![]() | 日本人だけが知っている 神様にほめられる生き方 |
岡本彰夫 | |
幻冬舎 |
6/25付の読売新聞で、岡本彰夫著『日本人だけが知っている 神様にほめられる生き方 』(幻冬舎刊 1,000円)の全5段ブチ抜きの広告を見つけた。岡本氏は奈良の人なら知らない人はいない著名人で、語りの名人。私も何度か講演にお呼びしたことがある(たとえば、奈良の観光についての所感と提言)。
岡本氏といえば骨董に関する著書もおありで、「博識」「碩学」というイメージがあるが、同書は頭ではなく「心」で書かれた本である。心で書かれた本は、読む者の心を打つ。Amazonの「商品の説明」には
(内容紹介)
上へ上へと伸びるより、奥へ奥へと歩みなさい――強運の人・愛される人の共通点とは?
順風満帆な人生は仕上がりが悪い。失敗の多い人生こそ、気づきがあり、人の言葉も身に沁みます。人生に迷ったとき、もうこれ以上歩めないと思ったとき、この本を手に取ってもらい、生きるよすがにしていただければと念じています。(まえがきより)
打算のない行動が運命を開く。運を招くためには、損得ばかり追求してはいけない。代償を求めない行動こそが運を招き寄せる。
感謝の気持ちは幸せへの入り口。感謝すること、物を大切にすることは誰にでもできる 簡単な行為だが、心の底からそう思い、行動することは難しい。「もう少し」と努力を続けた人が最高の人生を送れる。
ほか、今日も生き続ける、二千年続く所作・しきたりに込められた智恵を紹介。
(著者について)
春日大社権宮司。昭和29年奈良県生まれ。太延または聴斎と号す。昭和48年奈良県立郡山高等学校卒。昭和52年国学院大学文学部神道科卒。同年春日大社へ奉職。
![]() | 大和古物拾遺 |
岡本彰夫 | |
ぺりかん社 |
早速、近鉄奈良駅前の啓林堂書店で買い求めたところ、新書版の本だった。文字が大きくてページ数も少ないので、すぐに読めそうだったが、もったいないので時間をかけてじっくりと拝読した。心にじーんとくる本だ。少し抜粋すると、
機械や装置をスムーズに動かすための余裕を「遊び」といいますが、人間も同じで、遊びがあるから心が豊かになり、人間関係も円滑になります。
神様にほめられるには、「ほめられる資格」が必要です、それは、失敗を繰り返しても諦めることなく常に前向きで、反省を重ね、たとえわずかずつでも向上しながら只々歩む続けることではないでしょうか。
昔の人は不吉な言葉を用いることさえ嫌って、メデタイ言葉に言い換える「忌み言葉」を使いました、「猿」は「去る」と重なるので「えて」といい、「すり鉢」を「あたり鉢」、ひげを「剃る」のではなく「あたる」というのは、すべて不吉な言葉を避けるためです。
もしも最初から神仏の存在が確認できたら、人々は打算をもって参詣するに違いありません、ゆえに人の真心を試すために、わざと神仏は存在がわからないようにされているのです。
コップに水を入れ、満杯になったら、それ以上水を入れることはできません、でも、コップが倒れて水がこぼれると、また新しい水を注ぐことができます、同じように、ためになる話や言葉は、つまずいたときにこそ、心に入ってくる、順風満帆のときは人の話に耳を貸さないのが我々人間です。
日本人はもともと農耕民族です、農作業は、皆が歩調を合わせなければうまくいきません、一軒の家が田んぼや畑に草を生やし放題にすると、そこに害虫が発生し、周囲の家にも虫がうつるため、草を刈るならば皆が一斉に刈っておかなければいけません、農業で大事なことは協調性で、抜けがけや手抜きは許されないのです、こうして「みんなで幸せや苦しみを分かち合う」という独特の気風が必然的に生まれました。
一方、狩猟民族だった西欧諸国では、狩るものと狩られるものという関係から社会が成り立っています、強い者が勝ち、弱い者が泣くという弱肉強食の文化は、本来、日本にはそぐわないのです。
喜怒哀楽を秘める日本人の感性は外国人には「表現に乏しく、何を考えているのかわからない」と評されています。この日本特有の美徳を失うのではなく、外国人に理解してもらう努力をすることが必要で、まずは自分の美意識や感性を磨いて、それがやがて世界の人に日本のよさを知ってもらうきっかけになる。日本を奈良を訪れた外国人観光客に、日本の美しい心と伝統を理解していただいてこそ、将来の国益に繋がる観光になるのだと思います。
岡本氏の講話によく登場するのが、お祖母さまと行きつけの散髪屋さん(岩澤康廣さん)の話。お祖母さまの話は、本書ではこんなところに登場する(「能ある鷹は爪を隠す」)。
喜怒哀楽をはっきりと表すことも、日本人の美意識ではありません。すぐに怒ったり、泣いたりするような人は心の浅い人だと言われたものです。私も小さい頃、よく祖母から「浅い川に石を投げたらチャポンというやろ。せやけど深い淵に石なげたらドブンもチャプンもいわん。そんな深い心の人間にならなアカン」と諭されました。少々のことでは動じない、深い心で毎日を過ごすように教えられたのです。
岩澤さんのことは、「よい仕事をするための3つの条件」に出て来る。なお3つの条件とは「誇り、向上心、真心」である。岩澤さんはご自分で散髪の道具まで自作されている。
「この櫛(くし)はべっ甲や。これが一番ええンや。1本10万円はする」「ヘェー、櫛が10万もねぇー」「これは水牛の櫛ヤ。ただし水牛の櫛はナ、お客さんの肌に触ると痛いから、砂買うてきて半日打つんですワ。そうすると櫛の先がやわらかくなる」さらに、「赤ちゃんと女性の産毛は和剃刀(わそり)やないとあたれヘン」
しかし、最近は和剃刀を使える散髪屋さんも少なくなったそうである。そういえば私の行く散髪屋さんなど、安全剃刀を使っている。岡本氏は「髭が固くて剃れない」といわれ、仕方なく髭を伸ばしていた若者に、岩澤さんを紹介した。《岩澤さんは青年の髭をきれいに剃り上げ、「この程度の髭が剃れないようでは情けない」としきりに歎いていたそうです》。
岡本氏は、岩澤さんのような市井の職人さんの技術を「路傍の技」と名づける。そして《「路傍の技」がいかに奥深く、尊いものであるか。と同時に、あまりに近くにありすぎて、つい見過ごしてしまうものの中に、どれだけ素晴らしいものがあるのか。今一度、自分の身のまわりを見回して、日本の技術力の奥深さと飽くなき探求心を認識し直す必要があるのでしょう》と締めくくる。
岡本氏は「はじめに」にこう書かれている。
人生に迷ったとき、もうこれ以上歩めないと思ったとき、この本を手にとってもらい、生きるよすがにしていただければと念じています、日本人が目指してきた「即実践」を心がけて書いてみました、心に感ずることがあれば、すぐ実践してください、幸せはあなたの隣にいるのです。
深い学識に裏打ちされた「心に響く本」、ぜひご一読をお薦めする。