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「長いお別れ」中島京子

2015年12月02日 22時28分26秒 | 読書(小説/日本)


「長いお別れ」中島京子

レイモンド・チャンドラーではない。
中島京子作品である。
テーマは、老老介護/認知症。
重く暗くなってしまう課題を、これほどユーモラスに語る著者はただ者ではない。
最後にカタルシスさえ感じられる・・・すばらしい作品だ。

妻・曜子の思い。
P246
言葉は失われた。記憶も。知性の大部分も。けれど、長い結婚生活の中で二人の間に常に、あるときは強く、あるときはさほど強くもなかったかもしれないけれども、たしかに存在した何かと同じでもって、夫は妻とコミュニケーションを保っているのだ。

タカシとグラント校長先生の会話・・・タカシの祖父について語る
タイトルの意味も語られる。
P260
「ずっと病気でした。ええと、いろんなことを忘れる病気で」
「認知症か(ディメンシア)か」
「なに?」
「認知症というんだ。僕の祖母も最後はそうだった」
「十年前に、友達の集まりに行こうとして場所がわからなくなったのが最初だって、おばあちゃんはよく言ってます」
「長いね。長いお別れ(ロンググッドバイ)だね」
「なに?」
「『長いお別れ』と呼ぶんだよ、その病気をね。少しずつ記憶を失くして、ゆっくりゆっくり遠ざかって行くから」

【おまけ】
これほど、進化を続ける作家は珍しい。
「イトウの恋」「平成大家族」の後、「小さいおうち」を読んで驚いた。
次に「花桃実桃」「のろのろ歩け」の後、「かたづの!」で再び驚いた。
そして、今回の「長いお別れ」・・・さらに化けた。
個人的には、本作品が一番気に入った。
特に、第1章がすばらしい・・・これだけでも読んでみて。
夜の遊園地の描写が、ファンタジーのようである。
イトウの恋 



【ネット上の紹介】
東家の大黒柱、父・昇平はかつて都立高校の校長や公立図書館の館長をつとめたが、十年ほど前から認知症を患っている。長年連れ添った妻・曜子とふたり暮らし。娘が三人。ある言葉が予想もつかない別の言葉と入れ替わってしまう、迷子になって遊園地へまよいこむ、入れ歯の頻繁な紛失と出現、記憶の混濁、日々起こる不測の事態――しかし、そこには日常のユーモアが見出され、昇平自身の記憶がうしなわれても、自分たちに向けられる信頼と愛情を発見する家族がそばにいる、ささやかで確かな終末の幸福があった。