奈良地域おこしネットワーク 結び会― もうひとつの奈良観光ビレッジプレスこのアイテムの詳細を見る |
NPO法人奈良元気もんプロジェクト編『奈良地域おこしネットワーク 結び会(むすびえ) もうひとつの奈良観光』(ビレッジプレス刊)1500円という本が出た。帯には《だれも知らなかった“もうひとつの奈良” そこにいきづく人たちの“ドラマ“ 光あるもの50選!》とある。奈良県下にある、50もの「光ある」人、団体、イベント、活動を丹念に取材され、丁寧に紹介されている。これは労作だ。
同書の監修者は、編集者・イベントプロデューサーの林信夫氏(平城遷都1300年記念事業協会 県内・広域事業プロデューサー)、編集長は井上久光氏(天理大学広報部主事)である。
奈良まちおこし結び会のHPには《NPO法人奈良元気もんプロジェクトが奈良県全域の活性化のために取り組む事業「奈良まちおこし結び会(むすびえ)」の一環として企画・出版いたしました。奈良にたくさんある“光ある人・もの・できごと”を「もうひとつの観光」(オルタナティブ・ツアー)の視点から厳選し、光あるもの50件を掲載しました。各地の光あるものの紹介は、光を見つけ・育て・観(しめ)そうとする、そこにいきづく人たちのドラマにもなりました。また、地域おこしプロデューサー陣による中身の詰まった座談会も掲載しています》。
「オルタナティブ・ツアー」とは聞き慣れない言葉だが、マス・ツーリズム(団体旅行などの大衆観光)の対義語で、グリーンツーリズムやエコツーリズムが代表例だ。掲載されている50件すべてをリストアップすると、
[景観・町並・街道]
日本一ホットなロードレース(上北山村)
世界遺産の小辺路ウォーキング(野迫川村)
今日も笑顔。果無のおばあさん(十津川村)
秋の香ただよう『山の辺のあかり』(天理市)
日本の原風景の中の原風景(桜井市など)
絶景かな。歴史的空間(天理市)
こだわりの技。工房街道『三茶屋』(吉野町)
道を守る『伊勢本街道保存会』(御杖村など)
多彩な魅力あふれる『きたまち』(奈良市)
再生。喫茶スペース『工場跡事務室』(奈良市)
一棟貸宿泊施設も『紀寺借家』(奈良市)
静謐、活力『宗教学園都市天理』(天理市)
[飲食・食材・宿泊]
現代に生きる僧坊酒『正暦寺』(奈良市)
一石三鳥の芋焼酎造り(平群町)
五つの徳『五徳味噌』(奈良市)
伝統、こだわりの醤油(奈良市、山添村)
古代の調味料『醤』(奈良市、五條市ほか)
伝統の食『朴の葉寿司』(黒滝村)
明治創業の行者宿『朝日館』(川上村)
南和の宿(川上村、上北山村)
みんな笑顔に。神納川の農家民泊(十津川村)
日本酒ミニ博物館『つぼ』(天理市)
隠れ家。喫茶『コックピット』(田原本町)
地の味を。フレンチ『めしあがれ』(奈良市)
[自然・農業・林業]
『達っちゃんクラブ』大活躍(川上村)
銘木店を和菓子職人が応援(下市町、奈良市)
先人の思い継ぐ『森野旧薬園』(宇陀市)
夢は農の広域連携『王隠堂』(五條市)
動植物と共生『むろう大沢農場』(宇陀市)
『山野草の里づくりの会』(桜井市)
『笹ゆりギャザリング』(上牧町)
荒れる竹を竹炭に(大和郡山市、天理市)
独立を選び邁進する村(山添村)
アートで村おこし『ふるさと元気村』(宇陀市)
天からの贈り物『結崎ネブカ』(川西町)
色も鮮やかな『片平あかね』(山添村)
きらびやかな『宇陀金ごぼう』(宇陀市)
東京の『大和野菜』を見る目(築地市場)
[歴史・伝統・文化]
何百ものホタルが舞う「蛍能」(宇陀市)
鎮守の杜『葛木御歳神社』(御所市)
600年の伝統行事『蓮取り行事』(大和高田市)
漆復興を。『ぬるべの郷』(曽爾村)
桃太郎生誕の地は活力みなぎる(田原本町)
悲恋物語、再生物語。新町通り(五條市)
『茶筌の里』高山の伝統工芸(生駒市)
絶えざる和紙への挑戦。植和紙(吉野町)
よそを知る跡継ぎ息子『倭太鼓 榛』(宇陀市)
盛況。大衆演劇『弁天座』(大和高田市)
『銭亀堂』のお祈りおばさん(平群町)
皇居跡が残る『賀名生の里』(五條市)
いずれ劣らぬ県下の「光ある人・もの・できごと」が網羅されている。中には「東京の『大和野菜』を見る目」として、築地青果市場・仲卸に取材した記事もある。《「食卓が満腹から満足へとシフト」する中、奈良の魅力を伝えていけるのが『大和野菜』だ》と頼もしい。
柳本もてなしのまちづくり会、奈良街道まちづくり研究会、農悠舎 王隠堂(のうゆうしゃ おういんどう)、山添村観光ボランティアの会、五條新町など、以前から存じ上げていて、当ブログで紹介した団体も、たくさん登場する。
※柳本は、感動がいっぱい!
