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「セラピスト Silence in Psychotherapy」最相葉月

2014年05月26日 20時34分38秒 | 読書(ノンフィクション)


「セラピスト Silence in Psychotherapy」最相葉月

読みごたえがあった。
「目から鱗」の数々・・・なるほど、そうなのか!、と。
なぜ、この本を著したのか、について、著者自ら次のように書かれている。

P321
守秘義務に守られたカウンセリングの世界で起きていることを知りたい。人はなぜ病むのかではなく、なぜ回復するのかを知りたい。回復への道のりを知り、人が潜在的にもつ力のすばらしさを伝えたい。箱庭療法と風景構成法を窓とし、心理療法の歴史を辿りたい。セラピストとクライエントが同じ時間を過ごした結果、現れる景色を見てみたい。思いはたくさんあった。

さて、内容について、興味深い箇所を列挙していく。

P79
ところが、そのうち、いくら分析しても治らないケースが現れるようになった。(中略)分析で治るというのは、分析そのものよりも、人の話をじっと聞いてくれるとうことが功を奏したとは考えられないか。つまり、相手の話を丁寧に聴くことのもたらす力に気づいた。これがのちに、カウンセリングと呼ばれるようになったものである。

P113
とかく日本の教育者とか宗教家など、りっぱな人は、説教するのが非常に好きでして(外国人はこれほど説教するのが好きではないですが)、そういう日本の教育者の説教ぐせに対して、ロジャースの理論はそれを真っ向うからぶちこわす役割をもった。

P158
ところが、精神分析に限らず、19世紀末、西洋近代に誕生した臨床心理学のほとんどの理論では、意識すれば治る、が大前提となっていた。

P234
統合失調症は認知機能の低下によるものと考えられている現在からみると信じられない話でしょうが、私が学生だった80年代初頭までは、人格水準の低下に陥る人格の病だと教わっていたのです。人の中心に人格があって、それがやられる病だというのです。

P288
「精神科医と心理士は別ものと考えています。医師は、人間の生命をより長く持続させることを目的としています。一方、心理士は、その人個人がいかに自分を生きるか、それに徹底して寄り添うことが目的です」

P289河合隼雄「幸せな死のために」からの引用・・・聞き手は井田真木子
「ユングの理論はあなたにとってものすごく有用なときがあるんです。それは、しかし、あなたにとってですよね。すべての人にとってではないです。
ユングの理論をあなたに適用するとか、フロイトの理論をあなたに適用するというのは間違っているというのが、僕の考え方なんです。
でも、それをやるサイコロジストがすごく多い。それでみんな迷惑するわけ」

P295-296、2007年、病に倒れる直前の河合隼雄のインタビュー
「対人恐怖症は、今はほとんどなくなってきたんです。(中略)今は葛藤なしにポンと引っ込んでしまうんです。赤面恐怖の人もものすごい減っています。(中略)それがなくなってきてる代わりに、途方もない引きこもりになるか、バンと深刻な犯罪になるか」
引きこもるか、深刻な犯罪を引き起こすか。両極端のようでしてその違いが紙一重であることは、数々の凶悪犯罪が証明している。
(中略)
境界例とはパーソナリティ障害の一型で、もとは神経症と精神病の境界領域にあるという意味で「境界例」と名付けられた。親子関係や恋人関係、治療者との関係など二者関係にこだわり、しがみつく。相手を賞賛し理想化したかと思うと、こき下ろす。すさまじい自己主張をし、相手に配慮することはない、などの特徴がある。(中略)
因果関係は定かではないが、バブル経済の形成過程で臨床家たちが境界例の患者と接する機会が増えたと実感していたことは確かである。
ところが、境界例のクライエントも1990年代に入ると徐々に減少し、代わって解離性障害が増加する。(中略)
しかし、この解離性障害もやがて流行が去り、とくに典型的な多重人格のクライエントはあまり見かけなくなる。
代わって、今世紀に入ってから目立つようになったのが、発達障害である。(中略)
発達障害には、授業中や座っているべきときに席を離れてしまう「多動性」や「不注意」、含みのある言葉や嫌みをいわれてもわからず、言葉どおりに受けとめてしまうことがあるなどの「対人関係やこだわり等」に特徴がある。
(引きこもりが犯罪予備軍と曲解されかねない表現は抵抗を感じる。また、境界例が減ってきたと言うが、ストーカーやモンスターペアレントは、境界例のバリエーションのように思える。彼らは自ら受診しないので、症例としてカウントされないのではないか?・・・クレームをつけて申し訳ない。byたきやん)


P301
ところが、近代に入り、「主体の確立」が要請されるようになって、それに応えられない人たちが出てくるようになった。第二次産業化が、それに適応できない人たちを統合失調症としてはじき出し、第三次産業化が、発達障害を生み出した。

P308
「人が変わるって、命がけなんです。時には怒りにもなる。あいつのせいで変わった、といって治療者を殺しにいった人もいますから」
殺しにいった?
「アメリカでは実際にあったことです。つまり、いくら歪んでいても、おかしいといっても、そうなっていることに必然性があるんですね。不登校だった子が、学校に行けるようになってよかったと素直に喜べるほど単純なことではないんです。そこを治療者がわかっていなくて、ああよかったと思っているときに自殺したりするんです」

【ネット上の紹介】
密室で行われ、守秘義務があるため、外からはうかがい知れない。呼称や資格が乱立し、値段はバラバラ。「信頼できるセラピストに出会うまで5年かかる」とも言われる。「心」をめぐる取材は、そんなカウンセリングへの不審と河合隼雄を特集した雑誌の、ある論文をきっかけに始まった。うつ病患者100万人突破のいま、現代人必読のノンフィクション。

[目次]
逐語録
第1章 少年と箱庭
第2章 カウンセラーをつくる
第3章 日本人をカウンセリングせよ
第4章 「私」の箱庭
第5章 ボーン・セラピスト
第6章 砂と画用紙
第7章 黒船の到来
第8章 悩めない病
第9章 回復のかなしみ  

【おまけ】
この本とは関係ないけど、以前、最相葉月さんが米原万里さんの「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」を、評されたことがあって、リンクしたことがある。
再度、リンクしておくので、よかったら読んでみて。
→【本の達人 電子書籍を読む】嘘つきアーニャの真っ赤な真実 [著]米原万里