材に応じた個々のメンバーは、その大半がどことなく頼りなげで大人しい、ごく普通の、イマドキの若者たちだった・・・・・・。いったい彼らは何に魅せられ、怨嗟と憎悪のレイシズムに走るのか。現代日本が抱える新たなタブー集団に体当たりで切り込んだ鮮烈なノンフィクション。彼らはわれわれ日本人の“意識”が生み出した怪物ではないのか?彼らがネットとともに台頭してきたのは確かだが、この現象には、もっと大きな背景があるのではないだろうか。著者・安田浩一氏の徹底取材はこうした疑問から始まった。2010年末から2011年にかけて、ノンフィクション雑誌「G2」に掲載され、大きな反響を呼んだ傑作ルポルタージュ、待望の単行本化。