エッセイ  - 麗しの磐梯 -

「心豊かな日々」をテーマに、エッセイやスケッチを楽しみ、こころ穏やかに生活したい。

カナリア

2006-12-07 | エッセイ
今日 久しぶりに美しい文章を見つけた。
精一杯に生きる庶民がいる。その痛みを感じない政治が情けない。
 
《信濃毎日新聞 12/6 コラム「今日の視角 カナリア」より》
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 このところ、小さな旅行が続いている。母の介護があるので、すべて日帰りになるが、人権週間で話をする機会が増えているからだ。/
 帰路。車窓から外を見ると、実を幾つか残して葉が散った柿の木が薄い夕闇にくっきりとシルエットを刻んでいたりする。その横を、お年寄りが歩いている姿などをみると、わけもなく鼻のつけ根がじんとしてくる。その年齢に辿(たど)りつくまで、さまざまなことがあっただろう。人生は決して、容易なものではないから、苦難の季節も、屈辱にまみれた瞬間もあったに違いない。それでも、ひとつひとつ節目の扉を、自分で開け閉めしながら、「ここまで、やってきました」という姿の、なんと尊いことだろう。/
 けれど、彼らや彼女たちの人権は十分に保障されているだろうか。/
 ハンディキャップがある息子がいる女友だちがいる。娘さんは独立をして、いまは息子さんとふたり暮らしだ。息子さんは施設で働いている。「ゆっくりした息子の言葉や動作が、お年寄りからは歓迎されているようだけど」。しかし、「年齢からいえば、当然母であるわたしが先に逝くはず。娘には娘の家庭もあるし、そのとき遺(のこ)された息子はどうするのだろうと考えると、眠れない」。いつもは元気な彼女がため息をつく夜もある。/
 改変された医療制度の下、長期の入院が以前ほどできなくなって苦しんでいる人々もいる。国が抱えた大きな赤字はこうして、ひとりひとりの、特に大変な日々を送っているひとたちを直撃する。/
 財政が破綻(はたん)し、すでに厳寒がはじまっている夕張で暮らすお年寄りはどうしておられるだろう。/
 子どもとお年寄りは、「カナリア」だ。炭鉱の酸素が希薄になると、鳴いて「危険」を知らせるカナリアである。ひとりひとりの、この悲鳴が聞こえないのか、この国の「えらいひと」には。/
 「来年、2007年はどんな1年になると思いますか?」-。年の暮れ、そんな取材やアンケートが次々に舞い込む。そのたびに、泣きたくなるわたしがいる。この酸素希薄な現実を、どうして「美しい国」と呼ぶことができるのだろう、と。(落合 恵子)

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 上の文章とは関係ないが、カナリヤについて思い出すことがあった。
父の残してくれたアルバムだ。いつかブロブに書いたが(3/26)、子を思う気持ちの中に、「歌を忘れたカナリヤにはなりたくないね」とあった。
〔以下にエッセイ「父の残した私のアルバム」を再掲載する〕
 人として生きるに、大事なものを忘れるな、と言うことだろう。では、人として失ってはならないものとは、何なのだろうか。
 ときどき、歌を忘れたカナリヤを口ずさみ、そのことを思い浮かべている。

エッセイ
「父の残した私のアルバム」
父はは3人の兄弟それぞれに数冊のアルバムを残してくれた。小学校時代のアルバムの見返しには次のように書かれてある。「十年、二十年、あるいは三十年を過ぎた暁にこのアルバムは価値あるものになるであろう。「貧すれば鈍す」いくら貧乏暮らしをしていても、子供達の成長に心血を注ぐのが親の情けというものです。何も贈り物らしい贈り物を出来ない貧しいお父さんの残す唯一の記念品です。幼き日の思い出が成人ののちに何らかの詩情を併せてほのかに浮かぶとき、人間の美しい魂がよみがえる。歌を忘れたカナリヤにはなりたくないね。いつの時代にも永遠にロマンチストであることが大切だよ。雑な人間になることは望まない。夢を持った人でありたい。健康でありたいね。」
父は貼った写真の傍らに思い出を綴ってくれた。それらの文字をたどり忘れた思い出を呼び起こそうとした。、セピア色に色あせた写真を見ながら、在りし日の父との思い出がよみがえった。豊かな少年の日の清らかに精一杯に生きる姿と静かに見つめる父を思いに涙が落ちた。

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西条八十作詞の童謡、「唄を忘れたカナリア

歌を忘れたカナリアは後ろの山に棄てましょか
いえいえ それはかわいそう
歌を忘れたカナリアは背戸の小薮に埋けましょか
いえいえ それはなりませぬ
歌を忘れたカナリアは柳の鞭でぶちましょか
いえいえ それはかわいそう
歌を忘れたカナリアは象牙の舟に銀のかい
月夜の海に浮かべれば 忘れた歌を思い出す
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