「七夕しぐれ」熊谷達也
熊谷達也さんの自伝小説。
おそらく、ほとんど実際体験したこと、と思う。
仙台に、小学5年生の和也が引っ越すところから物語は始まる。
主な登場人物は、この和也と近所に住む同級生のユキヒロ、ナオミ。
この3人を温かく見守る大人・・・ストリッパーの安子ねえ、元ヤクザのおんちゃん。
対立するクラスメート達。
同和問題やいじめの問題も取り込みながら、
当時の心理を克明に、客観的に描写されている。
気がつけば、最終ページ。
一気読みでした
本作品は、この後、「モラトリアムな季節」「リアスの子」と続く。
【ネット上の紹介】
小学5年生の和也は、宮城県内の小さな町から、憧れの仙台市に引っ越してきた。川沿いに5軒が並ぶばかりのみすぼらしい住まいにショックを受けるが、隣家に住む同級生2人と仲良くなる。ところが学校では、その2人が周囲から浮いているのに気付く。ストリッパーやヤクザもいる自分たちの住む地域が、かつては差別されていたことを知った和也は、2人の友人と他のクラスメイトとの間で悩む…。ねえ、ほんとうの友情って、何だろう?史上初の直木賞&山本周五郎賞ダブル受賞作家が差別問題に正面から取り組んだ、魂に響く成長譚。
国立民族博物館(通称『みんぱく』)に行ってきた。
約3年ぶり。
すばらしい展示物が惜しみなく陳列されている。
ただただ圧倒される
日本文化も紹介されている
長野県と新潟県にまたがる秋山郷の民家が再現されている
サリーの着方まで説明されている(私が着ることは一生ない、と思うけど)
久しぶりに、万博公園に行ってきた。
こちらルピナス
言わずと知れた太陽の塔
写真から分かりにくいが、高所の『渡り廊下』
樹木を横から眺めることが出来る
終点の展望台が見えてきた
展望台から見た『空中回廊』
今回の見所・・・花の丘のポピー
秋になると、この場所は、秋桜が咲く
万博公園を2時間ほど散策したが、山を歩くより疲れた
この後、ベンチで休憩して、みんぱく(国立民族博物館)に移動
「邂逅の森」熊谷達也
この作品はすごい。
直木賞、山本周五郎賞を史上初めてダブル受賞した。
読む前から期待が高まるが、それを裏切らない内容だった。
すばらしい作品である。
明治から大正、そして昭和初期が時代背景。
舞台は東北の山。
マタギの世界を描いている。
P37
マタギが猟のために山入りする際、守らなければならない掟や禁忌には、女に関するものもある。たとえば、山入りの中には、女の話や色話をしてはならない。なぜなら山の神様は女の神様、しかもひどい醜女なので、マタギたちの女の話に嫉妬して獲物を授けなくなる。そればかりか、場合によっては、空を荒れさせたり、雪崩を起こすことまでしてのける。
P405
「この店で、二十年ばかり前に、こけしを売りつけられそうになったことがあっての。その時は買わねえですまったんだども、どうすても、女房さ買ってやりだぐなってなあ。わざわざこうすて買いに来たのしゃ」
売り子の顔が、複雑な表情に歪んだ。
「如何すたっけな、早ぇどご、ひとつ包んでけろ。俺の大事な女房さ買ってやるんだすけ、お姉さんがいっとう気に入ってるのでいいがらよ。そいづば包み終わったら、此処でのお姉さんの仕事はおしまいだべしゃ。早々ど家さ帰んねばな」
東北弁が駆使されて、雰囲気も盛り上がる。
横に地図を広げて、読み進んだ。
おそらく10年に1作クラスの面白さ、と思う。
自信を持ってお薦めする。
作中に登場する肘折温泉
・・・いつか行ってみたい。
【参考リンク】
肘折温泉郷
月山も舞台となる・・・こちらも行ってみたい。
【蛇足】
単行本で読んだが、P348に間違いあり。
