(晩夏が遠くへ去って行く@京都丹後鉄道・車内より)
転換クロスシートの車内、ほどほどに座席の埋まった西舞鶴行きの普通列車。KTR700形の単行DC。あえて空いている座席には座らずに、最後尾の貫通扉横に凭れる。ワンマン運転のDCはここが特等席。進行方向側では運転士氏の邪魔になってしまうし、いいトシこいたおっさんが最前でカブリツキをかますというものも趣味のありようとしては美しくない(笑)。そういうのは小さな子供に任せて、オッサンはここから一人静かに列車のテールから去って行く景色を眺めているのが良いのではないかと思われる。
夜半からの雨も過ぎ、晴れ間も見えてきた丹後半島。雲間からの青空と、白い雲のコラボレーション。石州瓦からの流れか、黒い瓦屋根の葺かれた家々が立ち並ぶ漁村を一つ一つ過ぎるたびに、夏が姿を現し始めました。お盆を過ぎて、もう季節は夏から秋に移り変わる頃合いだろうけども、空の色はまだまだ夏が優勢と見え。車内の冷房に涼を求めながら、列車の後方へ晩夏が流れるのを見やる。
列車は栗田を過ぎ、ここから丹後由良にかけては約6km、奈具海岸と呼ばれる風光明媚な海岸線を走って行く。小さな湾と入江、突き出た岬が連なるリアス式海岸の風景。丹後半島は、京都府北部の地域ではありますけど、地形や風景、気候などはやはり山陰のそれに近い。国道沿いの看板がやたらと「カニ」をアピールして来るのも山陰っぽいですね。城崎の先にある津居山とか香住、浜坂なんかが松葉ガニのメッカですが、天橋立観光と絡めてカニ料理とか、いかにもパッケージングされた丹後・但馬のツアーという感じもします。勿論、丹鉄もそういう観光ニーズを取り込んではいるのでしょうが。
先ほどは由良川の河畔から眺めた由良川橋梁を、今度は車窓から眺めてみる。丹後の大河・由良川に一直線に架けられたこの橋梁、車窓からの眺めも見事なもの。この日は保線の職員が橋の点検作業に入っていたため、ゆっくりと徐行してくれた事もあって由良の眺めを十分に堪能する事が出来ました。丹鉄の観光列車「あかまつ・あおまつ」なんかだと観光サービスで徐行してくれるらしいけど、こちらは定期列車でしたのでね。橋の海側には通信ケーブル(?)の支持用に使われていたと見える柱が立っているのだけど、今はケーブルも這わされていないので余計なものがないのがいいですね。架線もケーブルもない。プリミティブに海と空と、間を分かつ鉄橋だけがある。そんな由良川橋梁の世界観。
橋を渡り切った先、丹後神崎の駅で列車を降りる。由良川の右岸側は細い県道しか通っておらず、行き止まりのドン突きのような袋路になっていてとても静か。神崎の集落の外れにある小さな駅で宮津から乗ってきた「艦これ」由良号とお別れすると、煩いだけのアブラゼミの声と、噎せるような草いきれを渡ってくる熱風と、由良号が残していった微かなディーゼルエンジンの排ガスの匂いだけが残されました。
暑さに思わず喉の渇きを覚え、駅前に自動販売機でもないかと探したが、何一つ見つからなかったのはご愛敬。夾竹桃がほのかに咲く駅で、流れる汗を拭いながら折り返しの列車を待つ。丹鉄の駅舎、三セク転換して以降に建て替えられてしまったものが殆どで、駅舎に特に見るべきものはなかったのだけど、こういう時間も、得難いといえば得難いのだろうか。
個人的には、写真から「行ってみたいなあ」という気持ちが伝わる事をモットーに撮影をしておりますので、風旅紀様の旅心をくすぐったとするのならば望外の喜びです。
ぜひ、丹後の海においでくださいませ・・・
近隣までJR線を旅したことはあるのですが、その先に続く丹鉄の路線はまだ訪ねたことがなく、いつか必ず、と思っています。
Twitterでも拝見しておりましたが、ますますその思いが強くなりました。
単行列車に乗ってこの大きな鉄橋を渡れば、きっと広々と水面ばかりの写る車窓に心奪われそうです。
“鉄道の名場面”のようなもの、ささやかなものであっても旅の情感を豊かなものにしてくれることと思います。
急に秋のような天候になり、お写真から伝わる暑さが一層眩しく感じられました。
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