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「我が家のヒミツ」奥田英朗

2015年12月09日 21時42分51秒 | 読書(小説/日本)


「我が家のヒミツ」奥田英朗

家シリーズの中で、一番面白く感じた。
「家族がテーマの短編集。
様々な家族があって、「我が家」の問題やヒミツがある。
心の揺れ、機微を書かせるとやたら巧い。
特に上手いのが、女性心理の描写。
(これは以前「ガール」を読んだ時にも感じた)
今回も、その能力が遺憾なく発揮されている。
(『虫歯とピアニスト』が特に良かった)

子供に恵まれない夫婦の話
義母がくどくど言うことに腹を立てた夫のセリフを、義理の姉が敦美に教えてくれるシーン
P41
「(前略)おれは検査を受けないし、敦美にも受けさせない、子供が出来ないのは誰のせいでもなしし、単なる巡り合わせに過ぎない、よそとちがうからって、そんなことでおれたち夫婦はしあわせを見失ったりはしないし、何か引け目を感じることもない、今度その話をしたら、おれは二度とこの家の敷居をまたがないって、そう言ったのよ」

P43
「プランAしかない人生は苦しいと思う。一流のスポーツ選手、演奏家、俳優たちは、常にプランB、プランCを用意し、不測の事態に備えている。つまり理想の展開なんてものを端から信じていない。理想を言い訳にして甘えてもいない。逆に言えばそれが一流の条件だ。だから人生もそれを応用すればいい。(後略)」

P177
「おれが親父を亡くして最初に学んだのは、世の中には温度差があるってことかな。遺族はいつまで経っても悲しいのに、周りは三日もすると普通に生活をしていて、普通に笑っている。だから遺族は次にその温度差にも苦しめられる」

P242の「引力」の喩えも面白い。
家族間の「引力」は強くなったり弱くなったりする、と。
関係が変わらないのは、歳をとった愛犬だけ、と。

【関連図書】

 「我が家の問題」奥田英朗

【参考リンク】
作家の読書道:第12回 奥田 英朗さん - WEB本の雑誌

【ネット上の紹介】
 どうやら自分たち夫婦には子どもが出来そうにない(『虫歯とピアニスト』)。同期との昇進レースに敗れ、53歳にして気分は隠居である(『正雄の秋』)。16歳になったのを機に、初めて実の父親に会いにいく(『アンナの十二月』)。母が急逝。憔悴した父のため実家暮らしを再開するが(『手紙に乗せて』)。産休中なのに、隣の謎めいた夫婦が気になって仕方がない(『妊婦と隣人』)。妻が今度は市議会議員選挙に立候補すると言い出して(『妻と選挙』)。どこにでもいる普通の家族の、ささやかで愛おしい物語6編。