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田中利典師の『修験道という生き方』新潮選書(4)/上求菩提・下化衆生

2022年10月20日 | 田中利典師曰く
金峯山寺長臈(ちょうろう)田中利典師は、ご自身のFacebookに、新潮選書『修験道という生き方』(宮城泰年氏・ 内山節氏との共著)のうち、利典師の発言部分をご自身で加筆修正されたものを〈シリーズ『修験道という生き方』〉のタイトルで連載されている。心に響くとてもいいお話なので、私はこれを追っかけて拙ブログで紹介している。
※トップ写真は、般若寺(奈良市般若寺町)のコスモス(2022.10.5 撮影)

第4回のタイトルは「菩薩行って、他人と自分をわけないってこと」。以前、当ブログでも紹介したが、「上求菩提(じょうぐぼだい)下化衆生(げけしゅじょう)」のお話である。〈「上求菩提」は自分が悟りを開くことであり、「下化衆生」は人々を救うこと〉、これは同時並行でなければならない、ということ。

これを利典師は別のところで、〈私も未だ救われていないけれども、私が高まることが衆生を救うことになるし、衆生のために働くことがすなわち自分自身の上求菩提の修行になる〉と説明されている。では、師のFacebook(10/7付)から全文を紹介する。

シリーズ『修験道という生き方』④「菩薩行って、他人と自分をわけないってこと」
修験とは「験を修める」ということ。修行によって普通の人にはない大きな力をもつ、神仏の力とか、霊能力とかを得ていくということです。だから、そこを求めて修験にくる人もいる。確かに修験にはそういう部分もあるのですが、それが核心かと言ったらそうではない。それは方便門(真理に導く道)での所作なのです。核心は真実門(真理そのもの)の方にある。

とすると真実門とは何かですか、ということになりますが、それはやはり、自分自身の悟りと結ばれている世界ですね。明治の神仏分離以降はいびつな時代背景とともに、神社修験も多くなったけれど、修験は本来、仏教修験として長い歴史の中で展開してきたのですから。神道は悟りを目指さないですよね。

といって、暗に悟りを求めてくる人に対しては、修験はそういうものではないとも答えるのですが、修行を重ね、僧侶の資格をえて修験の行者として生きていくことを決意した人たちに対しては、悟りを目指すことの大事さをきちんと伝えなければならない。発心があってこそ修行は完成する。悟りを目指すという発心も大事なのだ、と。

ただし悟りを開くための行は、菩薩行(利他行、自分のためにではなく、あらゆる他者のためにする行、菩薩のまなざしをもっておこなう行)でなければならない。大乗仏教の大きな修行徳目です。

悟りにいたる方法論は、菩薩行しかないと私は教えられました。菩薩行とは「上求菩提(じょうぐぼだい)下化衆生(げけしゅじょう)」をいいますが、「上求菩提」は自分が悟りを開くことであり、「下化衆生」は人々を救うことです。

現代的感覚で解釈すると、まず自分が悟りを開き、次に、悟りを開いた自分が人々を救うというように読めるかもしれませんが、そうではありません。「上求菩提」と「下化衆生」は一体でなければいけない。「即」の関係でなければいけないのです。「上求菩提」が「下化衆生」になり、「下化衆生」が「上求菩提」になる。悟りは共にある世界のなかにあるのであって、自分が悟ってから救うのなら、一生かかってもそんなことはできない。

その菩薩行の一環として、山の修行もあるのです。自分の思いだの、考え方だのといったすべてを、あきらめきったとき感じられる世界のなかに、菩薩行が生じている。修験の山での修行は、そういうものをもっている。

自分と他人を分けて、「自分が」と言っているかぎり菩薩行はないのです。菩薩行の本質は、自分と他人を分けない、すべてがつながっている世界に帰っていくということなのです。

自分が捨て去られている、消えているということは、自分と他人の区別がなくなるということですし、自然と人間の区別も消えるということ。すべてがつながりの中にあって、ひとつの世界をつくっているのだから、自分を意識すると、それがわからなくなってしまうのです。

修験の修行は、自分はつながり合う世界のなかに存在しているだけなのだということを、自然のなかで感じとっていく世界なのです。通常の生活の中ではなかなか難しいだけに、そこがありがたいのかもしれません。

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哲学者内山節先生、聖護院門跡宮城泰年猊下と、私との共著『修験道という生き方』(新潮選書)は3年前に上梓されました。ご好評いただいている?著作振り返りシリーズは、今回、本書で私がお話ししている、その一節の文章をもとに、加筆修正して掲載しています。
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