「さらば白人国家アメリカ」町山智浩
アメリカ現状レポートでは定評がある著者。
予備選挙から本選挙まで。
トランプに敗れた候補者一人一人にも光を当てて、詳細に分析していく。
結果として、政治の仕組みを知ることになる。
P42
無理な理屈をこねてまでヘリテージが中国を擁護するのは、中国のWTO加盟に賛成し、中国製品の輸入を拡大したのがヘリテージ自身だからだ。その政策を提唱したのはエレイン・チャオという中国系のエコノミストだった。彼女の夫は共和党の上院院内総務のミッチ・マコネルで、チャオはブッシュ政権で労働大臣に任命され、中国からの輸入超過を放任し、アメリカの労働者から仕事を奪い続けた。ブッシュ政権の甘い中国政策は中国経済を大躍進させたのだ。
世界破滅装置について
P43
ハドソン研究所のハーマン・カーンは、米ソ冷戦時代に戦略理論家として「ドゥームズデイ(世界破滅)装置」を発案したことで有名だ。敵から一発でも核攻撃を受けたら、保有する全核兵器が自動的に作動して地球を丸ごと破滅させるシステムで、これによって敵は攻撃できなくなる究極の抑止力だ。
スタンリー・キューブリック「博士の異常な愛情または私は如何にして心配するのをやめて水爆を愛するようになったか」のモデルは、ハーマン・カーン。
さらに、「ガンダム」の女戦士、ハマーン・カーンの名前のモデルとなったそうだ。
ホワイトエスニックについて
P329
ワーキング・クラスの白人たちの多くは、ホワイト・エスニックと呼ばれるスコットランド、アイルランド、ドイツ、イタリア、ギリシャ、ロシア、東欧各国から渡ってきた人々の子孫だ。彼らは19世紀後半にヨーロッパから移民してきた貧農小作人や農奴だった。既にアメリカの肥沃な土地はWASPの移民に所有されていたので、西部の開拓地を目指すか、都市に残って建設現場や工場で働いた。
ニクソンの「サイレントマジョリティ」について
P332
「1954年なら黒人のことをニガーと言えた。でも、1968年にニガーなんて言ったらおしまいだ。だから別の言葉に言い換えるようになったんだ」
1981年、共和党の選挙の裏工作人として悪名高いリー・アットウォータ-がうっかり口をすべらせた。つまりサイレント・マジョリティという言葉には「黒人の平等に不満だが、差別になるので、それを口に出せなくなった白人」という裏の意味が隠されていた。
こうした言い換えをドッグホイッスル・ポリティックス(犬笛政治)と呼ぶ。犬笛は人間には聞こえない超音波を発するので、犬だけが反応する。それを同じく、サイレント・マジョリティと言われるとブルーカラーの白人は「自分のことだ」と察する。トランプをこの笛を吹いたのだ。
【ネット上の紹介】
「二大政党の将来がどうなるかはわからない。ただ言えるのは、アメリカが白い肌に青い目で英語を話す人々の国だった時代は、確実に終わるということだ」――トランプ対ヒラリー、史上最悪の大統領選が暴いた大国の黄昏。在米の人気コラムニスト町山智浩氏が、党大会、演説集会をはじめ各地の「現場」で体感したサイレント・マジョリティの叫び! 1980年に人口の8割を占めた白人は、現在62%。やがて白人が人口の半分を割り、マイノリティへと転落する日がやってくる。白人たちのアイデンティティ・クライシスは、アメリカをどこに向かわせるのか!? シンクタンク、全米ライフル協会、アンチ人工中絶、スーパーPACと最高裁、肥満と大企業……「アメリカを操ってきたもの」たちの暴走と矛盾に斬りこむスーパーコラム。