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/9e146e2359fa29d81ec80783f2929de3
※奈良きたまち交流会
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/05bd569df5a6bc372019f87844090d52
※王隠堂邸のこだわり野菜料理
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/4fad7fffa1510fe26c077326f0d174f0
※山添村の巨石めぐり
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/81fb9e81f53a40cbd22a626c146b436f
※むかし町・五條市新町通り
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/3abec55f997f695774164e87bb225f25
中には私の大好物、奥吉野伝統の「朴の葉寿司」まで紹介されている。毎年、天川村の「民宿あおば」さんから送っていただいている。葉の保存が難しいので商業ベースに乗りにくいようだが、素朴で美味しい押し寿司である。
※朴の葉寿司
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/7d8d423930695ed00b9a6af67acc0f40
圧巻は、巻末の座談会である。《地域おこしプロデューサー陣が語る 「奈良の地域おこし」ポスト平城遷都1300年に向けて》の演題で、乾昌弘氏(NPO法人奈良元気もんプロジェクト理事長)、堀井良殷氏(財団法人大阪21世紀協会理事長)、村田武一郎氏(奈良県立大学教授)、山本陽一氏(NPO法人大和社中理事長)、林信夫氏(司会)という豪華メンバーである。
キーワードがどんどん飛び出す。《次の世代に引き継ぐことができる経済基盤や社会的仕組みを残すことが地域おこしの目標》(村田氏)。県下各所につながりがないのは、《大阪を起点にした放射状交通体系の影響でもある。奈良県は南部へ行くと歴史的に関係が深かった東西方向のつながりがなく、東部へ行くと南北方向のつながりがない》(同氏)。《役所の文化・論理と民間の文化・論理は違います。役所は行政法の支配下、会社は商法、われわれは民法でやっている。(中略) 民間もお上に頼ることに慣れすぎているのではないか》(堀井氏)。
《大仏商法というか、誰かがやってくれる的な感覚を強く感じました。また、よそ者、若者を受け入れてもらえない体質も確かにありました(中略) まだまだ市民の方が奈良へ愛着を持っているかというとわからない》(乾氏)。《団塊の世代は問題が多い。社会参加に対する意識調査をみると、それより上の世代と比べ地域活動への参加意識が低い。結局自分。自分が楽しいことをやりたいという意識》(村田氏)。《昔、淡路島は御魚国(みけつくに)として奈良の朝廷に食べ物を届けていた。そういう理屈さえ立てば、奈良で魚介類を出してもおかしくない》(同氏)。
《「なんで地域おこしをやるのか」というテーマにもどると、このままほっとくと地域は無茶苦茶になる、これに尽きるでしょう。犯罪だって増えてくる。なんでも放置すると錆びるのです》(堀井氏)。《私たちの課題は後継者です。「さがす」ということでいうと、私は「人さがし」をやっていきたい》(山本氏)
とにかく、この本は使える。地域おこし活動に携わっている人、観光振興に携わっている人はもちろん、奈良に息づく人たちの鼓動に触れたい人、新しい奈良の魅力を発見したい人、そして奈良を訪れようとするすべての人にお薦めしたい。ぜここの本を携えて、県下各所をお訪ねいただきたい。「1300年祭後の奈良観光」を考える手引き書としても、最適である。私も、取材しながらブログに書き漏らしている団体もあるので、それらは順次、当ブログで紹介していきたい。
NPO法人奈良元気もんプロジェクトさん、良いご本を出版していただいて、有り難うございました。