『イクと初めて出会った時』、と表現されているが、
実際は2度目の出会いである。
もしかしたら、文庫本では修正されているかも知れない。
(重箱の隅をつついて申し訳ない)
【ネット上の紹介】
秋田の貧しい小作農に生まれた富治は、伝統のマタギを生業とし、獣を狩る喜びを知るが、地主の一人娘と恋に落ち、村を追われる。鉱山で働くものの山と狩猟への思いは断ち切れず、再びマタギとして生きる。失われつつある日本の風土を克明に描いて、直木賞、山本周五郎賞を史上初めてダブル受賞した感動巨編。
「さわらびの譜」葉室麟
今まで読んだ、葉室麟さんの作品は次のとおり。
「螢草」
「冬姫」
「山桜記」
そして、今回の「さわらびの譜」。
今のところ、ハズレなしで、どの作品も面白い。
退屈させず、最終章まで読者を牽引するベクトルはたいしたもの。
今回は、弓術の話。
P4
弓術の流派は古く武田流や逸見流、小笠原流、秀郷流などがあったが、大和の出身だと伝わる日置弾正正次が創始し、広く世に伝わったのが日置流弓術だった。
(中略)
古来、源頼義や源義家は弱い弓でも兜を射通すのが普通だったが、その技が伝わらなくなっていたのを日置弾正が工夫して秘伝とした。
P54(万葉集より)
石ばしる垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも
・・・ここからタイトルの「さわらび」が来ている。
「さわらび」とは、「早蕨」のこと。
ほとばしる清流と早春に芽を出す草木の若緑が目に浮かぶようで、その清々しい光景の中ですっくと萌え立つ早蕨に憧れにも似た思いがあった。
(わたくしも、この和歌に詠まれた早蕨のように生きたい)
この作品のヒロイン・伊也(いや)の思い、である。
この妹が初音。
初音の許嫁の男性が清四郎。
この3人を中心に、物語が展開していく。
伊也は訳あって、自宅の座敷牢に閉じ込められてしまう。
父は江戸に行かされ、留守となる。
そこに、敵方の弓の達人3人が、夜討ちを掛けるという情報が入ってくる。
絶体絶命の危機。
妹の初音は、弓術が出来ない、か弱い女性。
敵の攻撃を防ぐことが出来るのか?
P105
「もしも、わが門人が夜討ちを仕掛けるならば、迎え討たれるのは有川様でござるか」
八十郎は眼を鋭くして訊いた。
「いや、わが娘の伊也でござる」
「されど、ただいま押し込められておられましょう」
驚きを隠さず眼を瞠る八十郎に構わず、将左衛門はあっさり言ってのけた。
「牢の内であれ、外であれ、弓を射ることに変わりはござらん。矢が通る一筋の道さえあればよいのでござる」
この攻防戦は、本作品の山場のひとつ。
手に汗握る活劇シーン。
それでも、まだページは半分残っている。
まだまだ、盛り上がっていくのだ。
活劇あり、恋愛あり、藩の派閥争いありと、時代劇の大道、と思う。
善玉と悪玉がはっきりしていて、大団円へと向かっていく。
期待を裏切らない結末。(紋切りに、文句を言ってはいけない)
水戸黄門のように、最後は善玉が勝って、カタルシスを味わうことが出来る。
そこが時代劇の良いところ。
PS
それにしても、現代小説だと、明確に善玉・悪玉を分けて、描くことが出来ない。
正義側の人物も、ここまで清々しい人物を描けない。
ある程度の心理的葛藤を入れないと、嘘くさくなるから。
時代小説だと、それが気にならない。
その清々しい、真っ直ぐな性格の登場人物に、素直に感動できる。
【ネット上の紹介】
扇野藩の重臣、有川家の長女・伊也は、藩の弓上手、樋口清四郎を負かすほどの腕前。競い合ううち清四郎に惹かれる伊也だったが、妹の初音に清四郎との縁談が。くすぶる藩の派閥争いが彼らを巻き込む。長編時代小説。